東北事変 3
R15ってどこまでOKなんだろう…
俺の操を狙う4人の野獣から逃れて彩夏ちゃんと俺達が逃げ込んだのは、まるで銀行の金庫か、どこかの国の大統領の車のドアのような分厚いナノマシン製の扉を三枚超えた先にある、窓のない部屋だった。
いくら分厚い扉といえど、寿ちゃんや精華さんの消滅系魔法にかかれば一発ではないのかと心配になったが、寿ちゃんの魔法は一日一発こっきりだし、精華さんのほうも、かなり集中する必要があるらしく、ちょっとでも気を逸らすとすぐに使えなくなるらしく発情している今は心配しなくて良いんじゃないかというのが彩夏ちゃんの見解だ。
「まあ、でもなんとか逃げきれてよかったよね」
「そうですね」
「そういえば窓から逃げるって話じゃなかったっけ?」
「それより、ここに閉じこもって魔法が切れるのを待ったほうが確実ですよ。この部屋の周辺はある程度魔力を弱体化させる特殊な加工がされていますから」
「じゃあシェルターみたいなものなんだな。確かにそれならここが一番安心かもしれないな。それにして、この部屋はすごいな。トイレもあるし、風呂もあるし、大型のテレビとかゲーム機も充実してて、カラオケまである。なんかラブホテルみたいだよね」
「…たしかにそれっぽいかもしれませんね。ところで、走って汗かいちゃいましたし、お風呂入りません?流石に大浴場ほどじゃないですけど、ここのお風呂って、洗い場は広めですから二人一緒に入っても大丈夫ですよ」
「んー、そうだな。このままだとなんか気持ち悪いし、そうしようか」
確かに彩夏ちゃんの言うとおり汗だくになってしまっていたので、できれば着替えたい。着替えができないまでも汗を流せるのであればそれに越したことはない。
「洗濯乾燥機も着替えもありますから、お風呂に入る前に放り込んで、全部洗って乾くの待ちましょう」
「そうだね」
そんなやり取りをしながら、脱衣所へ移動して二人で一緒に服を脱ぐ。
魔法少女になった当初はとても考えられなかったことだが、最近はこうして誰かとふたりきりで着替えをしたりお風呂に入ってもどうということはなくなってきた。
もちろん、女性に興味がなくなったとか、男が好きになったとかそういうことではなく、言ってみれば自分の中でスイッチができた状態だ。
スイッチをオフにしている時は裸の女子が目の前にいてもエロい目で見たり、もよおしてきたりということはないが、一度オンになれば、普通に興奮すると、そんな感じだ。
まあ、意識してオフにしないと、日常のちょっとしたハプニングでも普通にドキドキするので、まだまだ修行が足りないなとは思っている。
「じゃあお先です」
そういって先に浴室に入っていった彩夏ちゃんに続いて、俺は脱いだ服を洗濯機に入れてスイッチを押してから浴室に入る。
「おお…確かに広いな、洗い場は」
正確には洗い場だけ広い。浴槽は普通に一人用だし、二人一緒に入るにはちょっと狭そうだ。
「ささ、背中を流しますから、こちらへ」
彩夏ちゃんに手招きされるまま俺が彼女の前に座ると、たっぷりと泡を含んだ海綿の感触を背中に感じる。
「なんか今日はサービスいいじゃん」
「いえいえ、朱莉さんにはいつも色々お世話になっていますし、たまにはご機嫌とらないとなと思って。いい機会なんで、しっかりご奉仕しますよ」
「なんか、それはそれであとが怖いな」
なんか、イベント前日とかに呼びだされて、とんでもない修羅場のアシスタントとかやらされそう。
「まあまあ、そんな先のことなんかより今を楽しんでくださいよ。サービスしますから」
彩夏ちゃんは、それなりに長くなった彼女との付き合いの中で今が一番上機嫌なんじゃないかというくらいに上機嫌な口調と声色でそう言って身体を寄せ、今度は後ろから俺の前を洗い始める。
「って、前は自分でやるから…ぎゃははは!…ちょ、彩夏ちゃん、くすぐったいって」
「遠慮しないでいいですよー。今の私は朱莉さんにご奉仕したい気持ちでいっぱいなんですから」
「大丈夫だかっ…ら…ん…そこダメ…って、こら!変なとこ触るな!っていうか、彩夏ちゃん、まさか…!?」
「やだなあ、冗談ですよ、冗談」
そう言って彩夏ちゃんは俺のウエストや胸元を弄っていた手をパッと離して、俺の背中にくっつけていた身体も離した。
ちなみに、なかなかの「あててんのよ」でした。彩夏ちゃん侮りがたし。
「こんな時にタチの悪い冗談はやめてくれよ」
「あはは、ごめんなさい」
「……彩夏ちゃん?」
「はい」
「彩夏ちゃんだよね?」
「はい?何言ってるんですか、正真正銘私ですよ、この残念ボディが証拠です」
そう言いながら、彩夏ちゃんはシャンプーを手に取り俺の髪を洗い始めた。
っていうか、彩夏ちゃんは自分で言うほど残念ボディじゃないからな。本当の残念ボディっていうのは…………………やめよう。誰も幸せにならない。というか俺の幸せな未来が絶たれる。
いやそれよりも。
