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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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JC寮の夜

「いやあ、今日はひどい目にあったな。いきなりひなたさん相手とかマジないわー」

 そんなことを言いながら布団に入ってこようとする和希を蹴りだして、私は電気を点けてベッドに座った。

「なんで夜泣きもしてないのにナチュラルに人の布団に入ってこようとしてんのよ、あんたは」

「いや、ほら。俺今日頑張ったし」

「頑張ったから何」

「真白のましゅまろのような胸に顔を埋めて寝たい!」

 そう言ってどこかの怪盗のようなダイブを敢行した和希の動きに合わせて、私は和希の顔に向かって足を突き出す。

「もうちょっと言動と行動に気を使え!」

「真白の愛が痛い!」

 私達が良くも悪くもいつも通りのやり取りをしていると、ドアをノックする音の後、みつきちゃんの声が聞こえた。

「楽しそうにしてるところゴメン。開けて大丈夫?」

「全然問題ないから!いつでもウエルカムだから!変なこととか全然してないし!ほら入ってきて、ほらほら!」

「ん…まあ、しているなら、しているでいいかなと思うけどね。私もそういう事に興味ないわけじゃないし」

 そんなことを言いながらみつきちゃんはドアを開けて顔をのぞかせた。

「しないってば。で、どうしたの?こんな時間に」

「夏樹と霧香が、ちょっと話あるからミーティングルームに集まるようにってさ」

「話?」

「今日の昼間の話に関連してっていうことらしいけど」

「ああ…じゃああれかな。夏樹さんが公安側についてごめんなさいみたいな感じ?」

 和希はそう言って仰向けの状態から反動をつけて跳ね起きる。

「そんなの色々立場があるし、お互い様なんだから気にしなくていいのに」

「まあでも、タマには謝ったほうがいいんじゃないか。バトって倒しちゃったんだし」

「ん……んー…」

 タマに謝るのに私達が呼ばれる必要もないかなとは思うものの、私は概ね和希の言うことに賛成だったのだが、みつきちゃんはなんだか微妙な表情をしていた。

「どうしたの、みつきちゃん」

「あ、なんでもないなんでもない」

 どう見てもなんでもなくなさそうな微妙な表情しているんだけどなあ。

「聞かないほうがいい話?」

「……うん。ちょっと私がミスっちゃったっていう話だから、できれば勘弁してもらえると助かるかな」

 みつきちゃんはそう言って力なく笑った。




 ミーティングルームで夏樹さんと霧香さんから事情を聞いた私たちは、思わず言葉を失った。

「まあその……ね。彼女にも色々事情があるわけで」

 夏樹さんはそう話しを締めくくったが、彼女の話した内容は到底納得の行くものでは…というか、どこか不自然で全く筋の通っていない話だった。

「……夏樹さんが嘘をついているのはわかりました。でも、タマが家出ってどういうことですか」

「家出と言うか退寮だな。ついでに魔法少女も辞めるらしい」

 そういって霧香さんは、透明のビニール袋に入った便箋を机の上に放り出して、ソファに身体を預けた。

「なんですかこれ…」

「書き置き」

「そうじゃないです。なんで証拠品袋になんて入っているんですか!ふざけるにしてもセンスがなさすぎですよ!」

「別にふざけてないぞー…タマのしたことは脱走だからな。そりゃそうなるだろ」

「あの子がしたのは脱走じゃなくて家出です!」

「ま、まあまあ真白ちゃん。霧香ももう少しソフトにね」

「だいたい、脱走なんて、あの子が悪いことしたみたいじゃないですか!」

「悪いことはしてなくても、未遂はしたし、脱走には違いないだろ」

「ちょっと霧香」

「つーか夏樹さ、お前なんで変な遠慮してんの?っつーか、お前が変な嘘つくから真白が完全に不信感持っちゃってんじゃん」

「そういう細かいことはおいおい時間をかけて……」

「オイオイ時間がねえよって突っ込んだほうがいいのか?」

 そう言って霧香さんは、夏樹さんを鼻で笑った。

