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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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事後面談

 虎徹琢磨逮捕から三日後。

 俺はすっかり元気になった…というか、そもそも怪我なんてしてなかっただろう都さんに呼ばれて彼女の執務室にやってきた。

 軽くノックをして待っていると、ネコ狂華さんが扉を開けて中に招き入れてくれた。もちろん狂華さんの格好についてはスルーする。というか狂華さんをスルーする。

「あ、あのね朱莉」

 廊下のドアと執務室のドアの間に設けられたスペースで狂華さんが俺の袖を掴む。

「なんですか狂華さん」

「ちゃんと謝ってなかったなあって思ってさ…ごめんね」

「謝るって…どの件ですか?おもいっきり暴走していなくなってくれたおかげで、こっちの戦力がガタガタになっちゃった件ですか?キレて俺と愛純ごと狂ヒ華でふっ飛ばしてくれた件ですか?それとも、俺達が頑張っている時に、捕まった先でちやほやしてもらえるのが嬉しくておもいっきりオタサーの姫みたいになって男たちの欲望を一身に受け止めていた件ですか?」

 ……いや、別に俺も愛純もひなたさんも一美さんも怪我はしなかったし、JCはちょっとした怪我はしたけど訓練でもするくらいの怪我だったし、楓と喜乃くんに至っては戦うだけ戦った後、「腹減った」って言って大和の部屋で一緒に飯食ってたくらいで、誰も深刻なダメージどはなかったから、そんなに怒ってはいないけど。

 まあ、怒ってなくても、この件で狂華さんをイジメたときの申し訳無さそうな、泣き笑いのような表情がそそるんでついやっちゃうんだよ。

「違うんだよ。あれは不幸な誤解とタイミングが…」

「え?違うんだよ?違うにゃじゃないんですか?」

「言うにゃあああっ!」

 うん。可愛い。

「あんまりイジメないでよね、それ私のなんだから」

 執務室のドアを開けると、都さんは椅子に座ったままそんなことを言うが、そもそもこの格好をさせている時点で都さんも俺とおなじようなことを考えているだろうことは想像に難くない。

「だって狂華さんが凹んでるの超そそるじゃないですか」

「それはわかるけどね」

「わからないでよ!」

 涙目の女の子って目がキラキラしてて可愛いよね!

 まあそれはさておき。

「で、何の用です?まだちょっとやらなきゃいけない書類とか、色々迷惑かけちゃった子への挨拶回りとかあるんでそれなりに忙しいんですけど」

「書類はともかく、あいさつ回りは謝罪がてら、そこの狂華ニャンに行かせるからいいわよ」

「え?この格好で行かせるんですか?」

「もちろんこの格好で行かせるわよ」

「え…?嘘だよね?ボクそんな話聞いてない……」

「暴走して場を引っ掻き回したバツよ。行って来なさい」

「しかも今から!?」

「当たり前でしょ。思い立ったが吉日って言葉知らないの?」

 今思い立ったのかよ…。

「謝って許してもらったら自撮りで一緒に写真撮ってメールしなさい」

「……うう…わかったよ」

 わかっちゃうのかよ。まあ狂華さんがいいならいいけど。

 とぼとぼと肩を落として部屋を出て行く狂華さんを見送った後、俺と都さんは応接セットのソファーへと移動して、向い合って座った。

「さて、今回も色々迷惑かけたわね」

「本当ですよ。それに俺だけじゃなくて、リオさんも巻き込んでたでしょう」

「あ、バレてた?」

「バレバレですよ。あの人相手に俺なんかがまともに相手できるわけないじゃないですか。あの時都さんが予め話をしてなかったらとっくに戦争ですよ」

「いや、リオもそこまで気が短いわけでも地雷だらけなわけでもないんだけどね」

 そう言って都さんは苦笑いを浮かべる。

「で、いつから用意してたんですか」

「ん?用意?」

「いや、あの時はわからなかったですけど、松花堂ちゃんが実は都さんだったって、今考えればバレバレですからね。つまり、松花堂一帆は都さんがこっそり動くとき用につくった存在ってことでしょう?」

 運動神経のいい都さんが例えば外部ユニットを体の周りに纏って変身していたとしたらあのデンプシーロールの威力も納得がいくし、仕事の段取りがやたらとよかったのも、リオさんとうまくやれていたのも納得だ。

