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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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決戦前夜

 ブリーフィングルームでひなたから作戦のあらましを聞いた一美は、都が自分を釈放したのはこのためだったのかと納得していた。

「私とあなたが組むというのは、あなた的にはアリなんですか?」

「他に組みたい奴がいるならチェンジも可だけど、お前朱莉とも楓ともそんなに交流ないだろ?というか、朱莉は愛純と組んだほうがいいだろうし、楓も普段から組んでる喜乃のほうがいいだろう。ということで、俺がお前と組むってわけだ」

「私はともかく、実力的には津田喜乃より能代こまちのほうが上でしょう?だったらあなたが宮本楓と、私が能代こまちとという組み合わせでも……」

「ああ、もともと俺がこまちと組むつもりでこまちに声をかけたんだけど、あっさり『やだよー』って断られた」

「エッ!?それでいいんですか!?」

 一応国の一大事を『やだよー』の一言で断ろうとするこまちにも、断れてしまうということにも驚いて一美が驚きの声を上げた。

「あいつは元々そんなにこの国がどうしたこうしたってところには関心がないんだ。あいつが興味があって、守りたいとかそういう風に考えるのはセナとか寿とか、そういう自分の周りの人間だけだから。で、今回もその周りの人間が無事なら別にいいかっていうのがあいつの考え。もちろん、強引に寿を引っ張りだすとか、セナを突入部隊に入れるとかすれば、ついては来るんだろうけど、そんなことをしてあいつに後々まで恨まれたくない。だからあいつは東北チームや異星人組、海外将校と一緒に包囲戦線」

「自由すぎませんか?」

「この国が…というか、この国の政治家があいつに不自由を強いたからな。こっちもあんまり強くは言えないんだよ」

 一美もその話は風月から聞いていたので、納得はできないまでも、理解はできた。彼女の置かれていた立場、気持ちを考えれば国からの命令だということで強要、強制しても反発しか生まないだろう。

「ちなみに」

「うん?」

「私も『やだよー』って言えば断れるんですか?」

「まあ、嫌なら仕方ないんじゃないか。そうしたら俺はチアキと組むけど……ただ、チアキが抜けた分包囲戦線が薄くなるから一美にはそっちに入ってもらうぞ」

「い、いや、そうじゃなくて、相馬さん的にはどうなんです?」

 別に本気で断ろうと思ったわけではなく、少し焦らしてひなたに頭を下げさせて優越感に浸りたいと思っていただけの一美は、ひなたがあっさり引いてしまったことで少し焦った。

「え?何が?」

「私じゃなくてチアキさんでも構わないんですか?」

「うーん……特に不都合はないかな。まあ、チアキが指揮してくれない分は護衛にこまちを付けて寿にでも頼めばいいし」

「そうじゃなくて!その……」

 頭を下げさせるどころか、このままだとひなたと組めないと焦ると同時に、自分がひなたと組みたがっていることに気づいた一美は心の中で必死に『いやいやそんなことない』と首を振るが、否定すればするほどここで本当に断ってしまったら、『陽太は自分のことなんて忘れてしまうんじゃないか』だとか『せっかく陽太と組めるんだからチャンスを活かさなきゃ』だとかそんな考えが浮かんできて一美の心をかき乱す。

「わ、私がっ」

色々な考えが頭のなかを駆け巡った結果、テンパってしまった一美は思わず声が裏返る。

「コホン…私がいなくても大丈夫なんですかね!?」

「いや、だからダメならチアキと組むって言ってるだろ。あとはまあ組んだこと無いけどユウとかあのへんでも……あとは実力的に朝陽とかになるけど。俺が連れて行くっていうと朱莉がダメだって言いそうだし…」

 チラチラとひなたの顔をうかがう一美の視線にはまったく気づかず、ひなたはパートナー候補者の名前を指折り数える。

「な、ナンバー4より、ナンバーワンの己己己己狂華に合わせて調整された私のほうが強いですよ!?」

一美はそう言って手のひらで自分の胸を叩いてアピールするが、ひなたはそんな一美を見て小さく溜息をつく。

「いや、なんかドヤ顔で言ってるけど、お前は狂華より全然弱いからな。魔力で言えばせいぜい、チアキとどっこいどっこいだ。で、殺し合いだったら確実に楓のが強い」

「そういうこと言っているんじゃないんですけど!!」

「何怒ってんだよ」

「別に怒ってませんけど!正当に実力が評価されないのが面白く無いだけですけど!」

「ま、いいけどさ。実力がどうこうっていう以前に、そもそも俺はお前を戦いに巻き込むことに抵抗がある」

「どういうことですか?」

「いや、こまちじゃないけど、お前が今ここにいるのって不可抗力が大きいだろ?親だったり、教団だったり、恵だったりさ」

「それはまあ、そうですけど」

「だからあんまり巻き込みたくないっていうのが本音なんだよ。まあ、こんなこと言ってても、公安時代にこまちのことはさんざん巻き込んできたし、不可抗力じゃなくてここにいる人間なんてそんなに多くはないんだけどさ」

