学園地獄 2 イズモ
☆やや残酷表現があります。この話を飛ばしても本筋には影響ありませんので苦手な方、残酷な表現に嫌悪感のある方は飛ばしてください
朱莉と寿が教室を出た後で、イズモがユウのいる方向へ視線を戻すと、イズモがナノマシンを変化させて作ったドームにヒビが入った。
「まさかあなた、こんな生ぬるい技で私を倒せるなんて思っていないわよねぇ?」
そう言いながらドームを引き割いて出てきたユウが笑う。
「もちろん。私にはあなたを倒すことはできない。私の役目はあなたの足止めよ」
「わかってるじゃないのぉ、でもあなたじゃ私を止めることはできないわよぉ」
「その間抜けなしゃべり方やめたら?」
「あなたわかってないわぁ、男はこういうのに弱いのよ」
「別にわからなくてもいいわ。それでもあなたよりはモテる自信があるから」
そう言ってイズモが薙刀の柄で床を叩くと、再びナノマシンが形を変えてユウに襲いかかり、あっという間に縛り上げる。
「あはははははぁっ!何度捕まえても同じ!あんなドーム何度でも割ってあげる!」
「そう?」
イズモがもう一度床を叩くと、ユウが悲鳴を上げる
「痛だああああああっ!てっ……めぇ……内側に棘を…」
「私は朱莉達ほどお人好しじゃない。世の中にはどうしようもない人間がいるっていうことは理解しているつもりよ」
そう言ってもう一度床を叩くと、ナノマシンの棘はユウの身体だけではなく反対側のナノマシンの帯も貫通し、まるでハリネズミのような外観になった。
「ふぐぅっ!…う…ぅ……」
体中を棘に貫かれたユウは目や鼻、口から血や涙や鼻水や涎といった、身体から出せる体液をすべて垂れ流しにしながら口をパクパクさせて小さなうめき声を漏らすことしかできない。
「さっきの状態でおとなしく捕まってくれていればここまでしないで済んだのに」
そう言ってためいきをつくと、イズモは残っていた手近な椅子に腰を下ろす。
ここまで戦えるイズモがユウに対してあくまで足止めと言ったのは、ここがイズモの限界だからだ。
これ以上はナノマシンの棘一本抜き差しすることもできない。
前に一度この技を出してお蔵入りになって以来使わないようにしていたのは、映像が使えないことを叱られたからだけではなくこれでトドメをさせない場合、イズモがまったくの無防備になってしまうからだ。
Mフィールド内で全く動けない人間がいるというのは一緒に戦う仲間にとって大変な重荷だ。ましてや関西チームには補助特化型の桜がいるお陰で、ただでさえ攻撃力に欠けている。そんな中イズモが足を引っ張ってしまってはチームの敗北をも招きかねない。だからイズモは普段から本気を出さず、常に陽動やバックアップといったアタッカーの中でも裏方仕事を受け持っている。
「くふっ」
血でむせて咳き込んだのか、笑ったのか。
小さな声がユウの口から漏れる。
「くふふふふふふ…あはははははははは!」
「何?おかしくなった?」
「ねえ、もしかしてこれでおしまい?足りないわぁ、ぜんぜん足りなぁい」
そう言ってユウは自分の身体が傷つくのも気にせずに帯の中から手を抜くと力任せに帯を引き裂いて刺さっていた棘を強引に抜いた。
「棘が身体を貫いたときはちょっと感じちゃったけどぉ、これでおしまいなんて全然欲求不満よぉ」
ユウはそう言って帯から生えている棘を二本へし折ると、口が裂けてしまったのではないかと思うほど口角を吊りあげてニイっと笑う。
「私が相手を感じさせる戦い方を教えてあげるわぁ」
「っ」
イズモは突進してくるユウをかわそうとするが、足に力が入らず立ち上がることができない。
「っ…ッ!?」
