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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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戦技研の一番長い日 5

みんなからの報告としばらくにらめっこした後、俺はさきほどリオさんと会談をした司令部の通信室で虎徹達の母艦と通信をしていた。

「なるほどねぇん…」

 現在画面に映っているのは、見目麗しいリオさんとは違う、金髪のウイッグをつけ、青くなったひげの剃り跡と変にケバケバしい化粧が特徴の、俺の個人的な偏見でものを言ってしまえば新宿2丁目あたりでウロウロしていそうな女装をした男性だ。

「それについてはこっちは関知してないわよぉん」

「そうですか。じゃあ例えば――」

「あの子があなたたちの仲間を攫ってしまったというのなら、力づくで取り戻すのは問題無いわぁん」

 どうでもいいけど、このしゃべり方どうにかならないのだろうか。

 まあ、格好についてはわかる。虎徹からも聞いていたし都さんからも聞いていた。

ちなみに、彼がなぜ女装しているかというと、彼は男性しかいない艦の中での清涼剤…のようなものになっているということだ。

つまりは女王アリシステムとでもいうのだろうか。司令官が女装して彼らのシンボル的のようなものになり、功績を立てれば彼が直々に褒美を遣わす。そういったことで士気を上げ、結束を図ると。そういうことらしいのだが、個人的な感想を言わせてもらえば、彼から褒められて、頭を撫でられたりでもしようものなら、指揮は下がるだろうし、結束どころか散り散りになって逃げ出したくなると思う。

というか、正直、彼に褒められたとしても、一服の清涼剤どころか、一服盛られた気分にさせられると思う。

 まあ、見た目のことを除けば、彼はリオさんよりはかなり話が通じるので「もう寝る」と言ってさっさと帰ってしまった松花堂ちゃんなしでもこうして話ができるのが救いといえば救いだ。

「では」

「反逆とまでは言わないけれどぉ、この件については私たちはノータッチで行かせてもらうわぁ」

 彼の言っている「関知していない」が本当かウソかはわからないが、これがきっかけで戦争に突入する可能性は排除しておくことが重要なので、ノータッチという言質をとれたのは大きい。

「ただねぇ、どうも彼、すこしずつ準備をしていたみたいでぇ、何人か既に地球に降りているのよぉ」

 まあ、そうだろうな。

虎徹と正宗はこちらで抑えている以上、増援なしではあの島には虎徹弟と大和、あとは犬猫コンビくらいしか戦力がない。彼らの魔力が膨大で手強い相手と言っても4人と戦闘員、怪人くらいの戦力にこの国の魔法少女すべてであたって負けるというのは考えづらい。それは虎徹弟も考えているだろうし、であればこっちに喧嘩を売る前にこっそり増援を呼んでおくだろう。

「どういうことですか?こちらの受入人数以上には地上に降ろさないという約束ですよね」

「書類偽造されちゃったみたいなのよねぇ」

 なるほど。

本当に騙されたのか、それとも、裏で虎徹弟とつながっているのかはわからないが、落ち度はあっても故意であることを立証できないこちらからは強く抗議はできないというわけだ。