「いやいや。ちゃんと別にいるのよ。松花堂一帆って子は」

「つまり、ニアさんみたいに都さんの腹心で、立場を借りてたとかそういうことですか?」

「いや、あの子もともとスパイだったのよ」

「どこの国のですか?」

「国内の反私派」

「小金沢さんのとこの子ってことですか?」

「いやいや、小金沢は自分の手駒しか使わないから。ひなたとか桜とかから一帆の話を聞いたことないでしょう?」

「ないですね。じゃあ、どこの子なんですか?」

「前に私にちょっかいかけてきたおっさんの話したじゃない」

「ええと、5月の時にご家族を人質に脅されてお漏らしした可哀想なおっさんですか?」

「失礼な。世間話しただけよ、私は」

 あれは世間話って言わねえって。まあ、録音されてても裁判で証拠にもならないくらいの話だけど。

「あのおっさんの愛人が松花堂一帆。おっさんからしてみれば一帆とはお金とセックスの等価交換、それとうちの内情を探るための割りきった関係だったみたいだけど、一帆はもっとおっさんの役に立ちたいと思っていたみたいね」

 大人の世界はドロドロしてて嫌だなあ。

「でもそれを知ってたってことは…」

「泳がせていたんだけどね。まあ、おっさんもアホなら、そんなおっさんに騙された一帆もアホってことで、内情を知るだけじゃ満足行かなくなったおっさんと共謀して私に対して爆弾テロを仕掛けてきたってわけ」

「魔法で攻撃すればよかったのに」

「あれ?軍曹から聞いてない?」

「軍曹?」

「松花堂一帆と同期の九条さん」

「ああ…あれ?九条ちゃんさんって階級軍曹でしたっけ?」

 というか、そもそも曹って階級の人は居ても軍曹って階級はないはずなんだけど。

「まあ、アダ名だからね。で、何か話を聞きに行ったんじゃないの?」

「いや、行きましたけど。確か松花堂ちゃんについては、接近戦なんかは全くダメ、サポート系もあまり得意じゃなくて、そもそも魔力もそんなに高くない…ああ、そうか。そもそも彼女の魔法じゃ都さんを殺せないのか」

「そういうこと」

外部ユニットと一緒に行動している時の都さんの魔力はかなり高い。そんじょそこらの魔法少女では傷を追わせるのも一苦労だ。

「で、爆弾を使おうってなったみたいなんだけど、私だけならともかく、柿崎くんとか、梨夏とかも怪我しちゃったじゃない。だからちょっとお灸をすえてやろうと思って、怪我したフリして、松花堂一帆の意識を奪って私の代わりにラボの回復装置にぶち込んでおいたってわけ」

「ああ、それであの時の都さんに何か物足りなさを感じたのか」

 主に胸のあたりに。

「まあ、私のほうが大きいからね。いやあ定期的に気絶させるの結構大変だったわ。最後の方は翠が機械でやってくれたけど」

 翠もグルか。っていうか、いくら魔法少女とはいえ、そんなに何度も気絶させて大丈夫なのだろうか。

「でもそれなら俺とかチアキさんには言っておいてくれてもよかったじゃないですか」

「説明している時間がなかったのよ。どう説明しようか考えている間に、ニアはフェイズ0出しちゃうし、虎徹弟はこの機に乗じてとばかりに犯行声明出しちゃうし、あのバカは一人で殴りこみに行っちゃうし、小金沢も動き出しちゃうしで」

「で、とりあえず小金沢さんには話をして、公暗部を引かせた。その後、俺のサポートという名目で俺の所に来たと」

「そういうこと。で、その後一応朱莉にも話そうかなと思ったんだけどね」

「なんで話してくれなかったんです?」

「いや、思いの外しっかり仕事しているからとりあえず任せてみようかと思って」

「………まさか、あの時作戦に関係ない仕事をちょいちょい入れてきたのは、自分でやるのが面倒だったからですか?」

 緊急性のない、具体的には保養所の利用申請承認の仕事とかがちょいちょい入ってて、なんだこれと思ったんだが、今合点がいった。

「そうともいう」

「そうとしかいわないですって!ああもう、話を聞いてなんかどっと疲れた」

 つまり、最後に来たみつきさんの言うように、実際のところ戦争なんて起きていなかった。

 現場以外は全部出来レースなのを知っていて、現場も安全な枠のなかでちょっと小競り合い、もっと言い方を変えてしまえば演習をしたくらいのものだったと、そういうわけだ。

 まあそれもこれも、都さんや小金沢さんが色々動いて、結果的にそうなるようにしてくれたんだろうけど。

「ああ、そうそう。五十鈴先生があんたのこと褒めてたわよ『都ちゃんはあんなに愛してくれる部下をもって幸せだな』ってさ」

「う………」

「何言ったの?」

「いや…別に」

 まあ、色々言った気がする。こまちちゃん経由とはいえ、俺が頼れるツテが五十鈴代議士だけで必死だったっていうのもあるが、それ以上に頼み事をした時は都さんのことで頭が一杯でテンパッていた。

