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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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馬鹿と天才は紙一重

 逃げようとした喜乃くんは都さんに首根っこを捕まれて連れて行かれ、俺は別に逃げようとしてないのに、こまちちゃんと恋に挟まれるようにしてその後に続く。


「ねえ、これ何?俺達何かした?なんで俺、二人に挟まれてんの?」

「まあ、いつものように厄介事だよ」

「そういうことです。私もこまちも巻き込まれたのですから朱莉たちだけ逃げるなんて許しませんよ」

「いや、逃げないけどさ……って、あれ?恋ってこまちちゃんのこと呼び捨てにしてたっけ?」


 確か東北に居た頃はこまちちゃんからの先輩命令とかなんとかで変なキャラを強制されていたような気がする。


「このプロジェクトでは私のほうが先輩なので」

「あ、そうなんだ」


 うーん。言いたいことはわかるけど、俺にはよくわからない価値観だ。


「だからと言ってこまちに変なキャラを強制しない辺り、私って人格者ですよね」

「自画自賛かよ。…で?厄介事って結局何なんだ?俺がこの間捕まえた左右澤くん関係?」

「ええ、その関係です。実は彼の周辺については、私が時間を見て内偵していたのですが。そこで大江恵の陰が見え隠れしていたんです」

「まあ、あの人は魔白ちゃん事件の前後であのへんに居たわけだし、関係しているのかなあとは思っていたけど、やっぱりあの人の仕業だったのか」


 というか、素人に魔力を付与するなんて、もろにあの人の目的だし、そもそもあの人にしかできないだろう。

 個人的にはあの人のことは嫌いではないけど、左右澤くんみたいな人間を増やされるのはこちらとしても困ってしまうので、やめないなら敵対するしか無いんだろう。

でも、俺とこまちちゃんはある意味左右澤くんの件の当事者だし、恋はもともと内偵していたからというのはわかるとして、もう一人はなんで喜乃くんなんだろうか。


「それで、俺達の任務って結局何なんだ?というか、なんで俺と喜乃くん、それに恋とこまちちゃん?」

「ああ、喜乃は別件ですよ。私とこまち、それに朱莉と…これは内緒にしておいたほうが面白そうですね」

「そうだねー」

「え…なにその面白そうって。一体誰なわけ?っていうかその任務は4人でやるの?それともそれ以上?」

「メインは4人ですけど、各地を回ると思うので、都度助っ人が付く感じでしょうか。人探しは人手もいりますからね」


 うーん…でも、多分あの人は俺が電話すれば出ると思うんだけどなあ。

そこから位置情報で絞り込めば逮捕自体は難しくないと思うし、魔法無効化のデバイスだけ取り上げてしまえば、あの人自体の戦闘力はほぼ無いわけで、そんな大げさに捜索しなきゃいけないような相手でもないと思う。というか、いざとなれば捕まえられるっていう自信があったからこそ、俺は今まで彼女を放っておいたわけで。

 あれだけフラグがどうこうと脅かしてしまった喜乃くんには悪いけど、大江恵の逮捕ということであれば、それほど面倒くさいことにはならないだろうし、すぐに終わるだろう。


 ………そんなことを考えていた俺は、多分しっかりとフラグを踏んでいたんだと思う。



先に喜乃くんの用事の方を片付けるからと言って、都さんが喜乃くんと二人で司令室にいる間、俺達はレクリエーションルームで時間を潰していた。

 戦技研本部詰めのメンバーはそれぞれ約二日拘束で交代という変なシフトを敷いているために、長めの休憩時間が設けられていて、司令部には仮眠室やこういったレクリエーションルームが設置されている。

