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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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新たな関係

「……隠してること、あるんじゃないの?」

「ないですよ?」

「……」

「……」


 朝陽と優陽が和解 (と言うのだろうか)してから一週間。

 敵方の魔法少女が攻めてきたという前代未聞の事態 (とはいえ壊したのはほとんどこまちちゃんだ)で大破した校舎の復旧作業のため、今週は撮影がお休みだ。

 まあ、そのかわりにこうして都さんの取り調べを受けているわけなのだが。


「…後で深刻なことになったりしないでしょうね?」

「大丈夫です」

「やっぱり隠してることあるんじゃないの!」


 しまった、誘導尋問に引っかかった。


「……ま、いいわ。朱莉が大丈夫だっていうなら大丈夫なんだろうし」

「ひょっとして俺、信頼されてます?」

「ひょっとしてじゃなくて信頼してるわよ」


 真正面からそういうことを言われると照れてしまうのだが。


「そういえば蛇ヶ端大使のほうはどうでした?」

「大使はいい人だったわよ」


 『大使は』とあえてつけたということは、それ以外のところでなにかあったっぽい。


「『娘は預かったぜ、ヒャッハー』って話をしたら、深々と頭を下げられちゃった。娘達をよろしくお願いしますってさ」

「達……か」


 まあ、さすがに自分の娘だし多重人格のことは知ってるよな。


「元々姉子ちゃんはお父さんっこ、妹子ちゃんはお母さんっこだったんだけど、妹子ちゃんとお母さんが事故で亡くなって。お父さんはお仕事で忙しくてかまってあげられないっていうことで、再婚したらしいんだけど……ねえ」


 都さんの表情をみるに、どうやらさっきの『大使は』もこの継母にかかっている気がする。世の中のほとんどの継母はいい継母だと思うが、そうではない人もいるのだろう。


「気に入られようとして、お母さんにべったりで仲が良かった妹子ちゃんの真似をしていたんだけど、当然妹子ちゃんは継母と仲がよかったわけじゃないから継母は気味悪がって、大使に全寮制の学校をすすめたらしいわ。でも当の姉子ちゃんは何が悪いかったのかよくわからない。で、子供なりに色々考えて、自分がうまくいかないのは妹子ちゃんが自分の分まで成功しているからだって考えるようになった……っぽい」

「ぽい?」

「私は姉子ちゃんじゃないもの。もちろん精神科の先生や学者さんもね。だからどれだけ分析しても、研究しても議論しても本当のところは自分の中にしか答えはないし、予想にしかならない。結局真実と向き合うのは、姉子……朝陽ちゃんにしかできないのよ」


 この人はこうやって時々シリアスなことを言うんだよな。本当に時々だけど。


「まあ、大使にも頼まれちゃったし、朝陽ちゃんも優陽ちゃんも朱莉になついているみたいだし。朝陽ちゃんが保健室壊したことはとりあえず不問にしておく」


 バレバレじゃねえか。


「問題はねえ……楓が斬ったっていう魔法少女も、寿が打ち抜いたっていう魔法少女も死体が消えちゃったってことなのよ」

「え?消えたってどういうことです?」

「文字通り痕跡がないの。寿の技でナノマシンの結合を解除しても当然その場にナノマシンは残るし、楓の斬撃だってそう。なのにどんなに探してもあの場には敵の魔法少女の血の一滴、ナノマシンの一粒も見つけられない…これは一体どうしたことか」

「それについて俺が何か隠していると思ってます?」

「それ自体か、その問題の解決につながるかもしれない何か、それを隠してるんじゃないかなって思ってる」

「………」


 思い当たるのは傲慢の彼女。


「つながるかどうかはわかりませんけど、実はあの時もう一人魔法少女がいたんですよ。俺を助けてくれたんですけど」

「ん?どういうこと?実はもなにも、報告書にちゃんと書いてあるじゃない。朱莉は柚那を倒して朝陽ちゃんと交戦中だった敵の魔法少女と交戦。その時に柚那を研修生に預けたって」

「いや……俺とみゃすみんが保健室に着いたときに、柚那は朝陽にやられた後でして。で、俺はみゃすみんに柚那を預けて、朝陽と交戦。手を出すのを躊躇していたらでっかいのを一発もらってダウン。ああ、もう死ぬなーってところで、傲慢の魔法少女だっていう子が現れて俺を助けてくれたっていうわけです。で、その後朝陽を説得。傲慢の子は何もせずに帰っていきました。こういうややこしい話なんで、報告書のほうはちょっと改ざんしました」

「ちょっとじゃないでしょうが!」


 都さんはそう言って報告書を丸めて俺に投げつけた。


「あんたねえ、社会人何年やってたの?報告、連絡、相談は正確に迅速に!基本でしょう!?大体、形に残る報告書だけならともかく、私にちゃんと報告しないっていうのはどういうつもり!?」

