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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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司令官といっしょ



「と、まあこれがマッスル・イコに関する事の顛末です」


 都さんの執務室で報告を終えた俺はそう言って狂華にゃん(まだ戻ってないどころか、猫耳だけにとどまらず尻尾までついたミニのメイド服になっている)の淹れてくれたコーヒーに口をつけた。


「色々大変だったみたいだけどよくやってくれたわね……というか、あの戦力じゃ正直できないと思ってたんだけど…」

「え!?」

「な、なんでもないなんでもない」


 この人今、小声でとんでもないこと言わなかったか。

 まあ、やった俺自身でさえ、あの作戦についてはよくもまあ成功したなっていう感じだからそう思われていたとしても別にいいんだけど。


「とはいえ、今回は辛勝だったんで、俺もこまちちゃんも反省しました。次回はもっと慎重にことに当たるつもりです」

「え?あ…そ、そう。頼りにしてるわよ」


 なんで今日に限ってこんなに挙動不審なんだこの人。


「…偽物?」

「はい?」

「偽物だ!お前都さんじゃねえな!?愛純とか朝陽あたりが――」

「あれ?まさか朱莉、都に何かするつもりじゃないよね?」


 あ、この狂華さんの反応は本物だ。前に都さんに敵意を向けたときのキレ狂華さんが若干トラウマになっている俺が言うんだから間違いない。

 っていうか、いつの間にか後ろにぴったりくっついてるのやめてください。


「なにもしませんすみませんごめんなさい」

「そう?ならいいけど」


 怖え!狂華にゃん超怖え!

「ちなみに都さん」

「なに?」

「七罪のときみたいに、実は黒幕が都さんなんてことはないですよね」

「それはないわよ。今はそんなにヒマじゃないしね」

「でも裏で何かしてますよね?」

「それは否定しないけど、必要なことをしているだけだから言わないわよ」


 ま、言えることなら最初から言う人だし、そう言うだろうけど。


「それで、次は俺たちどうすればいいですか?」

「次のターゲットが見つかってないし、とりあえず休暇…と言いたいところなんだけど、朱莉には少しやってもらいたいことがあってね」

「まだターゲットが見つかってないってことは、荒事じゃないですよね?」

「そういうんじゃなくてね。前にちょろっと人気投票やったの覚えてる?」

「え?ああ、ランキング戦のときになんか番組のホームページでやってましたね」


 本当にひっそりとだけど。


「そうそう、それよ。でね、あんた結構上位だったわけよ」

「まあ、それなりに活躍しているし当然っちゃ当然ですよね」

「で、その上位のうち、ひなたはアフリカだし、狂華はにゃんにゃんするのに忙しいし」


 おい待て。それは単純ににゃんにゃん言うのに忙しいってことだよな?そうだよな!?


「チアキさんは必要以上に魔法少女として活躍したくないしってことで、あんたと愛純と朝陽にちょっとアルバイトお願いしたいのよ」

「アルバイト?」

「そう。小崎さんとこでちょこっと番組出てほしいのよ。人気投票のお礼みたいな感じの企画で」

「別にそれは構いませんけど、なんで俺と愛純と朝陽なんですか?もともと顔が売れてる愛純はともかく、多分朝陽より楓のほうが順位は上じゃないですか?」

「東京の番組だからね。10位までで狂華・チアキさんを除いて繰り上げると、関東だとあんたたちになるのよ」

「それ別に人気投票するまでもなくそうなるじゃないですか」


 だって常駐してるのは俺と愛純と朝陽と柚那くらいしかいないもの……あれ?


「柚那は?」

「ああ、柚那はしばらく関西で仕事してもらうから」

「聞いてないんですけど」


 昨日も電話したのに一言もそんなこと言ってなかったし、愛純も朝陽も全然そんな話教えてくれないし。


「別にあんたは柚那の恋人じゃなくなったんだし、話す義理もないでしょ」

「だとしても、俺は今でも柚那のこと好きですし」

「うわっ、ストーカー予備軍」

「人聞きの悪い事を言わないでください!俺はちょっと柚那に未練を残した元カレってだけ……あれ?俺もしかしてストーカーじゃね?」

「でしょ? まあ、でもさ。真面目な話、人生いろんなことがあるだろうし、この機会に柚那で良いのかどうかしっかり考えるのも手だと思うわよ。私としても今回の件での柚那の動きについてはちょっとなーって思うところもあるし」

「柚那の動き?」

「ま、色々あるのよ。ただ、これから先柚那と結婚して、子供を育てたり、老後を一緒に過ごしたり。そういうことをしたいかどうかをしっかり考えるのも良いんじゃないかなと。そう思うわけよ、私は」


 そう言って都さんはチラリと狂華さんを見る。


「年下に人生説かれてしまった…」

「年下でも私はあんたの上司だしね。それに修羅場をくぐった数は、まだ私のが多いでしょ」

「ごもっとも。じゃあ、俺は朝陽と愛純を拾って小崎さんとこ行けばいいですか?」

「あ、小崎さんとこは明日でいいや。今日は朝陽と愛純はちょっと別件で出てもらってるから、現地集合で」

「え…?じゃあもしかして俺今日は一人ですか?」


 俺とこまちちゃんが休んだのと交代で休みということで、恋はマッスル・イコの協力のお礼がてら松葉のところに遊びに行っていて、一応待機になる予定だったこまちちゃんは、諸々の報告書をあげるために今日は東北寮に泊まって、明日帰ってくることになっている。