 その中で俺たちが興じているのは、やりこめばやり込むほど友情が破壊されることでおなじみの電鉄ゲームだ。

 今やちょっとレアなカセット版で、裏には「康夫」と書かれていたので、多分誰かの寄贈品だろう。


「で、結局誰なんだよ」


 俺は5連続で目的地に到着した恋に、これもまた5回目となる質問をするが、恋は

「教えませんよ」とけんもほろろだ。

 ちなみに現在一位は恋。二位は俺で、こまちちゃんがずーっと最下位。というか、なぜ矢印がでているのにわざわざ逆方向に行くんだろうかこの子は。


「そう言うなよ。どうせ都さんが来たらわかるんだろ?」

「だからこそもう少し我慢してくださいと…って、こまち!?そっちは北ですよ!?目的地は広島ですってば」

「え?広島って、北海道になかったっけ?」

「それ、北広島だろ。っていうか、なんで北海道とか東北に関してだけ変に地理の知識あんの君は」

「そっち方面の営業が多かったからねえ」


 もともと、関東出身のはずなんだけどなあ。この子。


「こまちは本当に東北、北海道が好きですよねえ。確か異動も断っているのでしょう?本部付き…というか、都さんの専属ボディーガードの話もあったと聞きましたよ」

「マジで?それって、狂華さん達並の待遇になるんじゃないの?なんで断ったの?」


 これは、都さんが復活した後に聞いたことなのだが、狂華さん達ファースト世代はこまごまとした雑務や教育担当を受け持つ手当として、報酬に俺達よりも大分色がついている。

 そういう特別待遇の人間はファースト世代以外にもいて、京都守護の九条ちゃんさんなんかも俺たちとは待遇が違うらしい。

 かく言う俺も、入ったばかりの頃よりも仕事が増えた分、ヒラの柚那、朝陽よりももらっていたりする。

 まあ、わかりやすく言うなら狂華さんたちが部長クラス、楓や、補給部隊の虫野さん、九条ちゃんさんなんかは次長クラス。俺とイズモちゃん、寿ちゃんが課長クラスといったところか。ちなみにサブリーダークラスは係長とか課長代理。愛純やこまちちゃん、あとは時計坂さんあたりはここに入る。ちなみに関西だけはちょっと面白くて、ここのポジションが異星人の有栖ちゃんだったりする。なので実は異星人組で一番お金を持っているのはリーダーの聖でも、最強のえりちゃんでもなく、エンゲル係数バカ高い静佳ちゃんでもなく、有栖ちゃんだったりする。

 ちなみにご当地はある程度裁量権があって独立しているので扱いとしては支店長になると思うのだけど、普段の手当は地方公務員と同じくらい。何かあって、危険手当がつけばその月は俺達と変わらない待遇になる感じだ。


「待遇面で考えるとそうなんだけど、なんかもう東北から離れがたくなっちゃってね。東北には精華さんも寿ちゃんもいるし、セナや橙子もいるし」

「ぐうわかる」


 確かに俺も嘘左遷で東北行ったり、JKやったりと、ちょくちょく関東を離れたりはしているが、完全に関東から外れろと言われたら、ヒラに落ちてでも断る。……まあ、都さんがちゃんと俺の希望を聞いてくれればだけど。


「逆に恋って節操……あんまりこだわらないよな」

「今節操なしって言おうとしませんでした?」

「いやいや、思ってない。恋は風とともに流れていくんだろうなって思って」

「人を根無し草みたいに言わないでください!私は組織が円滑に運営されるように上の指示には従っているんです!」

「組織の運営、それは人生にとって大切なことなのかな?」


 お、こまちちゃんってば劇場版行ったのか。今度大いに語り合おうっと。

 一方、恋はなんの話かわからないらしく眉をしかめて眉間を抑えている。


「こまちまでわけのわからないことを…」

「まあまあ、また長い付き合いになるっぽいし、元ネタもしっかり教えてあげるから拗ねないでよ」

「はあ…こまちが朱莉に話しを合わせたっぽいということは、その元ネタは朱莉も知っているんでしょうから、私も教えてもらったほうが話に置いていかれなくていいのでしょうね」