「面目ない……」

「もしかして、事実を知ったら私が朝陽ちゃんと優陽ちゃんに罰を与えると思った?」

「………」


 都さんを信頼していないわけではないが、俺はそれでもやっぱり黙っていたほうがいいと判断した。そのために入院中の柚那にも口裏合わせをお願いしたし、柚那も俺もそれが、結局朝陽や優陽にも一番いいんじゃないかということで一致していた。


「はあ……なら、そう思わせた私にも落ち度があったってことか。あのねえ、朱莉。そりゃあやり過ぎれば多少罰を与えることはあるでしょうけど、私は一度引き受けた子を諦めたり放り出すようなことはしない。今後、それだけは覚えておいて」

「はい。すみませんでした」

「よろしい。じゃあ、その時の状況を詳しく聞かせてくれる?」

「実は………」


「あはははははははははは!バッカでー!」


 俺の話を聞き終わった都さんは、右手で机をバンバン叩きながら左手で俺を指さし、されらに大口を開けて笑うという、本当にこんな人いるんだと思わず惚れ惚れしてしまうほど見事な爆笑を披露してくれた。


「かっこわるー!あはははははは!」


 ……実は朝陽と優陽のためにとかの理由の他に、こうして笑われるのが目に見えているから報告しなかったというのもあったりする。


「……話はこれで全部なんで、もう行っていいですか?この後約束があるんで」


 約束までは少し時間があるのだが、もう一秒たりともこの空間に居たくない。


「あら、予定があったの?柚那と病院デート?」

「後で柚那のところにも行きますけど、今日は朝陽と優陽とデートです。寮に秋冬物がないんで、本格的に寒くなる前に買いに行きたいんですって。ほら、朝陽も優陽もまだ給料ないから買ってあげようかと思って」

「ああ、なるほど、荷物持ちとお財布ね」

「買い物デートですって!」

「まあ、どっちでもいいけど、ちゃんとしたお店行くならちゃんとした格好していきなさいよ?せめてそのよれよれのパーカーは着替えたほうがいいわ」

「ああ、今日は俺の行きつけの店なんで大丈夫ですよ」


 俺の行きつけの店はドレスコードなんて必要ない。人の服装を鼻で笑うような店員さんのいないあったかいお店だ。


「え、朱莉に行きつけの店なんてあるの?」

「ありますよ、失礼な。その名もファッションセンタートリムラ!子供服からティーン向け、さらには婦人服までなんでもあります!」

「………朱莉。あんた、朝陽ちゃんの私服の値段、ちゃんとわかってる?」

「え?」

「上下で3000円の朱莉とは二つくらい桁が違うからね。そこまでのものを買えとは言わないけど、それなりの服は買ってあげなさいよ」

「はぁ!?たかが布になんでそんなに金がかかるんですか!?つか、柚那の服より高けえ!」

「だめだこりゃ……ちょっと待ってなさい。ガイドをつけてあげるから。えーっと…いまこっちに居て暇なのは…」


 都さんはため息交じりにそう言うと、私用の携帯を取り出して誰かに電話をかけ始めた。



 都さんが買い物のガイドにと雇った楓さんとイズモちゃんの二人との待ち合わせ場所であるファストフード店の店内。「こういうお店に入ったことがないので是非」と言って朝陽は嬉々としてレジに並んでいる。ちなみに俺はと言えば後からくる楓さん達の席も含めて4人席を探しているところだ。

 席があいていないかとあたりを見回すと、ちょうど4人組の女子高生がトレーを持って席を立つのが見えたのでそこを確保することにした。

 彼女達と入れ替わりに席に座って外を見ていると、後ろの席から声をかけられた。


「こんにちは、朱莉さん。後ろを振り向かずに斜め前の席を見てください。振り返ったら、この店を破壊します」


 声の指示に従って俺の位置から見える斜め前の席を見ると、カウンター席に、先週校門にやってきていた色欲のユウの姿が見えた。ユウも俺が見ていることに気が付いたらしく小さく手を振っている。

 因みにユウの格好はニットキャップにサングラス、縦セタのワンピースだった。

精華さんに勝るとも劣らない彼女のむっちりボディにフィットしていてめちゃめちゃエロい。


「って、ことは後ろにいるのは傲慢子か」

「……もう少しほかに言い方あるでしょう」

「慢子?」

「ユウに言ってこの店の中を文字通りぐちゃぐちゃにしますよ!?」

「じゃあ何て呼べばいいんだ?」

「そうですね……千鶴でもさおりでもいいですよ」

「……それは……」


 ここで姪っ子二人の名前を出してくるあたり非常にいやらしい。おそらくこれはお前の事は調べがついているぞという示威だ。


「もしくは他の名前でもいいですよ。朱莉さんが呼びやすい名前をつけてください」

「マン―」

「次はありませんから」


 釘を刺されてしまった。


「じゃあ…アユ」

「はあ……別にいいですけど、唐突ですね。誰ですかアユって」

「誰でもいいだろ」


 義兄は葉っぱ好きだが、俺は鍵っ子。つまりそういうことだ。


「それで、今日は何の用だ?警告までしてくれたってことは今すぐここでこの間の続きをっていう訳ではないんだろ?」

「ええ、まあ今日は少しお話をしに来ただけですよ」

「そうか、じゃあ何について話そうか」

「時間も無いようですし、ズバリ聞きますね。朱莉さん、あなた私の下につきませんか?」

「…ズバリというか、唐突と言うか。そこで俺が『はい、わかりました』って言うと思ったか?大体君に言わせれば俺は傲慢なんだろ?朝陽と優陽との会話を聞いている限り君は他人の傲慢が許せないんじゃないのか?」

