恙なしや 友がき 4
集合時刻に愛純さんのバンガローの前に行くと、すでにマリカが待っていて、バンガローの扉をノックをするとすぐに愛純さんも出てきた。
で、当然愛純さんは俺と一緒にマリカがいることに気がついて、半目で俺を睨む
「和希、どういうこと?もし和希が誰か連れてくるにしても真白ちゃんかなあって思ってたんだけど」
「いやまあ、その…あれです。不可抗力です。見えない力が働いた結果なんです。俺は悪くないっていうか、情報を漏らした誰かが悪いっていうか」
「うわぁ…言い訳のしかたが朱莉さんそっくり…なんかこう、先が思いやられるなあ…」
そう言って愛純さんはがっくりと方をおとして大きなため息をついた。
というか、俺は朱莉先輩ほど見苦しい言い訳をしたつもりはないんだけどなあ。
「いや、ほら。そうは言いますけど、これでマリカって結構強いですし。今日の作戦が思いやられるってことはないと思うんですけど」
「そういう意味じゃなくて、真白ちゃんの将来が心配だなって」
「ええっ!?どういう意味っすか!?」
「だって、朱莉さんと付き合っている柚那さんのストレスたるや、相当なものでしょ?そんな朱莉さんに似ている和希と付き合うなんて、真白ちゃんも大変…まあ、中学生の恋愛なんて麻疹みたいなものだってチアキさんも言ってたし、実際私もすぐ冷めたし真白ちゃんもそのうち冷めて和希と別れるか…」
え?何その絶望しか無い未来。
っていうか、中学生の頃彼氏いたんすか?あなたすでにTKOでしたよね!?アイドルでしたよね!?
「お、俺は真白と別れませんよ!?」
「まあでも、恋人関係ってお互いの合意があってのことだからね。和希が別れたくないって言い張っても、真白が愛想つかして別れるって言ったらもう駄目なんじゃない?」
「それだね」
「マリカはなんで追い討ちかけるんだよ! 死体蹴りするとかマジで鬼か!?」
「あ!いいこと考えた、愛純さんサッカーしましょう!和希ボールね!」
「いいね!やろう!もちろん実際に蹴ったりしないから大丈夫だよ、和希」
っていうか、愛純さんに本気で蹴られたら死ぬ。
精神的にでもこれ以上蹴られたら死ぬけど。
「こら、後輩イジメちゃだめだろ」
愛純さんの後から出てきた柿崎さんがそう言ってコツンと愛純さんの頭を叩く。
……なんとなく柿崎さんの服と髪が乱れているんだけど、俺達が来るまで何してたんだこの人達。
「あはは、冗談ですって、冗談。柿崎さんは真面目だなあ」
そう言って少し嬉しそうな表情を浮かべて、愛純さんが柿崎さんの腕にしがみつく。
なるほど、これが朱莉先輩の言っていた『柿崎くんに叱られると嬉しそうにする愛純』か。
確かに嬉しそうだ。心持ち肌もつやつやしているような気がする。
「まったく…マリカちゃんも少し冗談がすぎるんじゃないか?」
「やだなあ、こんなの同級生同士のじゃれ合いですよ」
いや、人をボールにしようとしておいて何を言っているんだお前は。
「それに、別に物理的に蹴っ飛ばすつもりじゃなかったですし」
「そうそう、そうなんですよ、柿崎さん!」
「……はあ。大変だな、和希くんも」
「わかってもらえるだけで救われます」
この半年、みんなと過ごした俺は、ハーレムラブコメなんてものは所詮幻想で、現実には無いんだと思い始めているし、井上や高橋、高山と遊ぶようになってから、男友達最高!って感じるようになっている。
いや、別に男子含めて真白以外とどうこうなりたいとかじゃなくて、紅一点はチヤホヤしてもらえることが多いけど、黒一点はどうしても虐げられがちだって話だ。朱莉先輩も俺と似たような感じだし…いや、でも朱莉先輩のほうがいい目を見ているような気がしないでもないな。
むしろラッキースケベがないぶん俺のほうが不遇じゃないか?いや、真白以外とは別に何もなくても良いんだけどな、マジで。
来ちゃったものはしょうがないということでマリカも一緒に乗せた、柿崎さんが運転する4WDが夜の峠道をひた走る。
グネグネ曲がる道は少しだけ過去の事故を思い出させる。
あの時の道は今走っている道よりもだいぶ緩いカーブだったし、スピードも直前まで今のスピードよりも遅いスピードだった。
事故なのか故意なのか今となってはわからないけれど、子供の目からは直前まで両親の仲は良かったように見えた。『もしかしたら』なんて、子供心に思わせるくらいには。
「大丈夫?なんか顔色が悪いけど」
「ん?問題ないぞ」
昨日みんなと一緒にバスで通ったときにはこんなふうに考え事をする暇がなかったので、全然平気だったが、やっぱり人数が少ないと考えてしまう。
自分ではもう割り切っているつもりではいても、やっぱりトラウマなのかもしれない。
「柿崎さんの眠気覚ましと和希の酔い止めにしりとりでもする?」
「あ、いいね。そうしてくれると俺も眠くならなくて済むよ」
助手席の愛純さんの提案に、柿崎さんも同意する。
俺の過去を知らないマリカと違って、二人はおれの過去も、事情も知っているし、俺の顔色が悪いと聞いてピンときたんだと思う。だから『眠気覚まし』なんて言ってはいるが、この提案は十中八九、俺を気遣っての提案だと思う。正直、少しでも気が紛れそうなその提案が今はすごく嬉しい。
「じゃあ私から…りんご、はい、柿崎さん」
「ごま。次どっちにいく?」
「あ、じゃあ私で。真白」
「え、人名ありなのか?」
「みんなが知っている範囲で一回ならよくない?」
まあ、愛純さんも柿崎さんも特に何も言ってないからいいか。
「じゃあそれで。ロマンス」
とりあえず一周目クリア。と。
「スイカ」
「枯れ木」
「巨乳」
「う…うし」
…ん?
