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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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286/809

完全勝利した真白ちゃんJC

しばらくJCです

 生放送での組み合わせ抽選会の結果は、ある意味で妥当と言えば妥当なところだった。

 うちのチームを除いては。


 お兄ちゃんのチームの代表は夏樹さん、狂華さんのところは佳純さん。ひなたさんのところが桃花さん、楓さんチームが喜乃さんで、精華さんチームがセナさん。

 殆どがチームのナンバー3や4といったあたりの人たちで、そこそこ知名度もあるし、そこそこ実力もあるしで、どこかのチームリーダーが瞬殺して終わりなんてこともなく盛り上がるだろう。そんな組合わせだったからだ。


 そう、そこまでならばそこそこ楽しくバトルもそれなりに見られる組み合わせだったのだ。


 だが、私達JCの代表は、魔力を抑制されているえりを除けば、みつき(というかみつきさん)、チアキさんにつぐナンバー3の真白ちゃん。

 魔白事件でただでさえパワーアップしていたのに、狂華さん奪還作戦の前後でいい感じにコントロールを磨き、魔白事件の時からさらにもう一段階パワーアップを果たした、あの真白ちゃんである。


 公安組の魔法少女を相手にしたときのように羽ばたき一つでダウンを奪う――とまではいかなかったものの、それなりに魔白を使いこなしている真白ちゃんは他のチームのナンバー3、ナンバー4などを寄せ付けることもなく、試合開始2分で圧勝。

 あっという間に決着がついてしまったため、映像の尺が全く足りずに監督は頭を抱えて椅子から転げ落ち、あまりの圧勝っぷりに都さんはお腹を抱えて笑い転げるという状況になった。

 

 そんなわけで足りない尺を埋めるためにどういうシナリオにするか。

 そんなことを監督と脚本家、ディレクターにプロデューサーが話し合っている間、私達は都さんへのお願い事を考えつつ数日間待機となったわけだが、ひとつ計算外のことが起こった。

 それは―――


「なんでもお願いを聞くといったわね?あれは嘘よ」


 と、都さんが手のひらを返してきたことだ。

 いや、手のひらを返したというのは言い過ぎた。

 つまりチームの6人が6人とも去年のお兄ちゃんのお願いのような大きな規模の願い事をすると、予算の関係上叶えられないということだ。


 私にも一応人並みに「あれがほしいな」「これがほしいな」といった物欲はないではないが、こういうお願いで叶えてもらうようなものでもないと思うし、そもそも必要なものなら、今や殆どを預金している魔法少女のお給料をママにおろしてもらって買うなので何かを買ってもらうというお願いは特になし。