 そして当然だが石見はここに住んでいない。


「一応ボクはいるけど」

「はっ!そうでした。狂華さんって今、関東の隊長なんでしたね」

「忘れないでよ……」

「あと、アーニャとか聖とかは一応いるけどね」

「ああ、そうでした」


 諸々の事情があるので、あんまり上層階の子たちと積極的にコミュニケーションを取らないから忘れがちだけど、聖とDも同じ寮に住んでいるんだった。


「じゃあ、たまにはアーニャとか聖と飲むかな」

「あ、それなら私もさっさと仕事を終わらせて参加させてもらうわ」

「ええっ!?みやちゃん参加するの?まだ結構仕事が残ってるけど大丈夫!?」

「大丈夫よ、三人寄れば文殊の知恵って言うじゃない」


 そう言って、都さんは俺と狂華さんの方を力強くガシッと掴んだ。




 三人がかりで書類をチェックして、チェックした書類を都さんが外部ユニットで作った判子を押すだけのマシーンにセットするという単純作業をすること3時間。なんとか仕事を終えた俺達は、アーニャや聖、Dの面々や果ては研修生の成年組までを巻き込んだ飲み会を催した。

 その飲み会は、もはやお約束となった狂華さんのビール一発KO芸を皮切りに、率先垂範と言わんばかりに自らやってみせた都さんの宴会芸やワームホールを使った聖の人間切断(風)ショーなどで大いに盛り上がり、日暮れ前から始まったのに終わったのは日付変更寸前だった。

 流石にこの時間にもなると、怠け者の聖はさっさと寝ているし、アーニャやDの面々、研修生達も研修生の寮へと帰っていって、関東寮のラウンジに残っているのは俺と都さん、それに復活する度に酒を飲まされグデングデンになっている狂華にゃんだけになっていた。


「で、どうよ。好みの子は居た?」

「なぜみんな俺をそうやって柚那以外の子とくっつけようとするのか」


 恋は石見とくっつけようとしてたっぽいし、こまちちゃんも似たようなこと考えてたっぽい。

 あと、噂を聞きつけたイズモちゃんから「楓を貸してあげようか?」っていう魅力的なんだか魅力的じゃないんだかわからない腐りかけの雰囲気を醸し出したメールなんかも届いたりした。


「いや、さっきも言ったけど、朱莉は本当に柚那で良いのかなと思ってさ」

「良いですってば。多少刷り込みみたいなところはあると思いますけど、それでも柚那がいいなって思う程度には柚那のこと好きですし」

「でもさ、恋人同士だったのにかなり一方的に別れたわけじゃん?ちょっとムカつかない?」

「ムカつくというか寂しかったですけどね。嫌なところがあるなら言ってくれればよかったのにって」

「底なしのお人好しよね、あんたって」

「まあ確かに、お人好しっていうのは合ってると思います」

「形としてはそれが一番丸く収まるっていうのはわかるんだけど、どうもね、どっちかと言えば朱莉派の私としてはもうちょっと抵抗してほしいなと思ったりするわけよ。例えばどう?愛純とか朝陽とか」

「いやいや、ないないない。ふたりとも妹みたいなものなんですから」

「じゃあ仲がいいみたいだしこまちとか彩夏」

「セナに暗殺されかねませんね」


 というか、彩夏ちゃんはともかく、俺とこまちちゃんが仲がいいというのは大きな誤解だ。

 俺達はたまたま大切な人に対するスタンスが似ていたり、妹大好きだったりで、わりと気が合う……あれ?もしかして俺たち仲良しなのか?


「他にも色々いたでしょ。えーっと、ほら、あれ、あの子とか」

「どの子だよ。っていうか、いませんって。関西は完全に楓の独壇場だし、東北だって基本精華さんがいて、その周りにみんながいる感じだし」

「じゃあご当地か。あ!夏樹とか」

「だが断る」


 なんかあの人と付き合うとこっちまで運が落ちる気がするんだよ。


「じゃあもういっそのこと軍曹」

「何が悲しくて爺さんとおっさんが美少女の姿で乳繰り合わなきゃいけないんですか!」

「じゃあ……私…とか?」

「え!?」


 いやいや。

 いやいやいや。

 いやいやいやいや。

って、嫌じゃないんだけど。むしろ積極的にお願――


「一応言っておくと冗談よ」

「ですよねー」


 都さんは前から何度かこういう冗談を言ってたし、今回も同じノリなんだろうけど、こう、なんというか、寂しいときに不意打ちで言われるとちょっと本気になってしまいそうになる。


「私の言葉にグラっと来ているみたいだし、まだ不能になったってわけじゃないみたいだけど」

「怖いこと言わないでくれませんかね!?ちょっとドキッとすることはあっても、基本柚那一筋なだけですよ」


 というか、この体になってからはそんなことないけど、前の身体のときは若干そういう兆候もあったんだからそういうこと言うのマジでやめてほしい。


「ただね、朱莉。私は別に柚那と元サヤになってもならなくてもあんたのことを人間のクズとか人でなしとかそんなことは思わないから大丈夫よ」

「は…はあ」


 何?俺が柚那を選ぶか選ばないかってそんな俺の株が乱高下するほどのことなの!?

 例えば、島しょ部奪還作戦の後、表向き南アフリカの工場に戻るとかって言っていた一美さんの声が、桜ちゃんと別れてそんなに日が経ってないひなたさんとの通信中に後ろで聞こえるよりも問題になるようなことなの?

 ……まあ、ひなたさんが本気で迷惑そうにしているので、それについてどこかで口外する気はないけど。


「他の誰がそう思っても私はあんたの味方だからね」


 いや、だから、誰がそんなこと思うんだよ。教えてくれたら予め対策取るよ……。


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