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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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むねたいらに3000点 2

 完全に状況において行かれている俺と小崎さん、そして朝陽とむねたい…愛純を無視して、大橋さんが口を開く。


「さあ、始まりましたクイズ アイドル☆ダービー。司会は私、大橋いずみ、そしてレギュラー回答者は」

「豊かな教養は豊かな胸に宿る。原瞳です」

「胸の豊かさは心と知識の豊かさに比例する。竹下英里紗です」

「そしてゲスト回答者には魔法少女クローニクにご出演の秋山朝陽さんとむねたいらさんをお迎えしてお送りします」

「は!?………って、なんじゃこりゃああああっ!」


 大橋さんの紹介を聞いた愛純が回答席の前に貼られている名札を見て叫んだ。


「邑田さん、一体コレは……」


 彼の反応からすると、小崎さんが彼女たちとグルということはなさそうだが、だからといって状況が好転するわけでもない。

 なにしろ、今現在、俺は何故か魔法が使えない。この状況で変身してないところを見ると、恐らく朝陽も愛純も同じだろう。


「多分、TRI-あんぐるの三人は敵の魔法少女で、このセットは彼女たちの魔法でしょうね。このセットの中にいる限り魔法は使えないみたいですし、さっさと脱出しないと」


 俺はそう言いながら脱出口を探して、あたりを見回すがこのスタジオには出口らしいものは見当たらない。

 そうこうしているうちに大橋さんが再び口を開いた。


「はい。ではルール説明に参ります。この番組は、知性自慢のアイドル達が知識を競い合い、プレイヤーはどのアイドルが正解するかを当てるというクイズとギャンブルが一体となった番組です」


 ……番組名もルールもどっかで聞いたことあるぞこれ。


「プレイヤーは問題を聞いた後、持ち点から何点をどのアイドルに掛けるかを決め、見事賭けたアイドルが正解なら賭け点×倍率分の特典を得ることができます。問題数は全部で10問。その間に10万点に到達できない場合、TRI-アングル親衛隊に強制入隊となりまーす。もちろん、負けたからってあとから魔法を使って力づくでひっくり返すなんていうこともできませんからお気をつけください」

「質問いいかな?」

「はい、邑田さん」

「TRI-アングル親衛隊って何?」

「有り体にいって奴隷です。もちろん比喩的な話ではなく、私達の合成魔法の効果でみなさんの意思を剥奪。操り人形になっていただきますので悪しからず」


 なんじゃそりゃ!悪しかるわ!


「ちなみに、小崎Pの身体は私達が芸能界でのし上がるために。その他の皆さんの身体は業界の有力者への接待などに使わせていただきまーす」


 チャリティっぽく言ってるけど、こいつら俺たちにエロいことさせる気だ!あの同人誌みたいに!


「はい、ではルール説明が終わったところで、回答者席はカンニング防止の為、プレイヤーの声が聴こえないように仕切りをさせていただきます」


 大橋さんがそう言うと、それぞれの席にアクリルのような透明な筒が上から降りてきて、回答者席をしっかりと区切った。

 ちなみに回答者席にはマイクがあるので、マイクを通して愛純たちの声は普通に聞こえるようだ。


「そして、プレイヤーには合わせて3000点の持ち点がポン」

「って!合わせて3000点!?それぞれじゃなくて!?」

「合わせてですよ。あ、ちなみに点数を分け合って別のアイドルに賭けることもできますので、ぜひご活用くださいね。ではみなさんのアンケート結果を参考に難易度と倍率を……って!?宮野さん、お、オール5!?」

「あ、すんません、それ完全に愛純が見栄を張って書いたやつなんでオール2とかにしといてください」

「あ、そ、そうですよね。あーびっくりした…では第一問。これは小手調べ、回答者のレベルをプレイヤーが知るためのサービス問題です。『英語でキャットは猫を指しますが、ではワンは何を指すでしょうか』」


 小手調べとはいえ、これは酷い。

ひっかけ問題っぽくなってはいるが、クイズ系アイドルの二人は当然正解するだろうし、朝陽も愛純も正解するだろう。これじゃ各自のレベルや実力なんてわからない。


「では倍率ポン。シンキングタイムスタート!」


 小手調べと言っていた通り、大橋さんも全員正解すると思っているのだろう愛純も朝陽も竹下さんも倍率は2倍。何故か原さんだけ5倍なのが気になるが、まあここは安牌で行くのがいいだろう。


