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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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疑念

「さあ、どこまで防げる?私の攻撃を!」

「悪いけどそんな単調な攻撃なら、どこまででも防げるよ」


 そんな会話をしながらこまちちゃんの仕掛けてきた銃撃を、翠が改良してくれたステークシールド改で受け止めつつ魔力を充電していると、ふいにこまちちゃんの姿が消えた。


「はいはい、上ね」


 移動した魔力の気配から俺はそう当たりをつけて腕を振り上げ、上からの攻撃に備える。

 が、待てど暮せどこまちちゃんからの攻撃はこない。

 どういうことだろうと思い、俺が上を向くと、上空にはこまちちゃんの装備だけが浮いていた。そして次の瞬間、装備を下ろしたことで身軽になったこまちちゃんの手刀が俺の喉元に突きつけられる。


「はい、取った」

「……こまちちゃんの卑怯者」

「勝てば官軍っていうじゃない」


 こまちちゃんがそう言うと、俺の敗北が宣言され、観衆がワっとわいた。


 俺達が今いるのは、函館駐屯地。

 石見のリクエストで、敷地で魔法を使って演習をしていたのだが、いつのまにやら基地の自衛官のみなさんが集まってきて、気がついたときにはちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。


「いやあ、すごいすごい。映像では見ていたけど、魔法って本当にあるんだね」


 そう言いながらごきげんな笑顔で歩いてきた石見は俺とこまちちゃんにジュースを投げてよこした。


「邑田くんが中2の頃古代なんとか帝国の魔術師の生まれ変わりがどうこう言っていたのはホントだったってわけだ」

「悪気なく人の黒歴史をほじくり返すのをやめろよ!」


 ニヤニヤしてるから悪気がないかどうかはわからん。っていうか、悪気ありだと思うけど。


「まあまあ、いいじゃないの、中学生の頃の話なんだから。今思い返せば、掃除当番の時に視聴覚室のカーテンを引剥してマントみたいにしてたのも結構様になってたと思うし」

「や、やめろぉ!」

「その話、というか、朱莉ちゃんが中学生の頃の話、詳しく聞きたいんですけどいいですか?」

「いいけど…なに?こまちも邑田くんに気があるの?」

「いや、それだけはないですけどね」


 即答された!


「そういうんじゃなくて、私の過去だけ知られているのは面白くないので朱莉ちゃんのアレな思い出話を聞きたいなと思って」

「んー。まあいいけど…例えばどんな話を聞きたいの?」

「そうですねえ…………やっぱりド定番の恋バナとか」

「邑田くんの恋バナか…そこには聞くも笑い、語るも笑いの、人間ドラマがあってね」

「なんだか前説を聞いただけでワクワクが押し寄せてきますね!」

「興味が無いと言えば嘘になるな」


 そう言ってこまちちゃんの隣で目をキラキラとさせる恋と恵。

 できれば同じ元男性としてこちら側についてほしいのに、顔なじみの自衛隊員と談笑してて全然こっちに来ない瑞希ちゃん。


「なんか周りに敵しかいねえ…」


 こう考えると関東チームは良かったなあ…………って、あれ?あんまり変わってないかもしれない。


「あ、ひどいなあ邑田くんは。当時はともかく今の私には悪意なんてないって。今は味方だよ、味方」

「認めたな!?今、当時は悪意があったって認めたな!?」

「若気の至りだってば」

「にしても、本当に同級生なんですねぇ…」


 恋がしみじみとした表情で俺と石見を交互に見る。


「だからそう言ってるだろ」

「いや、でも恋の言いたいことわかるなあ。なんか朱莉ちゃんの過去ってよくわからない部分が多かったし、石見さんも普通にこうやって友達が居たりとかしそうにない人だったから」

「あはは。それも若気の至りだって。そもそも警官と犯人が仲良くするわけにいかなかったしね」

「なるほど、中二で中二病が終わった俺と違って、石見は大人になっても『孤独な私かっこいー』みたいは感じで中二全開だったってわけか」

「いや朱莉ちゃんは今も現役でしょ」

「今でも中二全開の男がなにを言っているのだか…」


 仲間たちの中で俺の評価が散々な件。

 

「まあいいや。とりあえず魔法が見られて石見は満足しただろ?さっさと作戦会議しようぜ。ほらほら、こまちちゃんも恋も恵も詮索は後にしなさいって」

「ふーん…」

「なんだよ石見」

「佳代」

「は?」

「佳代」


 自分で自分の名前をもう一度言って、石見は自分を指差す。


「知ってるけど………」


 こいつこんなキャラだったっけ?


