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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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地獄の一丁目

 右左澤くんの一件から3日後。都さんに呼ばれた俺がエレベーターホールでエレベーターを待っていると、入り口から見覚えのある顔が入ってきた。


「おや喜乃くん。おつかれさん」

「あ、お疲れ様です朱莉さん」


 どこぞの元男の娘アイドルと違い、素直な喜乃くんと俺はわりと友好関係にあるので、こうして挨拶をすれば挨拶を返してくれる。

 友好関係と言っても、ベタベタしたものではなく、俺は喜乃くんから来た困りごとの相談にはちゃんと乗るし、解決までバックアップする。逆に喜乃くんも関西方面でイズモちゃんに頼みづらいような細々した雑事を手伝ってくれたりするという、鈴奈ちゃんが「浮気だ!」と騒ぎ出さない程度の健全な友好関係だ。

 ちなみに、東北でやってほしいことがある場合だと大体のことは彩夏ちゃんにお願いしているので、たとえ男性(以下略)の仲間だとしても、どこかの元男の娘アイドルには頼らないし、頼らせない。


「喜乃くんは何階に用事?」

「あ、最下層、司令部です」

「じゃあ一緒か」


 場所の関係で操作パネルの近くに乗った俺が階数のスイッチを押そうと思い、喜乃くんに階数を尋ねたのだが、偶然にも喜乃くんも俺と同じ階に用事があるらしい。


「喜乃くんは誰かに呼ばれたの?」

「はい。都さんに呼ばれました」

「………まさか、時間指定で?」

「はい。14時からです」

「そっか…俺も14時からなんだよな。都さんに限って…というかスケジュール管理している秘書さんに限ってうっかりダブルブッキングってことはないだろうから、多分俺と喜乃くんは同じ面倒事を押し付けられると見た」

「ええー……都さんが朱莉さんに頼む面倒事って、ガチのやつじゃないですか…」


 喜乃くんは心底嫌そうな顔でそんなことを言いながらため息をついた。


「まあ、でもそんな物騒な話じゃないだろ。今は聖のところとも、虎徹のところともそれなりに上手くやっているし、例の宇宙警察機構とは交渉中だけど、こっちが喧嘩売らなきゃ大丈夫だって話だし」


 まあ、仮にも警察機構が喧嘩を売りもしない、助けも求めてない星に強制的に介入することはないだろう。

 基本的には民事不介入みたいなのは宇宙でも同じ…という話を、何故か俺の実家に遊びに来ていたどこかの見知らぬ男子中学生に寄生した宇宙警察機構の刑事が言っていたし。


「あの、朱莉さん」

「ん?」

「そういうのってフラグじゃないんですか?揉め事はない、平和だ、大丈夫だ みたいなのって、やばいんじゃないですか?」

「……いやいや。そんな。ありえないって、絶対ありえないから。そりゃあこの間、ちょーっと魔力持っている年齢不詳の少年をとっ捕まえはしたけど、そんなねえ、突然変異か、どこかの宇宙人の憑依体か知らないけど、たかだかそんなことくらいで大事になるはずがないし」

「わざとですか!?わざとなんですか、朱莉さん!」

「え?なにが?あ、そうだ喜乃くん。どうせ大した用事じゃないだろうから、終わったら寮に泊まっていきなよ。アフリカに帰った、野生のひなたさんから毎日電話かかってくるから一緒に話そうぜ。たまには俺以外の人間もいたほうがひなたさんも喜ぶだろうし」


 ちなみに、わざとちょいちょい負けることで実力ランキングを不正に操作しようとしたひなたさんは『過去の実績や定期検査の結果、体力知力判断力などの総合的なデータ』を踏まえた結果、見事にナンバー2に返り咲き、大会終了の打ち上げパーティ中に拉致されて日本を発った。


余談だが、大会終了後のランキングは


1位 狂華にゃん(島での失態で都さんの怒りを買い、登録名と変身後のコスチュームをいじられたものの、実力はやっぱりいちばん高いらしい)


2位 ひなたさん(よってアフリカ行き、ザマァ!www)


3位 楓(どう考えても前から精華さんやチアキさんより強かったのである意味定位置)


4位 俺(公式にではないものの、楓といい勝負したのが効いたらしい)


5位 精華さん(体力知力が駄目なのに魔力だけでこの位置にいるというのはある意味すごい)


6位 こまちちゃん(楓に勝ったのにこの位置なのは、魔力量の差かそれとも精華さんより上にランクすると精華さんがすねそうだからという見えない力が働いたのか)


7位 みつきちゃん(みつきさん抜きでここにいるのは、さすがポテンシャルナンバーワンの魔法少女、ただあまり上位に入れると、外交上、彼女に色々面倒が起こりそうなので現状維持というところか)


8位 真白ちゃん(魔白モードを鑑みれば、もっと上な気がするが、みつきちゃんと同じく年齢的なこともあってこの位置ということだろう)


9位 チアキさん(仕事が減って楽になるわーとか言って、半分セミリタイアするつもりみたいなので手抜きの疑いがあるけど…うん、チアキさんの場合はもう幸せになっても良いかもしれないので何も言うまい)


10位 愛純(ちなみに朝陽が11位。うちの子はちゃんとやる気を出せば強いし、短期間でダイエットもできるし、チョコを盗んだ犯人を見つけるのもお茶の子さいさいなのだ)


 で、以下略という感じだ。

 以下略とは言っても、下位のメンバーも大会期間中や虎徹達の島を攻めるときにレベルアップしていて、上下2つ3つくらいの順位なら、その日の体調なんかによって入れ替わるんじゃないかっていうくらいに実力は拮抗している。