「とりあえずどうします?朝陽でいいですか?」

「いや、ここは大きく狙って5倍に賭けたいところですね」


 いや、いやいやいやいや。


「5倍ってことはあの人はこういう問題が苦手ってことですよ?そこに全部かけて、もしまかり間違って0になったらそこで試合終了ですよね!?」

「しかし、当たれば一気に1万5千。10万点が一気に近くなりますよ」

「あの……小崎さん、ギャンブルの経験は?」

「昔、ゆあが競馬番組の取材の仕事を受けたときに同行してやったことがありますよ」

「結果は?」

「大穴に全部突っ込んじゃって、帰りの交通費をゆあに借りました」

「あんたはもう黙っててくれ」


 なんで?なんでそんな結果だったのにその話をドヤ顔で語って、しかも自信満々で五倍に賭けるとか言えちゃうの?

 愛純も桃花ちゃんもうそういう傾向あるし、TKOの伝統かなにかなの?

 あ、そうだ。こんな人でも一応TKOのプロデューサーなんだった。


「やっぱり黙る前に一つ教えてください。原さんと竹下さんって頭いいんですか?」

「どうなんですかね。レギュラーで入っている情報番組は基本ヤラセですからね」


 おいおい。そういう視聴者の夢を砕くようなこと言うなよ業界人。


「ガチの番組にはまだ出たことがないですから…というか、彼女たちが頑張っていたのを見ていてくれたテレビ局からそういう番組からのオファーもあったんだから、あのまま普通にやっていれば僕の権力だの接待だのしなくてものし上がれたんだけどなあ…」

「そういうの、もっと早く言ってあげてればよかったかもしれないですね」


 どの段階で彼女たちが生倉陣営にころんで魔法少女になったのかはわからないが、その話を聞いていれば今日こうして俺たちに戦いを挑むなんてことはしなかったかもしれない。


「…はい。ではシンキングタイム終了。ベットコールをお願いします!」

「秋山朝陽に2000点」

「ファイナルベット?」

「ファイナルベット」


 なんか色々混ざってないかこのクイズ番組魔法。


「では回答オープン!」


 大橋さんがそう言って大きく腕を振ると、一斉に四人の回答が回答者席の全面に設置された画面に映し出される。


 朝陽は当然「1」なのだが、残りの三人は「犬」

 ……て、ちょっと待って。愛純はなんとなくやらかしそうな気がしていたし、原さんも5倍というオッズで検討がついていた。しかし竹下さんは一体。


「…英里紗。あなた問題文ちゃんと読んだ?」

「あ、しまった。うっかりうっかり」


 そういって、竹下さんは自分でこつんと頭を叩きながらペロっと舌を出した。


「しっかりしてよね。私たちはクイズで宮野愛純をこてんぱんにしなきゃいけないんだからね。英里紗が間違えたら誰がそれをやるのよ」

「わかってるって」

「わ、私もいるんだけど!?」



 これ、洒落になってないんじゃないか。できない人が二人 (愛純、原さん)に、うっかり間違いをする人が一人 (竹下さん)。全員当たらなかった場合のルールを聞いてないけど、これだと賭ける対象が朝陽一択になるが、もちろん朝陽が間違えたときのことを考えて、全点賭けつづけるわけにもいかない。朝陽の倍率、もしくは間違えるタイミングによっては、どうやっても10万点に届かない可能性があるぞ、これは。

 まあ、むねたい…愛純が行けそうな問題が出ればガツンと取れるだろうからあいつが得意な芸能の問題が出ることを祈るしかないな。

 ん?――ちょっと待てよ。このルールっておかしくないか?いやおかしいならおかしいでいいんだけどなんか嫌な予感がするんだよな。


「俺達の勝利・敗北条件は聞いたけど、君たちの勝利・敗北条件は?俺達の条件だけだと君達のチームはわざと間違い続けて、途中に絶対に朝陽が答えられないような問題を出せばいいだけなわけだ」