 皆でどこか行くのは予算的にムリ。

 龍くんと二人っきりで既成事…ゲフンゲフン…婚前…ゲフンゲフン…恋人同士の旅行というのも倫理的にムリ。


 そんなわけで、正直なところを言ってしまえば、この『お願い事』について私は意外と持て余してしまっていたのだが、そこにみつきから提案があった。



「私とあかりのお願いを合わせて、修学旅行に行こうよ!」

「いや、去年行ったでしょ」

「うん、私と、あかりと、マリカと、くるみはね」

「そか。覚えていたならよかったよ」


 本当によかった。ついにみつきがボケてしまったかと思ったよ、私は。


「だからね、今回のお願いで私とあかりと、和希と真白――」


 ああ、なるほど。真白ちゃんは去年前の学校で行ったかもしれないけど、和希は間違いなく行っていないし、そういう意味では――


「と」

「と!?」

「えりと、静佳と、タマと里穂――」


 なるほどね、マガ部ね。


「と」

「え!?」

「マリカとくるみと、高橋くんとちーちゃんと、高山くんと井上くん。いいって言ってもらえたら、深雪と愉快な仲間たちも」

「お……おお…随分規模が大きくなっちゃったね」


 はたしてそれだけの人数を修学旅行につれていくとして、私とみつきのお願い事だけで足りるのか。


「結構な大人数だし、難しいんじゃないかな。私達4人…がんばってマガ部で8人くらいまでならなんとかなりそうだけどさ」

「話は聞かせてもらった!」


 そう言いながら、えりが私のベッドの下からするりと出てきた。え?どうなってるの?下からでてきたという事実もそうだけど、なんかツルンと出てきたんだけど。


「我の願い事も合わせて使うが良いぞ!」

「いや、その前になんであんたは私のベッドの下からでてくるのよ」

「ふっふっふ……こんなこともあろうかと!」

「いや、どんなことよ…っていうか、何したのよ、人のベッドの下に」

「くっくっく…聖先輩がワームホールの作り方教えてくれたので実験したのだ」


 そう言って得意げな表情でえりがポーズを取る。


「あの人って、本当に余計なことしかしないわね!」

「でもこれで三人分あつまったわけだし、いけそうじゃない?」

「うーん、まあ、駄目でもお願い事の権利が没収されるってわけでもないし、頼むだけ頼んでみてもいいかもね」

「私もその話一口乗るわ!」


 そういってバーンと扉を開けたのは真白ちゃんだった。

 ……真白ちゃんだけはそういうことしないと思っていたのに、しないと思っていたのになあ…。


「さすがみつきちゃんだよねえ、お姉と違ってみんなのこと考えてるって感じ。あ、そうそう、声が大きいから私達のところまで話し声が筒抜けだったよ」


 そう言って、真白ちゃんの後ろから顔を出したのは千鶴だった。

 なんだ、真白ちゃんは普通に千鶴のところに遊びに来ていただけか…って、


「ていうか、なんであんた真白ちゃんと一緒にいるの?」

「え?私、真白先輩と普通に仲いいよ」

「え?そうなの?」


 正直初耳だ。あ、でも生徒会のほうで一緒なのかな。


「お姉も御存知の通り、私と真白先輩は恋のライバルなわけで、その関係で色々ね」

「ああなるほ……はぁっ!?」


 いやいや、恋のライバルって仲良くするものじゃなくないか?というか、真白ちゃんと恋のライバルって、それってつまり―――


「千鶴、あんたまさか……」

「そ、和ちゃんが好きなのだよ、私は」


 そう言って、フフンと得意気に鼻を鳴らす千鶴。

 いやいや、駄目だろ和希は。あいつとじゃ普通に幸せになんてなれっこないし。


「駄目って言われても私は諦めないから」


 まあ、そういうよね、千鶴は。


「ここまできたら、ついでだから和希にも話をしてみんなで一つにしてもらおうか。そのほうが確実に――」

「だめ」

「ごめん、それはやめて」

「お姉ってほんとわかってないなあ」

「千鶴の言うとおりだ。みつきたちの考えくらい我にすらわかるというのに、まったくあかりときたら」


 なんか知らないけどものすごい否定された。


「え?どういうこと?」

「つまりね、サプライズで和希を驚かせたいなって思って」

「なるほどね………うん、よし。そうしよう」

「え?本当にいいの!?もしあかりが嫌なら自分のために使っても良いんだよ?ほら、服とかアクセサリーとか、なんかよくわからないどこで使うのか不明な……なんだっけ?点鼻薬?とか」


 おいおい親友。私のことを一体なんだと思っているんだ。

 あと、点鼻薬じゃないよ、媚薬だよ。来るべき時に備えて用意してあるんだよ。


「いいって。和希とは色々あったけど、あいつのことは嫌いじゃないし、使いみちがいまいち決まらないお願い事で喜んでもらえるなら、それもいいかなって思うし」

「ありがとうあかり!」


 そう言ってみつきは私の腕に抱きついてきた。


「くっくっく……なるほど、これが噂に聞くレズ特有の愛情表現」


 えりがなんかブツブツ言っているけどスルーしよう。


「じゃあ、とりあえず都さんに相談してみようか……ってなに?真白ちゃんはなんでジリジリ近寄ってきているの?」

「いやほら、なんか和希のことでみつきちゃんだけお礼を言っているのは彼女的にどうかなって」

「いや、変なところで真面目に考えなくていいから」

「あ、なるほど。それなら……お姉ありがとー」

 

 千鶴がそう言って私の頭を抱えて自分の胸の谷間に…2つも年下のくせに谷間…だと…?