「いや、そんなこと言っている場合じゃなくて!か、帰りましょう!一旦帰りましょう!」


 はっはっは。14位の喜乃くんは一体何をそんなに焦っているんだか。


 ………………どうせ、エレベーターに乗ってしまった時点で、焦ったって遅いんだ。もう観念して楽になったほうがいい。

 面倒事を押し付けられるときは 誰にも邪魔されず 自由で なんというか 救われてなきゃあ駄目なんだ。

 独り、静かで、豊かで…


「あ、朱莉さん!?なんでそんなに安らかな顔しているんですか!?ちょっと!朱莉さん!?」

「いやもう多分回避できないだろうからいっそフラグ立てまくって喜乃くんも逃げられないようにしてやろうと思って。俺達がこれから行くのは最下層っていうか、多分地獄の一丁目だから道連れは多いほうが俺の負担が和らぐ」

「さ、最低だ!あんた本当に最低だよ!桃花と同じくらい最低で最悪だ!」

「はっはっはっ。ここでこうして俺の肩を揺すっていても状況は好転しないぞー あと俺は桃花ほど性格悪くないぞー」


 皆で東北に行ったときにあることないこと柚那や朝陽に吹き込んだあいつはマジで許さん。 というか、あいつは喜乃くんにも何かしたのか?


「は!そうだ!フラグを立てたんなら折ればいいんだ!ええと・・・どうすれば!?」


 そう言って半泣きになりながら、喜乃くんは捨てられた子犬のような瞳を俺に向ける。

 おいおい、それを俺に聞いてくるとか、とんだ甘ちゃんだな喜乃くんは。


「そうだなあ、帰ったら鈴奈ちゃんと結婚するって宣言するとか?」

「お、俺、帰ったら結婚するんだ!」

「よし、いいぞ喜乃くん。鈴奈ちゃんが聞いたらきっと喜ぶぞ」


 もしも鈴奈ちゃんに引かれても、フラグが立ったことで少なくとも俺が喜んでいるぞ。


「あ、後は!?何かありませんか?」

「『こんなところにいられるか!』って言って、人がいるところから飛び出して自分の部屋に帰るとか、外に出るとか」

「本当にもうこんなところにいられないし!って、エレベーターから外に出られないじゃないですか!」

「しらんがな」


 良いリアクションをとりながら着々とフラグを立てていくあたり、すごく芸人向きな性格してるよなあ、喜乃くんって。

 最近は朝陽も愛純や柚那に毒されてしまったのか、俺が何かしても白い目で見てくるだけで、あんまりいいリアクション取ってくれなくなったし、リアクション枠でうちのチームに欲しいくらいだ。


「って、そうだ!逃げれば良いんだ!下についたら即このエレベーターで地上に戻ればいいんだ。よし、僕は一秒だって最下層になんて居ないぞ、扉が開いたらすぐに1階のボタンをおして戻るんだ」


 あーあ。そんなこと言ったら…。


「喜乃くん喜乃くん」

「なんですか!?朱莉さんには悪いですけど、フラグもちゃんと折ったし、僕はもうさっさと関西に帰って鈴奈やイズモさんや松葉の後ろに隠れて、朱莉さんが苦労している所を高みの見物するって決めたんです!地獄へはお一人でどうぞ!?」


 くっ、喜乃くんめ、意外と言うことがクズいな。まあ俺も人のこと言えないけどさ。


「まあ、なんていうかさ、一つ君に謝らなければいけないことがあるんだよ」

「なんですか?実は面倒事がなにか知っているとかですか!?…あ!まさか都さんの名前で僕を巻き込んだのが朱莉さんなんですか!?」

「そんなにテンション上げて怒らないでくれよ。俺は本当に用事がなにかは知らないし、巻き込んだのも俺じゃない」


 大方の予想はついているけど、本当になんで呼ばれたかということの正解は知らない。

 まあ、大方、先日捕まえた左右澤くんに関わる何かなんだろうなとは思うけど、なぜ喜乃くんが呼ばれているのかということについては全く心当たりがない。


「じゃあなんですか?」

「君があまりに気持ちよく騙されてくれるから、ついでに調子に乗ってフラグ立てさせちゃった」

「……ふぇっ!?」


 俺が最近身につけた必殺奥義テヘペロをしながら謝ると、喜乃くんは顎が外れたかのようにあんぐりと口を開けるという、まるで漫画のようなリアクションをして、真っ白になった。

 しかし、命の危機が迫っていると人間も生存本能が働くのだろう、すぐに真っ白状態から復活した喜乃くんは再び俺の肩を掴んでガクンガクンと前後に揺らす。


「ちょ・・・え!?どういうことですか?さっきのってまさか」

「生存フラグじゃなくて、死亡フラグ」

「ああああああ!一階!一階!すぐ戻りますからね!?扉が開く間も与えないぞ!ついたらすぐに閉ボタンを――」


 喜乃くんが言い終わらないうちに、エレベータは最下層に到着し、かご室の中に「チーン」という、端的に言えばいつもの、今日に限っては喜乃くん終了のお知らせのような音が響く。


そして――


「ようこそ地獄の一丁目へ~」

「ひぇぁっ…」


 開きかけの扉に手をかけて、ニコニコと笑いながらエレベーターの扉が開くのにあわせてまるでこじ開けるようにして腕を開いてみせる都さんを見て、喜乃くんはまるで肺の中の空気を出し切ってしまったかのような、か細い悲鳴を上げ、俺は都さんの後ろで苦笑いを浮かべているこまちちゃんと恋を見て、嫌な予感を覚えた。





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