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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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恙なしや 友がき 5

「ごめーん、つかまっちった」


 見事に敵に捕まったマリカは、そう言っててへぺろっと舌を出して笑いながら片目を閉じる。

 これによって俺と愛純さんに与えられたミッション『戦技研を裏切って大江恵についた長野のご当地魔法少女を拘束すること』は失敗。下手をすれば逃げ切られてしまう可能性すら出てきた。


「つかまっちったじゃねえよ!散々期待もたせてそれかよ!」

「私は別に期待してくれなんて言ってないでしょ。むしろ私二軍だから期待しないでって言ってたじゃんよー」

「まあ良いや。とりあえず、私があいつを爆裂四散させるから、その後、和希の魔力0化で仕留めよう。いつものぐるぐる巻きだと逃げられちゃうから、口を締められる袋とか、箱みたいな感じでお願いしたいんだけど」

「う…ま、まあできますけど」


 現在長野のご当地、真白の後任になっているご当地魔法少女の名前は、沼崎朱未。得意魔法は肉体の不定形化…まあ、要するにスライムみたいになるっていうことだ。

 一体全体そんな魔法がどんな役に立つのか、そんな相手に最新ランキングで10位の愛純さんと、こまちさんや真白それにセナさんの台頭で13位まで下がったとはいえ、俺の二人で当たる必要なんて無いだろうとおもっていたのだが、なかなかどうして、もともとなのか、大江恵にもらった能力なのか、沼崎さんはかなりの使い手で不定形化して愛純さんの打撃の衝撃を吸収し、俺のぐるぐるで魔力を強制0にする前にスライムのようになってするりと抜け出てしまい、あっという間にマリカの身体を覆って人質にするなんていう芸当をやってみせた。

 ちなみに、沼崎さんはさっき一度愛純さんの攻撃を吸収しきれずに爆裂四散させられて、なんとかスレイヤーみたいな悲鳴を上げてばらばらになったものの、すぐに元通りになったので、別に死にはしないっぽい。

 だが問題はその沼崎さんがまとわりついているマリカのほうだ。


「沼崎さんがマリカの身体にまとわりついてますけど大丈夫ですか?マリカを傷つけずに爆裂四散させられます?」

「大丈夫よ! ……たぶん」


 あ、駄目っぽい!


「ちょ、ちょっと待って下さいね愛純さん。 ……マリカ、お前なんとか抜けられないか?」

「んー…数分待ってねー」


 って、数分でなんとかなるんかい!


「数分で何ができるっていうのよ! …いい?あんた達、それ以上一歩でも近づいたらこの子を締め上げるからね?わかったらその場でじっとしているのよ?」


 沼崎さんはマリカ顔のすぐ横に自分の顔を出してそう言うと、自分の体で覆っているマリカの身体を動かしてじりじりと後ろに下がり始める。


「ねえ和希、マリカちゃんごと魔力0にできない?」

「できなくはないですけど、あれだけひっついている状態で…というか、魔法で自分の体を変化させている沼崎さんにどんな影響がでるかわからないっす」

「そっか…まあ、でも、裏切り者だしそれは別に…」


 怖っ! 愛純さんの決断力、超怖っ!


「わかっているのかしら?今私の身体はこの子の毛穴に少しめり込んでいる状態なのよ!?攻撃の気配を察知した時点で全身の毛穴という毛穴を攻撃することだってできるんだからね!?そうしたらこの子は全身の毛穴から血を吹き出して死ぬわよ!」


 相手の発想も愛純さんに負けず劣らず相当怖かった…とはいえ、ニキビケアとかに便利そうな能力だよなな、沼崎さんの能力って。

 魔法を使って老廃物を洗い出す的な、なんかそういうエステでもやればいいのに。


「え、毛穴という毛穴に入られているとか、なんかちょっと恥ずかしいんですけど!?」


 生殺与奪権を敵に奪われているはずなのに、マリカの奴、余裕あるなあ…。


「あら、恥ずかしがることないわ。あなたの毛穴はすごく綺麗よ。最近の子ってダイエットするときも運動しないで食事制限だけしたりするじゃない?だから汗をかかないせいで老廃物が溜まっていたりする子がいるんだけど、そんなこともないし。それに程よく筋肉もついているし、よく運動しているのね、感心感心」

「そんなに褒められるとなんか照れるなあ」


 何故かマリカを褒める沼崎さんと照れるマリカ。

 マジで緊張感ないなこいつら!特にマリカ!

 とはいえ、そんなやり取りをしている間もジリジリと俺たちとマリカ達との距離は開いていく。


「和希」


 小さな声で名前を呼ばれて愛純さんの方をちらりとみると、目で『やれ』という合図を送ってきた。 …魔力0を『やれ』だよね?あいつを『殺れ』じゃないよね?

 俺の一瞬の迷いを感じ取ったらしい愛純さんはもう一度『やれ』という合図を送ってきた。

 うん、『やれ』だと信じよう。


「へいへーい…っと」


 小さな声で返事をしながら、俺は二人の後ろで魔法を袋状に発動させ、そしてその袋でマリカともども――


「あわっ!」

「うわっ!?」


 ――捕まえるつもりが、袋は後ろ向きに歩いていたせいで足を滑らせて思い切り転んだ二人の上を通り抜け、勢い余って愛純さんを閉じ込めてしまった。


「んごがぁ゛!ごごぐぅ!んんぎごごぐぅ!」


 獣のような声を上げて、袋の中で暴れまわる愛純さん。

 袋のせいでくぐもっているけど、多分中では「いやー」とか「たすけてー」とかそんな感じの可愛らしい悲鳴を上げているんだと思う。いや、思いたい。

『クソがぁ!』とか『殺すぅ!和希殺すぅ!』とかそんな物騒なことは言ってないはずだ。きっと、多分、そうであってほしい。

 そうであってほしいし、愛純さんはそんなことを言わない。そう信じてるけど正直今は袋から出したくない。

 

