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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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320/809

むねたいらに3000点 3

 二問目、朝陽は順調に正解。原さん不正解、竹下さん正解。愛純不正解。三問目、朝陽正解、原さん正解、竹下さん不正解、愛純不正解。四問目、朝陽正解、原さん正解、竹下さん不正解、愛純不正解。

 といった感じで、最終的に良い結果になるか悪い結果になるかはともかくとして朝陽は最初の正解数アドバンテージを保ったままここまで来ていた。

 当初どうかなーと思っていた原さんはジャンルによってはものすごく強く、逆に竹下さんは原さんが強いジャンルはとことん弱いといった感じらしく、二人はテレコで正解し、僅差で朝陽を追いかけるという展開が続いていた。

 だが、形だけ見れば朝陽一強。最初のアンケートプラス回答内容・正答率によってオートで変わるというごくごく当たり前のルールに則って、自ずと朝陽のオッズは下がってくる。

 俺達は、何とか2万5千点まで来ていたが、4問目の朝陽のオッズは1.3倍。このまますべてをかけ続け、朝陽のオッズが1.3から下がらなくても10万点には届かない点数だ。


「では次の問題」


 多分、得意分野が違うあの二人が朝陽に勝つことはできない。となると、無事に帰れるかどうかは俺達が10万点達成するかどうかにかかってくるわけだが、それも怪しい。当然司会者の大橋さんにもそれはわかっているのだろう。問題を読む彼女の顔色は悪い。


「―――ですが、この時に織田信長が好んだと言われるこの舞の名は何」


 朝陽はついこの間大検を取ったばかりだし、この手の雑学はわりと好きな部類だ。この問題も間違いなく正解するだろう。


「では、倍率、ポン」


 正解は間違いない。

 俺が確信するのと同じように、彼女たちの魔法もそう判断したのだろう。

 朝陽に付けられたオッズは、0.9。

当然、朝陽に賭けても減ってしまうオッズだ。


「って、まて!おかしいだろ!0.9って何だよ!」

「……すみません。ですが、宮野さんの正答率が低すぎるのと、瞳と英里紗も50%なのに、秋山さんだけ100%。これでは秋山さんにベットが集中するばかりで盛り上がらないと判断したんでしょう」

「そういうのいらないんだけど!」


 とは言え、実際俺たちは朝陽に賭け続けていたわけで、否定もできないし、この魔法がエンターテイメント性を帯びている以上、そういう判断もしかたないことと言えば仕方のないことだ。

 それにあのまま朝陽に賭け続けていてもジリ貧になるのはわかっていたことだ。ここはポジティブに勝負をかけるいい機会をもらえたと考えよう。


「小崎さん」

「なんですか?」

「このまま朝陽だけに賭けていても勝てませんし、ここは分割ベットで様子を見ましょう。幸いなことに愛純と原さん、竹下さんのオッズはみんな三倍以上。正解する可能性が高い竹下さんに多目に俺が多目に賭けるんで、ダメ元で愛純にもちょっと賭ける。そういう感じで行きましょう。いいですか、2000点もかければいいですから」


 何と言っても愛純の倍率は50倍だ。宝くじ感覚で2000点もかければ十分10万点に届く。


「了解です」

「ではベットをお願いします」

「分割ベットで。俺は竹下さんに8000点」

「ファイナルベット?」

「ファイナルベット」

「では小崎さん」

「むねたいらさんに残り全部!」


 はっはっは、小崎さんったら、愛純に聞こえないからって調子に乗ってそんなこと言っていると……って、え…………?


「ふぁ、ふぁいなるべっと?」

「ファイナルベット!!!!」


ちょ…ま…


「で、では回答オープン!」


 モニターに映し出された回答は朝陽、竹下さんが『敦盛』。原さんが『わかんない』そしてドヤ顔の愛純が『森蘭丸』。

 ……愛純がこの回答に至る原因を吹き込んだであろう彩夏ちゃんは無事に帰れたらしばくことにしてと。

 っていうか!


「小崎さん!なにやってんすか!」


 オッズ三倍だった竹下さんの配当で2万4千点になったから結果としては1問と1000点無駄にしただけですんだものの、打ち合わせ通りにしていれば4万点近くまで行っていたことを考えれば大損だ。


「いやあ、まいりましたね。まさかこんなことになるとは」

「目に見えてたでしょうが!下手したらゲームオーバーでしたよ!なんで愛純に全部とか言うんですか!というか俺達は10万行けば良いんだから2000点で良いんですよ!?」

「まあまあ、邑田さん。こんな言葉をご存知ですか?「百里を往くものは九十を半ばとす」」

「知ってるけど全然意味が違うし、この場面でドヤ顔して使う言葉でもねえよ」


 うん。いま理解した。こいつバカだ。大馬鹿野郎だ。


「だってどうせなら10万点とって勝つとかみみっちいこと言わずに50万とってぶっちぎりで勝ちたいじゃないですか」


 みみっちい?俺の緻密な作戦をみみっちいと申したかこいつ。

 こういう勝ち気というか、攻め気が強いのって、芸能界で上に行くにはいいのかもしれないけどこういう場面でそれを発揮されても正直邪魔なだけなんだけど…まあ、いいや。次からはこの人にかけさせなきゃ良いだけだし。

とりあえず半分来たし、仕切り直しとミーティングも兼ねて大橋さんに言って一旦休憩でもさせてもらおう。

 

「大橋さん。ちょっと休憩を…大橋さん?」

「……そうか…うん…ゲームオーバーなら……」


 あ、あれ?大橋さん?なんかお顔が禍々しいんですけど。


「ゲームオーバーなら私達の勝利!そう!そうよ!なんで最初から気づかなかったのかしら!これなら勝てる!これで私達は勝てる!」


 なんというゲス顔ダブルピース。

 そこに気づくとは天才か!

