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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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学園地獄 3 寿

 敵が今日、この時を狙ってやってきた。

 この事実を偶然と笑い飛ばせるほど、寿には余裕がなかった。

 彼女にはチアキやみつきのように一度に複数体の敵を相手にするような魔法はない。

 狂華やイズモのように意のままに操れる分身を創り出せるわけでも、精華のような反則魔法もひなたや楓のような継戦能力も一撃必殺の技もない。


 自分は弱い。


寿はいつもそれを痛感させられている。

 もちろん、エキストラとしてここにいる魔法少女候補生たちよりは強い自信はあるし、普通の怪人クラスであればそこそこ戦うこともできる。

 ただ、それはあくまでそこそこといった程度の物だ。

 もともと寿よりも弱かった柚那は工夫をして遥か高みへ登っていってしまったし、考えるまでもなく、まともにぶつかれば寿では今の朱莉や優陽に手も足もでないだろう。

 桜のように徹底的にサポートにステータスを振っている魔法少女を除けば正規の魔法少女で最弱。それが今の寿だ。

 

弱いなら人を使う。


 彼女なりに考えた結果が現在の東北・北海道チームの参謀という役割。

 こまちでけん制して、精華でとどめを刺す。そのタイミングと技の組み合わせを状況に応じて組み立て効率よく対応させるのが彼女の役割だ。

 しかしここにはその組み立てるべき戦力が圧倒的に不足している。

 朱莉と柚那に優陽を放って手伝いにこいと言うのは簡単だが、このタイミングでの襲撃で考えられる目的は、優陽の奪還だ。あと6人いるという敵の魔法少女のうち姿を見せているのは2人。残りの4人が隙をついて優陽を連れ去るという可能性も否定できない。だから朱莉と柚那は使えない。


 朱莉と二人で一応死亡フラグをへし折ったとは言っても、イズモではせいぜい数分程度の足止めが精いっぱい。途中偶然遭遇して救援を頼んだ楓が間に合わなければイズモが死亡することも考えられる。

もちろん、楓が先ほどの魔法少女に敗北するという可能性も0ではないし、そうなった場合、寿とこまち、それに戦闘員の相手がやっとというエキストラ数人で大勢の戦闘員と魔法少女二人の相手をしなければいけない。


「なんだってこんな時に……いや、こんな時だからか」


 寿は歩きながら頭を抱える。


「性格悪い性格悪い性格悪い!敵の親玉は絶対眼鏡のいかにも神経質っていう感じの中間管理職顔よ!それで絶対ハゲ!」


 寿は小金沢長官の性格をもっと捻じ曲げたような姿の敵の首領を思い浮かべる。


「ああもう!本当にむかつく!」


 大きな声でそう言って自分で自分の両頬をパンと叩いて気合いを入れると「よし!やる気出た!」と言って階段を駆け下りて昇降口へと出る。


「寿ちゃん遅い!」


 そう言ってスカートの右側だけが長くなっているアシンメトリーなゴスロリ風衣装を着たこまちが昇降口の外で頬を膨らませながら振り向いて不満を漏らした。

 三人で朱莉を襲撃した時のような刃物を創り出すこともできるが、彼女の本来のステッキは手持ちの大砲である魔砲。手持ちの大筒のような魔砲から様々な形で魔法を放出することで攻撃を行う。

 現在は魔法を放出し続け横に薙ぐことで、昇降口に向かってくる戦闘員を一気に殲滅しているところだった。

 こまちが下がっているように言ったのだろう。候補生たちは下駄箱のところで変身をしてそれぞれのステッキを握りしめて戦況を見つめているが、全員例外なく強張った表情をしていたり、震えたりしている。

 まあ、それはそうだろう。今の彼女たちは王様から50Gと布の服、それにヒノキの棒を渡されていきなり魔王の城に投下されたLV1の勇者のようなものなのだ。それなのに緊張も恐れもないとしたらそれはただのバカだ。

 昇降口から外に出て、寿はまず敵の魔法少女の位置を確認した。

確認したと言っても、何を考えているのか、敵の魔法少女は校門のところから動かずに種をまき続けて戦闘員をせっせと生み出し続けている。


「誰をどう使うにしても、つゆ払いは必要か」


 寿はそう呟いて変身をすると、弓型のステッキに矢をつがえてこまちが撃ち漏らした戦闘員を狙撃していく。

 ちなみに寿の衣装はこまちと対照的に左側のスカートだけが長くなっている。この衣装は魔法少女狩りの一件の後、東北・北海道チームに戻ってきた精華の発案で「三人で揃った時に見栄えする衣装にしましょう!」ということで揃えたものだ。

