合コンに行こう 2
ナッチと合流するまで、少し時間があるということで、軽くお茶でも飲もうかということになってやってきた、ちょっと意識高い系のカフェで、俺はこまちちゃん改めティアラを連れてトイレに入った。
「ねえねえ、ジュリはどの男の子が好み?私は右から三番目の子がー…」
「そういうのは、合コンが始まってからナッチとでもしてなさいって」
始まってもいない合コンの品定めという突っ込みづらいネタを振ってきたこまちちゃんの頭に軽くチョップをして、口を閉じさせる。
「で、なんでまた…まあ、聞くまでもないか。華絵ちゃんが心配だったんだろ?」
「さすが、よくわかってるじゃん。心向に変な虫がついたら大変だからね。その見張りと必要なら駆除するために来たんだよー」
駆除とか言うな。こまちちゃんが言うとマジで怖いんだから。
あ、ちなみに心向は華絵ちゃんの元の名前だ。
「過保護だね」
「さっさと退場して、不保護決め込むよりマシっしょ」
言いたいことはわかるけど、そういうことを言うのはちょっとな、思ってしまう。
「まあ、全部私のせいだってのはわかっているけどさ」
「…ま、そこは今日話すことでもないだろ。俺はそう思ってないし、君の周りも思ってないから気にしないほうがいいよ」
「やったことに関しては別にね。ただ、やったことで起こったことについては責任を感じてるよ」
事件の余波、野次馬たちの興味の行き先、無関係なはずの第三者という関係者の槍玉。
その槍玉にあがったのは、収監された阿知羅彼方ではなかった。
そして阿知羅心向は実家を失い、関華絵になった。そういう話だ。
「だから、私が守れる時は守りたいなって、そう思ってさ」
「そう思うのは良いけど、せめて事前に連絡くらいは欲しかった。不意打ちだったから、最初誰だかわからなくてちょっとビビった」
「柚那ちゃんにドッキリだからって口止めされててさ。ごめんね」
そう言ってこまちちゃんは手を合わせて俺を拝むようにしながら、こっちの目を見つめたまま首を傾げてウインクをかますという、4連コンボを叩き込んできた。
「ま、まあ良いけどね」
別にコンボがドストライクだったわけじゃないんだからね!
「おや、もしかして、今の私は朱…ジュリちゃんの好みですかな?」
そう言ってティアラは俺の前でくるりと周ってみせた。
「やっとく?」
そう言ってミモレ丈のスカートの裾をまくり上げるティアラ。
ただまくり上げるだけじゃなくて、スカートの裾を口に加えているのがあざとい。ちなみにあざといから嫌かというと、惚れ惚れするくらいのストライクゾーンなのでツーストライク。もうすぐワンナウトだ。
「やらない」
「おや、残念」
そう言ってティアラはたいして残念そうでもない顔で、咥えていたスカートを離した。
「全く残念そうに見えないし、そもそも君、男嫌いだろ?」
「ヒント、桃花ちゃんは桃尻で、瑞希ちゃんは抜けるように白い肌だったよ。まあ、一回でいいかなって感じだけど」
「アンサー、身体だけが目的だったのね!?」
今日の彼女はシリアス路線なのかと思ったら、そうでもなかった模様。
っていうか、今が女の体なら誰でも良いのか。相変わらず女子に対しては無節操な子だ。
「ほんと…あとは彩夏ちゃんだけなんだけどなあ…」
ティアラはそうつぶやいてため息を…って、逃げて!彩夏ちゃん超逃げて!