「……ほら、名前で呼んで友達に噂とかされると恥ずかしいし」

「朱莉ちゃん友達いないじゃない」

「朱莉に友達なんているんですか?」

「いるよ!柿崎くんとかゆきりんとか!」

「え!?ゆきりんって…邑田くん彼女いるの!?」


 そう言って愕然とした表情で俺を見る石見。何だ?そんなに俺に恋人がいたらおかしいのか?


「いねえよ!ちょっと前までいたけど、この仕事受ける時なんか知らないけど振られたわ!あとゆきりんは女じゃねえよ、強面の海上自衛官だよ!」

「そっかー、彼女居ないかー…って、そっか。やっぱり身体が女になると、男を求める的な…」

「違っげーよ!高校の頃の後輩だよ!何深刻そうな顔で『理解した、私は味方だからね』みたいな顔してんだよお前は!」

「いないの?」

「いません!あと普通に俺は20から40前後くらいの女性が好きなのでロリコンでもありません!」

「え、なにその具体的な数字」

「色々あるんだよ。折々で宣言していかないと、なんか知らないけど俺がロリコンだとかそういう話がまことしやかに流されるんだ」

「ふーん…ちなみに私と恋、こまち、大江恵だったら見た目で言ったら誰がタイプ?」

「いや、みんな全然タイプじゃない」


 この後、何故か四人からめちゃくちゃ怒られた。




『うーん…まあ、そういうことを疑うのはわかるけどね』


 作戦会議が終わった後、ちょっと街の見物に行きたいと言って石見達とわかれて市内のハンバーガーショップに入り、目立たない端っこの席に陣取って都さんと電話で打ち合わせをしていた俺は一つの疑問を口にした。

 その疑問とは、『果たして石見佳代は本物か』ということだ。

 石見が現れる直前に恵から『ドクター』の話を聞いてしまったせいか、今、目の前にいる石見は偽物で本物の石見佳代はどこかにとらわれているのかもしれないという考えが俺の中にくすぶっていた。


「まず、都さんが手配した警察に顔の効くそこそこ権力を持った人っていうのは石見佳代で間違いないですか?」

『そこは間違いないわね。ちなみに小金沢に何人かピックアップしてもらって、その中から桜と相談して決めた感じなんだけど、人選について知っていたのは小金沢と私、それに桜だけで、決めたのも昨日で、辞令も今朝出た感じだから、昨日の今日で情報が漏れて入れ替わっているっていう線は薄いと思う』

「何人かって何人くらいです?」

『候補だけなら30人ほどね。警視庁の人間だけだったとは言っても全部に網を張るのは難しいと思う』

「まあ確かに1/30で昨日の今日なら難しいかなと思いますけどね」

『むしろ朱莉の同級生なんだから朱莉のほうがわかるんじゃないの?』

「20年も前のことなんて、流石に覚えてないですって」

『まあ、そりゃあそうか。一応こっちでも昨日から今日までの彼女の足取りを探ってみるわ……ところで朱莉』

「なんです?」

『柚那と別れたんだって?』

「…さすが耳の早いことで」

『やーい、みつきさんの言うとおりになってやんの』


 くっ、自分が安全圏にいるからって調子に乗りやがって。


「別れたって言っても喧嘩別れとか冷めたというよりは、ひなたさんと桜ちゃんみたいに取り返しがつかなくなる前にお互い自分のことを少し振り返ってみようっていう冷却期間なんで、近々元サヤに納まるつもりです」

『ふーん、まあいいけど。柚那のほうからそういうこと言い出すってどういう心境の変化かしらね』

「うーん……何か知ってそうなんだよなあ、都さん」

『さてね、知っているかもしれないし知らないかもしれない』

「またなんかみつきさんに吹き込まれました?」

『今回は別口』


 やっぱりなんか企んでるこの人!


