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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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悪魔と女王 1

 函館に到着した俺達は、ツインルームの4人使用とかいう、妙な部屋に押し込まれた。簡易ベッドは妙に沈み込んだり、スプリングの位置がわかったりというおかしなベッドではなかったが、本来二人用の部屋に4人でおしこまれているわけで、部屋はかなり手狭だった。


「で?そろそろあんたの腹心ってやつの話をしてほしいんだけど」


 自分でも若干言い方が感じ悪いかなとは思うが、大江恵が妙なことをしなければこんな手狭な部屋に押し込まれることもなかったということを考えれば、仕方がないことだと思う。


「ん?もう良いのか?本当にこの4人、しかも自慢ではないが戦力外の私も含めたメンツだけで、私の元腹心に挑むというのか?」

「一応、状況に応じて増援が来る可能性はあるんですけどね」

「というか、情報収集に瑞希ちゃんが飛び回ってくれているから、瑞希ちゃんが戻ってくるまでは一応待機っていうことになるよ」

「ならば、全員揃ってからの方が良いかもしれないな」

「いや、ここにその腹心や幹部が居るとは限らないし、瑞希ちゃんはあくまで助っ人なんだから、先にメインで当たる俺達4人に話しておいてもらったほうが良いだろう。瑞希ちゃんには必要な情報だけ渡す感じで」

「ふむ…私が二度手間になるのでなければ別にいいのだが。私の元腹心…いや、懐刀だった者の名は、生倉なまくら (うい)。一美の前に私が手がけて魔法少女化した実験体0号だ」


 実験体がどうとかよりも懐刀にしては切れなさそうな名前だなぁってことが気になってしまう。。


「生倉…生倉ねえ…」

「どうしたの、こまちちゃん」

「ん?ああ、まあ似た名前ってだけだと思うけど、私昔、特別拘置所にいたでしょ。そのときだったか…なんか他のときだったかに、生倉って人がいた気がするんだよね…確か、えーっと…何やった人だっけなあ…」

「生倉優ですか?連続強殺と銀行強盗の」

「あ、その人その人!ひなたさん達と一緒に捕まえた人だ!そうだそうだ!いやあ、思い出してみると大変だったよ。佐藤さんとか銃撃戦のさなかに脇腹撃たれてたし。最後は夏樹ちゃんがちょっとおかしく…じゃなかった…勇気を持って叫びながら突撃しつつ銃を乱射して生倉が怯んだスキに私が後ろから捕まえたんだー」


 そういってこまちちゃんは「胸のつかえが取れたよー」と言って笑う。

 いやなんか懐かしそうに物騒な話してるけど、何この怖い会話……って、あれ?今気がついたけど、このメンバーの中で魔法少女になる前に一般人だったのって俺だけじゃないか?


「そう、まさにその生倉優を私が拘置所から連れ出し、魔法少女化した姿。それこそが生倉憂だ」


 いや…いやいや、いやいやいや。なんでそんな人間があっさり出てきて、しかも魔法少女になってんだよ。この国の特別拘置所の警備はザルかよ。


「いえ、でも確か生倉優は拘置所で死にましたよね?」

「ああ、あれは私のシンパの医師が死亡診断書を書いたのだよ。お陰で私は労なく…痛たいぞ朱莉」

「お前本当にロクなことしねえな!」


 恋の確認にとんでもない回答を返した大江恵の頬を思い切り引っ張りながら、グリグリと動かす。


「んー…でも、だとするとさ、今回朱莉ちゃんはミスキャストなんじゃないの?口八丁でたらしこんでいつの間にか仲間にするっていうのが朱莉ちゃんのいつものやり口なわけだけど、今回の相手にはそれが通用するとは思えない」


 いつものやり口とか非常に人聞き悪いのだが。


「確かに。さっきは私も『相手方の女性と深い仲になるな』などといいましたが、そもそもそれが通用する相手とは思えないですしね」

「いや、でもほら、こまちちゃんも落とす俺だぞ?」

「いや、落ちてないし」


 まあね。かっこいいこと言った直後にダメ出しされたしね。


「…落としかける俺だぞ?」

「その件はちょっと気になるので後で詳しく聞くとしても、こまちの言うとおり、今回は無理ですよ」

「いや、やればできるかもしれないだろ?俺は宇宙人だって口八丁でなんとかしてきたんだから」 

「聖ちゃんについては口八丁というよりは相性じゃない?あと虎徹さんはどっちかっていうと彼ができた人だったっていうだけで」

「あれ?こまちちゃん、ついこの間虎徹が邪魔だって言ってなかった?」

「い、いろいろあったんだよ!…とにかく無理。朱莉ちゃんは誰かと…でも他に人もいないのか」

「まあ口八丁なしでも、一応国内ランキング4位ですからね」

「え?あれって口八丁スキル含んでの話じゃないの?」


 なんなの?俺は最新のランキング4位で、この中では一番の実力者のはずなのに、扱いひどくない?