 不可抗力でなく魔法少女になったメンバーが少ないというのは、一美も資料で読んで知っていた。病気、不慮の事故、障碍、金銭的な問題。それぞれ形は違っていてもほとんどの魔法少女がそういった何かしらの問題を持ち、それを解決するために魔法少女になっている。要は何らかの人生の障害をリセットしてのやり直しなのだ。

現に目の前にいるひなたも阿知羅彼方を捕まえる時に負った傷が元で足が不自由になり、それを解決するために魔法少女になったくらいで、逆に不可抗力なしで魔法少女になったメンバーなど、都子飼いの元自衛官の面々と、桜、夏樹くらいなものだ。

「……なんで私だけ巻き込みたくないなんて言うんです?相馬さんが言ったように殆どの人に多かれ少なかれ事情があるのに」

「俺はお前の子供の頃を知ってるからな。それこそいまのみつきよりも小さい、かわいらしい頃のお前をさ。だから俺はあんまりお前を戦わせたくないって思っているっていうのはある」

「だとしても今の私は子供の頃の私とは違うし、みつきよりも大人です」

 期待していた言葉とは少しだけ違っていたが、当時陽太に対して、自分で思い返してみても、ちょっとどうかなと思ってしまうような扱いをしていた自分のことを、かわいらしいと言われて、一美は悪い気はしなかった。

だが、素直ではない一美はその気持を隠して少しだけひねくれた返事を返す。

「まあ、そりゃそうなんだけどな。みつきはこっそりとではあるけど、成長を見てきたけど、お前は十何年かぶりにポンっと会ったから、成長している実感が無いというか…まあ、ほら。親戚のおじちゃんみたいな感じでさ、いつまでも子供の頃の印象があるんだよ。お前って特に実績もないし」

 ひなたの言葉を聞いていた一美は、途中までも『うーん…』といった気持ちだったが、最後の一言でカチンと来た。

「……実績がない?」

「ほら、南アフリカの時もみつきに手玉に取られていたし、俺が本気を出しても勝てないってほど強かったわけじゃないし、刑務所からの護送中も俺頼みだったろ?だからこう、戦っている所が印象に残ってないっつーかさ」

「ああそう………そうですか。実績がたりませんか」

 現在国内で誰一人、それこそ異星人組まで含めてもみつきさんに勝てる人間がいないというのに、それを引き合いに出すなよ。とか、本気を出してないとか言う奴に限って本気を出しても大したことないんだよ。とか、そもそも護送中に襲われるハメになったのはひたなが確認を怠ったせいじゃないか。とか、色々と言いたいことはあったが、一美はそれをすべて胸に秘めてニッコリと笑う。

「ふふふ…そう。だったら、実績をつくってやろうじゃないですか!やってやりますよ……実績を作ればいいんでしょう!?ただ、私が強いとわかったら、土下座しなさいよ、馬一号!いえ……駄馬1号!」

 そう言って一美は右手で机を叩いて左手でひなたを指差す。

「ああいいぜ、お前がしっかり実績を作って俺より強いって証明できたらな」

「くっ…だったら、敵を全部殲滅したあと、あんたも倒してやる!」

「おー。がんばれよー」

 そんな気の抜けた返事を返しながら、ひなたは『こいつチョロいなー』と内心ほくそ笑んだ。




「と、いうことで。確率は相当低いし、あたしがそうならないように気をつけはするけど、喜乃は明日死ぬかもしれんから今夜はたっぷりかわいがってやってくれ」

「了解です、楓様」

 本部で関西チームにあてがわれた会議室でのブリーフィングのラストに楓が口にした言葉に、鈴奈がしゃちほこばった敬礼を返しながらそう答える。

「いやいや、おかしいですよね。なんで僕がかわいがられるほうなんですかね。ここは元男の僕がこう、泣きじゃくる鈴奈を慰めて、翌朝鈴奈の寝顔を見てかっこ良く旅立つ感じになるところじゃないですか?」