「そんなアンフェアなことはしませんよ。一応伝えておきますと私達の敗北条件は、こちらのペアの合計正解数がそちらのペアを下回ることですね。勝利条件はその逆です」

「ちなみに、君たちが敗北するとどうなるの?」

「ですから、この魔法が解除されて、あなた達は無事に元の世界に戻れる。ということです」

「勝利すると?」

「あなた達が奴隷になる?」


 おい、なんでちょっと疑問形なんだよ。

リーダー格っぽいし大橋さんだけはまともなのかなと思っていたけどそうでもないっぽいぞコレは。


「ちなみに、もし、引き分けなら?」

「え?」

「いや、例えば俺の点数が10万点に達して、なおかつ君たちが愛純たちに正解数で勝利すると、俺たちの勝利条件と君たちの勝利条件が重なるだろ?そうなるとどうなるんだ?」

「………どうなんでしょう。延長とかですかね」


 なんで自分の魔法を把握してないの君たちは。


「逆に、君たちが愛純たちに負けて俺達が10万点に達しなかったら?」

「あ、それは簡単ですよ。罰ゲームは敗者全員にかかるので、元の世界に戻って全員意思が無くな……あああああああああっ!」

「おぉぉぉぉい!なんでそんなルールにしたんだよ!おい、その罰ゲームの効果はどのくらいで切れるんだよ!」

「私達が解除しなきゃ元になんて戻らないですよ!…ま、まあ、でも大丈夫。あなた方が10万点に届かないことはあっても、私達が正解数で負けるなんてこと…あれ?」


 現状うちのチームの正解数は1。向こうのチームの正解数は0だ。

 で、俺の持ち点は10万点になんてまだまだ届かない5000点。

 さっきも言ったように賭けの点数とタイミングによっては届かなくなることもあるだろうし、彼女たちが愛純達に正解数で勝てるかというのも一問目の感じからすると非常に微妙だ。


「だって!宮野愛純がバカなのはわかっていましたし、噂では秋山朝陽もバカだって…」

「朝陽は普通に勉強できるし、知識もあるんだよ!ただちょっとマヌケな思い違いをしたりすることがあるだけだ!」

「ど……どうしましょうか」

「い、一回休戦しようか。俺達がとりあえず一回勝って、それで君たちには捕まってもらう。さっき小崎さんが言ってたけど、君たちにはちゃんとした番組のオファーも来ているから、普通にやっていれば売れそうだって話だし、君たちはまだ何もしてないから、生倉を捕まえるまでは少しだけ活動休止して、うちで保護。生倉を捕まえた後に復帰なんていうのはどうかな?」

「私達にオファーが来てたんですか?なんで言ってくれなかったんですか小崎さん」

「いや、当日いきなり言ってサプライズにしようかなって思って」


 俺が言うのもあれだけど、ゆあへのプロポーズの時といい、ほんとこの人ってサプライズのセンスがねえな。


「もう…なんであなたはそうやってなんでも思いつきでやるんですか……クイズ系アイドルとかっていうのもいきなり言い出すし…」

「いや、インスピレーションって大事かなって思って」


 半泣きになって両手で顔を抑える大橋さん。そして、そんな彼女を前にしてこのドヤ顔ができる小崎。

 とりあえず殴りたいだろう大橋さんの代わりに一発殴っておこう。



「…で、どうかな大橋さん。一旦解除して、活動休止してってことで。こっちとしては野放しにはできないけど、協力してくれる、秘密が守れるっていうのであれば、一緒にやっていけると思うんだけど」


 とりあえず小崎を一発殴った俺は大橋さんが落ち着いたのを見計らい、もう一度提案するが、大橋さんは力なく首を横に振る。


「できないんです…」

「え?」

「一問目の回答が出る前なら解除ができるんですけど、一旦始まってしまったらこの魔法は解除できないんです。それに、回答はもちろん、勝敗に関係がありそうなことはミュートされて回答者には伝えることができないから不正もできないようになっています…」

「じゃあ…」

「どういう結果になるにせよ、最後までやるしかありません」


 こうして、こんな状況になっているということを全く知らない回答者達の双肩に全てがかかった、ある種のデスゲームが幕を開けた。




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