「シマウマ」
「豆」
「メガネ」
「……猫耳?」
あれ…?
「ミックスジュース」
「スリッパ」
「パンツ」
「ツイスター」
……
「タヒチ」
「ちくわぶ」
「ブラジャー」
…これはもう確実に俺に対してのあてつけだな。
「…おい、マリカ」
「「お」じゃなくて「ヤ」か「ジャ」、百歩譲って「シャ」だよ。難しい?例えば、写生大会とかどうかな?いや変な当て字とかじゃなくて」
「じゃなくて!お前さっきからなんか真白に関連していることしか言ってなくないか?」
「まあ、和希の指摘は確かにあながち間違っていないでもないけど、でもそれを言ったら和希だってそうじゃないか」
「はあ?俺のどこが真白の話をしてるんだよ」
「私が巨乳と来て、和希が牛だろ?で、メガネと来て猫耳、パンツと来てツイスター」
「だからそれのどこが…」
「つまり君はブラジャーとパンツだけになってメガネに猫耳という少しマニアックな要素を加えた、牛のような巨乳の真白とツイスターをしたいという欲求があるんだよ!」
「な、なんだってー!!…って、なんだってー!!じゃねえよ。どうしてそうなったんだよ!」
そんな欲求がないかと言われればちょっとはあるし、できれば一度くらいしてみたいけどな!!
「あ、でも、個人的には猫耳じゃなくて牛耳と角、それにカウベルがすごく似合うと思うよ。あとパンツとブラジャーは勝手に和希が真白と結びつけたんだからね。ちなみに今日の真白の下着の色は…情熱の赤!」
「やめろ!それ以上俺の真白を汚すな!」
想像が膨らんで胸も膨らんでしまうだろうが。
例えば牛からの乳製品つながりでミルク…いやヨーグルトを顔にかけたりとかしたら赤い下着と白い肌、そして白い液体のコントラストが素晴らしい!……いや、俺は汚してないぞ。むしろ、俺の想像の中では真白は白いままだからな。むしろ白さが増しているくらいだ。
「うわあ…」
「どうしたの愛純ちゃん」
「いえ、ちょっと今読心魔法使ったんですけど、和希がですね――」
「うわあ!やめて愛純さん!今のがマリカ経由とかあかり辺りにで漏れたら、マジで女子の冷たい視線だけで死にたくなるような針のむしろ状態になっちゃう!」
「頭のなかで真白を白いベトベトしたものまみれにして俺の真白は真っ白なままだとかって、ろくでもないことを考えていた?」
「…当たらずとも遠からず…だな」
というか、ほぼほぼ当たりだ。
こいつ、読心魔法使えるのか。
「だよねえ。じゃあまあ、ほら出すもん出して、割増なしで黙っていてあげるから」
「わかったよ。財布持ってきてないから後でな」
マリカの口止め料や仕事の依頼料は、一律「野口さん一人」なので大きな出費にならないのがせめてもの救いと言えば救いだ。
「ふうん…マリカちゃんって、読心魔法使えるんだ」
「まあ、今ならそんな感じのものは使えますよ。厳密には愛純さんのとは違って、和希の考えていることがぼんやりわかるくらいのものですけど」
「ちなみに、マリカちゃんは何ができるの?」
「和希と愛純さんの真似事くらいはできますけどあんまり期待しないでくださいね。所詮私は二軍ですから。連絡将校組でも下のほうですから」
そう言ってマリカは軽く肩をすくめて見せるが、一年生組を短期間で育て上げて、練習試合とはいえJCのメンバーとはほぼ互角にやりあってみせたマリカが二軍だなんて誰も思っていないのだが。
「まあ、助っ人だからそこまで頼る気はないけど…でも、私と和希に似ているなら接近戦タイプかぁ。できれば後方支援タイプがひとり欲しかったんだけどね」
「あはは、残念ながら今日の私は接近戦タイプです」
今日のってどういうことだろうか。