「いや、だってお前女々しいじゃん。朱莉並に」

「そうだぞ喜乃。お前は喋ると朱莉並に残念で女々しいのだからおとなしくしていろ」

 そう言って楓と鈴奈は予め練習をしていたのではないかと思うくらいピッタリのタイミングでため息をついた。

「朱莉さん関係ないし僕は別に女々しくないですよ!ねえ、涼花と松葉は僕が女々しいなんて思ってないよね!?」

「自分が弱いくせに楓様を逆恨みして魔法少女になってまで追いかけてくるなんて女々しい以外の何物でも無いと思いますけど」

「ノーコメント」

「ちょ…イズモさーん……」

「大丈夫、私は今涼花が言ったようなのも嫌いじゃないわよ」

 涼花にははっきりと、松葉には言外に女々しいと言われた喜乃はイズモに助けを求めるが、イズモは腐った笑顔でそう言って親指を立ててみせた。

「違う!僕が望んでいた答えと微妙に違う!」

「まあ、喜乃のことはさておきとして、涼花、あんたは自分の隊に戻らなくていいの?有栖は聖のところに打ち合わせに行ったけれど」

「え?何を言っているんですかイズモ。私が所属しているのは関西チームですよ?」

「……はぁ、まあいいわ。どっちみちうちも楓と喜乃以外は防衛だしね。じゃあ、防衛組はもう少し打ち合わせをするわよ」


 防衛組のミーティングと言う名の女子会から追い出された楓と喜乃は本部の自販機コーナーで飲み物とパンを買って休憩することにした。

「……大丈夫か?」

「え?何がですか?」

 楓の質問に、喜乃はかじっていたパンを飲み込んでから楓の方を向いて首を傾げる。

「いや…死ぬかもしれないっていうのにお前も鈴奈も普通だなと思ってな」

「そんなの僕だけじゃなくて、みんなそうじゃないですか。例の予言で名前が上がっているのがたまたま僕や鈴奈というだけで、もしかしたらそれが何かのきっかけでズレて、死ぬのは松葉かもしれないし、涼花かもしれないし、有栖になるかもしれない」

「まあ、あたしやイズモの可能性も無きにしもあらずだな」

「そういうことですよ。だから気にしてもしかたないし、みんなが自分の役割を一生懸命やるしか無いなあって」

 お腹が空いているのか、喜乃はそう言って再びパンにかじりつく。

「強くなったな、お前」

「それなりに修羅場をくぐってきていますから。それに、この一年遊んでいたわけじゃないですしね。今やったら去年の武闘会の時よりは楓さんを苦戦させるくらいの自信はありますよ」

「おいおい、あたしも強くなってんだぞ」

「あはは、もともと弱いんで、伸びしろがあるんですよ。僕は」

「そりゃ頼もしいな」

 そう言って楓もパンの袋を開けてかじりつく。

「というか、楓さんはなんで突入部隊に僕を選んだんです?僕より上位の子は何人もいたでしょ。同期のみつきちゃんとか、あとはこまちさんとか、朝陽とか、和希君とか」

「いや、お前はなんだかんだあたしのクセを知ってるし、隙ができるタイミングも知っている。そういう隙間を埋めてくれるの得意だろ?」

「まあ、イズモさんはともかく、楓さんも鈴奈も松葉も涼花も技の後の隙が大きいですからね。そういうところについては有栖と研究していたんでよくわかってますよ」

 喜乃の口から意外な組み合わせが出たことで楓はすこしびっくりしたような表情を浮かべる。

「有栖と?」

「はい。あの子、七人の中では前衛担当だったってこともあって近接戦闘の理論とかそういうのはよくわかっていて、あと観察眼もあるんで撮影の後とかにちょっと打ち合わせたり対策を練ったり」

「そんなことして良く鈴奈に怒られなかったな。嫉妬深いのに」

「実はイズモさんには話してあって、その間の鈴奈の遊び相手をお願いしてたんですよ」

「色々やってんだな」

「楓さんが教導隊行っちゃったせいで、楓さん抜きで実戦を戦う可能性があったんですから、そりゃあ色々やりますよ」

 そう言って一口ジュースを飲んだあと、喜乃は「有栖と涼花の時は楓さんに頼りっきりでしたし」と付け加えた。

「有栖は怒ったり泣いたりしなきゃあれで結構強いし、頭も切れるからな。まあ、それでもあたしには敵わないけど」

「いやあ、強さはともかく多分頭は……」

「え?」

「あ、なんでもありませんなんでもありません。それはそうと楓さん」

 『頭は有栖のほうが全然いい』とうっかり口を滑らせかけた喜乃は、話を逸らすことにした。

「ずっと気になってたんですけど、なんで一人称『あたし』なんですか?劇中はともかく普段は『俺』でも良いと思うんですけど。朱莉さんとかひなたさんみたいに」 

 楓は、魔法少女になる前、宮本雅史として生きていた頃はかなり男っぽかった。それは言葉遣いもそうだし、服装なんかについてもそうだ。しかし、再会してからの雅史は多少ガサツなところは残っているものの、どちらかと言えば男性的というよりは男役、タチ役といった感じで、ナチュラルメイクではあるものの化粧もするし、TPOによってはかなりガーリーな格好も辞さない。実は喜乃は楓と再会してからそこがずっと気になっていた。