 こまちも寿も、もちろん精華も気に入っているし、三人ともこれを着ること自体は別に恥ずかしくもなんともないが、この衣装を最初に見た時に朱莉が呟いた「がずあるがずえるげーまるく」という呪文を聞いた時にだけ精華は顔を真っ赤にして朱莉に対して抗議をしていた。


 いつもは一応止めに入るふりをして乱闘に巻き込まれたがるこまちが『ああ、今のは朱莉ちゃんが悪い』という顔をしていたので、寿は「魔法少女の中ではややふくよかな体型をしている精華に対する禁句『デブ』に匹敵する悪口」だったのだろうと解釈している。

(朱莉の言い訳も『いい意味で!いい意味でげーまるくだから!』とか言っていたしね)


「キリがないねえ、どうしようか寿ちゃん」

「え?」

「このままじゃ消耗するばっかりだよ。一応下駄箱からナノマシンは補給できるけど、このまま続けても私たちが疲れちゃう」

「あ…ああ、そうね。ごめん、今考えるわ」

「んー…?もしかして寿ちゃん調子悪い?」

「そんなこと、ないけど」

「じゃあ心配事があるんだね」

「……」

「イズモちゃんとか、朱莉ちゃん達のこと?」

「……まあ、ね」

「大丈夫でしょう、イズモちゃんは楓さんが助けるだろうし、朱莉ちゃんは柚那ちゃんと優陽ちゃんと一緒なんでしょう?三人一緒ならきっと私たちが心配するようなことにはならないと思うよ」

「こまちのくせに知ったようなこと言わないでよ」


 寿はイライラを隠そうともせずに眉をしかめるが、逆にこまちはヘラヘラと笑う。


「んふふー、だって私は寿ちゃんのことよく知ってるもの。知ったようなことだって言うよ」

「なんかムカつく」

「ムカつかれても言うべき時には言うのが親友でしょ。ねえ……寿ちゃん」

「なによ」

「校門のところにいる子を倒して、イズモちゃんを助けに行って、さらに朱莉ちゃんたちも。なんて考えているから考えがまとまらなくて、脱線しちゃうんだよ」


 こまちの言ったことは図星だった。昇降口に来る間も、寿は最悪の結果を出さずに、すべてうまく収めるにはどうしたらいいか。そればかりを考えていた。そのせいで考えが袋小路に陥って、その気分転換として敵の親玉だの、三人の衣装だのに考えが飛躍したのも自分で理解している。


「その考えって、すごく優しくて寿ちゃんらしいけど、同じくらいすごく失礼だよ。イズモちゃんと楓さんも、朱莉ちゃんと柚那ちゃんと優陽ちゃんも立派な魔法少女なんだからさ。私たちが助けになんて行かなくてもちゃんと戦える。むしろ私や寿ちゃんが考えなきゃいけないのは今私たちが背負っている子たちの事」


 寿はそこでやっと自分達が背負っているLV1の勇者達のことを思い出した。


「ああ、もう!どいつもこいつも本当にむかつく!こまち、あんた痛いのは?」

「んふ、大好き!」


 こまちは、寿の質問に元気よく答える。


「そうよね。この変態」

「そういうのも好き!」

「まったく、どうしてあんたはそうやっていつも平常運転なのかしらね!?頭のネジ緩んでるんじゃないの?私今あんたのこと罵ってるのよ?わかってるの?この雌豚!」

「ぶひぃぃ、我々の業界ではご褒美ですぅ!」


 寿は、こまちとの会話で自分が自分を取り戻していくのを感じる。

SとM。朱莉あたりに言わせると、寿はドS、こまちはドMだというがそんな見解は理解が足りない、表面的な部分しか見ていないと寿は考える。

 ドSのはずの自分を焚き付けていいように使うこまちがドM?本当は言いたくないことをこまちに言わされる自分がドS?どちらも見当違いも甚だしい。

 SもMも関係ない。そんなものは自分たちの間では等価交換でリバーシブルだ。


「死んで来い雌豚!」


 そう言って寿が思い切りこまちの尻を蹴飛ばすと、こまちは勢いよく走りだし、敵のまっただなかに突っ込んだ。魔砲も消してしまい、ほぼ無防備な姿で突っ込んできたこまちに対して戦闘員たちが次々に攻撃をしていく。