 …なーんて。


「いや、そもそもゲームオーバーになんてならないようにしますし。次からは分割ベットもしませんし、なんか邪魔するつもりなら、最悪1000点ずつかけて道連れにしますからね」

「あ、ごめんなさい。調子に乗りました」


 この人も大概だなあ。


「で、一旦休憩にしません?朝陽のオッズが1を切っちゃった以上、原さんと竹下さんについても少し情報もらっておきたいですし。クリアのために」

「そ、そうですね。そうしましょうか」




 大橋さんが休憩を宣言すると同時に現れたドアで移動した俺達は当然といえば当然だが、回答者達と俺達は別の場所で休憩を取ることになった。

 現在室内にいるのは俺と小崎さん、そして大橋さんのみ。

 部屋に備え付けられたモニターでは回答者の四人がそれぞれ別の部屋で思い思いに休憩をすごしているのが見える。


「…と、いうことで、英里紗は文学系や雑学系。瞳は主にスポーツ系の問題が得意ですね。とは言っても、二人共得意ジャンルでも秋山さんほどの安定度はないんですけど」


 二人の得意ジャンルについての話を終えた大橋さんはそう締めくくって紅茶の入ったカップを傾けつつモニターに目をやった。

 

「というか、お互いの得意分野を教え合うなりして、もう少し勉強しなさいと言っているんですけどなかなかそうもいかないらしくて」


 そう言って目を細める大橋さんの顔は、二人のお姉さんとかお母さんとか、そんな保護者のように慈愛に満ちたものだった。


「もしかして、三人の中で大橋さんが一番年上?」

「え?ええ。そうですね、瞳が宮野さんと同い年で私が一こ上、英里紗は瞳のいっこ下です」


 なるほど、柚那と愛純と朝陽と同じような感じなわけだ。


「そうなんだ。俺も仲間内で一番上だから、大橋さんの気持ちがなんとなくだけど、わかるんだけど、年下の仲間って手のかかる妹って感じでかわいいよね」

「ええ…だから私はあの子達が意思を奪われた人形になるのが怖いです」

「いや、それはあの子達だけじゃなくて俺たちだって怖いからね」

「それはそうですよね。はあ…今考えてみればどうしてこんな恐ろしい魔法をつくってしまったのか自分でもよくわからないんですよ」

「君たちは誰から魔法を?大江恵じゃないよね?」

「一週間くらい前に三人組の女の人と出会ってその人達からです。名前はわかりませんけど、私たちに宮野愛純を懲らしめる力をやろうって言ってくれて、それで気がついたら魔法が使えるようになっていて。ただ、不思議なのがついさっきまで、あれだけ憎くてしょうがなかった宮野さんのことが今はそれほど憎くもないというか。確かに因縁はあるんですけど、そんな奴隷がどうとかこうとかましてやそれで荒稼ぎとかそういう気はなくなっているんです」


 あれ?荒稼ぎ?俺達の身体で何する気だったの大橋さん。

 とはいえ、愛純への悪感情の高ぶりは多分感情も肉体も操れるっていう『ハッカー』ってやつの仕業だろうな。

で、魔法の使えないこの空間に入ったからその効果が薄れて、今はこうして普通の状態になっていると。そういうことだろう。


「ちなみに、愛純との因縁って何?愛純が悪いならちゃんと謝らせるけど」

「ええとその……実はですね、私も英里紗も瞳もそれなりに胸があるじゃないですか」

「え?ああ、はい」


 チアキさんとか精華さんを見慣れちゃうとあれだけど、一般的にみて三人は大きい方のグループだとは思う。


「で、宮野さんはそれがコンプレックスだったみたいで『胸の大きい人はバカ』みたいなことをあちこちで言い回ってたんです」

「ああ、なるほど」


 前に愛純がやさぐれた時に『貧乳がステータスなら、巨乳なんてステータス異常なんですよ!』とかなんとか言ってたし、そういうこと言ってもおかしくはなさそうだ。


「それが因縁ってわけだ」

「はい」


 だとしたら、あいつはこの同期の三人のことを忘れてなかったんだと思う。

 で、覚えていたからこそ、彼女達が自分のコンプレックスである巨乳を持っているということだけでは飽き足らず、クイズ系アイドルなんてもう一つのコンプレックスである知力に対する冠まで獲得していたことにムカついて、三人のことなんて知らない。みたいな反応をしたんだろう。

 まあ、その結果、原さんの『胸が小さいやつは記憶容量が小さい』なんてカウンターをもらってりゃ世話ないが。

 こうして紐解いてみれば、はっきり言ってどっちもどっち。しょうもない10代の喧嘩って感じの話だ。


「ちっちゃい因縁なんですけどね、宮野さんの胸くらい」

「そういうのやめときなさいって。キリが無くなるし陰口なんてあんまり良いものじゃないんだからさ。…まあ、愛純が先に手を出したというか口を出したのが悪いってことで、これが終わったらあとでちゃんと話して、謝るようには言うよ。ただその後ちゃんと和解してくれよな」

「そうですね、さっきの瞳のは言いすぎかなと思いますし。私も瞳に話をします」

「頼むよ。まあ、何にしても、そういう話も全部クリアしてからのことなんだけどな」


 残り五問。

 朝陽がこのまま間違えなければオッズは下がり続けるだろうから、残りの三人にどう賭けて今の持ち点を四倍にするか。

 俺たちの戦いはこれからだ。




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