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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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合コンに行こう 4

 まったく、日本の治安はどうなってしまったのか。

 先程までの好青年の顔から一変して、凶悪な面構えになった五人の男子高校生に、こんなにかわいらしい女の子が取り囲まれて移動しているというのに、なんで誰も助けようとしないんだ。

 いやまあ、俺も魔法少女じゃなかった頃にこんな光景に出会ったら、やっても警察に通報するくらいだから、別にいいんだけどね。そもそも素人相手の5対1くらいならなんとでもなるし。


 五人に取り囲まれたまま、俺が連れてこられたのは再開発地区の廃ビルと廃ビルの間だった。ちらっと聞こえた話をまとめると、このあたりは彼らのたまり場であるようだが、この五人はたまり場仲間(なんかギャングとか大層なこと言ってたけど、たまり場仲間で十分だそんなもん)の中でもランクが低く、ビルの中には入れないらしい。

 嫌だねえ、スクールカースト…まあ、スクールつながりかどうか知らんけど。


「おめー、今俺達に謝って他の4人をここにおきび出してくれば許してやんよ!」

「はあ?許す?なんで?馬っ鹿じゃないのかお前。あとおびき出すな。なんだよ、おきび出すって」

「うるせえ!言うこと聞く気がねえなら力ずくでわからしてやるよ!」


 そう言って五人のリーダー格の男が殴りかかってくるが、走りながら大きく右腕を振りかぶっていて隙だらけだ。こんなのじゃあ、俺はおろか、エリスちゃんや華絵ちゃんにすら当たらない。下手すりゃ深雪たんより弱いぞこいつ。

 回避していなすのが一番良いんだろうけど、狭いしここではちょっと厳しい。

 まあ、殴りかかってきた相手が悪いってことで、正当防衛、正当防衛っと。


「うぐっ」


 突っ込んでくる相手にタイミングを合わせて一歩前に出て軽く拳を突き出すと、俺の拳は見事にみぞおちにヒットし、リーダー格はその場にうずくまった。


「さっきのデートドラッグは俺…私達をここに連れ込むためのものだったんだろうけど、計算が外れて残念だったな」

「な……なんでそれを」

「バレてないと思ってたのか?バレバレだろ、あんなもん。ほんと馬鹿だなお前ら」


 気づいたのはこまちちゃんだけど、正直に話す必要もない。こいつらからのヘイト集めるのは俺だけでいいしな。

 まあ、ヘイト集めてもあんまり関係ないんだけどね。ここにたまり場があるなら、ひなたさんなり小金沢さんなり、黒須さんなりのルートで警察に介入してもらうから。

 どうせ薬物の1つや2つ隠してるだろうからよくて没収、悪けりゃ首謀者検挙。この辺は封鎖されるし、たまり場がなくなればつながりは薄くなる。ちょろっと内輪もめするような情報を拡散させてやればこいつらは晴れて卒業できるってわけだし良いことづくめだ。

 …もしも薄くならずにナッチとかJKに危害が行きそうなら、おまけで俺達が顔を隠して、なんかこう…愛純とか柚那とか風に言えば「えいっ☆」って感じで力づくで直接解散させてもいい。

