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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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戦士の休息

忙しすぎて時間が取れなくてつらい



 マッスル・イコを捕まえ、特製の独房にぶち込んだ次の週の月曜日。俺は事件にかかりきりになって一週休んでしまった 魔法少女☆レディオに出演するためにラジオ局にやってきていた。


「ういーっす。おつかれー」


 三人相部屋にしてもらっている控室にノックをして俺が入ると、中ではレギュラーである愛純と、何故か朝陽が談笑していた。


「あ!お疲れ様です朱莉さん!」

「彩夏から聞きましたわよ。例のマッスル・イコ戦では大活躍だったとか」

「いやあ、それほどでもないけどさ」


 彼女がまともに戦わず逃げ回っていたことを東北チームの面々に黙っていることと引き換えに彩夏ちゃんには俺のイメージアップを頼んでおいたのだが、どうやらうまく行っているようだ。

 ちなみにマッスル・イコの魔力を封じたのがよかったのか、マッチョ化した東北チームのみんなは元の姿に戻り、東北寮へと帰っていった。


「東北チームをほぼ壊滅まで追い込んだマッスル・イコを倒すのに貢献したっていうだけでもすごいのに、あの彩夏がベタ褒めするほど活躍するなんて私も妹として鼻が高いですよ」


 なんだろう。なんか落ち着かない。

 自分で彩夏ちゃんに頼んでいたことだけど、愛純と朝陽からヨイショされるのはなんか落ち着かないぞ。

 というか――


「なあ、柚那は?」

「えっ!?…えーっと…」

「ふゅー、ふゅー」


 柚那は?って聞いただけなのに、愛純はものすごくキョドっているし朝陽なんて視線をそらして顔に汗をダラダラかきながら、吹けもしない口笛なんか吹こうとしている。

 なるほど、これか。俺が落ち着かなかった原因は。

 この二人、柚那について何か俺に隠し事をするためにヨイショしてたんだな。


「朝陽」

「は、はいっ!?」

「お前がここにいるってことは、今週柚那は休みなんだよな」


 先週俺が休んだ時も代打で朝陽が出てくれていたので、今回柚那がいなくて朝陽がいるってことはつまりそういうことなんだろう。


「え、ええ、そうですけど…」


 おうおう、警戒してるねえ。

 なにそのウルトラマンが戦ってるときみたいなポーズ。


「深刻な病気とかそういうんじゃないよな?」


 まあ、俺が控室に入ってきた時二人は談笑していたので滅多なことはないと思うが、一応確認をしておこう。


「深刻な病気じゃないですよ。先週朱莉さんが休んだから、今週は柚那さんが休むってだけの話で」

「ふうん…なんか俺に会えない理由でもあんの?電話はたまに通じるけど、ビデオ通話とかは絶対出てくれないんだけど」

「そ、それはその」

「朝陽!あんたは黙ってて!…ほら、あれじゃないですかね、朱莉さんがしつこいからじゃないですかね。二人はわかれたわけじゃないですか。で、柚那さんとしては自由を謳歌したいのに、朱莉さんが未練たらたらで電話してくるから、面倒くさくなっちゃったとか。実際私も今ちょっと朱莉さんのこと『面倒くせえなこいつ』って思ってますし」

「ちょ、愛純!それは言い過ぎですわよ!そんなこと言って朱莉さんが柚那さんを…ムグームグー!」


 愛純がこんな感じで嫌なことを言って悪者になり、俺に対して何か隠し事するのはいつものことだし、そんな愛純に何か言われたところで俺は柚那を嫌いになったりはしないんだが、とはいえ三人が俺にしている秘密はすごく気になる。

 気になるが、ここはムキにならずに俺が大人になって引くことにしよう。

 ……結局それが真実に近づくための一番の近道だし。


「ま、元気ならいいや。愛純の言うとおり俺と柚那は別れたんだし、柚那が自由を謳歌するのは何の問題もないよな。じゃあ俺も自由を謳歌しよっかなっと」

「え、ちょ…朱莉さん?違いますからね、柚那さんは」


 よし、やっぱり朝陽に当たりが来た。あとはあわせて一気に釣り上げれば―――


「ああ、そう言えば噂で聞いたんですけど、なんかまた女引っ掛けたらしいですね!」


 餌に食いつこうとしていた朝陽の横から愛純が餌だけ取っていっただと!?


