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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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接敵 2

「おっかしいなあ……」

「どうしたんです?」

 本格的に出始めた怪人や戦闘員を切り裂きながら進む楓と喜乃くんの後ろで俺が頭をひねっていると、愛純が俺の顔を覗き込みながら尋ねてきた。

「いや、犬猫コンビの反応がさ。みつきさんの証言によると、あの二人はこっちの魔法少女をかなりの人数殺すことになるはずなんだよね。それこそ俺とか愛純もあの二人に殺されているパターンがある。なのに二人はまったく戦う素振りを見せなかった」

「うーん……でもそれって虎徹さんが無事で、正宗くんも無事だからじゃないですか。だから未来が変わってあの二人はこっちに敵対しなかった」

「かなあ……」

 まあ、その可能性が高い気がするんだけど、おそらく士官候補生だと思われる二人を見て、猫田くんが言った「お前は誰だ」って言葉が気になる。

「もしくは、戦争が起こらないっていう、最後のみつきさんの世界線に近づいているとか」

「だといいけど、実際こうして戦争が起こっちまってるからなあ…」

「まあ、誰も正解を知らない以上、考えてみても答えは出ないですよ。それより今は、目の前の敵です」

 そう言って愛純は楓と喜乃くんが仕留め損なった怪人をパンチ一発で粉砕する。

「そうだな」

 分析のために考えるのをやめるわけにはいかないが、現状で正解を追い求めることに意味は無いだろう。

 何かがおかしい気がする。みつきさんの話とは何かが違う。違うからこそ、この先何が起こるかわからない。

 誰も死なないのか、今までの予言以上に死ぬのか。

 足りないピースは何だ?多いピースは?形の違うピースは?今出来上がっている絵はどういう形だ?

 たりないピースは狂華さんだ。みつきさんの話では彼女は常に最前線で指揮をとっていたはずだ。にも関わらず、現在彼女はおとなしくこの城に捕まっている。

 多いピースは、松花堂ちゃん。彼女については経歴は一切不明だが、一応研修時代から存在していたことは九条ちゃんさんに確認済みだ。

 ただ、九条ちゃんさんに聞いた研修中の彼女と今の彼女では戦闘スタイルが180度違うということが気になるし、あれだけ好戦的な性格なのにおとなしく本部警備をしているというのも気になる。

 形の違うピースは結構多い。わかりやすいところ、近いところだと真白ちゃん、小金沢さん、タマ、それにJKの二人の立ち位置と、深海一美か。

 JKのように意図的に変えてきた部分もないではないが、真白ちゃんのパワーアップや、小金沢さんの物分りの良さは完全なイレギュラーだ。タマの離脱の理由も今回のようなパターンは聞いていないし、深海一美の回復の速さも例を見ない。

 出来上がっている絵、つまり状況・結果で大きく違っているのは、時期と護衛が誰一人死んでいないこと。黒服に死人がでていないのはもちろん、魔法少女に至ってはもう既に戦線復帰していて、補給部隊の三人は今日もせっせと物資を手配してくれている。

 そして大きく違っている部分がもう一つ。

 都さんたちを襲ったのが、虎徹達のうちの一人ではなく、爆弾だったという点だ。

 その爆弾がなんであったのか、どういう筋から出たものかというのは、都さんの師匠とも言える、元陸将で現在国会議員の五十鈴議員がやってくれているはずだが、なぜ虎徹弟が自分たちで襲うという確実性を捨て、わざわざ爆弾なんていう不確実な手段を使ったのか。そこがまったくわからない。

「……結局ピースをもうちょっと集めないと完成する絵は見えてこないか」

「朱莉さんがなんかかっこいいっぽいこと言ってる」

「いや、そういうつもりはないけどな」

 マジでそういうつもりはない。まあ、俺から溢れ出す男の魅力が愛純の心を捕らえてしまったという可能性は無きにしもあらずだが。

「うわぁ…なんかドヤ顔しているし」

「マジでそういうんじゃないって。ただ、考えてもわからんから、前の二人をみならってとりあえず目の前の事に全力を尽くそうかなと思ってな」

「そうしたほうがいい」

 いつもとは違うトーンの大和の声のあと、俺達の周りの壁から怪人が次々現れる。

「大和……」

「すまんな、狂華の為だ。お前たちにはここで引き返してもらう」

「狂華さんの為?」

「ああ。あいつは今……いや、なんでもない。ここでお前たちを撃退させてもらう」

「ちょっと待て大和。状況をちゃんと理解しているか?狂華さんが無事で、虎徹も正宗も無事。都さんも命に別状はないし護衛の人たちも生きている。だからここで降伏して、宣戦布告を取り消してもらえれば、全部元通りになるんだ。だから、こっちに協力しないまでも黙認してもらえれば――」