 え?法律?超法規機関舐めんな。


「良くもたかしを!」

「やめろ!うかつに攻撃するな、よしお!」


 うん。後ろの彼の言うとおり迂闊すぎだな、よしお。

 なんせ俺が何をする必要もなく、足元でうずくまっていたたかしに躓いてすっ転んだし。

 ちなみに、そのまま顔から地面にツッコんで鼻血を出したよしおは、血を見て戦意喪失したらしく必死に鼻を押さえて止血しようとしている。

そんなよしおを見て、一人仲間を呼びに言ったので、とりあえず目の前にいるのはあと二人。


「……」

「おい、仁、何をする」

「少佐(あだ名)だって、喧嘩で勝って出世したんだ」

「おい、仁、お前何する気だ?俺達の中で一番強いたかしがあのザマなんだぞ!?」


 たかし最強だったんかい。流石に弱すぎるだろお前ら。


「敵を倒すには早い方がいいに決まってる」


 そう言って、仁はポケットから折りたたみのナイフを取り出して構えた。

 ちなみに、ナイフのスペシャリストがみたら失笑されること間違い無しの持ち方だ。

 小さなナイフは振り回すもんじゃないってことを全くわかっていない持ち方で、アレでこの場所じゃ絶対俺には当たらない。


「へっ、怯えてやがるぜこの女」


 いや、呆れてるんだけどな…。


「うおおおっ!」


 気合とともに振りかぶった仁のナイフは、予想通りすぐ隣りにあるビルの壁にぶつかって速度が落ち、簡単に回避することができた。


「うわあああっ!」


 俺にナイフを回避されて焦ったのか、仁は叫びながらめちゃくちゃにナイフを振り回すが、その場で腕を動かしているだけなので、当然俺には当たらない。

 …こうしてみると、まともに攻撃らしい攻撃だったのってたかしだけだな。


「はいはい、じゃあちょっとサービスなー」


 俺はうずくまっているたかしを踏み台にしてかるくジャンプをし、飛び越しざまに仁の顎を軽く蹴ってダウンさせてから、最後の一人の前に着地を決める。

 ちなみにサービスっていうのは、キックの時に見えただろうパンツのことだ。


「よ、よくも仁を!」


 さっきからなんか何処かで聞いたセリフばかりだ。


「やめとけって。怪我するだけだってわかるだろ?デニムくん」

「は?はあ?誰だよそれは!?」

「君のあだ名」


 デニムシャツ着てるからね。別に他の意味は無いよ。


「ちなみにデニムくん」

「だから俺はデニムなんて名前じゃねえって言ってんだろ」

「そこは別にどうでもいいんだけどさ。さっき殺人犯の話をしてた仁くんってどこから越してきたの?」

「え?たしか…近畿のどこかだったと思うけど」

「なら別にいいや」


 こまちちゃんの出身は全然別の場所だから、こまちちゃんや華絵ちゃんの両親の死には関わってないだろう。


「じゃあね、もう女の子にいたずらしようとしちゃ駄目だよ」


 そう言ってデニムくんの肩をポンポンと叩いて店に戻ろうとした俺の目の前に、巨大な、思わず「お前はどこの世紀末覇者だ」と聞きたくなってしまうような男が立ちふさがった。


「さ、左右澤さうざわさん!」


あ、ラオウさんじゃないんだ。


「君がこいつらのリーダー?」

「これはうぬがやったのか?」


 俺の質問に答えずに左右澤君はそう言って俺の顔を覗き込んできた。

 いや、やっぱりラオウくんだろこの子。


「駄目だぞー、手下の管理はしっかりしないと」

「許さん!」


 またも俺の話を聞きもせず、左右澤くんはおおきくふりかぶった右フックを放つ。

 当然俺もそんな攻撃を受けるつもりはないので、後ろに飛んでかわす。


「……って、おいおい。おかしいだろこれ」


 別に彼のパンチが当たりそうだったとか、かすったとか、そんなことはない。そんなちっちゃなことじゃない。

 空振りした左右澤くんのパンチは、アスファルトの地面に大穴を開けていたのだ。

 それこそ、どこぞの聖帝だの、世紀末覇者だのが闊歩している世界ならこのくらいどうということはないのだろうが、あいにくと、俺達の住んでいるこの世界では普通の人間にこんなことができるはずはないし、魔法少女でもパンチで同じことをやろうとすると、愛純とか楓といった、それなりに魔力があってパワー近接タイプでないと難しい。

 もちろん、威力があれば強いかというと、そんなことはないのでこの事象だけで左右澤くんが強いとはっきり言えるわけではないのだけど、どちらにしても――


「かわしたか…」


――こいつは魔法を持っている。




 左右澤くんがどういうルートで手に入れたのかは知らないが、ほぼ間違いなく魔法持ちだということが分かった俺は、スマホから緊急信号とこの辺一帯の封鎖依頼を送った後、距離を取って逃げ回っていた。