「ひ、ひっかけたって何?俺は知らんぞ?」

「ふうん、本当に心当たりないんですか?」

「知らんな」

「石見佳代、35歳、独身。前夫とは死別。石見松葉さんの義理の姉で、朱莉さんの元同級生。現在公安0課、通称特課の実質的な指揮官。……まだ言ったほうがいいですか?」

「か、佳代はそういうんじゃないって」

「あーあ、また下の名前で呼ぶ女を増やしちゃってー。良いのかなー?里穂ちゃんのときもそれで柚那さん怒らせてましたよね?また怒らせちゃうのかなあ?」


 くっ……覚えがないとはいえない。というか思い切り覚えがあるぞ。

 愛純が言っているのは聖と和解した後、俺が柚那と戦って死にかけた時の話だ。


「えっと、あ、あの、愛純さん?このことは柚那さんはご存知なんですかね?」

「今のところ私の胸三寸ですけど、あんまりしつこいと、柚那さんにチクっちゃいますよ」


 くそっ!胸なんて三寸もないくせになんてやつだ!




「それじゃあ、お疲れ様です」

「ですわー」


 放送後、地下駐車場に下りると、愛純と朝陽はさっさと帰ってしまった。ちなみに俺は今日は関東寮には帰らず、チームが宿泊している都内のホテルに戻る事になっている。

 まあ、放送は愛純がしっかりと仕切ってくれてつつがなく進行したし、特に反省するようなところもないけど、久しぶりに会って、さらにこれからまたしばらく会えないというのに、こうもあっさり帰られてしまうとものすごく寂しい。


「もっとこう、三人でご飯とか食べに行きたかったなあ…っていうか俺、もしかして三人に嫌われてんのかな…」


 しょんぼりしながら俺が運転席に座ると、後ろに人の気配を感じた。


「嫌われてるってことはないと思うよ」

「こまちちゃん、びっくりするからいきなり来るのやめてくれないかな。生倉が来たのかと思ってビビるからさ」

「あはは、ゴメンゴメン。…でもそっか、そういうこともありえるんだよね。これから先」

「まだ何人か内通者がいるらしいし、この先、原則二人組で動くようにするとかしないと駄目かもね」

「そうだね。まあ、それはさておきさ」

「うん」

「明日明後日。暇?」

「……暇があったら関東寮に帰りたいんだけども」

「いや、行ってもどうせ柚那ちゃんには会えないと思うよ」

「え?」

「予定表見たら、柚那ちゃん明日は朝イチで翠ちゃんと関西出張になってたし」

「そっか」


 なるほど、それで今日の放送に来なかったんだな。

 つまり、さっきの愛純と朝陽の隠し事はフェイク。俺を焦らせるための芝居だったというわけだ。


「まあ、今のところ次のターゲットも見つかってないし、一応空いてはいるよ。暇と言っていいかどうかはわからないけど」


 一応今後くるであろう生倉派との戦闘に備えてパワーアップとかしておいたほうが良いのかもしれないし。


「じゃあさ、ちょっと一泊で旅行に行こうよ。マッスル・イコを捕まえるのに、なんだかんだぶっ通しでバリバリ働いてたんだし、二日くらい休んでもいいじゃない。私と朱莉ちゃんが休んだら、次は恋と石見さんに休んでもらえばいいし」


 まあ、こまちちゃんはバリバリ働いていたというかムキムキポーズを決めてただけなんだけどね。


「っていうか、旅行って二人で行くの?」

「うん、二人で」

「……」


 うーん、怪しい。


「………ね?」


 俺が振り返ると、こまちちゃんは、少し小首をかしげながら、お願いとばかりに顔の前で手を合わせウインクをしてみせた。うん、正直めっちゃかわいい。

 

