合コンに行こう 1
JC編が煮詰まっているので気分転換です。
それは、JCが林間学校に出発した夜のことだった。
俺がいつものように自分の執務室で仕事をしていると、ジュリ名義で契約してある携帯が、けたたましく鳴り始めた。
画面を確認すると、「西澤那奈」の文字。
俺は一瞬誰だったか思い出せずに考えてしまったが、すぐにエリスちゃんのギャル友で右側にいる子だと思い出した。
因みにいつも左側にいるのは「東條蜂子」という名前で、二人共よく似たメイクで、さらにニックネームもナッチとハッチとわかりづらいのだが、いつも立ち位置が固定で、名字の方角が地図と逆なので池袋コンビと覚えると良い。
え?余計に覚えづらい?池袋を実効支配している埼玉県民的には非常に覚えやすいんだが。
まあ、それはそれとして、俺は念のためジュリに変身してから那奈ちゃんからの電話に出た。
『あ、ジュリ?ちょ、頼みがあんだけどさー』
「…と、いうことで、エリスちゃんと華絵ちゃんが心配なので、行ってきてもよろしいでしょうか」
電話でナッチからの誘いを受けた俺は早々に仕事を切り上げ、柚那のところへお伺いを立てに行った。
因みにナッチからの誘いというのはこういうことだ。
『あんさー、あーしハチと喧嘩しちったんだけどさー、実は明日合コンなんだよねー。で、女子があーしのほかは全部ハチの連れでー男子はあーしの知り合いなんだけどー、このままだと場が流れてヤバイ的な?で、急ぎでメンバー集めなきゃいけなくてー、エリスとハナに頼み込んだんだけど、それでも後二人足りなくてー、んで、ジュリも暇なら来てくんないかなーって。あ、ついでにもう一人なんとかなんない?なんないと、あーしつむんだけど』
とどのつまり、合コン流れるとメンツがつぶれるから手伝えってことらしいんだが、どう考えても、見掛け倒しギャルのエリスちゃんと堅物の華絵ちゃんが、合コンの席でうまくやれるとは思えないし、それで空気を悪くしてナッチとこじれるくらいならともかく、何らかの間違いが起こって、彼女たちにとって不本意な形でお持ち帰りなんてされてしまうのは避けたい。
まあ、俺もあんまり経験ある方じゃないからうまくやれるかと言われたら微妙だけど、保護者的立場として居るくらいならできるだろう。
「女子の立場で行くんですよね?だったら別にいいですよ、さすがに男子とどうにかなって帰ってくるってことはないでしょうし」
朝陽秘蔵のチョコレートに加えて、俺の秘蔵のチョコも合わせて献上してからお伺いを立てたおかげか、柚那様は非常にご機嫌な様子でコーヒーを飲みながらそう言った。
「あ、もし心配なら残りの1枠で柚那が来てくれても…」
「嫌ですよ面倒くさい。なんで私が興味のない男子高校生の、ちっぽけでしょーもない、ちっちゃな世界の自慢話を聞かされなきゃいけないんですか」
言い方!みんな精一杯生きて、誇れるものを掴み取って、それを語っているんだからそういうことを言ってはいけません!
「うーん。でも、じゃあどうしようかな。JCは林間学校でいないし、朝陽は恋とべったりだし、愛純はJCの付き添いでいないし」
「いやいや、愛純や朝陽はともかくJCを連れて行ったらまずいでしょう?」
「そうか?真白ちゃんとか見た目的に行けそうじゃないか?」
「見た目はともかく、JCの子たちはそういうところに連れて行っちゃダメですよ。チアキさんや都さんに怒られますって」
「うーん、まあ、それもそうだな…となるとだれか…」
まあ、相手が高校生だからそれなりに対応できる大人だったら誰でもいいっちゃいいんだけど、変身魔法がそこそこ上手く使えてくれないと、色々まずい。
「…あ、私、良い人を思いついたかも」
「え?深谷さんとかやめてくれよ?なんかこう、学生の中で一人だけ教師とかみんながドン引きする光景しか浮かばないし、エリスちゃんが戦闘モードに入っちゃうから」
佐藤くんの恋が成就する可能性は限りなくゼロに近いけど、それでもエリスちゃんは気になるというか、目障りに思っているらしいし、深谷さんが現れたりしたら、合コンの場が修羅場と化してしまいかねない。
「見た目は変身して行けばどうとでも繕えますよ。というか、私が思いつい人は夏樹ちゃんじゃありません」
「え?じゃあ誰?佐須ちゃんとかも勘弁してくれよ?」
「それは明日になってのお楽しみっていうことで」
そう言って、柚那は唇に人指し指を当ててウインクしてみせた。
「ナッチのわがままに突き合わせちゃってごめんね、ジュリ」