「そんなに愛してくれてるなら朱莉に乗り換えちゃおっかな」

「やめてくださいしんでしまいします」

 柚那と狂華さんに殺されてしまう。

「大丈夫じゃない?狂ヒ華を耐え切ったんだし」

「いや、物理的に生き残っても、周りの女子を敵に回したら社会的に死ぬ気がするんで」

 どう考えても朝陽も愛純も柚那につくだろうし。この間の感じだと狂華さんもあっち側で共闘しそうだ。

 あと、あの時の狂ヒ華は狂華さんがブチ切れててコントロールをちゃんとしてなかったので、あれを耐えたから狂華さんより俺が強いなんていうことにはならない。というか、冷静にタイミングと出力を見計らって出されたら絶対に耐えられない。

「私はあなたとなら死んでもいいわよ」

「俺はもっと生きたいです。柚那と」

「残念」

 たいして残念そうでもない表情で都さんが肩をすくめてみせる。

「でも、それだけ松花堂ちゃんサイドの情報を知っているっていうことは」

「おっさんは失脚しましたとさ」

「………一体どういうマジックで」

「あんたたちが虎徹弟達と激戦を繰り広げている時におっさんがラボに侵入してきて、一帆扮する私を殺そうとしたのよ。で、それを見た一帆が覚醒して、全て証言してくれたってわけ」

「あれ?でもそういうことしようとすると、催眠魔法でトラウマが蘇るんじゃなかったでしたっけ?」

「トラウマが蘇るって言っても恐怖じゃなくて恥辱だからね。回数こなして慣れちゃったみたい。一帆の話だとむしろそれで興奮して、私に変身させて…ってこともあったみたいだし、一体どれだけ私に恨みをつのらせていたんだか」

 生々しいよ、松花堂ちゃん。

「まあ何にしても一帆が証言してくれてよかったわ。最悪こう、ね。とても大声で言えないようなこともしなきゃいけなくなるところだったし」

「怖いので聞かないでおきます」

「最悪ふたりとも殺さなきゃダメかなって」

「小さな声で言えばいいってもんじゃないんですからね!?っていうか、聞きたくないって言ったじゃないですか!」

「まあ、それはそれとして家庭は崩壊したみたいだけどね」

「鬼かあんた」

「だって、複数人と不倫して殺人未遂までやった夫と、マルチ商法幹部の妻。横領息子に義父と不倫してる嫁、学校でイジメの首謀者やってる孫よ?誰かが情報流さなくてもいつか終わってたわよあの家」

「いや、確かに終わってるけど、誰かって…」

 あんただろうそれ流したの。

「誰かよ、善意の誰か。例えば直接凸った一帆とか」

 止めてあげなよ。何その自爆テロ。

「何よその目、別に行けって言ったわけじゃないわよ。ちょっと相談にのって、ムカつくよねって話で盛り上がって、慰謝料くらいバーンと出してあげるから好きにやってくればって言っただけよ」

 示唆してる示唆してる。完全に示唆してるよ。

「そしたら勝手に芋づる式にでてくる出てくる、いやあ人生とか家庭なんて儚いわよね。しかも夫婦関係が崩壊している上に、殺人未遂までやらかしちゃってるから、口外しない代わりに一帆の払いはなし。おっさんも退職して公安の監視つきだし笑いが止まらないってのはこのことよ」

「……」

「いやあ、一帆の付き添いに友達の弁護士つけてあげてよかった」

 この人を敵に回すのは絶対にやめよう。

「で、あと聞きたいことは?」

「いや、俺が聞きたいことっていうか、都さんが俺を呼んだんじゃないですか」

「ん、まあ事件の概要を聞きたいかなと思ってね。あとは、関東にもう一つ仕事をお願いしようと思って」

「これ以上増えたら死んじゃうんですけど」

「実務の方は補佐に恋をつけるから。それなら大丈夫でしょ」

「まあ、それなら。で、なんです?仕事って」

「虎徹琢磨くん育成計画。向こうの司令官からも頼まれちゃってさ」

「お断りします」

 なにそのただひたすらに面倒くさそうな計画。

「まあまあ、そう言わないで」

「そういうのはチアキさんにでもお願いすればいいじゃないですか」

「チアキさんはJC寮常駐で寮母さんしてもらおうかって話になってるのよ」

「じゃあひなたさんとか」

「自分の娘も満足に育てられないやつにできるわけ無いでしょ」

「楓」

「あんた、あの可愛らしい男の子がユキリンみたいになったら責任取れるの?」

 なんでや、ユキリン人懐こくて可愛いやろ。見た目はアレだけど。

「狂華さん」

「そんなことしたら、おだてられた狂華が調子に乗ってまたにゃんにゃん言わされるでしょうが」

 やめて差し上げろ。

「じゃあ精……駄目だ、もう人がいない!」

 慢性的な人員不足のツケがこんなところにも!

「ということでよろしくね」

「うい……」

「まあ、もしも誰か適当な人がいればその子に任せてもいいけど」

「………探してみます」

 まあ、俺と都さんがすぐにピンと来ない時点でそんな子がいるとは思えないけどね。

 



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