「ということでOKだ」

「え?どういうこと?」

「いや、なんでもない。なんかこまちちゃんが可愛かったからもうなんか細かいところは良いかなって思っただけだから」


 もうね、女の子ってずるいなって思うの、朱莉さんは。


「び、びっくりするからいきなりかわいいとか言わないでよ!」

「でも今日の明日で予約取れるの?」

「え、ちょっと、私の動揺完全スルーとかどういうことなの!?」

「ごめんごめん。スルーされて怒るところまで通してかわいいなと」

「何なの!?からかってんの!?」


 そう言ってこまちちゃんは、プンスコと鼻息を荒くしながら運転席のシートをガシガシ蹴ってきた。


「ごめんごめん、でも真面目な話予約は大丈夫なの?」

「実は予約はもう取ってあるんだ」

「へえ、手回しがいいね」

「近場だけど、美味しい料理が食べられるお宿なんだよー」

「へえ。どのへんなの?」

「ん?埼玉だよ。ただね、その、部屋がダブルルームで、ベッドが一つしかないんだ」


 …え?こまちちゃんってば、なんで顔赤らめてんの?いつもだったらむしろ俺を襲うくらいの勢いでグイグイ来るのに。


「えっと…つまり俺はソファーで寝ろとかそういう?」

「ソファーは無いらしいし、流石に床で寝ろとは言わないよぉ」


 つまりその……え?もしかして俺、誘われてんの?


「つまり、こまちちゃんと二人でベッドに寝るってこと?」

「いや…かな?」

「嫌なわけありますかい!でも、あれじゃない?そんな部屋に俺とこまちちゃんが二人きりで泊まったなんて話になると、世間的に色々こう、ね。俺達顔もそれなりに売れているわけだし、人の口に戸は立てられないとか言うしさ」

「だからさ、朱莉ちゃんと私にはそれを回避する方法があるじゃない」

「え?」

「ジュリちゃんとティアラの旅行なら、誰も天下の邑田朱莉と能代こまちだとは思わないはずだよ」


 そ、その手があったか!!


「え、えーっと、一応確認ね。柚那の罠じゃないよね?」

「いや、だって朱莉ちゃんは柚那ちゃんと別れたんでしょ?」

「うん」

「だったら別に気にする必要もあんまりないかなって思うんだけど」

「つまりこまちちゃんは柚那の放った刺客ではない?」

「いや、自分から別れを切り出しておいて、浮気させて怒るとか意味わかんないじゃない。というか、流石にそんなことしたら柚那ちゃんが他の女子から総スカン食らうって」


 つまりこれはあれですな。

 見た目は俺の好みドストレートなティアラと、ベッドの上ではドスケベなこまちちゃんのコラボ…いや、コラボも何も本人なんだけど、ドストライクでドスケベなティアラと一夜を共にする事ができるという夢の企画。



 ドリームプラン!


 バチェラー・パーティ!


 いや、バチェラー・パーティは違うか。




「騙したわねティアラ」


 俺は見覚えのあるマンションを見上げた後、そう言いながらティアラを睨むが、ティアラは涼しい顔でにっこりと笑いながら俺の手を引いてマンションのエントランスに入る。


「えー?私は何一つ嘘は言ってないよ?さあさあ、じゃあ中に入ろうよ。ジュリちゃんは入り口の暗証番号知ってるでしょ?」

「知ってるけどさあ!」

「じゃあサクッと入力お願いね。まだ二人は学校から帰ってきてないけど、上がってて良いって言ってたから」

「はあ……なんで私がこんな…」


 この場所は別に嫌いではないし、なんだったら異動したいなと思ったこともある。

 だが、こまちちゃんと、というかティアラと一泊旅行だヒャッハーと思っていた今の俺にとってはコレジャナイ感が半端ない場所だ。


「5576…っと」


 俺はJKチームと正宗が住んでいるマンションのエントランスでオートロックを解除する暗証番号を入力して、一つため息をついた。


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