このおっさん、意外にクセモノかもしれない。

「何人降りているんですか?」

「5人よ」

 一気に戦力が倍増していた。

「全員幹部クラスってことですよね」

「士官候補生よ。虎徹と大和以外はみんな訓練生なんだからぁ」

 正宗一人でもJC全員でギリギリ勝てるくらいであることを考えれば幹部だろうが士官候補生だろうが油断できない相手だ。

「……まあ、その話を信じるとして、なんで情報を教えてくれるんです?」

「んー…ほら、こちらは一応移民をお願いする立場なわけだし、こちらの人間が迷惑をかけているというのであれば協力は惜しまないつもりよん」

 胡散臭い。アメリカのドラマの中でロシアが妙に協力的だった時のような胡散臭さだ。

「それと、友達が傷つけられたら黙っていられないでしょ。だからお仕置きもやむなしってワ・ケ」

 そう言って彼はウインクをしてみせる。

「友達?」

「やあねえ、都ちゃんのことよ。というか、彼女の怪我は大丈夫?」

 いや、あの人多分、この人のことを友達とかそんな風に思ってないと思うぞ。

「……肉体的な外傷はもう治っています。あとは意識を取り戻せば完治ですから、もしかしたら明日の夜あたりにはひょっこり顔を出すかもしれませんよ」

「そう。それはよかった。でも悪い子にはお仕置きが必要だから、キツくお灸をすえてあげてねぇん」

「いや、あの……一応殺す気で行くつもりなんですけど」

「あら、あの売女のところの子達は全員殺さずに受け入れたのに、うちの子は殺しちゃうの?」

 リオさんもすごかったけど、彼もまたすごい顔でリオさんを罵ったなあ。二人の間に一体何があったんだろうか。

「こっちも、できれば遺恨を残すようなことはしたくないですけど、事情が事情なんで、万が一のことがある可能性もわかってもらえると助かります」

 聖達を直接当てれば隙を見て魔力を封印とかもできるかもしれないが、それはリオさんに禁止されてしまっている。

 だからといって、俺達だけで不殺を貫いて勝てるほど甘い相手ではない。ただでさえ実力差があると思われるのに、今回は敵地に乗り込んでの戦いだ。

「まあ、そりゃそうか………優秀だったけどしかたないわねぇ」

 いやいや、しかたなくないだろそれ。

「というかですね」

「なぁに?」

「あなたが虎徹弟を止めてくれればいいんじゃないですか?」

 柿崎くん含む黒服さんたちは意識を取り戻しているし、同行していた魔法少女達も狂華さん奪還作戦に参加できそうなくらい回復しているし、都さんもあとは意識の回復を待つだけなので、最悪狂華さんが帰ってきてこっちへの宣戦布告を引っ込めて貰えれば丸く収めることもできないではないのだ。

 というか、元々この会談はそれを狙っていた部分もあるのだけど。

「んー……んふふふふ」

「なんです、いきなり笑い出して」

「………これはオフレコなんだけれどねぇ」

「はぁ、なんです?」

「どうやらあのガキ、攫った女を神輿にして独立する気らしい。だからこっちの言うことは聞かねえってよ」

「あの……キャラ付け忘れてますけど大丈夫ですか」

 普通に喋るとどこかの豆腐屋の親父みたいな渋い声で超怖いんですけど。

「あらぁん、ごめんなさぁい」

「っていうか、関知しないんじゃなかったんですか」

「関知しないはしないわよぉ。だってあなたたち、勝手にあの子を捕まえて送り返してくれるでしょぉ?」

 いやまあ、誰も死ななきゃそういうこともあるかもしれないけども。

「ええと、一応確認しますよ。現状、虎徹弟はそちらの手を離れて独立愚連隊状態で、こっちに喧嘩を売ってきていると、そういうことでいいんですか?」

「そうだな」

「で、コケにされたあなたとしては、虎徹弟をとっちめて強制送還してほしいと」

「そういうことだ」

「えっと…キャラ付けやめます?」

「そういうことよぉん」

 やめないのか。

「それでぇ?いつ仕掛けるのぉ?」

「一応機密事項なんで教えられません。あなたのことを信頼していないわけではないですけれど、どこで誰が聞いているかわかりませんからね」

「なるほど。了解した」

 もう突っ込むのも面倒なのでいいや。

「じゃあ、作戦終了後にまた」

「そうね、またねぇ」

 そう言って彼が手を振ると通信がバツンと切れた。

「さて、やることがまだまだいっぱいあるぞ、と」

 俺は、そうつぶやいて、無人の司令室を見渡してからため息をついた。




 JK With あかり and 東北チームが帰ってきたのは、深夜も深夜。もうすぐ夜も開けようかという午前四時過ぎだった。


ちなみに、こちらから指示するまでもなく、逃走術に長けたこまちちゃんや、公安組のやり方を知っている佐藤くんは、合流してすぐ同行しているメンバー全員の私用と支給の携帯の電池を抜いたため、公安組はGPSや基地局で見つけることはできす。

じゃあということで、公安組が魔法少女や関係者全員の、特に彼女たちとの連絡手段を隠し持っていそうな俺の名義の携帯やらなんやらを徹底的に調べてみても、全部本人周りにある。ということで下手に優秀だったが故に素早くすべてを調べ終えた公安組は逃走チームの捜索については会議が始まった時には既に投了状態だった。

 そんな公安組が必死になっても見つけられなかった彼女たちを俺が呼び戻した方法は至って単純だ。

答えは「華絵ちゃんに緊急用にと持たせておいた田村ジュリ名義のプリペイド携帯に電話をかけた」だけ。

このプリペイド携帯については、華絵ちゃんの他に、こまちちゃんと寿ちゃんには事前に話してあって、華絵ちゃんには「絶対に肌身離さず持っていてね」とお願いをし、こまちちゃんと寿ちゃんにはある時間帯だけ電源をいれるように指示しておいたものだ。