「いえいえ、人の領域に踏み込んでくる輩が気に入らないというだけで、傲慢な人は大好きですよ。だって、人間ちょっと傲慢なくらいがかわいいじゃないですか」


 傲慢フェチとでもいうのだろうか。純粋な傲慢は大好き。でもその反面掛け持ちの傲慢は大嫌い。傲慢をバカにしている。そんな感じか。


「大体、俺なんて君らのなかで最弱だった朝陽と優陽よりも弱いんだぞ。居たって戦力になんかならないだろ」

「戦力になるかどうかは関係ないんですよ。大体、戦闘だけなら他の6人がいなくても私だけで十分事足りる。ユウを一緒に連れてきたのもあくまで目に見える形での脅しが必要だったからというだけですよ」


 なるほど、この子は確かに傲慢だ


「じゃあ、なんで俺を仲間にしようとするんだ?」

「コレクションというか、ペットですかね。自分の傲慢を正義だの愛だのと信じて疑わないあなたは滑稽でそれでいて美しいと思います。是非手元に置いておきたい」

「褒め殺しのつもりか?」


 全然褒められている気はしないけど。


「それであなたが籠絡できるならいくらでも褒めますよ」

「残念ながら俺のご主人様は決まっているんだ。それよりもライバルっていうのはどうだ?それはそれで魅力的な関係だと思わないか?」

「うまい逃げ口ですね。まあそれもいいでしょう。次もあなたの傲慢ぶりを見せてください」

「俺からも一ついいか?」

「なんでしょう」

「あのユウって子、楓さんに斬り刻まれたって聞いたんだけど」

「ああ、この間のあれは人形です。自分で動きたくないっていう怠惰な仲間がいまして、遠隔操作型の人形は彼女の得意技なんですよ。同時に10体まで出せるのはいいんですが、能力も1/10になってしまうのが難点でして」

「じゃあ、現場にナノマシンの痕跡が出なかったのはそのせいか」

「そうですね。塵芥とか、そういうその辺にあるもので人形を作ってコントロール用のナノマシンを貼り付けるのが彼女のやり方ですから」

「やられてもそのコアになっているナノマシンを回収しちまえば痕跡は残らないわけだ」

「正解。なので、先週実際にお邪魔したのは実は私だけです」

「なるほどね。色々納得がいったよ」


 忽然と消えた死体についても、アユだけが異常に強かったことにしても。


「じゃあ、私はこれで。ああ、そうそう。ユウの他にあと二人仲間が潜んでいますんで、間違っても振り返って私の顔を見ようとしたりしないでくださいね。正義の味方としては一般市民に被害を出すのはよくないでしょう?……行くよ、ユウ」


 アユがユウに声をかけると、ユウは自分のトレーをゴミ箱に持って行ってからこちらにやってきた。


「私、今度は、あなたに相手をしてほしいな」


 ユウは俺にそう耳打ちをして俺の頬にキスをすると「バイバーイ☆」と言って去っていった。


「あ、いた。朱莉さーん、買ってきましたわ…よ?」


 そして抜群のタイミングで戻ってくる朝陽。


「あの、ほっぺにキスマークついていますけど…」


 そう言って朝陽は自分のほっぺでキスマークがついているあたりを教えてくれる。


「ああ、痴女に襲われた」


 ざっくりとした説明だが嘘はついていない。

 もちろんやましい気持ちがあるからざっくり説明したわけではない。ここで余計なことを言って朝陽や優陽のストレスになってはいけないだろうという俺の心遣いだ。……本当だってば


「痴女って――」

「一体どういう事ですか!?何をされたんですか?どこまでされたんですか?どんな方ですか!?」


 あ、今朝陽と優陽が切り替わった。

 この一週間で、朝陽と優陽には棲み分けができた。普段の生活や学校などの面倒事は主に朝陽の担当。色恋の話やしっかり意見を主張しなければいけないような話になると優陽が出てくる。はたから見ていると、朝陽が貧乏くじをひかされている感じだが、記憶も感覚も共有している今の二人朝陽からすると、積極的に話題に入って行けない彼女としては、話に置いていかれることもないし自分の立場も主張できるしで、そのほうが気が楽であるらしい。

 まあ、なんにしてもみんな仲良くが一番だ。


「朱莉さん!?ちゃんと聞いてますの!?」

「はいはい、聞いてますよ」


 一方的に痴女に被害を受けた被害者であるはずの俺に対する優陽の尋問は、結局楓さんとイズモちゃんが来るまで続いた。


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