突進をかわすことができなかったイズモはそのまま勢いよく教室の壁に背中を叩きつけられた。
「捕まえたぁっ!……あらぁ、あなたよく見るとかわいい顔しているじゃないのぉ」
「離せっ」
「離してあげてもいいけどぉ、逃がす気はないからぁ……こうしちゃおうかしら」
ユウはそう言って先ほどへし折った棘でイズモの手のひらを貫いて標本のように固定した。
「……っぅ…ぅ」
イズモは歯を食いしばって痛みに耐えたが、両目には涙が浮かび顔にはじっとりと脂汗をかいている。
「痛い?痛いぃ?ふふふ、安心しなさい。最初は痛いけど、すぐによくなるから」
ユウはそう言って顔を寄せると、イズモの脂汗と涙を舐めとる。
「気持ち悪い……」
「大丈夫よぉ、すぐに気持ちよくて何も考えられなくしてあげるからぁ」
そう言って突き出したユウの右腕はタコの足のような五本の触手に姿を変えた。
「……っ」
その触手を見たイズモの表情が嫌悪に変わり、顔から血の気が引く。
「なにされるか想像できたみたいね…うふふふふ、大丈夫よ。こっちでは痛くしないから。快楽の中で死になさい」
ユウが触手をイズモのほうに向けると袴の裾や胸元のあわせの部分を押し開いて中に侵入を始める。
「ひぃっ…」
太ももに触れた触手の冷たいくヌルッとした感触にイズモが短く悲鳴を上げ、両足を必死に閉じるが、ユウの触手は容赦なくイズモの足を割り、太ももをゆっくりと這い上がってくる。
もうダメだ。そう思ってイズモが覚悟を決めかけた時、ヒュンと軽い風切音がした後、イズモの足を這っていた触手が剥がれ落ちる。
「個人的にはもうちょっと見ていたいけど、これが元でイズモに引き籠られても面倒だしな」
その声から一瞬遅れてユウの絶叫が響いた。
「なんでえ、ちったあ斬り応えがあるかと思ったのに、あっさりだな。これだったら生タコの足のほうがよっぽど切りにくいぜ」
そう言って髪を高い位置でポニーテールにして紺の袴をつけた女武芸者風の魔法少女がユウとイズモの間に割って入る。
「楓……遅いよ」
「悪い悪い。ちょっとスタッフの避難誘導をしていてな。遅くなって悪かった。さて……お前、名前は?」
関西チームのナンバー2、宮本楓はイズモの手のひらを貫いていた棘を抜いてからユウのほうに向きなおり、左手の刀の峰で自分の方をポンポンと叩きながら右手の刀の切っ先をユウに向けた。
「色欲のユウよ。会えて光栄だわぁ、現在実力5位の宮本楓さぁん」
「シキヨクノユウ?どこまでが苗字だ?敷浴って苗字なのか?でもノユウなんて名前じゃないか。敷浴野ユウ?なんか収まり悪いなあ」
宮本楓。腕っぷしは相当強く、ひなたと並ぶ武闘派だが、いわゆるかわいそうな頭の持ち主である。
「まあいいか。敷浴ノユウでも敷浴野ユウでも、お前敵だろ?」
「ふふっ、そうね、敵ね」
言いながらユウは楓に切り落とされた右腕を再生させる。
「じゃあ、斬るだけだ。楽しませてくれよなぁっ」
斬撃と言うよりは力任せの打撃とでも言うべき、同時に振り下ろす二刀の攻撃はまたもユウの触手を斬り飛ばす。斬られる覚悟ができていたユウは、絶叫を上げることもなく恍惚とした表情で再び触手を生やして楓へと伸ばす。
「しつけえなあ……そんなもんいくら生やしたって効かねえんだよ」
そう言って楓が面倒くさそうに刀を振るうと、やはりあっさりとユウの触手が切り落とされて床に落ちる。
「なあ、もっと強い攻撃はねえのか?そんな攻撃してたって消耗するばっかだろ?消耗したんで一番強い技を出せませんなんてアホなオチはやめてくれよ」
そんなことを言っている間にもユウは何度も同じ攻撃を仕掛けてくるが、楓は難なくそれを切り落とす。
