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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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朝陽ちゃんと呼ばないで 4

「と、いうわけで、私は明日からしばらくJC寮に住み込むことにしますわ」

「いやまて。どういうわけだ。ちゃんと説明しろ」


 結局一日ではケリがつかなかった和希と朝陽の面談は翌日も行われ、その後にチアキさんが言った『夕飯食べていきなさい、っていうか、どうせならJKの二人も呼んじゃいなさいよ』という提案に基づき、急遽エリスちゃんの料理を手土産にしたJKを召喚して開催されたJCJK親睦会の後のこと。

 今日もお世話になるJKの部屋に戻ってきた朝陽は、昨日、一昨日と同じ華絵ちゃんのベッドの上で、俺とふたりきりになるなり、そう宣言した。

 ちなみに、『と、いうわけで』の前に説明などはなかった。


「つまり、和希の件は失敗したってことか?時間がほしいとかそういう?」

「失敗したわけでは有りませんが、時間がほしいというのはありますね」

「うーん…つまり、どういうことだ?」

「和希とご両親の話はしてきたのですけど、どうもそれだけではないようなんです」

「どういうこと?」

「多分、和希にはまだ言ってないことか、もしくは言えないことか……何かそういうことがあるような気がします」


 つまり、皆の心配はすこしピントがずれていたと、そういうことらしい。

 とはいえ、両親の件がまったく気になっていないということはないだろうけど。


「ちなみに、両親の件はもう平気そうなの?」

「ご両親のことはどれだけ時間が経っても平気になどならないとは思いますけど、親睦会の時に真白ちゃんに聞いた話だと夜泣きなどはないようですし、どうもそっちが根本ではない気がするんですよね」

「でも、だとすると?」

「多分、身の回りの人のことだと思うんですけどね。あかりちゃんとか、みつきちゃんとか、あとは…それこそ真白ちゃんとか」

「真白ちゃんか…」


 そういえば、魔白事件の直前に和希は昔真白ちゃんとも会っているって言っていて、俺はそれを元カレとか茶化したことがあったっけ。

 俺はそのことをかなり軽く考えていたが、朝陽の受け取り方は違ったようだし、じっくり話を聞いた朝陽がそう考えるなら多分そっちが正しい。


「ちなみに朝陽」

「はい」

「どうなんだ?和希の不調というか、不安定の原因が、例えば真白ちゃんだったり、他の誰かだったりしたときに、手に負えるのか?お前の”朝陽ちゃん”の問題は別として、和希の問題が根深そうなら専門の人を呼ぶほうがいいと思うんだけど」

「できます!とは言えませんけれども、それでも私は和希のためになにかしてあげたいと思います」


 そうだよな。そう言うよな、朝陽は。

 でも、多分それは間違っているんだ。いや、そもそも俺は、最初から朝陽に任せるなんていうことを言うべきじゃなかったんだろう。


「なあ、朝陽」

「お願いします、ちゃんと勉強します。ちゃんと細心の注意を払います。和希を追い詰めるようなことにならないようにしますから」

「……」


 珍しい。

 はっきり言って、こういう朝陽はすごく珍しい。

 彼女はお嬢様育ちで、ややわがままっぽいことも言うが、はっきり言って関東三人娘の中では一番扱いやすい。

 いや、扱いやすいと言っては失礼か。一番聞き分けがいいのだ。

 わがままの起点は愛純と柚那がほとんどだし、朝陽はそのわがままに乗ってきても、こじれる前にそのわがままをやめて、俺と二人の妥協点を探るほうにまわってくれることが多い。

 そんな朝陽がここまでわがままを言って食い下がるというのは本当に珍しいのだ。

 とはいえ、かなりデリケートな問題になっていそうな和希を、朝陽のわがままのために差し出すというのは違うと思う。

 ―思うのだが。


「朝陽」

「はい」

「まず、JC寮住みは却下だ。あくまであそこはJC寮で、チアキさんの管轄だからな。それに、和希の件はチアキさんも心配しているし、素人の朝陽を和希にあてると言ってもチアキさんは納得しないと思う」


 俺の説明がハラオチしたとは言えない表情だったが、朝陽は一度うなずいた。


「それにな、朝陽。お前は関東チームで俺たちのチームメイトだ。だから勝手に抜けられてもこまる」

「でもそれは、その…今のところ平和ですし、誰かほかの人をあてるということもできるのではないですか」

「俺も柚那も愛純も朝陽がいいんだよ」

「っ…!」


 これは言っていて少し卑怯かなと思うけど、本音なのでしょうがない。

 なんだかんだ、この一年、朝陽とはずっと一緒にやってきたし、すぐに交代すると言われて『はいそうですか』というわけにはいかないのだ。

 それは朝陽が言ったように、平和だからこその俺達の甘えだろうけど、それでも俺達は朝陽に抜けられたら寂しいし困る。


「だから、妥協案だ」

「妥協案?」

「ああ。お前に家庭教師をつける」

「ええと…それはどういうことですか?」

「人の心理については恋が詳しいから、和希の件については、恋をメイン担当にする。朝陽は恋と組んでアドバイスをもらいながら、時々和希の様子を見に来てやってくれ。それが、俺のできる精一杯の妥協だ。朝陽のことを信用していないわけではないけど、やっぱり和希のことも心配だし、朝陽のやる気も応援してやりたい。中途半端かもしれないけど、この案を飲んでくれると嬉しい」


 これでダメなら、無理矢理にでも朝陽を連れ帰るしか無い。

 そんなことにならないといいなと思いながら朝陽の顔を見ると、朝陽は少し考えた後、静かに頷いた。


「わかりました。その条件でお願いします」

「ただ、その条件だと朝陽“さん”ってはならないかもしれないけど」

「そんなのもうどうでもいいです!和希が…仲間が笑えるなら別に”ちゃん”でも”さん”でも”姉ちゃん”でもいいですわ!」


……ん?