 もちろん、俺が左右澤くんに手も足も出ないわけではない。では、なんでこんな回りくどいことをしているかというと、魔法を使う時に目撃者になるたかし、よしお、仁、デニム(仮)の4人は確実に捕まえて記憶を消す必要があるからだ。それにおそらく廃ビルの中にも何人かいるだろうからそれも含めて捕まえる必要がある。だから俺は包囲が終わり、関係者の確保が終わるのを待っているのだが、俺が避けて空振りした左右澤くんのパンチはビルの壁をガンガン削り取っていて、建物が老朽化していることと相まっていつビルが崩壊してもおかしくないような状況だった。


「デニムくん」

「だから俺は…」

「別に君の名前は良いんだ。ただ、見てわかると思うけど、左右澤君はビルを壊しそうな勢いで暴れているし、もし中に人がいるなら逃がしたほうが良いと思うよ」

「え?」

「いや、見たらわかるだろ?真ん中の柱はさっき砕いちゃったし、今の攻撃も壁を削ってる。んで、攻撃の衝撃で結構揺らされているから、あちこちヒビが入り始めてる」

「あ……」

「いないならいないで、さっさとそこの三人を連れて逃げたほうが良いと思う。崩落に巻き込まれたら死ぬし」

「お…おう」

「で、中に人いるの?」

「この時間はいないと思う」

「そっか、じゃあ財布出して」

「え!?カツアゲ!?」

「似たようなもん。君達の身元がわからなくなると色々困るんでね」

「……」

「さっさとしないと、次に左右澤くんの攻撃が来た時に盾にするぞ」

「わ、わかったよ」


 なんてやり取りをしているうちに、左右澤くんの容赦ない攻撃が俺に向けられる。

 まあ、でも攻撃自体は遅いし、二歩、三歩と後ろに飛べば――と、不意に俺の背中にビルの硬い感触が当たる。


「うそーん…」

「追い詰めたぞ、女」


 そう言って振り上げられた左右澤くんの腕が俺に向かって振り下ろされる。

 とは言っても、こうして一般人からはわかりづらい華絵ちゃん直伝の防御魔法で防げばいいだけなんだけど…ねっ!?って、一発でヒビが入ったぞ!?どんだけ攻撃特化なんだよ左右澤くん!


「どういうことだ?今のパンチで女の腕はへし折れ、顔面は潰れ、心が折れるはず」


 何その恐ろしい想定。っていうか、デートレイプドラッグとか使ってたんだから、そっち目的の集まりじゃないの?顔面潰して腕の折れた女の子と何する気なの?

 まあ、でももちろんそういうことをさせるつもりもないし、防御魔法で受け続けて事故って両腕骨折とかしたくないので、しきりに首を傾げている左右澤くんから少し距離を取って、俺はカウンターの準備を始める。最悪デニムくんたちを取り逃がしてちょっと噂になったりすると、JKと正宗以外のクラスメートに会いづらくなっちゃうけど、まあそれはしょうがない。そんなことを考えていると、スマホにピロンと着信があった。


『包囲完了』


 画面を確認した俺は素早くステークシールドを展開し、左右澤くんの攻撃に備える。

 文字通り、メイン盾来た!これで勝つる!だ。


「とは言え、ジュリの身体でこの盾持つとちょっとバランスが悪いんだよなあ」


 ジュリの身体は割と華奢めにせっていしているので、朱莉のときと同じ武装だとちょっと重く感じてしまうし、ジュリに変身したままシールドを出すと変身+シールドで魔力の消費が半端ない。


「というわけで、一発で決めるぞ、左右澤くん」

「生意気な…!そんなもので何ができる!その強気な鼻っ柱をへし折ってくれる!」


 いや、マジで物理的にへし折られそうで怖いからそういう事言うのやめてほしい。


「行くぞ女!」

「よしこい左右澤くん!」


 殺傷力控えめ、できれば彼のパンチがそのまま彼に返るような形。そう心がけながら、俺はシールドステークで左右澤くんの攻撃を受け、そして


「わ……生涯…悔い…」


 何かブツブツ言いながら、左右澤くんはその場に倒れ伏した…って、お前やっぱりラオウだろ。




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