「…教えて下さいよ」

『今回はそこに至るプロセスがわからないから駄目。あんたは普通にしてなさい。必要なときには必要な措置をちゃんと取るから』

「信じますよ」

『任せときなさい。じゃあこっちはこっちで仕事があるから』

「うい。よろしくおねがいしますね」


 俺は最後にそう言って電話を切った。


「さて、と。こっちはこっち動かないとなあ」


 作戦会議で恵からもたらされた敵の情報は生倉 憂とドクター、それに大江派の人間を皆殺しにしたハッカー(ITだけじゃなく、魔法で精神ハックもできるらしい)こと下水流 冥、物理魔法問わず、あらゆる攻撃を反射するという、恵曰く俺のオルタナティブだという鏡音 咲。瞬間再生能力を持つ不死者 品根 衣子。とりあえず俺達がメインで追うのはこの五人。それに加えて、どうやらご当地やスタッフにすでに何人か潜り込んでいるらしく、そちらの対処は別口でやるらしい。というか、すでに愛純と和希が一人捕まえているんだとか。

 で、瑞希ちゃんが持ってきてくれた情報と恵の記憶をすり合わせた結果、今回の俺達のターゲットは品根衣子。瞬間再生できるお陰でほぼ不死身の体を持っているというチート持ちだ。

 そんな相手なのでこまちちゃんの火力だとちょっと不足の可能性があり、瑞希ちゃんの魔法を足しても足りない可能性があるということで、さっきの電話で都さんから急遽もう一人応援を呼ぶ許可を貰った。とはいえ、精華さん、チアキさん、狂華さん、九条ちゃんさん、楓はなし。ちょっとした案件でお出かけ中の喜乃くんと桃花ちゃんもなしというかなり制限のある範囲の中でなのだけど。


「さてさて、誰を呼ぶか」


 単純に火力を足すだけなら愛純か朝陽でいいのだけど、できれば二人には柚那の傍に居てほしい。なんだかんだ言って関東寮は本部の直ぐ側なので生倉一派が俺達の裏をかいて本部を襲撃したりした時に柚那が単独であるとか、もしくは柚那ともう一人で迎撃なんていうことになると非常に危ないので、三人娘には三人揃っていてもらいたいのだ。身内びいきだと批判の一つも出そうな話ではあるが、柚那が危ないということだけでなく本部を守る必要があるということで勘弁してもらいたい。

 JCのメンツも進学はエスカレーターとは言え、そろそろ期末が近いのでホイホイ呼び出すのも気が引ける。特に俺が気兼ねなく呼べる和希は追試の常連だったりするわけだし。

ということで、JCも無理。JKは実力的に無理…というか、華絵ちゃんを巻き込んだらこまちちゃんに殺される。

じゃあ東北でと考えても、寿ちゃん彩夏ちゃん姉妹はチームの屋台骨なので無理。橙子ちゃんはとても俺の言うことを聞いてくれそうにないし、なんだかんだ攻撃力は高くなっている桃花ちゃんは前述のようにそもそも今この国に居ないので無理。

関西チームも似たような感じで、リーダーのイズモちゃんは呼べないし、楓と喜乃くんがいない今、鈴奈ちゃんはイズモちゃんにしか制御できないので無理。関西チーム気取りでいるけど、涼花ちゃんは異星人だから今回のことに巻き込むにはリオさんの許可がいるけどあの人が許可をくれるとは思えないので無理。松葉を呼ぶということも考えられるには考えられるけど…………やめとこ。俺の過去を知っている石見がいるところに、詮索好きの恋と松葉を揃えるとか俺のSAN値が0になりかねない。

まあプロテクトとは言え、一応北海道を管轄している精華さんを呼べるには呼べるけど、あの人はホームで動かないと強いけど、よく知らないところで動かすととたんに弱くなるのでここに呼んで能動的に仕掛けるメンバーにいれるとむしろ戦力が低下する。


「うーん、この……」


世の中は深刻な人材不足だと聞くが、どうやらそれはうちにも当てはまるらしい。


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