「ハッ、くっだらねえ。そんなモヤモヤもったまんまだと、真白が死ぬじゃん」

「だからあんたはもっと順を追って話を――」

 ……私が死ぬ…?何の話だろう。というか…

「夏樹さん!」

「はいっ!?」

「隠してること全部話してください」

「え…えーっと…?話して大丈夫?結構重い話だよ?」

「話してください。夏樹さんの説得力のない作り話聞くよりスッキリしますから!」

「え…えー…私、一応国語教師なんだけど…」

「教師つっても助手だろ」

「ぐぬぬ……はあ…まあ、ここで言い合ってもしょうがないか。みつきちゃんと和希くんも大丈夫?」

「大丈夫」

「その話って、俺たちだけの話ですか?」

「え?」

「真白が死ぬとかってちらっと聞こえた気んですけど」

「それはその…完全にそうっていう話じゃないし、気をつけていれば…」

「可能性があるなら、えり達も呼びたいです。あと、来宮とか千鶴、それに連絡将校組も。連絡が取れない以上は仕方ないですけど、本当だったらあかりとタマも呼んで……あーっと…つまり何がいいたいかっていうと、俺たちは全員でチームJCなんです。だから、メンバーの誰かになにかある可能性があるなら、全員でちゃんと対応したいんです」

 和希がそう言って少し睨むようにして夏樹さんを見ると、少しの間の後、夏樹さんが口を開いた。

「…………はあ、そうだね。うん、そりゃそうだ。わかった。全員招集しよう」

「ありがとうございます」

 和希はそう言ってホッとしたような表情で大きく息を吐いた。

「悪いな、真白。あかりがいない時はお前がリーダーなのにでしゃばっちゃって」

「ううん、ありがとう。それと、ちょっとかっこよかったよ」

「真白…」

 私の言葉で何かを勘違いしたらしい和希は、感極まったような表情で私を見た後、目を閉じて、顔を私の方に寄せてくる。

「って!調子に乗らないの!」

「真白の愛はいつも痛い!」

 ああしまった。うっかり本気でビンタしてしまった。




 和希が言った全員のうち、本部に言っているという連絡将校組以外が招集された後、夏樹さんが話してくれた内容によれば、みつきさんの予言の中で私が死ぬ確率は58%。これが高いと見るか、低いと見るかは人それぞれだが、約2/3の確率で今回の作戦中に死ぬと言われるのは、精神的に結構堪える。

 しかも、私の死亡にはタマがいる、いないというのが密接に関わっていて、タマがいない時の死亡確率は7割を超えるらしい。逆にタマがいると、3割を切る。

「大丈夫だ、白の…いや真白。お前は我が守る」

「ありがとう、えりちゃん…」

 自分でも顔から血の気が引いているのがわかるし、さっきから変な汗も止まらない。

「我々の封印は一旦解いてもらえるということで良いんだな?」

「条件付きで魔力開放はするけど、あなた達も作戦に組み込まれているから真白ちゃんの直掩はできないんだ。ごめん」

「ではどうやって真白を守るんだ?」

「…真白ちゃんは出撃させないっていうのが現在司令代行をしている朱莉ちゃんの判断」

「ちょっと待って、それで完璧に真白パイセンのこと守れるの?」

「それでも死んでいるパターンがないこともないってよ」

 里穂の質問に霧香さんが頬杖をつきながら、やや無表情な声で答える。

「霧香!」

「真白、お前はどうだ?」

 霧香さんは、夏樹さんを無視して私に話を振る。

「帯同しても生き残るパターンも、残っても死ぬパターンもあるらしいんだけど」

「みつきさんの予言には、私の『魔白』の話は出てこないんですよね?」

「ああ、それはどのみつきさんに聞いても知らないと言っていたらしい」

 それだけでは安全牌を持っていると言えるかどうかはわからないけど、少なくともパワーアップが悪く影響することはないだろう。

「だったら、私はみんなと行きます」

「そうか」

 霧香さんは微妙な表情で短くそう言って頷いた。

「あの、いいですか?」

「なんだ千鶴」

「お姉の失踪は問題ないんですか?あと、虎徹さんと正宗くん。この二人は…」

「ああ、そっちはいいんだ。二人を逃がしたのはあくまで保険っていうだけで、公安…っていうか小金沢派に事情をわかってもらった以上は、隠れている意味もないっていうんで、朱莉がなんとか呼び戻すって言ってたから」