「よし、じゃあみんなで徹夜してTV版とOVA版の上映会した後、劇場版見に行こうぜ!」

「って、なんでこまちよりも朱莉のほうが張り切ってるんですか……」


 その後もやいのやいの言いながらゲームをしていた俺たちの元に都さんがやってきたのはゲームを初めて二時間ほど経った後だった。


「喜乃が往生際悪くて時間かかっちゃった。ごめんね、三人共」


 都さんは、レクリエーションルームの入り口を入ってすぐのところで、たったままそう言って手を合わせる。


「いや、それは別にいいんですけど、喜乃くんにどんな面倒事押し付けたんです?」

「まあ、それは良いじゃないの。それよりも朱莉、あなたにまた面倒……新しいミッションを与えるわ」


 今絶対面倒事って言おうとしたなこの人。


「はあ…まあ、別に良いですよ。大江恵のことですよね」

「あれ?恋、こまち、あなた達話したの?」

「いいえ。話していませんけど」

「話を聞かなくたって大体のことはわかりますって。まあ、俺にかかればちょっちょいのちょいで捕まえられますから大丈夫ですよ」


 さっき考えたように電話かけて位置情報を探ってそのあたりを虱潰しにするっていうだけの簡単なお仕事だし。


「あら…そう?私はてっきりゴネられるんじゃないかって思ってたんだけど」

「別にいいですよ、このくらい楽勝ですから」

「さすが朱莉ね。でも一応、詳しい説明は――」


 別にいらないんだけどね。

 まあいい。さっさと大江恵の携帯に電話をかけて……


「恵のほうからしてもらうわね」

「はぁっ!?」


 都さんがそう言ってその場を退くと、後ろから大江恵が現れた。


「どうも。ただいまご紹介にあずかった大江だ」


 そう言ってペコリと頭を下げるでもなくふんぞり返っている彼女は、間違いなく大江恵だった。


「な、なんで!?っていうか、あんたがここにいるならミッションコンプリートじゃないか」

「え?何を言っているんですか、朱莉」

「あ……私わかった」

「私もなんとなく朱莉が何を考えていたかわかったわ」


 そう言って首を傾げる恋と、納得顔のこまちちゃんと都さん。


「ちょっとまって。左右澤くんの件で、大江恵をとっちめるために探し出せっていうミッションじゃないの?」

「ああ、そういうこと…」

「やっぱりね」

「イヤに自信満々だと思ったのよねえ…恵、お願い」

「うむ。では懇切丁寧に説明してやろう。私の計画は知っているな?」

「全人類の魔法少女化だっけ?確か飲水とか、食料でだんだんと魔法少女化させるとかなんとか」

「その通り。ちなみに君が捕縛した左右澤住次郎は私の作品だ」


 やっぱりそうか。というかそれ以外にないだろうけど。


「それで?その首謀者のあんたがここに居て、魔力封じの手錠をはめられているっていうことは、もうこれ以上被害が出ることはないっていうことだろう?」

「まあ、その………」


 大江恵は、言い出しづらそうに口ごもると、俺から目をそらした。


「何だよ」

「じつはふくしんにうらぎれてなのましんおきかえーるをぬすまれてしまいせいぎょできなくなったのでたすけてください」

「……………………………え?なんだって?」


 別に俺は難聴系主人公にジョブチェンジしたわけではない。大江恵のセリフが早口すぎて本当に聞き取れなかったのだ。


「だから、腹心に、裏切られて、左右澤住次郎に魔力を付与した『ナノマシーンオキカエール』を盗まれてしまって、魔力付与の制御ができなくなってしまったので助けろください」


 …………。

 ……………。

 えー…………。


「助けろくださいじゃねえよ!何やってんだよ!あんた実は馬鹿だろ!?いや、間違いなく馬鹿だね。バーカバーカ!」

「しょ、小学生並の罵倒などに屈する私ではないぞ!?」

「馬鹿じゃなきゃ間抜けだ!味方に裏切られるとか……つーか、一美さんたちもあっさりひなたさんに寝返ったし、あんたどんだけ人望ないんだよ!」

「人望ならある!その証拠に私が全部生活費をだすから協力しろって言ったら何人もの同志がだな…」

「生活費だしてんじゃねえか!それは人望があるって言わねえよ!金があるっていうんだよ!」

「く…しかしそんなこと言ったらお前の上司の都だって人望がないせいで裏切られているだろうが!それも、よりによって、都が愛してやまない恋人の狂華にだぞ!?しかも狂華は元男性魔法少女のくせに、男性型異星人のおもちゃになっていたそうじゃないか! どう考えたって都のほうが惨めだろう?なぜならお手製のぬいぐるみまで作っている十年来の恋……痛い、痛いぞ都。い……いだだだだだだァァァっ!?」


 ……何も聞かなかった。

俺は何も聞かなかったし、大江恵の顔面にアイアン・クローしている都さんの顔が真っ赤なのも見ていないし、大江恵の最後のセリフがなんとなく都さんをイタイ女呼ばわりしているように聞こえるのも気のせいだ。


 恋もこまちちゃんも目をそらしているので、きっと何も聞いてないし見ていないだろう。

 

 よかった…恥ずかしい思いをした都さんはいなかったんだ。



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