「姉ちゃん?」

「っ…!」

「和希に姉ちゃんって呼ばれたの?朝陽姉ちゃんとかそんな感じ?」

「ッッ・・・!」


 『ッッ・・・!』じゃねえよ。まあ、やる気になってるみたいだし、ふざけている感じも受けないからいいけどさ。


「一応確認なんだけど」

「はい、もちろんです!」

「まだ何も言ってないぞ」

「そ、そうでしたわね」

「真面目に和希の問題に取り組むつもりはあるんだよな」

「当然です」

「それはそれとして、和希に『朝陽姉ちゃん』と呼ばれてちょっと気持ちよかったと」

「私、今日初めて萌えというものを理解した気がしますわ」


 と、恍惚とした表情で朝陽。

 ……まあね、俺もそれが動機で頑張ることがあるから否定はしないけどね。


「じゃあそういうことで、明日は関東寮に帰るぞ」

「はい!この秋山朝陽、恋さんへの弟子入りも和希の問題解決も頑張らせていただきますわ!」


 うん、元気があってよろしい。




「――と、いうことがあったんだよ」


 もちろん俺は昨日の朝陽と違い、しっかりと柚那と愛純に説明をしてからそう締めくくった。


「なるほど。でも私、恋さんが心理学に詳しいとかって初めて聞いたんですけど」

「いや、なんか泥棒とか詐欺師は人の心理に詳しくなきゃいけないっていうんで、あいつはちゃんと大学行って学士を取ったらしいぞ」


 正直泥棒になるために心理学を専攻するってっていう考えが、俺にはよくわからないんだけど本人が言っていたんだから間違いない。


「でもそれ、恋になんの断りも入れずに決めちゃってよかったんですか?」

「事後承諾だけど、一応OKはもらったよ」

「そうですか。ならいいんですけど」

「ところで、朱莉さん」

「ん?」

「朝陽が和希と話している間、朱莉さんはどうしていたんですか?」

「……色々あって、みつきちゃんのお父さんの話を、みつきちゃんとしていたんだけどな」

「なにその修羅場!詳しく知りたいです!」

「私も!」


 ええい、楽しそうに身を乗り出しやがって。こっちは大変だったんだぞ。

 俺はそんなことを思いながら、みつきちゃんが誰を疑い、誰を拒否していたかなどを話した。


「で、みつきちゃんは、ひなたさんが父親だったらどうだって言ったんですか?」

「いや、それがな――」




「私はね――どうだろう。ひなたが父親かあ……うーん……」


 そう言ったきり、みつきちゃんは考えこんでしまった。

 俺と真白ちゃんはやや心配しながら、タマはもう眠いなあといった表情でみつきちゃんをみつめていると、しばらくしてみつきちゃんが口を開いた。


「いや。無理、死んだほうがマシとかってことは、冗談でも絶対言えないから言わないけど、ひなたは無理無理……っていうか、タマ、違うよね?私のお父さんがひなたとかそんなことないよね?」

「うちのお父さんからはそんな話きいてないし、多分違うと思う。私が話を振ったのは、みつき先輩がなんでひなたさんを嫌うのかが知りたかっただけだから」


 さすがタマ。さすが汚い。

 先輩に対して平気な顔でサラッと嘘をつく。そこにシビれる!あこがれるゥ!

 そんなことを考えていると、タマのチョップが俺の脳天に炸裂した。


「……」

「痛いんですけど」

「なんか不愉快な気配を感じたから」

「……」

「心当たりありますね、ジュリ先輩」


チッ…反省してま~す。


「……」


心を読まれたのか、タマはもう一発チョップを繰り出した。

そしてタマは俺の脳天にチョップを落としたままの姿勢で、クイッとあごでみつきちゃんの方を指す。


「バラすよ」


 そう言ったタマの目は機械のように冷たかった。


「すみませんでした。タマ先輩には逆らいません」

「なるほど、やっぱりこのやり方は有効なのね」


 スマホチラチラさせながら怖いこと言わないで真白ちゃん!

 いやもう、JCは和希とみつきちゃん以外にはバレてるから、あかりにこの格好をしているって知られなければ、バラしても良いんだけどね、公にしてうっかりJCの誰かから、JKの耳に入っちゃうとね。色々まずいからね。




「――ってな感じで、俺の弱みが増えただけだった。とりあえずみつきちゃんにはバレてないというか、あのチームは真白ちゃん以外はタマに謎の信頼をおいているからしばらくはごまかせると思う」

「ちぇっ、今こそひなたさんに積年の恨みをはらせるかと思ったんですけどね」

「怖いこと言うな柚那。そういうののとばっちりがこっちに来るのは間違いないんだから」


「きっと身を挺してその火の粉から私を守ってくれて、見どころとかクライマックスになったらよく見えるようにしゃがんでくれるナイトが現れると信じています」


 それ、俺だよね?肉壁だよね?


「私も柚那さんの横でご相伴にあずかります」

「君ら最近ほんとひどいな。少しは朝陽を見習えよな」


 ちなみに朝陽は、帰ってきて俺が恋に事情を話して説明するなり、ずっと恋にくっついている。

 単純だけど、多分ああいう子が一番伸びるんだと思う。


「とりあえず、恋に朝陽を頼んじゃったせいで結局戻ってきた仕事を手伝ってくれ」

「はいはい」

「まかせてください」


 俺が仕事の山を指差すと、愛純と柚那はそう言って1/3ずつ仕事を持って応接ソファーで資料に目を通し始めた。





プライベートの問題や、世代変わった新作を書きたいなとか諸々あり、しばらく更新不定期になります。

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