「叔父さんもまた回りくどいことを…じゃあ、そっちはいいとして、問題はタマ先輩なんですよね?タマ先輩がいれば、真白先輩の死亡率は格段に下がる」

「それはそうなんだけどな。…多分、今のあいつは誰の言うこと聞かないぞ。私も夏樹も思い切り突破されちゃったし」

 ああ、それで二人共怪我していたのか。

「つーか、キレた十代ってマジ怖いわ。なあ、夏樹」

「うん…なんかこう…人間、リミッターが壊れるとあそこまで突き抜けるのかって思い知らされたというか」

「じゃあ、タマ先輩は私達フォロワーが探します」

「いやいや、危ないって。タマちゃんあれで結構上位の実力者なんだから。キレている状態の彼女に生徒を近づけるなんてこと、許可できません」

「ああ、大丈夫です。その時は高橋先輩を盾にしますから」

 そんなにタマとつきあいがあるほうじゃないはずなのに、千鶴はしっかりタマの気持ちに気づいていたらしい。

……千鶴、恐ろしい子。

「ちょ、まてまて千鶴。俺の筋肉は魔法なんて防げないぞ」

 そう言って高橋くんは少しおどけてみせるが、千鶴の視線は冷たい。

「それ、本気で言ってるなら、タマ先輩が魔法使う前に、私が高橋先輩をぶん殴りますけど」

「………」

「はあ…やっぱり気づいていましたね。まあ、別に本気でタマ先輩を好きになれっては言ってませんよ。とりあえず場が収まるまでそういう演技をしてくれればいいって言っているんです」

「それだと俺が最悪な奴みたいじゃないか」

「今避けるべきは真白先輩が死ぬことです。高橋先輩が嘘をつくより、後々タマ先輩が傷つくより、万が一そうなった時のほうが最悪だ」

 千鶴がそこまで私のことを考えてくれるのは嬉しい。嬉しいけれど……

「千鶴。心配してくれてありがとう。でも、もう少しやりかたというか、できればタマも傷つけないようなやり方でお願いしたいの。これは完全に私のわがままだけど、私のせいで傷ついたタマなんて見たくないから。さっき和希が言ってくれたんだけど、私達は、魔法少女も、フォロワーも、えりちゃんたちも、みんな合わせてチームJCなの。だからね?」

「………すみませんでした高橋先輩」

「いや。状況を考えればそういうのも仕方ないだろうからな。ただ、それは本当に最後の手段にしてくれ。俺も好んで多摩境を傷つけたくないから」

「はい…」

「なんか真白のほうが夏樹よりもよっぽど先生っぽいよな」

「くっ…反論の余地が無いのが情けないやら悔しいやら…!」

「いや、霧香さんも相当なもんですからね」

 なんか他人事みたいに言いながら夏樹さんつついているけど。

「うへ、藪蛇かぁ」

 まあ、さっきの態度とか言動は、こういう流れを見越してのものだったんだろうけど、それにしても煽り方くらいもうちょっとなんとかしてほしい。

「まあいいや、じゃあなんとなく話が伝わって、なんとなく方針が決まったところで改めてまとめるぞ。タマの捜索は来宮と井上がリーダーになって2チームでおこなってくれ。チーム分けは任せる。黒服も何人かつかって構わないから、タマの捜索と説得を頼む」

「わかりました」

 全く反省のなさそうな霧香さんの話に返事をした来宮さんは、いつものあかりちゃん狂の顔ではなく、頼れる生徒会長モードの顔をしていて、黙って頷いている井上くんも、普段の柔和な彼と同一人物とは思えない真剣な表情だった。

「えり達はご当地、連絡将校と連携して島から何も外に出さないように防衛を頼む。そっちの指揮は聖とジャンヌが取ることになっている」

「了解した」

「了解」

「はーい」

「最後に真白達の役割だけど」

「はい」

「突入組の退路の確保だ。多分突入組は魔力空っぽになって帰ってくるだろうから、できれば船までの退路をクリーンにしておきたい。私と夏樹は東京湾防衛線担当だから、もしあかりが帰ってこなかったら真白が指揮をとってくれ」

「了解です」

 私がそう返事をして和希とみつきちゃんを見ると、二人もうなずいていた。




「真白先輩、ちょっといいですか?」

 ブリーフィングルームを出た私は、千鶴に声をかけられて屋上へと連れて行かれた。 

 魔法でなんとでもしのげる私はともかく、まだ深夜というほどの時間帯ではないものの、晩秋と言って差し支えないこの季節。千鶴は寒いと思うのだが。

「っクシュン」

 やっぱり寒いらしい。

「ねえ、千鶴。私の部屋で話さない?」

「ここがいいんです。誰にも聞かれたくない話なので」

「じゃあちょっと待って」

 私は何故か威嚇してくる千鶴に近づいて、彼女の身体に触れて簡単なナノマシンの膜を張った。

「あれ?あったかい」

「千鶴の体温をある程度体の周りにとどめて置けるようにしたからね。それで、何?」

「………」

 魔法で防寒までしてあげたのに、なんで私は千鶴に睨まれているんだろう。

「やりづらいなあ…」

「なにが?」

「別に……真白先輩」

「はい」

「勝ち逃げは許しませんから」

「勝ち逃げ?」

「はい。和ちゃんのことです」

「……和希?」

 和希と勝ち逃げと千鶴?この3つに一体何のつながりがあるんだろうか。

「もうご存知だと思いますけど、私和ちゃんのこと好きなんすよ。なので、このまま死なれて思い出の人とかになられたらたまったもんじゃないんです」

 いや、全然ご存知じゃありませんでしたけど!?