エリスちゃんと華絵ちゃん、それにもう一人のシークレットゲストとの待ち合わせ場所である地元駅前にやってくると、エリスちゃんは申し訳なさそうな顔でそう言いながら俺を拝んだ。
「あ、ううん。別にいいよー。私も合コンって行ってみたかったし」
本当は男性の立場で参加したかったなあとは思うけど…まあ、エリスちゃんが悪いわけじゃないしね。
「まあ、那奈のメンツが保てればいいだけだから、適当にこなして適当に帰りましょ」
「うん。そうだね、それがいいよ。朱莉さんも心配してたし」
「は?なんで朱莉さんが?一体何の心配してるの?」
「いや、ほら、私達がお持ち帰りとかされちゃうんじゃないかってさ」
「いや、アドレスとかメッセの交換はするかもしれないけど、それだけだって。時間も早いし、もちろんお酒も無しだしね」
「そうなの?」
確かに現在の時刻は14時。お持ち帰りとかしようと思ったら何時間頑張らなきゃいけないのかという感じではあるが、お酒無しで合コンとか、一体何が楽しいというのか。いや、立場上、もし飲むっていうならもちろん止めるけどね。
「というか、何想像していたのよ。さすがにそこまで下半身直結な話だったら私もエリスも行かないって。一応、魔法少女って立場があるわけだし、当然喫煙も飲酒もNGでしょ」
「だ、だよねー」
「そう言えばジュリ、もう一人ってどこにいるの?」
「え?あ…ああ、ええと…」
柚那が「現地集合です☆」とか言っていて教えてくれなかったから、結局誰が来るのか知らないんだよなあ…なんてことを考えていると、後ろから肩を叩かれた
「久しぶりだね、ジュリちゃん」
「………」
振り返った先にいたのは、ふわふわのファーのついたコートを着込み、さらさらのロングヘアーをたなびかせた、少しタレ目のカワイコちゃんだった。
……って、誰だこれ。いやマジで誰なんだこの子。超かわいいんだけど。
「どうしたの?」
「ええと……どうしたものかと…」
「んん?久しぶりすぎて忘れちゃった?」
そうか!「久しぶり」がキーなんだな!?俺と会うのがいつぶりなのかがわかれば自ずとこの子が誰かわかるということか!
「いつぶりだっけ?」
「この間うちに遊びに来てくれた時以来だから、一週間ぶりくらいかなぁ」
「いや、ぜんっぜん、久しぶりじゃないよね!?」
わかった。俺にはこの子の正体がわかったぞ。
俺は一週間前に東北寮に行ったし、そこで会った中でこのメンツに首を突っ込んできそうなのは一人しかいない。
そう、華絵ちゃんのお姉ちゃん。こまちちゃんだ。
「ええと…あなたもその…」
「うん、魔法少女だよ。ジュリちゃんと同期だったんだけど、ジュリちゃんが朱莉さん付きなのと同じように私は東北に配属で、週一から月一くらいの頻度でしか会えないんだよねぇ」
こまちちゃんはニコニコ笑いながらエリスちゃんの質問に答える。
…っていうか、そういう設定なんだ。いや設定って言っても、会えるのが週一から月一とか設定超ガバガバだけどね。
「ちなみに実年齢は?」
「三人と同じ16歳だよ」
そう言ってこまちちゃんは、俺から見てもちょっと古いんじゃないかなあというポーズをビシっと決めると、さらにバチコーンとウインクを決めてみせた。
ちなみに俺は35、こまちちゃんもまだまだ若いけど16よりは遥かに上だったりするのでここにティーンは2人しかいない。
なんというか相手の男子ズには申し訳ない。しかも俺なんて中身男だし。
「じゃあ遠慮いらないわね。ええと…」
「田中ティアラだよー」
え!?何そのキラキラネーム、いくらなんでもセンスが………あ!本名の阿知羅彼方のアナグラムなのか!つまり「あちら かなた」が「かなた あちら」で、「たなか ちあら」となって田中ティアラというわけだ。
「よろしくね、ティアラ」
「うん、よろしくね華絵ちゃん。エリスちゃんもよろしくね」
「よろしくー」
「ジュリちゃんも、今日はくれぐれもよろしくね?」
そう言ってこまちちゃん改めティアラちゃんは、すごみのある笑顔で笑いながら、薄っすらと目を開けて俺を見た。
↓にてこの作品の500年後の世界を描く話をはじめました。色々煮詰まっているのでしばらくこちらがメインになります。
名字でバレバレですが、メンバーの子孫の話、学園モノ、魔法もちょびっとです。よろしければ応援よろしくお願いします。
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