「それは狂華が無事ならだろう」

「どういうことだ?」

「良いからもう帰れ。琢磨はこっちで片付けて、きっちり梱包して送り届ける。それと、狂華は今の自分をお前たちに見られたくないと思う」

「それって……」

 どういうことだ。狂華さんは一体虎徹弟に何をされたんだ。

大和がそばに居て居て滅多なことは無いと思うが、洗脳とかされていたらシャレにならないぞ。

「とにかく交渉決裂っていうことで良いんだな?」

 そう言って楓が俺を大和からかばうような位置に立ち、その横に喜乃くんが並ぶ。

「じゃあここは露払いの僕らが引き受けますんで、愛純と朱莉さんは奥へ」

「…行きましょう、朱莉さん」

 大和もこっちの二人もやる気で、愛純も進む気ならもう俺は頷くしか無い。

「大和、最後に一つ聞かせてくれ。狂華さんに何をした?マインドコントロールか?拷問か?それとも改造手術とかそういうことか?」

「俺達は何もしていない。でも今のあいつは…あいつは…とにかく帰ってくれ!狂華は必ず正気に戻して帰らせるから」

 マインドコントロールをされていない状況で正気ではない狂華さん。

 考えられるのは都さんを守れなかった、しかも仇も取れないで囚われてしまった自責の念から精神が崩壊したとか、もしくは自傷しているとかそんなところだろうか。

 だとしたら、こんな所に置いておくより連れて帰って都さんに引き合わせたほうが良いだろう。

「そうか、話してくれてありがとう。でもそういう話を聞いて、黙って引き下がるわけにはいかない。俺達は虎徹弟を倒して、狂華さんを連れ帰る。楓、喜乃くん。悪いが頼むぞ」

「おうよ」

「任せてください」

 そう言って二人は大和に跳びかかり、俺と愛純は大和のすきを突いて横を走り抜ける。

「やめてくれ!後生だから放っておいてやってくれ!」

 後ろから大和のそんな叫び声が聞こえてきたが、俺と愛純は振り返らずに廊下を走り続けた。




 まあ、大和にはあんな大見得切ったけど、考えてみれば俺も愛純も死亡フラグビンビンなわけで、今考えればおとなしく大和にお願いすればよかったかなという気もしないでもない。

「どうしたんです?真面目な顔して」

「いや、大和に頼んで狂華さんの回収と虎徹弟、大和は琢磨って呼んでたけど、あいつをとっ捕まえてもらうっていうのが一番平和だった気がするなあと」

「まあ、私も朱莉さんも死亡フラグが立ってますからね」

「そうなんだよなあ…」

「まあ、でも狂華さんがおかしくなってても、連れて帰って都さんに会わせてあげればなおるだろうし、あの人に頼むより私達が連れて帰ったほうが早いですよ。それに、ここで完勝すれば二度と私たちに喧嘩を売ろうなんて思わないでしょうしね、その……アクマさんでしたっけ?」

「琢磨な」

 多分わざとだろうけど、一応間違いは訂正しておこう。

「そのブクマさんを私達の手でこてんぱんにするっていうのが大事なんだと思います」

 ……なんかもういいや、わざわざ名前を間違えて呼ぶっていうのは、きっと愛純なりのストレス解消法なんだろうし、訂正しても直さないだろう。きっと。

「まあな…ただ、無理して死にたくねえなあとは思う」

「でもでも、みつきさんの予言だと、私達が島にたどり着いた時には防衛準備ばっちりで突入も命がけだったっていう話ですけど、実際はちょいちょい怪人が出てくるくらいで、ここまで余裕ですし、状況は好転してると思いますよ」

 そう言いながら愛純は目の前に現れた怪人を胴回し回転蹴りで粉砕する。

「不意打ちがほぼ完璧に決まったからな……ところで愛純」

「はいはい」

「狂華さんを先にみつけよう。もしも狂華さんをみつけるよりも先に琢磨の部屋にたどりついちゃったら、お前は狂華さんを探しに行ってくれ」

「……死ぬ気ですか?」

 愛純の声が低くなるのと同時に、愛純のほうから、刺すような視線を感じる。

「死にたくねえって言ってんだろ。だから狂華さんをみつけてさっさと戻ってきてくれって話。二人で狂華さんを見つけてとんずらこくなり、三人で戦うなりするのが一番いいけど、先に琢磨がいる場所がわかっちゃったら指揮系統の邪魔をしがてら俺が時間を稼ぐから、最悪ひっぱたいてでもなんでもいいから狂華さんを正気にして連れて来てくれ。そうしないと勝ち目が薄い」

 なんと言っても琢磨は虎徹が、あの、狂華さんが一人では太刀打ちできなかった大和よりも強い虎徹が『あいつを生かして捉えるのは難しい』と明言した男だ。その相手と当たるならばできるだけ戦力が多いほうがいい。

「まあ、愛純が戻ってくるまでは口八丁で時間を稼ぐからさ」

「それだったら私が――」

「駄目だ。俺にできる時間稼ぎがお前じゃできない」

 できるかもしれないけど、そんなことさせて万が一のことがあったら、柿崎くんに申し訳が立たないし、愛純のことをよろしくと頼まれた柚那や朝陽に合わせる顔もなくなる。

「……絶対に死なないでくださいよ。柚那さんにもあかりちゃんにも、朝陽にも他のみんなにも申し訳が立ちませんから」

 なるほど、愛純も同じようなことを考えていたか。

「ちょ、何笑ってるんですか!真面目な話してるのに!」

「ごめんごめん。同じこと考えてたなと思ってさ。……なあ、愛純」

「はい」

「俺はここでは死なん。だからお前も死ぬな」

「……はい」

 立ち止まって頭を撫でた俺に向かって、愛純は泣きそうな笑顔でそう返事をする。

「よし、じゃあ行ってくれ」

 そんな会話をする俺達の目の前には見るからに他の部屋とは違う大きな扉がそびえ立っている。

「はい…」

「早く帰ってきてくれよ」

「もちろんです!すぐ狂華さんをつれて戻ってきますから、朱莉さんも絶対生き残ってくださいよ!」

「わかってるって」

「約束ですからね」

 そう言ってつきだされた愛純の拳とグータッチをして別れた後、俺はゆっくりと目の前の大きな扉を押し開いた。

 



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