「ま…まあ、知っていたけどね」

 一応、ここは適当に合わせたほうがよさそうなので、千鶴に合わせよう。

「だったら話が早いです。私が和ちゃんを先輩から奪うまで死なれちゃ困るんです……だから、絶対生きて帰ってきてください」

「まだ死ぬ気はないから大丈夫よ。それにみつきさんの予言も確実ってわけじゃないからね」

「絶対ですよ。もし死んだら、私が和ちゃんのことをとっちゃいますから」

「いや、どっちよ。生きている私からとらないとダメなんじゃなの?死んでたら死んでたでそれはそれで別に構わないの?」

 そこまで言って私は気がついた。これはまさか……!

「ツンデレ?」

「そういうオタクっぽい言葉で表現しないでください!」

「え?ツンデレってもう一般的な形容詞だと思うけど」

「とにかくなんかそういう風に言われるの嫌です!」

 ……なるほど、生ツンデレというものを初めて経験したけど、これは好きな人にはたまらないだろう。かくいう私もちょっとたまらない気分だ。

 普段クールで、姉をからかうのが趣味という下級生が、自分にツンデレをしてくる。

これはいい。これはたまらない。

こういうのもあるのか。と、感心してしまう。

「まあ、でも心配してくれるのは嬉しいわ。ありがとうね」

「だから、別に先輩のことがどうとかじゃなくて」

「はいはい。ありがとうねー」

「ちーがーうー!っていうか、私より大きい胸を顔に押し付けないで!屈辱!」

 なにをあかりちゃんみたいなこと言っているんだか。

 そんなことを考えながら、私が千鶴の頭を撫でくりまわしていると、バンっ!大きな音を立てて、踊り場に続く扉が開く音が響き、そして――

「ちょっと待ったー!」

 ――振り返ることなく、誰がきたかわかる声が聞こえてきた。

というか、このタイミングでくると面倒くさい子が来たぞ。

「和希を諦めてないのは、私もおんなじなんだから!」

 みつきちゃんはそう言って律儀に扉を締めると、私達のところまで歩いてきた。

「ちーちゃんだけじゃなくて私も参戦するから」

「いや、みつきちゃんは私に和希押し付けて逃げたでしょ。告白の時」

「う……」

「みつきちゃん…ヘタレすぎる」

「くっ…ちーちゃんなんか、告白する勇気も無いくせに!それに真白だってイヤイヤ付き合ってますみたいな顔して和希にメロメロなの知ってんだからね!」

「いやいや、私はタイミングを図ってるだけだから。やるときめたら逃げないから」

「まあ、確かにメロメロですけどなにか?」

「ぐっ……」

 このくらいで轟沈とは……みつきちゃんは一体何をしたかったのだろうか。

「っていうか、みつきちゃんは最近正宗のことが気になるとか言ってなかった?」

「うぬっ…」

「えー?浮気ぃ?みつきちゃんちょっとそれはないんじゃないかなぁ」

 そう言って千鶴はみつきちゃんに遠慮のない視線を向ける。

「ち、ちーちゃんだって正宗にアプローチしてんの知ってんだから!」

 余裕のある千鶴に対して、みつきちゃんの反撃はあまりに弱々しい。

「いや、あれは向こうが勝手にメッセをいっぱい送ってくるから適当に返してるだけだし」

話は聞いていたけど、ほんとにメッセしてるんだ…。

えりちゃんたちもだけど、正宗もどうも異星人感が足りないというか、普通の同年代の男の子みたいで拍子抜けする。

「くっ…和希だけじゃなくて正宗も胸の大きさで…っ」

「いや、胸がどうこうじゃないでしょみつきちゃんの場合は。告白寸前に逃げ出したり、連絡先聞いたっきり連絡しなきゃそりゃそうなるわよ」

「えっ!?」

「いや、『えっ!?』じゃなくてね。正宗のやつ、メッセの返信が返ってこないってしょんぼりしてたわよ」

「ええっ!?