「なんか、彩夏ちゃんさっきからテンションおかしくない?」
「ああ、それはほら、私って基本引きこもりじゃないですか。だからこういうひきこもりルームにくるとちょっとテンション上がるんですよ。だってここなら仕事しないでも大丈夫!ゲームやり放題!ネットやり放題!レトルト中心ですけど、食事の備蓄もバッチリなんですから!」
「そっか、さっきはラブホとか言っちゃったけど、たしかに引きこもるにはいい環境かもな、ここ」
「そうなんですよ」
「そういえばここって、何の部屋なの?」
「この部屋はですね…あれ?朱莉さん、この傷どうしたんです?」
「え?傷?」
「痛くないんですか?背中のここにこんな…ほら、ちょっと触ってみてくださいよ」
「え?どこどこ」
俺は、彩夏ちゃんがちょんと触ったあたりを後ろに回した左手でまさぐってみるが、傷らしきものの感触はない。
「あ、もうちょい上の方」
「そっか」
俺は今度は右手を肩の上のほうから後ろに回し両手で傷を探す。と、突然彩夏ちゃんに両手を掴まれた。
そして、その直後、カチャリと軽い音がして、俺の右手首と左手首が手錠で繋がれる。
「さ…彩夏ちゃん?」
「ふひっ……油断しましたね、朱莉さん」
「君やっぱり…!」
「さあさあ、朱莉さん。ベッドに行きましょうねー」
そう言って俺の髪と身体についた泡をシャワーで乱暴に洗い流すと、彩夏ちゃんは濡れたままの俺を抱き上げてそのままベッドまで運ぶ。
「フフ…怖いですか?」
「マジ怖えよ。世界水準超えの怖さだよ」
「いつから私が魔法にかかってないと錯覚していたんです?」
「なん……って、いや、精華さんみたいな感じにもならかったし、最初から彩夏ちゃんはかかってないと信じこんで安心してたわ。」
アレだけはっきり目視できるくらいなのだから、夏緒さんの魔法は直接触れなくても多少の効果はあるのだろう。で、彩夏ちゃんは直接触れられなかっただけに、精華さんほどの状態にはならず、正気を保っているフリをして密かにチャンスを待つことができたということなのだろう。
まあ、今考えれば、寿ちゃんをなんのためらいもなく夏緒さんの方になげたり、橙子ちゃんを容赦なく生け贄にしたり、桃花ちゃんを私怨で…ってこれは俺か。まあ、一緒に逃げている最中にちょっと彩夏ちゃんらしからぬところがあったので、注意して見ていれば気がついたのかもしれないが、俺はそれを彩夏ちゃんの悪ふざけだと思ってしまった。
これはさっき彩夏ちゃんが言ったように完全に俺の油断、怠慢だ。
「なあ、やめようよ彩夏ちゃん。今ならまだ取り返しがつくからさ。ほら、そろそろ柚那も帰ってくるし、虎徹も帰ってきちゃうからさ」
「大丈夫、ここは完全な密室ですから、ここで何か起こっても、私達が何も言わなければ外に漏れることはありません」
「いや、そういう問題じゃなくて。というか、何の部屋なのこの部屋」
「夏緒さんの反省部屋です」
「……納得」
さっきの様子だと、夏緒さんはしょっちゅう精華さんに絡んでいるみたいだし、そうなると夏緒さんに泣かされたり怒らされたりした精華さんが寿ちゃんに泣きつき、寿ちゃんは揉め事の発端になった夏緒さんを一応形式的にでも懲罰する必要がでてくるが、まさか一応ゲストとして預かっている夏緒さんを牢屋に入れるわけにもいかないということで作った部屋なんだろう。そういう部屋なら、魔力を完全に封じる手錠があるのも納得だ。
「しかしまあ…本当に一本も生えてないですよね、朱莉さんって。魔法少女化する時にリクエストしたんですか?」
彩夏ちゃんはまじまじと俺の全身を舐め回すように見た後で一箇所を見ながらしみじみと言った。
「違うって。もともとそういう体質なの」
「え!?男性の時からですか?」
「そうだよ、悪いかよ。おっさんだけど生えてなかったよ」
「………いや、アリですね」
「萎えて!お願いだから萎えて!?」
そこはおっさんの俺に全く生えてない画を想像して萎えるところだろう、彩夏ちゃん。
「生えてない朱莉さん(男)と柿崎さん…か」
「変な想像するのやめてくれまじで」
俺と柿崎くんは清く正しい友人関係だったんだから!
「そして生えている私、と」
「何が!?何が生えてるの!?さっき一緒にお風呂入った時は何も生えてなかったよね!?」
「大丈夫です、天井のシミを数えているうちに終わりますから」
彩夏ちゃんはそう言ってにっこり笑いながら、横向きに寝ていた俺を仰向けに転がした。
「っていうか、シミひとつない綺麗な天井だよ!?」
「じゃあ目をつむって羊でも数えていてください」
「対応が適当すぎじゃね!?」
「良いんですよ、どうせ愛なんてかけらも無い行為なんですから」
「酷いクズ男発言!って、ちょ…彩夏ちゃん、マジでやめて、ほんと怖い。つか、おかしい!君絶対実物見たことないだろ!?その大きさはおかしいって!」
「大丈夫大丈夫、痛いのは最初だけですから」
「経験ない子に言われても説得力ないよ!…うわ…ちょ…おかあさーん!」




