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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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朝陽ちゃんと呼ばないで 1


「お、愛純さんに朝陽ちゃん。いきなり来てどうしたの?」

「いやあ、朱莉さんのうちで柚那さんと朱莉さんがバトっててさ。緊急避難」

「……」


 ✝


「それでね、朱莉さんがまたやらかして」

「ああ…愛純さんも大変ですね。朝陽ちゃんもお疲れ様です」

「……」


 ✝


「だからね、こういう時はふたりきりにしてあげるのが一番いいわけよ」

「なるほど…さすが愛純さん。朝陽も大変だね」

「……」



「……ということが、昨日の夜あったんですの」

「どういうことだよ!?」


 寮に帰ってきた俺達は、会議室で朝陽の説明をうけたが、状況がさっぱり飲み込めなかった。


「ええっ!?なんでわからないんですの?愛純と柚那さんはわかりましたよね?」

「?」

「よくわかんないけど」

「ですから、和希が『お、愛純さんに朝陽ちゃん。いきなり来てどうしたの?』と言ったんですのよ」


 うーんわからん……この察してちゃんめ、要点を言えと言うに。


「歓迎されてない感じでショックだった?」

「ちーがーいーまーすーわー!」


 外れか。まあ、当たると思って言ってないからそれはいいんだけどね。


「じゃあ次です。真白ちゃんは『ああ…愛純さんも大変ですね。朝陽ちゃんもお疲れ様です』といいました」

「あ!わかった」


 そう言って愛純が手を上げると、すかさず朝陽が愛純を指差す。


「さすが愛純!答えをどうぞ!」


 なにこれクイズ番組なの?あ、クローニクのアイキャッチとかにいいかもね。クイズ大喜利みたいなの。


「私より先に魔法少女になったのに、私より後に名前を呼ばれるのが気に入らない!」

「惜しいですわ!」


 愛純のも違うらしい。


「じゃあ最後のヒントですわよ。タマちゃんは『なるほど…さすが愛純さん。朝陽も大変だね』と言いました。はい、柚那さん」


 最後は回答強制なのかよ。


「うーん……わかんない。何がそんなに朝陽にとって深刻な悩みなの?」

「なんで私、年下の子達に“ちゃん”付で呼ばれていますの!?タマちゃんに至っては呼び捨てですわよ!?」


 車の中で終始深刻な顔しているから、どんな悩みかと思ったら、思ったよりちっちぇ悩みだった。


「いや、呼び捨てってことだったら、朝陽も私の事呼び捨てにするじゃん。彩夏とかセナのことも」


 同年代で仲がいいので忘れがちだが、実は愛純のほうが朝陽より年上だったりする。で、彩夏ちゃん、セナが愛純と同い年で、喜乃くんは愛純達のさらに一個上で柚那と同い年だ。


「それは……私たちは同期のようなものですし」


 そう。愛純達の世代は、朝陽にとって、同期のようなものだ。

ただ、あくまで同期のようなものであって、同期ではない。

 愛純達と違い七罪から直で魔法少女になったというイレギュラーな経緯で入った朝陽は、研修をすっ飛ばしてしまったため、純粋な同期はいないのだ。

 ただ、それはある意味では魔法少女歴は一応朝陽のほうが長く、愛純たちの先輩と見ることもできるので、朝陽が四人を呼び捨てにするのは別にいいという理論が成り立つ。


「まあ、確かに同期みたいなものだし彩夏もセナも特に気にしてないけどね」

「それにほら、愛純は私の大切な…親友で相棒じゃないですか」


 朝陽はそう言って少し気恥ずかしそうに頬を染めながら愛純を見る。

 うんうん、二人は最近すごく仲がいいもんね。おじさんそういう微百合みたいな感じの関係嫌いじゃないよ。

 心がぴょんぴょんするしね。


「?」


 って、愛純さん!?そこで(´・ω・`)みたいな顔して首を傾げない!『親友?なにそれ美味しいの?』『相棒って第何シーズン?』『っていうか、お前は何を言っているんだ?』って顔しない!


「ま……まあ、そこはほら、朝陽のほうが愛純より一応先輩なんだし、そこの呼び捨てはいいじゃん。微妙に朝陽が先輩ってことでさ」


 朝陽が愛純の方を見て泣き出すなんていう事故を防ぐために俺は愛純と朝陽の間に入って慌ててフォローをする。


「うー…そうやって『私のほうが微妙に先輩」みたいなことを強調する言い方だと、なんだか私が留年して気を使われている同級生みたいで嫌ですわ」


 まあ、俺も自分で言ってて、なんとなくそんな感じを受けたけども。悪意は無いんだよ。


「つまり朝陽の相談っていうのは愛純みたいに”さん”付けでJCに呼ばれたいということでいいの?」

「そうですわ!題して、秋山朝陽威厳獲得計画!」


 言いながら朝陽はホワイトボードにキュキュキュっと計画名を書き込んだ。


「さあ、どうしたら良いかご教授くださいな!」

「無理じゃね?」

「無理だと思う」

「私も難しいと思う」

「うう……でも、朝陽”ちゃん”はともかく、タマちゃんの呼び捨てはやめてもらいたいですわ!」


 うん、まあ呼び捨てはね。確かにその気持はわかるんだけど


「あー…でもな、朝陽」

「はい」

「タマはこまちちゃん達と同期だから、朝陽からみても大先輩だよ。もちろん俺にとってもな。だから、タマが朝陽を呼び捨てにするのは、朝陽が愛純達を呼び捨てにしているのと同じって考えると強く言えない。ちなみにこまちちゃん達の世代がどのくらい先輩かというと、世代的にはみつきちゃんの一個か二個下で相当な古株な」