寿は戦闘員たちのなすがままになっているこまちを確認すると「フンっ」と鼻を鳴らして昇降口の中に入り、すべてのドアを閉じてしまった。

 そうして施錠された昇降口の中から腕組みをして表情も変えずにこまちがやられていく様子を見ている寿に対して、候補生たちの中からひそひそと陰口が聞こえ出す。

そのほとんどが「酷い」だの「冷たい」だのと言った単純に寿を非難する言葉だった。

寿はそういった単純な避難には耳を貸さなかったが、その中に混じって「うちらもあそこまではできない」と言っていた三人組を集団の中から引っ張り出した。

「あんたたちが研修の時に授業聞かないでこまちをいびってたって言うやつらね。こまちから聞いてるわ。いじめ方がへたくそな三人組がいるって」

「な、なに?文句あるわけ?こっちはあいつが喜ぶからやってただけなんだけど!?」


 三人のうちリーダー格らしい一人がそう言って寿に対抗しようとするが、寿の妙な迫力せいか、その声は裏返っている。


「ああ、それは別にいいの。いつもこまちのお世話をしてくれてありがとう」

「は……はぁ?意味わかんないんですけど!?」

「いつもこまちをお世話してくれているお礼に、あんたたちにこまちをいじめることのリスクを教えてあげる」

「リスク?」

「ええ。リスク。あの子の扱い方を間違えるとどうなるかこっちに来てよく見なさい」

「ええー…」

「来い!」


 寿はどうしたものかと、顔を見合わせている三人を恫喝する。


「……こないと殺すぞ」


 寿の視線に射抜かれた三人は小走りに寿の横に並んで外を見る。

 外ではこまちが傷だらけで息も絶え絶えという状況で、それでも敵を引き付けるようにして立っている。顔ははれ上がり痣だらけ。切り傷と打撲と言わず腕も足も傷を負っており服もところどころ破けている。


「そろそろね…後ろの連中!下駄箱の影に隠れて耐ショック姿勢!あんた達は耳を塞いで口を開けなさい」

「え?」

「やらないと最悪死ぬわよ!」


 そう言って寿自身も耳を塞いで口を開く。

 三人は何が何だかわからなかったがとりあえず寿の言う通り耳を塞いで口を開けた。

 次の瞬間、三人は突然こまちの頭上に現れた無数の銃や大砲が一斉に火を噴くのを目撃した。

 そしてあたりには轟音が響き渡り、その轟音が昇降口の窓を打ち破り、あまりの音と衝撃に、三人は目をつぶった。

 10秒ほど続いた轟音が止んだ後、三人が目を開けると彼女らの隣には寿はおらず、こまちと寿の姿は校庭の真ん中にあった。


「トドメ!」


 寿はそう言って小町の横に駆け寄り、相変わらず校門のところに立っている魔法少女に照準を合わせる。

 寿の実力では魔力をすべて載せたところで、攻撃の威力自体は朱莉の通常時攻撃くらいのものだ。それでもこまちの攻撃でダメージを負っている今の相手ならば倒しきることができる。寿はそう確信していた。いや、そうとでも思わなければどうしようもなかった。

 こまちは先ほどの自爆技でこれ以上の戦闘は不可能。寿もこの技を使えばしばらくはまともに動けない。


「いっけぇっ!」


 問題はこの矢が相手に刺さるかどうか。刺さればそれで寿の勝ちだ。必殺技と言えるほどの攻撃力がない代わりにこの矢は先端が刺さった相手のナノマシンを解析し、ナノマシンの連結を強制的に解除する。刺されば一撃必殺。刺さらなければノーダメージ。

 果たして、タンっという軽い音がして、寿の矢は魔法少女の眉間を貫いていた。

 敵の魔法少女には何が起こったかわからなかっただろう。彼女は最後に視線を少しだけ上げて両目で矢を確認したあと、眉間からボロボロと崩れ落ちていった。


「勝った!」


 寿は両手を上げて喜ぶが、立っているのがギリギリだった彼女はふらついてこまちにぶつかった。


「うわつ、寿ちゃん!?」

「あ、ごめん!こま――」


 もつれ合うようにして倒れた二人だが、最終的にはなぜかこまちが下敷きになり、その上に寿が座っているような形で地面に着地した。


「ふひっ、寿ちゃんのお尻あったかいナリー」

「気持ち悪っ!」


 寿は慌ててこまちから離れようとするがこまちにがっちりとホールドされ、後ろから抱きしめられるような形で固定されてしまった。


「ちょ、バカ!離しなさいよ!」

「まあまあ、イズモちゃんのほうも片付いたみたいだし、二人ともどうせ立てないんだからこのままゆっくりしてようよ」


 こまちはそう言いながら二年生の教室の窓から顔をのぞかせたイズモと楓に手を振る。


「立てないけど、みんなが見てるでしょうが」


 寿は顔を真っ赤にして抗議するが、こまちは気に留める様子もない。


「見せつけてあげればいいんだよぅ」


 そう言ってこまちは幸せそうな笑顔で寿を抱きしめた。



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