「攻撃…したわね?警告したのに!攻撃したわね!?」

「いや、ちょっとまってくれ、これはその…事故だ!それに攻撃魔法じゃない、これは拘束魔法で…」

「くそっ!くそっ! …くそがぁ!なんで言うこと聞かないんだよぉ!」

「落ち着いてくれ、沼崎さん!俺達は別にあんたを殺しに来たんじゃないし、本部で話を聞かせてもらえればそれで――」

「殺してやる…殺してやる殺してやる殺してやる!」

「ぐぅっ…」


 沼崎さんの絶叫とともに、マリカの口から小さなうめき声が漏れる。


「こいつもお前も、そこの間抜けな女も!みんな殺してやる!溶かして跡形もなくしてやるから!」

「かず…たす…」


 マリカが言い終わらないうちに、みるみるうちにマリカの顔が沼崎の顔に飲まれていく。

 助けなきゃいけない、動かなきゃいけないとわかっていても、俺は動けない。

 大体、動くって、どうやって?助けるって、どうやるんだ?

 俺がそんなことを考えているうちに、透明な粘液の柱の内側に閉じ込められたマリカの目が色を失い、死んだ魚のようにパクっと口を開いたかと思うと、大きな気泡を吐き出した後、周りの粘液と同化ようにだんだんと半透明になっていき、やがて完全にその姿が消えた。

 そして粘液の中から吐き出されるマリカの衣服。

 マリカを吸収したことで食欲か、それとも他の何かが満たされたのだろう、嬉しそうにゆらゆらと揺れる半透明の粘液の柱。その粘液の柱はしばらくその場でゆらゆらと揺れていたが、やがてゆっくりとこちらにむかって動き出す。

 もっと早く動けるはずのやつは、あえてゆっくりとこちらに向かってゆらゆらと移動をしてくる。

 本当なら愛純さんを袋から出すべきなんだろうけど、後ろを見せたらおそらく背中からバクっといかれて俺もマリカと同じ運命をたどるだろう。

 

 つまり、一人でやるしかない。

 

 目の前で同級生が死んだことで萎えそうになった自分の心を奮い立たせ、俺は大きく息をして構えを取る。

 俺程度の魔力を乗せた打撃系の攻撃では吸収されるか、無効化される。

 斬撃が効くかどうかはわからないが、それでも打撃よりは多少有効だろう。

 2つなり3つに切り分けて動きを止めたところを袋状の魔法で包み込む。

 その状態で魔力が0になった沼崎が真っ二つの状態で人間に戻ろうが知ったことじゃない。もしそうなら、せいぜい苦しんで死ねばいい。

 俺は覚悟を決めた。

 彼女も覚悟は決まっているはずだ。

 やるかやられるか、それしかないサイコロを先に振ったのは向こうなんだから。


「来い!」

 

 俺は姿勢を低くして、得物の小太刀を構え、カウンターを狙う。

 俺の間合いまで、あと、3歩

 

2歩

 

1歩



「いくぞ―――」

「なーんちゃって、実は私でしたー」


 そんなセリフとともに粘液の柱が盛り上がり、出てきたのはマリカの顔――


「なっ…おまっ…」

「いやあ、実は彼女の魔法を真似して――あうっ」


 あ、やべ、斬っちゃった……。




「もー、真っ二つにするなんて、和希ってばひどいなあ」


 背中の方から、そんなマリカの非難の声と、服を着る衣擦れの音が聞こえる。

 マリカのメインの魔法は『フラッシュメモリ』と言って、「その日に見た魔法をなんとなく真似することができる」という、都さんのワールドイズマインの劣化版、劣化版と言っても十分反則な魔法だった。

 沼崎さんに包まれて消化されそうになったマリカは自分も同じような粘液に姿を変え沼崎さんに逆襲。思いもよらない逆襲にあった沼崎さんは混乱し、透明な粘液の柱の中で押し合いへし合いしたあと、マリカが主導権を獲得。

 半泣きの俺をからかってやろうと、ゆらゆら揺れながらこちらに近づいてきた…と、そういうことらしい。

 そういうことらしいので―


「真っ二つになったのも自業自得だろ。俺は謝らんぞ」

「あの状態だと痛くないから別に謝ってくれなくてもいいけどさー…はいこれ」


 服を着終わったらしいマリカは、そう言ってボロボロのペットボトルで俺の肩を叩いた。


「何この汚いペットボトル」

「乗っ取ってから和希のところに来る途中で拾ったペットボトルだよ。で、和希の魔法を応用して中に沼崎さん閉じ込めてある」

「うわ!マジだ!」


 飲みかけの液体が腐ったのだろう、茶色よりももっと濁った色の液体が入ったペットボトルの中には、汚い液体にまみれたミニチュアの沼崎さんが入っていて、泣きながらペットボトルの内側を叩いている。

ちなみにその姿は全裸だが、腐ってドロドロの液体を頭からかぶっていることもあって大切なところは見えないのだけど、なんかこう……見えないせいで逆にエロい。


「何真面目な顔してんの? …って、ああ!真白でじゃないけど、女を汚い液体まみれにしたいっていう和希の願望がかなってよかったね!」


 察し良すぎだろ!?


「いや、そんな願望持ってねえから」


 俺がそういう願望を持つのは真白に対してだけだっての。






 ……ちなみに、俺が間違ってかぶせた袋の口を開いた時の愛純さんの顔は、俺に新たなトラウマを植え付けてくれた。


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