「え?だって今は女なんだからそりゃあ一人称だって変えるさ」

「いや、だからそれは女として振る舞わなきゃいけないときだけですよね。そうじゃなくて僕とかイズモさんの前では『俺』で良いんじゃないですか?やりづらくないですか?」

「ああそれは平気なんだ。この格好でいる時は『あたし』ってしか言えないように、常に自分に魔法をかけてあるから」

「……はい?」

「だから、一人称が『あたし』なのは、魔法のせいなんだよ。で、雅で雅史に戻ると、その魔法が無効化されるから『あたし』じゃなくて『俺』に戻ると。そういうわけだな」

 楓の一人称の理由を聞いた喜乃は口をあんぐりとあけて、しばらく呆然としたあとで、大きく息を吸う。 

「……ま」

「真面目だってか?別に意外じゃないだろ?俺は昔から――」

「魔力の無駄遣いだーーーーーー!」

「いやいや、無駄遣いってことはないだろ。ちゃんとキャラ作りしないとダメだって相馬の旦那にも言われたし」

「完全におちょくられた結果じゃないですか!」

「え!?」

「あの人自信がキャラ崩壊させまくってるのにキャラがどうこう言われても説得力ないですよ!」

「………確かに!」

 ここ一年くらいのひなたのキャラの変わりぶりを思い出した楓はたっぷり間をとってからポンと手を叩いた。

「うっわぁ、気になったまま死にたくないから冥土の土産にでもと思って聞いた僕がバカだった……こんなしょうもない理由だったなんて…」

 あまりのしょうもなさに喜乃は肩を落として大きな溜息をつく。

「しょうもないとはなんだ。この秘密を知ってるのはあたしとイズモと相馬の旦那と桜と精華とチアキさんとこまちと寿とみつきくらいだぞ」

 そう言って楓は胸を張るが、その後も『あ、梨夏もだったか?』とか言っているので何人に話したかは定かではなさそうだ。

「結構あっちこっちでべらべら喋ってんじゃないですか!ああ…もう、ほんと聞いて損した」

「そう言うなよ。あたしの事を今までよりもよく知ることができてよかったじゃないか」

「いや、しょうもなさすぎてもう知りたくもないですわ!こんなんだったらもっと別のこと聞けばよかった」

「別のことって?」

「まあ、色々あるんですけど、なんかどれ聞いてもしょうもないこと言われそうで怖くて聞けないです」

 喜乃はそう言って肩をすくめてみせる。

「そっか。じゃあ無事に帰ってきて、それからゆっくり聞いたら良い。それならいくらでも時間があるんだからな」

 そう言って楓は喜乃の頭をポンポンと叩き、喜乃は小さな声で短く返事をしてゆっくりうなずいた。




「恋人ほったらかしで残業してる人発見。もうすぐ深夜手当もついちゃう時間ですよ~」

 そう言って愛純は朱莉の首筋にジュースの缶を押し当てた。

「恋人ほったらかしで帰ってきたやつに言われたくないな」

 朱莉は愛純からジュースを受け取りながら、そう憎まれ口を返す。

「私はいいんですよ、昼間未練が残らないほどイチャついてきましたから」

「俺も昼間嫌ってほど……いや、そんなにイチャついてないかも。公園行って気絶して実家帰ってとんぼ返りだったからなぁ…」

「うわ、柚那さん可哀想」

「別に問題無いだろ。虎徹弟の件が片付いたら存分にいちゃつけばいいんだから」

「そうやって延ばし延ばしにしていると……後悔するんじゃないですか」

 愛純はそう言って朱莉のデスクに腰掛ける。

「さて、それはどうかな。我に秘策あり」

「……なんかドヤ顔でやる気マンマンみたいですけど、私はやりませんからね、アユに変身するってやつ」

「え!?なんでだ?」

「いや、いつもと違う格好だと普通に戦いづらいじゃないですか。あんな格好してたらむしろ死亡率が上がりますよ」

「うーん…まあ、それはそうかなあ。俺もジュリの格好だとなんか落ち着かないし」

「でしょ?だからいつもどおりの格好でいつもどおりに戦うのが一番ですよ……で、いつもどおりに帰ってきましょ」

 そう言って愛純は机の上に置いていた朱莉の手の上に自分の手を重ねる。

「そうだな」

 朱莉はそう言って笑うと、空いている方の手で机の引き出しを開けて、なかから可愛らしいラッピングの袋を取り出した。