「心配しなくてもだぁいじょうぶよぉ、強い技には準備が必要でしょう?」
そう言ってユウはケラケラと笑い、今度は普通の腕を生やす。
「さてさてぇ、じゃあ……そろそろぉ……いくわよっ!」
ユウの雰囲気が変わり、生えたての手のひらを楓に向けて『ハッ』と小さく発声する。
ピッと小さな音がして、楓の左胸にハート型のタトゥーのようなものが現れる。
「おいおい……おいおいおいおい!舐めてんのかてめえ!もうガス欠とか言うんじゃねえだろうな!?敵の魔法少女ってことは、朱莉を圧倒したってやつより強いんだろ!?それともあれはブラフか?あぁっ!?」
「強いわよぉ、嫉妬なんて所詮は色欲の副産物!そんなものより弱いわけがないでしょう!?」
ユウの声に呼応するようにユウの髪が伸びて楓の両手足に巻き付いて自由を奪う
「死ぬ前に色欲の恐ろしさをその身体に教え込んであげる!」
そう言ってユウが足で床をタンっと軽くタップすると、先ほど楓が切り落とした触手たちが一斉に動き出し楓の身体を這い上がり始める。
「おおっ!?あたしピンチ!」
触手はあっという間に楓の身体を覆い尽くしていき、楓は顔だけが外だけに出ている状態になった。
「さて、ここからがお楽しみよ……あなたが終わったらそっちの子も後を追わせてあげるから。さあっ!快楽に身を任せるのよ!」
ユウが嬉々として指を慣らすと楓にまとわりついた触手が一斉に蠢きはじめる。
しかし、楓は快楽を感じるわけでもなく表情一つ変えずに小さくため息をついた。
「悪い、そういうの間に合ってるんだわ」
がっかりとした表情の楓がそう言うと、彼女の体にまとわりついていた触手が一斉に切り裂かれた。
触手の下から現れた楓の身体にはいたるところから刃が生えている。
「大体さあ、快楽とかいうけど、それって好きな人が相手だからこそだろ?無理やりされたって気持ち悪いだけだっつーの。正直イズモのたどたどしい愛撫のほうがよっぽど感じるぜ?」
「こ、こんあほたれ!わーとおみゃはん……私とあなたはそういう関係じゃないでしょう!誤解を招くようなこと言わないで!」
誰かに聞かれたら誤解されかねない楓の戯言をイズモは顔を真っ赤にしながら否定する
「うんうん、いいなあ。朱莉風に言うならイズモは方言かわいい」
「バ、バカなこと言ってないで早くやっつけて」
「はいよ」
そう言って刀を構える楓は先ほどまでのような武闘派、戦闘狂のような表情ではなくなっていた。
「なによぉっ!いちゃいちゃしてぇ!ちゃんと私をみなさいよ!」
「だってお前さっきので力使い果たしたろ?悪いな、あたし弱くて不細工な奴に興味ないんだ」
「ぶ……」
「あ、ごめん、不細工は言い過ぎたか。あたしケバいの苦手なんだよねえ。せめてイズモくらいのお肌すべすべ、ノーメイクでも美少女!ってくらいになってから出直してくれない?」
「ふざけるなぁぁぁっ!」
「特攻とか流行らないって」
楓は刀をクロスさせ、両腕を触手に変えて襲い掛かってきたユウの懐に潜り込むと、腕を開いてまずユウの両腕を切断、体を回転させて胴を一刀両断にした。
「……悪いけど、捕まえておくのが無理そうだから殺すぜ」
そう言って楓は切り口からズルリと滑り落ちかけたユウの上半身を蹴りあげると、高速で何度も切り付けてあっという間にミンチに変えた。
「はい、おしまいっと」
そう言って一度血払いをすると、楓は刀を納刀して変身を解いた。
「終わったぜ……って、どうした?口元抑えて青い顔して」
「うぅ…なんてグロい技をやるのよ……」
「……いや。ぶっちゃけそれ、イズモだけには言われたくないわ」