つまり、公安組がいくら調べてみても、田村ジュリという存在しない人間のプリペイド携帯にはたどり着くことができないだろうというのと、万が一たどり着いても、その時間に連絡を取ったり調べたりする可能性は低いだろうという二段構えの作戦で、これが思いの外うまくハマって公安組は早々に投了したというわけだ。

唯一公安側の人間で田村ジュリの存在を知っていた深谷さんがそこに思い至るという可能性が無いではなかったが、俺は彼女の前でプリペイドの話題を出したことはないし、華絵ちゃんとのやりとりでもこれまで一度もプリペイドをつかっていないのでそこに思い至る可能性は低いだろうと計算していた。

まあ、結局深谷さんはすぐこっち側にころんだので、そんな小細工も必要なかったかもしれないが。


 俺が寮の男性ゾーンに佐藤くんと虎徹、それに正宗を案内してからラウンジに戻ると、勝手知ったる東北チームはJKを連れて空き部屋に散った後で、あかりだけがポツンと一人で残っていた。

「今日は悪かったな、色々苦労かけちゃって」

 俺があかりの隣に座って冷蔵庫から取り出したペットボトルを差し出しすと、あかりは黙って受け取ってキャップを開けた。

「苦労ってほどのことじゃないよ。夏樹さんが襲ってきたあとは公安組の追撃とかもなかったし」

 まあ、それは深谷さんがしっかり止めてくれていたからなあ。

「まあ、橙子さんは暴れ足りないってボヤいてたけどね」

「ああ、言いそう。他のみんなは?」

「精華さんとシノさんは携帯の電波が入らない山奥の温泉におきざりにしてきた。一週間後に迎えにくるって言ってあるし、事情も話していないから、無理して下山するようなことは無いと思う」

 まあ、いくら元自衛官のシノさんといえど、足手まとい中の足手まとい、精華さんを連れて下山しようとは思わないだろう。

「そっか。じゃああの二人は安心だな」

 二人に関しては戦闘に参加しない場合100%生き残っているので、これで問題ないはずだ。

「で」

「で?」

「なんで死んじゃうかもしれないってこと、黙ってたの?」

「……怒られるんじゃないかと思ってな」

「怒られるって、子供か!まったくもう。そういう事情があるなら言えば私が守ってあげるのに」

「いやいや、あかりに守られるほど俺は弱くないぞ」

「あれ?魔白ちゃんの時に大活躍した私の勇姿をもう忘れちゃった?」

「いや…まあ、あれは確かに大活躍だったけどさ」

 あの時は、たまたまあかりが大活躍するためのお膳立てができていたからああなっただけで、今回何かあったときに、ああいうことができる状況が出来上がっているとは限らない。

「……私はもう、何もできない女の子じゃないんだから、もっと頼ってよ。妹とか姪とかそういうんじゃなくて、仲間としてさ」

 あかりはそういって俺の肩に頭を預ける。

「ていうか、私、もう一回お葬式でお兄ちゃんのために泣くの嫌だからね」

 いや、それは俺のほうが歳上である以上、いずれそうなるんじゃないかと思わないでもないが、ここで言うべき話ではないだろう。

「まあ、そう心配するな。俺には秘策があるからな」

「秘策?」

「ああ。俺の死亡率が100%であるというなら、俺がその時に存在していなければいい」

「ごめん、よくわからない」

「だから、俺が別人。つまり、また田村ジュリに変身をしてから戦いに臨めばいいということなんだよ。愛純についてもいつもの愛純じゃなくて、アユに変身すれば――」

「ん!?ちょっと待ってお兄ちゃん」

「ん?どうした、なんか怖い顔して」

「『また』って、どういうことかな?」

「あ……」

 しまったぁぁぁぁ!あかりにはジュリの正体は秘密なんだったァァァァっ!

「違うんだあかり。これには深いわけがあってだな」

「わざわざ女子高生に変身してまで龍くんのアラ探しに来てたってわけ!?ほんっと気持ち悪い!心配して損した!」

「ちがうんだ!誤解だ!あかりと彼氏のことはついでで――」

「ついでとはなんだーーー!!!」

「じゃ、じゃあ実はメインで」

「じゃあってなんだー!!!

 ああ、もうだめだなこれ。あかりのやつすごい眠そうな目をしているし、これ以上話しても埒が明かないと思う。俺も疲れていてあんまり頭回らないし、ここは一旦眠って仕切りなおそう。

「なあ、あかり」

「何よ!」

「とりあえず寝よう。一緒に!」

「この………ド変態がっ!」




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