 みつきちゃんから呼び捨てにされていることについては特に言及していないところを見ると、タマの件はこれで納得するだろう。


「マジですの!?じゃあなんで朱莉さんはタマちゃんからさん付けされているんですの?」

「いや、下手すりゃ親子くらいの歳の差があるのに、呼び捨てはないだろ」


 その歳の差たるや20歳以上である。その歳の差で呼び捨てにしてきたら『タマ先輩パネェっす』って感じだが、流石にそこまで常識はずれの子ではない。

 まあ、これは俺が九条ちゃんさんから『九条ちゃん☆と可愛く呼ぶがいい』といくら言われても、ついつい“さん”を付けてしまうのと同じだね。


「じゃ、じゃあタマちゃんのことは諦めますわ。せめて和希と真白ちゃんには朝陽さんって呼ばれたいんです!」

「あかりは良いのか?」

 確かあかりも”朝陽ちゃん”だった気がするんだが。

「あかりちゃんも!」


 JKの二人は確か朝陽のこともちゃんと”さん”付けだったと思うけど…ああ…あと千鶴とさおりも朝陽”ちゃん”だ。でもまあ、全部拾うと際限なくなるからとりあえずはこの三人か。

 まとめよう。

 ズレなければしっかりものでみんなのお姉さん・まとめ役の真白ちゃんと、やんちゃ系で実力を認めればしっぽを振って懐いてくれるけど、格下認定するととことん言うことを聞いてくれない犬系の和希、それになんでもそつなくこなして、基本的に目上の人間には礼儀ただしい我が妹あかり。

 この三人からの評価を高めて朝陽”ちゃん”から”朝陽さん”に変えていく…か……やっぱり無理じゃね?


「『無理じゃね?』って顔しないでください!」


 おお、バレてしまったか。


「じゃあ俺が三人に朝陽のことを”さん”付けで呼ぶように言えばいいか?」

「それだと、朱莉さんに強制されてそう呼んでいる感じで、私の威厳がないままですわ!」


 いや…多分なにしても威厳なんて無いままだと思うぞ。


「じゃあ、とりあえずその三人のことをよく知っている人に、三人からの評価を上げるにはどうしたらいいかを聞いてみます?」

「だな。それが良いだろう。朝陽も愛純もそれでいいか」


 俺が柚那の提案に頷いて二人の方を見ると、朝陽と愛純も頷いた。


 翌日。

 放課後を待って、俺と朝陽は再び俺の地元へとやってきていた。

 ちなみに愛純は「あー、私ちょっと何か用があるっぽいんでー、あー、忙しい」とか適当なことを言って欠席。

 柚那は「いざというときを考えると、本部に誰も居ないのはまずいと思います」とかいう、『ついこの間みんなで旅行行こうと言っていたのは誰だよ』とツッコみたくなるような言い訳をしてサボった。

 まあ、いい。

 今回の件は前にやっていた電話相談室の出張版みたいなことだし、都さんが復帰して通常業務もそんなにたまってないので慌てて帰る必要もないから、いくらでも時間をかけられる。

 なんだったら数日こっちに泊まってJCと朝陽の関係を深めて自然と朝陽“さん”になるように持っていけばいいくらいのゆったりとしたミッションだ。


「朱莉さん?どうかされましたか?」


 信号待ちをしながら、どうやって朝陽”さん”に持っていくかと、バレバレの嘘でサボった愛純と柚那にどんな罰ゲームをかましてやろうか考えていると、朝陽が心配そうに顔を覗き込んできた。


「いや別に。そういえば朝陽、お前着替えとか持ってきた?」

「……え?いえ…持ってきていませんけど」

「そっか…まあ、少し俺のほうが大きいから服は着回せるし、下着とかはどこかで買えばいいか」

「ちょ…換えの下着が必要になるようなことをするつもりなんですの?」

「いや、この件はしばらく泊まりで取り組もうかと思ってさ」

「え?え?え?」

「この機会に、仲を深めるのもいいだろ」

「ちょ…ちょっと待って下さい!?わ、私もそういうことに興味が無いかと言われれば、興味津々とはいわないまでも歳相応に興味がなきにしもあらずでしたりするわけですわよ!?ですが、つい一昨日私は朱莉さんに興味はないと申し上げたではないですか!いえ、それはそれとして、優しくしてくださるというのであればこちらとしても吝かではなかったりしなくもないのですけれども!?」


 ……何を言っているんだお前は。

 いや、何を言いたいのかも、何を勘違いしているのかも、俺の言葉が足りなかったなというのもちゃんとわかっているけどさ。


「そういうんじゃなくて、時間を掛けて朝陽とJCの仲をよくさせて、自然に”さん”付けにもっていけないかなと思ってさ」

「ああ、なんだそういうことですの」


 やめて、そんながっかりした顔するのやめて。変なこと考えちゃうから。

 いや、昨日の今日でもう浮気したいとかそういうんじゃなくてね。


「まあ、とりあえず和希から取り組むってことで、JKの所に行くとしようか」

「なんでJKなんです?」

「正宗は和希と仲がいいからな。和希のことを一番わかっているのは真白ちゃんだろうけど、真白ちゃんにそんな相談できないしさ。ただ、逆に真白ちゃんのことを聞ける子があんまりなあ…」

「深雪ちゃんとか」

「……深雪たんに相談すると、もれなく海外将校見習い組と、一番こういうことを知られたくないマリカちゃんにも気づかれちゃうぞ」

「ああ……」


 弱みを見せたり頼みごとすると、チョイチョイ小銭せびってくるんだよなあ、あの子。


「ま、そういうわけでとりあえず車を何処かに停めて高校の前で待ち伏せだ」

「わかりましたわ!」


 元気のいい朝陽の返事を聞きながら、俺は少し前まで通っていた高校近くの駐車場へと車を向けた。




 

 


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