「だがまあ、彼女のことはひなたも狂華も都も認めているのだし、何より私のお気に入りだ。朱莉は強いと思うぞ」

「まあ、どうしても俺じゃ駄目だというんなら、楓と代わるという手もあるけど」

「ああ、それはもっと駄目。だんだん思い出してきたんだけど、生倉って人は私と似たようなタイプだから、たとえば魔力とか、戦闘力とかそういうもので楓さんのほうが勝っていたとしても、裏をかかれて殺されるかもしれない」

「そうね、多分そういうタイプでしょうね、生倉って人間は。強盗にしろ、銀行強盗にしろ、人質は一人残らず弄ばれて殺されていますしね」


 ……話を聞くに連れ、正直言って、二人の言うとおり、これはもう俺には手に負えない件な気がしてきた。はっきり言って、俺には命を切った張ったするのはちょっと荷が重い。

いや、俺にはというか、普通の人はそうだと思うが。


「でも、そういう意味だと朱莉が適任なのかもしれませんね。ひなたさんは遠くアフリカンの空の下、狂華さんはバカ正直というか、楓さんと同じく戦い方が正攻法ですから、よく言えば心理戦に長けている、悪く言えば相手の言うことをあまり聞いていない朱莉が適任なのかもしれません」

「そうだね。そう考えると、消去…朱莉ちゃんが適任だね」


 いま消去法って言おうとしたこまちちゃんは後で個人指導しよう。


「まあ、今回その生倉って奴に出会っちゃったらその時対策を考えるっていうことで、他の幹部の話を聞きたいんだけど。今の話だと、その生倉っていう奴と、生倉を逃した医者っていうのが、大江恵の部下っていうことか?他には?」

「一美と私を含めて、元々は12人いたのだが」


 そう言って憂鬱そうにため息をつくのを見て、なんとなく想像がついた。


「なんだ?お前のカリスマのなさに恐れをなしてみんな逃げたか?」

「逃げたというか、ほとんど死んだ」

「……え?」


 俺の軽口に対して、ゾッとするほど冷静な口調と能面のような真顔で大江恵はポツリと、しかしはっきりとそう言った。


「憂についていかなかった人間と、すでに私の元を去っていた一美以外の人間、人数で言えば6名が殺された。具体的な状況も言おうか?まず、一番新入りの、甲斐田真白の代わりに入れた、飛行魔法が得意な緋鷹理子がアジトとしてつかっていた屋敷の玄関で墜落死していた。次に、廊下で宮野愛純に対抗するために鋭意修行中だったテレポーターの渡 瑞穂が廊下に上半身、そのすぐ隣の壁と壁の間に腹部の一部、壁の先の和室に下半身と三分割されて死亡していた。廊下の突き当りのトイレでは、学生時代宮本雅史に破れ続け、無冠の帝王と呼ばれた澄川次男が切腹をした上で自分で自分の首を斬り落として死亡。首は便器の中に浮いていた。リビングでは澄川のパートナーで、銃器の扱いに長けた南部新太がライフル銃で自分のこめかみを撃ち抜いて死んでいた。水使いの凪みなもは風呂場においてあった空っぽの洗面器で溺死。最後に、炎使いの長森梨沙子は庭に置いてあったバーベキューセットの上で焼死していたよ」


 まるでニュースの原稿でも読み上げているかのように淡々とした様子で語り終えると、大江恵は悲しそうな表情でも、怒りに燃える表情でもなく、ただただいつもどおりの表情で、俺と恋、それこまちちゃんを見た。


「私は南アフリカの事件の時、ひなたに武器を持ち合うことのメリットを説いたのだが、結果はご覧の通り、対立が起これば結局弱いものは蹂躙されるというごくごくありふれた自然界のルールに従ったものになってしまった。人間というものはもう少し賢いかと思ったのだが、いやはや愚かで度し難い…いや、相手が嫌がりそうな殺し方をするあたり、生倉はある意味賢いのかもしれないがな」

「お前…」

「まあ、こんな結果は不本意なので、やり直しをしたいのだよ。そのために君たちには生倉憂を殺してもらいたい」


 そう言って笑いながら大江恵は「尻拭いをさせてすまないが」と付け加えた。


 俺はついさっきまで目の前のこの人物、大江恵のことが嫌いではなかった。好きだとまでは言わないものの、人として分かり合えるところにいる人間だとおもっていたのだが、今はっきりとわかった。こいつは人間とは別のものだ。そして多分、生倉憂も大江恵と同じ種類の生き物だ。


「まったく…欲しかったが手に入らなかった人材のオルタナティブを見つけるのに私がどれだけ苦労したと思っているのだ。嫌な現実を空を飛ぶことで忘れたいなんていう緋鷹や、アイドル志望だが家に引きこもったきり行動しないという典型的なダメ人間の渡はともかく、澄川を口説き落とすにはかなりの労力と金をつかったというのに」


 そう言ってイライラした表情を浮かべて、大江恵は親指の爪をかむ。

 こいつは…いや、こいつと生倉は俺が今まで対峙してきたような人間とは決定的に違う。悪いことを悪いと認識しない、いわば悪魔とでも呼ぶべき生き物なんだと思う。


「…それで、今生倉についていると思われる人間の能力は?」

「ああ、そうだった。一人はドクター。すでに名前は捨てているし、戸籍上は故人だからドクターと呼ぼう。専門は回復魔法で変身も得意だから、スパイが潜り込む可能性を考えたときにもっとも警戒しなければいけない相手だ。まあでも、ドクターは戦闘はからきしだから、暗殺だのなんだのは考えなくていい。彼ないし彼女が侵入した場合は情報セキュリティ侵害が一番の問題だな」

「そのドクターというのはコンピューターも得意なんですか?」


 恋の質問に、大江恵はチッチッチと指を振り、得意げな顔で胸を張る。


「ドクターの他にハッカーが居る…っとぉ!フッフッフ、甘いな朱莉。そう何度も何度も頬をつかまふぇふ……ふぇめろ、ふぁめ…ふぇめふぇふふぁふぁいふぉふぁふぃふぁん」

「あははー何言ってるかわかんないよー。と言うか余計なこと良いから必要なこと喋れ~……な?」

「ふぁい…」


 ナイスだこまちちゃん。









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