「くっ……あ、あかりちゃん!和希のためにありがとう!」


今度は少し恥ずかしそうにそう言いながら真白ちゃんが私の後頭部に胸を押し付けてきた。っていうか、なんだこれ。こんなの知らない、私にはこんなのついてない!


「ふむ。眼福眼福」


 えりがそう言った直後にシャッター音がしたので後でスマホを没収しよう。そうしよう。





「ごめん、それはムリ」


 私達四人のプレゼンが終わったところで、都さんはそう言って私達に向かって手を合わせた。


「ええー…だって、四人分の予算が使えるんだよ?」

「それはそうなんだけどね……例えば京都奈良とかでも、修学旅行の定番コースって抑えるの難しいのよ。全部を一日貸し切りにするのはまずムリだし、かと言って、自由行動無しで、分刻みで名所周っても面白くないでしょ?あんたたち顔が割れてるし、観光地でバレたらパニックよ」


 それは確かに想像できるし、分単位の見学とか全然楽しくなさそうだ。

 正直なところ、私たちは見学がしたいのではなくて、観光地で遊びたいのだから。


「うー、でもでも」

「みつきちゃん、都さんの言うとおりだと思う。お金がたくさんかかるし、みんなで行ってもそれじゃつまらないと思うわ」

「そっか………そうだよね」


 真白ちゃんに言われて、みつきはがっくりと肩を落とす。


「くっくっく、つまりそれは、場所を抑える手間の上にコストもかかるからムリと、そういうことであるな?」

「そういうことね」

「なるほどなるほど、であれば楽しい修学旅行は後々我らのポケットマネーで隠密裏に行こうぞ」

「いや、まあそれは卒業旅行とかそういうのでもいいかなって思うけどさ、でも今回のお願い事は」

「くっくっく、和希が参加できなかったのは、なにも修学旅行だけではあるまい」

「え?」

「林間学校および臨海学校も不参加であっただろう?」

「あ!」

「そういえば行ったね、そんなの」

「何を隠そう我も不参加だ!」


 いや、知ってるよ。行ったの去年だもん。


「ぶっちゃけ、我はちょっと行きたいのだ。というか、夏は海に行ったから今度は山に遊びに行きたい」

「ぶっちゃけ過ぎでしょあんたは」

「ああ…なるほど、でもそれならまあ…」


 えりの話を聞いていた都さんがおもむろに口を開いた。


「修学旅行とかじゃなくて、キャンプとかならね。というか、テント張って本格的なキャンプじゃなくても、コテージとかで、皆でワイワイ料理したり泊まったりっていうのは、いい思い出になるんじゃない?それだったら、フォロワー全員連れて行って、いいコテージ予約しても大分お釣りがくるしね。あとまあ、一応監督というか、誰か大人の人もつけるけど、そんなに厳しくしなくてもあんたたちなら大丈夫でしょ。ねえ真白、公序良俗に則った過ごし方ができるわよね?」

「は、はい、もちろんです」

「よしよし。みつきもまさか和希の寝込み襲おうとかそんなことしないでしょう?」

「し、しないよー、やだなあ都さん」

「なら問題なし」


 そう言って都さんは満足そうに頷いた。

 ……って、え!?私には釘刺さないの?彼氏持ちだよ、私。


「思い出づくりには良いかもしれないですけどね、そのほら、私とか、彼氏持ちですし、い、いいんですかね、そんな。厳しくしないとか言っちゃって、万が一何かあったりするとほら」

「あ、そうだった。あかりちゃんは例の宇宙刑事の彼氏について話を聞きたいから残ってね」


 ぎゃふん。藪蛇だった。


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