「あの男マジで邪魔なんだよね」
多分、虎徹のことを言っているんだろうけど、絶対にテレビに映ってはいけない顔しながら舌打ちするのはやめていただきたい。
「怖えよ。っていうか、本気で虎徹と事を構えたりしないでよ?」
「しないしない。流石に冗談だから大丈夫だよ」
まあね、こまちちゃんはそういう所一応大人の考え方ができる子だからね。
「……あ、そうか!彩夏ちゃんだけだと駄目なら、三人ですれば良いんだ!」
どうやら駄目な方向に大人の考え方をしてしまったらしい。
まあ、これ以上話しててあまり遅くなってもしょうがないのでここらで締めて二人のところに戻るか。
「とりあえず、東北に帰ってからのことは勝手にすればいいけど、今日はやめてくれよ。流石に華絵ちゃんに手を出すことはないだろうけど、エリスちゃんもナッチもだめだからな」
「しないしない。子供相手に何かするわけないじゃん」
「そう?タマがこの間ベッドに誘われたとか言ってたけど」
「それとこれとは話が別。タマはそういう対象じゃなくて、ベッドの中で撫で回したり抱きまくらにして眠りたいっていうだけだから」
「その気持は激しくわかるけどね。まあ、お互い大人なんだし、合コンは適当に流して帰ろうぜ」
「そうだね。適当にやって適当に帰ろう。関東寮に」
「……いや、東北寮に帰りなよ」
エリスちゃんも華絵ちゃんもなんかやる気なさそうな感じだったし、二次会でカラオケとか行ったとしても、終わってすぐ上野なり大宮に向かえば、東北に帰る新幹線くらいいくらでも走っている時間には駅に着く。
まあ、ナッチは場馴れしてるみたいだし、自己責任でってことで、放っておいて帰っても平気だろう。
「えー、たまには裸のおつきあいしようよー」
「はいはい、柚那様込みならいいよ」
まあお風呂くらいならね。その先はないよね。
「よーし、じゃあ柚那ちゃん込みで三人でパーティをしよう!本番のために!」
ああ、三人パーティ、略して3Pですね、本当に有難うございます…ってありがたくねえよ!この間変な夢みたばっかりで柚那に疑われたり、柚那が離れたりしそうな行動は自重しているんだから。
「いや、ごめん、もうなんかさっさと帰って、ぶっつけ本番で3人ですれば?」
「いやそれだと絶対セナも絡んくるし、そうなると4人でしょ?なんか大変そう。っていうか、何よりセナの裸をあの男に見られるのは嫌」
さもありなん。というか、東北寮は伏魔殿か。
「まあ、そこは東北の事情だし俺は知らないけどレッツパーリィするなら東北でやって。せっかく仙台なんだしさ」
「パーリィ?仙台?何の話?」
「なんでもない」
柚那の奴、どうせならこまちちゃんだけじゃなくて、彩夏ちゃんも呼んでくれればよかったのになあ。ツッコミ不在だとやりづらいったらないぞ。
合コンが始まってすぐの自己紹介タイム。
まずは主催のナッチからはじまり、バトンを繋いだエリスちゃんのあとに無難に俺が自己紹介を終え、華絵ちゃんの番になった。
「関華絵。那奈とエリスとは同じクラスよ。よろしく」
普段からわりとそっけない感じの華絵ちゃんではあるが、今日はいつにもましてそっけない。まあ、あんまり同年代の男子に興味持つタイプの子じゃないからしょうがないのかもしれないけど。
「田中ティアラどぅぇーっす!今日はぁ、全員お持ち帰りして食べちゃうつもりで来ましたー!よろしくぅ!」
そう言って目元でピースをしながらウインクしてみせるティアラ@こまちちゃん。
ポーズもだけど、『どぅぇーっす!』て。何その昭和のウェーイをやってみましたみたいな口調。こまちちゃん本当に20代なの?実はチアキさんと同じくらいじゃないの?
っていうか、今日の合コンはお持ち帰りとかなしだからそんなに気張らなくて大丈夫よって話をこまちちゃんにするの忘れてた。
「それは俺らのセリフだって。俺は――」
ちょいちょいウェイウェイしている男子の自己紹介とかは置いておいて、ティアラ@こまちちゃんにどうやって今日の合コンが健全なものであるということを伝えようか。携帯のメッセが一番簡単なんだけど、こまちちゃんの携帯ってたしか華絵ちゃんと俺とエリスちゃんのプリクラ(強奪された)が貼ってあるから、それを華絵ちゃんに見られるわけにいかないし。
…いや、別にいいのか?華絵ちゃんはこまちちゃんの携帯見たことないと思うし。プリクラはジュリがあげたとかなんとか言えばごまかせそうだし。
よし、メッセだ。
程なくしておれがメッセージを送ると、こまちちゃんのバッグの中でピロンと小さな音がした。
「ティアラっちケータイなってっけどー」
「あ、全然放置で大丈夫だから。」
音に気づいたナッチがこまちちゃんにそう教えるが、こまちちゃんは短く答えて男子との雑談に戻った。
って、大丈夫じゃないよ!?俺からの重要なお知らせですよ!?
こまちちゃんがこっちを見た時に必死に携帯を見るようにジェスチャーで伝えるが、こまちちゃんはすぐに目をそらす。
くそっ、まただ…何度やってもすぐに視線を下に…下?
こまちちゃんの目線を追うようにしてにこまちちゃんの腰のあたりに視線を落とすと、こまちちゃんは腰のあたりで両手の人差し指をクロスさせて、小さくバツ印を作っていた。つまり、なんらかの…というか、おそらくは携帯を出したらそこからバレるということなんだと思う
これはもうあれか。トイレで作戦タイムか。でもそういうのって男子に受けが良くないとかって確か前に愛純がー…って、男子受けを考えてどうする。
俺は合コンに彼氏を探しに来た田村ジュリじゃない。みんなの保護者、邑田朱莉さんだぞ。
「ティアラ、ちょっと付き合って」
「あ、うん」
俺が立ち上がって手を引くと、ティアラ@こまちちゃんはすぐにピンときたのか、頷いて立ち上がってくれたのだが―――
「あ!あーしも行く!」
「あたしもー」
「わ、私も行く」
―――全員釣れちゃったでござる。