「いや、『ええっ!?』じゃなくてね。気になるならちゃんと積極的に行かないとダメだと思うわよ」

「だってあかりが『そんなにホイホイ返信して女を安売りするもんじゃない』って」」 え、なにその変なプライド。っていうか…

「なんであかりちゃんに聞いたの!?」

「なんでお姉に聞いたの!?」

 みつきちゃんに対する私と千鶴のツッコミが絶妙なタイミングで被る。

「だ、だってあかりって彼氏持ちだし、アドバイス聞くならあかりかなって」

 まあ、和希が絡んでいるなら私に相談できなかったろうし、静佳ちゃんはそういう話になると延々のろけるから仕方ないのかもしれないけど、仕方ないのかもしれないけれども。

「………彼女が彼氏持ちになるまでの紆余曲折を全部知っているあなたがどうしてそういうことを言えるの…?」

「そ……そうだったーーーー!」

 駄目だこの子。変な奴に騙される前に何とかしないと。

「大丈夫だよ、みつきちゃん。和ちゃんがダメで正宗くんがダメでもきっといい人が現れるよ」

「二人共ダメって決めつけないでよ!…って、そうじゃなかったんだった!ちーちゃんに話しておきたいことがあったんだ!」

「私に話?」

「そう。タマのことで夏樹達が話してないことがあって……できれば真白にも聞いておいてほしいんだけど」

 みつきちゃんはそう言って、私と千鶴に今までとは違う真剣な眼差しを向ける。

「和希とか来宮さんは?」

「タマはあんまりみんなに知られたくないと思う」

「そう、わかったわ。じゃあとりあえず私の部屋に…いや、みつきちゃんの部屋が良いわね。私の部屋だと和希が来るし」

「なにそれ羨ましい!」

「自慢気なのがすごいムカつく!」

 そう言われてもなあ………。




「なるほど…」

 みつきちゃんの話を聴き終わった千鶴はそう言って紅茶を口に運んだ。

「タマ先輩はそういう生い立ちなのか…」

「そうなんだよ。最近はお父さんとの和解も進んでて、お父さんも寮にちょくちょく来ていたんだけど、それが逆によくなかったみたい。夏樹とか桜に聞いた話だと、今回タマにはJC以外の、小金沢派閥としての指令は出てなかったんだよね。ああ見えてガネちゃんはそういう所、ちゃんとわかっているから」

「でも先輩はお父さんにいいところ見せたくなっちゃったってわけだ」

「そういうことだと思う。それで、夏樹をそそのかそうとして失敗。結果的にはそれで良かったんだと思うんだけど、タマとしては複雑なんだと思うよ。お父さんに協力しようとして失敗した挙句、私達も裏切っちゃったわけだから」

「なるほどね……」

 この間小金沢さんがこの寮にやってきていた時みつきちゃん以外にも知り合いがと言っていたのはタマのことだったというわけだ。

「どうしたの真白?」

「うん、ちょっとね……ねえ千鶴、タマを見つけたら、無理やりこっちに合流させるんじゃなくてタマのケアを再優先にしてあげて」

「え?」

「落ち込んでいたら、無理させないで。私達と顔を合わせたくないとか、そういうことだったら、無理にこさせなくていいから」

「いや、でも私一人で探すんじゃないんですから、そんなのできるかどうかわかりませんよ」

「井上くんなら撒けるんじゃない?できれば彼を撒いて一番最初に千鶴が見つけて、タマと話しをしてほしい。で無理そうなら作戦が終わるまでどこかに匿ってあげて」

「え……えー…まあ、撒けるかもしれないですけど、でもそれだと…」

 口にはしないが、千鶴の言いたいのは多分私の生存率の話だろう。

「私は大丈夫。そういうやっちゃった時っていうのは、本当に死にたいくらい後悔しているものだからタマのケアを優先してあげてほしいの」

 私も3月の時それで相当後悔をした。その後、単純で図太い私は少し朱莉さんに褒められたくらいでほぼ立ち直ってしまったが、普段そう見えなくても繊細なタマが無理やり法理私達の中に放り込まれて立ち直れるかどうかはわからない。

「でも…」

「まあ、タマはなんだかんだ言って変な所真面目で、ちょっと真白に似ているしね。私と和希が真白を守ればいいだけだから、ちーちゃんは真白の言うとおりにしてあげて」

「そういうこと。面倒なこと頼んじゃって悪いけど、お願いね」

「はい……」

「大丈夫だってば。みつきちゃんも守ってくれるし、和希も傍にいるし、あなたのお姉ちゃんも一緒にいてくれるんだから」

「そうですね……うん。じゃあ私は自分にできることをしっかりやりますから、真白先輩もみつきちゃんもちゃんと帰ってきてくださいね。あと、お姉…うちのおねえちゃんのこと、よろしくお願いします」

 千鶴はそう言って座り直して正座をすると綺麗な所作で頭を下げた。






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