「これ、柚那から愛純にってさ。いつもの回復飴より気合を入れて作ったから回復量も多いはずだってさ」

「大切に使わないとですね。じゃあ私も預かっていたものを」

 そう言って机の上から降りると、愛純はトートバッグの中から茶色い紙袋を取り出した。

「なにこれ生理用品?」

「ぶん殴りますよ?」

 ニッコリ笑いながら拳を握る愛純を見て、朱莉はすぐに机に額をこすりあわせて謝る。

「ごめんなさい。冗談が過ぎました」

「まったく。とりあえず開けてみてください」

 朱莉が愛純に促されて袋を開けてみると、中には小さなお守り袋と天然石のブレスレットが入っていた。

「お守りと…こっちは?」

「そっちのお守りは柿崎さんから。ブレスレットは朝陽からです」

「朝陽から?」

「ピンチになると助けてくれるアイテムらしいです……まあ、すごいドヤ顔でそう説明したきり細かいことを教えてくれなかったので、あくまで保険……………というのもあれですんで、やっぱりお守り程度に思っておいたほうがいいと思います」

「ま、まあ気持ちが大事だもんな」

 そう言って特に朝陽のフォローをしないあたり、朱莉も愛純と同意見のようだ。

「じゃあこれは俺から」

 そう言って朱莉は愛純にカエルのマスコットがついたストラップを手渡した。

「なんですかこれ」

「昔から無事カエルって言ってだな」

「ああ、そういうことか。なんでカエルなんだろうって思っちゃいましたよ。というか、オヤジギャク好きですよね、朱莉さん」

「え?」

「まあ、でも今回は気が利いていたんじゃないですか?『カエル』と『帰る』をかけたのはちょっといい感じですよね」

 愛純はそう言ってストラップのカエルを指で弾いて笑った。

「お、おう」

 無事カエルが朱莉発案だと思っている様子の愛純にジェネレーションギャップを感じながらも朱莉はそう言って頷いた。

「まあ、作ったのは俺じゃなくて華絵ちゃんだけどな」

「え?華絵ちゃん?」

「ああ、試作品らしいんだけどこれもお助けグッズらしい」

「華絵ちゃんがそんな手作りのグッズを朱莉さんに?」

「…まあ、俺のはジュリ宛にもらったものなんだけどね」

「そんなことだろうと思いましたけど…私宛っていうのは?」

「今日、遊びにも行かずに頑張って俺以外の突入部隊とジュリの分を作ったんだそうだ」

「本気で嫌われていますねえ…何したんですか?覗きですか?もしくは下着ドロ?」

「してねえよ。こまちちゃんがあることないこと吹き込むからだよ」

「ああ、あの人あれで過保護でシスコンですからね。セナもボヤいてましたよ」

「だな。まあ、こまちちゃんは実家が崩壊したのは自分のせいだと思っているみたいだから、最後に一人残った家族である華絵ちゃんを何がなんでも守りたいっていう気持ちはわからんでもない。俺も両親とか姉貴達になにかあって、あかりたちのうち一人だけ生き残ったらこまちちゃんみたいになるだろうからな」

「朱莉さんは今でも変わらないでしょ。まあでも、あの人もひねくれたフリして、変なところクソ真面目ですよね。あれは心神喪失状態でだれでもああなっただろうって事例だと思うんですけど」

「ま、それはこまちちゃん自身が折り合いつけることだからな……さて、じゃあそろそろ寝るか。午前中には起きて夕方にある虎徹弟との最後の会談までに色々しなきゃいけないし」

「そうですね、明日は私がずっとつきっきりで手伝いますからなんでも言ってください」

「明日っていうか、もう今日だけどな…あ、そうだ愛純」

「なんです?」

「もしかしたら最後になるかもしれないし、久しぶりに三人で寝るか?もちろん柚那を真ん中にしてさ」

「はあ……」

 朱莉の提案に愛純は大きな溜息をつく。

「あ、そうだよな、今は柿崎くん一筋だもんな、愛純は。悪かったな変なこと言って」

「いや、別にいかがわしいことするわけじゃないからそれは良いんですけどね」

「じゃあなんでそんな大きなため息つくんだよ」

「それだったら当然朝陽も呼んで四人でしょうよ」

 そう言って飲んでいたジュースの空き缶をゴミ箱に投げ入れた愛純は「後で部屋行きますね~」と言って執務室を出て行った。





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