ある日の東北チーム+α 1
とある日の昼下がり。野暮用で東北寮にやってきた俺は、用事を済ませた後で寿ちゃんと彩夏ちゃんの執務室にお呼ばれをしていた。
「ああ、それでなんか最近愛純が上機嫌だったんですねえ」
「そうそう。柿崎くんのほうもその気になったみたいだし、こっちもいろいろ骨を折ったかいがあったってもんだよ」
流石に野暮すぎるので何がどうなったとか、どっちがどうしたとか、そういう話は詳しくは聞いていないが、柿崎君の誕生日以来、二人の距離がより縮まっていたので柿崎くんバースデーが成功したのは間違いない。
「というか、あんたは過保護過ぎよ。なんだって、愛純の彼氏の仕事の斡旋なんてしてんのよ」
「斡旋じゃないって。ちょっとした口利きだよ」
黒服さんの給料は悪くはないけど、やっぱり俺たち魔法少女と比べれば多少は落ちる。なので、黒服さんと魔法少女のカップルは男のほうがややヒモのように見えてしまうことが多く、それが嫌な柿崎くんとしては収入をひっくり返すことは無理でも、少しでも愛純に近づけてから仲を深めようと考えていたらしい。
と、いうことで、俺は老婆心ながら柿崎くんを都さんの護衛に推した。トップの護衛ということになれば当然危険手当もつくし、その後のキャリアも広がる。で、自信がつけば柿崎くんも積極的になって愛純も大満足というわけだ。
「それにしたって実の妹ならともかく、姉妹制度の妹の彼氏まで面倒見てあげる必要ないでしょうに」
「は?実妹の彼氏の面倒なんて見るわけ無いだろう?何言ってるんだよ寿ちゃん」
むしろ進学も就職も失敗して愛想を尽かされろ!って感じだぞ
「うわっ、シスコン」
「やーい、シスコ~ン。あかりちゃんにも愛純に対してもシスコ~ン」
「うるせっ!柿崎くんは愛純の彼氏ってだけじゃなくて、俺の後輩でもあるんだからいいの!俺は見境のないシスコンじゃないの!」
「はいはい、そういうことにしておきましょうね」
ぐぬぬ…最近彩夏ちゃんにやられっぱなしなのがすごく腹立たしい。
「つーか、彩夏ちゃんこそ彼氏の虎徹とどうなのよ?」
「は、はぁっ!?ちょ、何言ってるんですか朱莉さん!」
よしよし、焦っているな!?恥ずかしがっているな!?照れているな!?どうよこの見事なカウンター!
俺は心のなかでそう叫びながらガッツポーズを取った。
「……彩夏?」
「あ、いえ違うんですって。誤解です寿さん」
あれ?なんか雲行きが怪しいぞ。彩夏ちゃんは焦っているけど、照れて顔を赤くするどころか青ざめているような…。
「あんた、寮に彼氏連れ込んでたの?なにそれ、朱莉もグルってこと?」
連れ込んでる??俺もグル?
「違うんですって!彼氏じゃないんです!」
「なるほどねえ…そういうことなのね。ふーん、彩夏は私の妹だと思ってたのにねぇ、そっか、蒔菜の次は朱莉とグルになって何かする気なんだ…」
またか!?また揉めるのかこの姉妹は!っていうか、俺を巻き込むのはやめてくれ。
「だから誤解ですって!こてっちゃんをつれて来たのはそういうんじゃないんですって!」
って、そうだった。
「ちょっっとまった。彩夏ちゃん虎徹を連れ込んでるの!?ここに?」
おいおい、それは彼氏とか彼氏じゃないとかを置いておいたとしてもどうなんだ?いや、正宗とかおもいっきりJKの隣に住んでるけど、あそこは別に機密は殆ど無い。だがここにはおもいっきり機密情報が転がっている。
「あ…ちょ、朱莉さんもうしゃべらないで」
「というか、なんで朱莉が知らないのよ。私は朱莉がそうしろって言っていたって彩夏に聞いていたんだけど」
「……」
おー…彩夏ちゃんがこっちをすごい睨んでるぞー。
そんな目で見られても、俺としてはどう考えてもこれは君の自業自得だろうと言いたい。言いたいのだが――
「――そ、そういえば俺が虎徹を東北寮においてくれって彩夏ちゃんに頼んだんだった。すっかり忘れてたよ。いやあ、悪い悪い」
君の自業自得だと言えない上に嘘に付き合ってあげちゃう俺って優しい。
「あんたねえ、いくらなんでも嘘が下手すぎでしょ…」
寿ちゃんはそう言って溜息をつくと、彩夏ちゃんの肩を掴んで自分の方を向かせる。
「彩夏。嘘をついた理由を聞かせなさい」
「え……っと……」
おお、考えてる考えてる。
「男手があると助かるって寿さんが言ってて、こてっちゃんも住むところがないって言ってたから」
なるほど、寿ちゃんと虎徹の利害が一致してその仲立を彩夏ちゃんがしたと。
うーん、嘘くさい。
「私が男手があると助かるって言ったのは、彼がこの寮に住むようになってからよ」
「うっ…」
って、やっぱり嘘かーい!
「どういうこと?」
「ええと…」
「どういうことなの?」
ニッコリと笑う寿ちゃんの顔が、人事ながら超怖い。
「こてっちゃんが住むところが…」
「朱莉」
多分これは彼らの福利厚生がどうなっているか説明しろってことだな。
「月あたりの手当の他に住居やら最低限の衣服や食料は提供されているよ。住居については一応基地の近くかJC寮の近くみたいな、制限はあるけど、それ以外は住居の制限は特にないし」
手当の額は、生活保護よりちょっと多いくらい。こちらの検査やらなんやらに協力してくれたらもう少し増額ってこともあるが、基本的にはその中で生活をしてもらうことになる。
ちなみにこれは裸一貫で彼らを街に放り出して犯罪にでも走られたらたまらないという配慮によるもので、JKと一緒にいる正宗のところには食料現物じゃなくて、はエリスちゃんの給料に正宗の食費を上乗せして支給している。というか――
「むしろ、虎徹の住居って関東の近くになってたはずなんだけど」
私の記憶が確かならばってやつだけど。
「あ…それはその…」
「何?密会にでも使ってたの?」
「いや、それなら東北の近くに借りればいいだけじゃないか?」
「いやその……」
あ、彩夏ちゃんのバツの悪そうな顔でなんか事情がわかっちゃった。
「在庫置き場?」
「……………えっと…まあ…その」
「って、じゃあ虎徹が住む所をなくしてんのあんたじゃないの!」
「だってほら、イベントは東京周辺が多いし、いちいち在庫持って帰ってくるの面倒だし!」
うーん、まあ聖達が住みついたり本部勤務の子が増えたりとかいろいろあって関東寮が手狭になってきた時に、彩夏ちゃんに貸していた部屋を返してもらっちゃったから、これはあまり強くは言えないなあ。
「じゃあそれに関しては、お金だけ貰えれば、本部の方でストレージを用意するよ。それで虎徹の住居は確保できるだろ?」
「……まあ、確かに」
「あと、虎徹と付き合っていいよ。彩夏ちゃん変な所真面目だから、まだ彼氏彼女とかじゃないんでしょ?」
状況は刻一刻と変化していて、最近は彼らと誰かがくっつくのもあり…というか、例の予言の関係もあって、俺と都さんはそれを後押ししていくスタンスになっている。……まあ、狂華さんの事件は完全に計算外だったけど。
「う……」
「別に反対しないわよ。あんたが恋人作ろうがなにしようが、私の妹でいるなら別にかまわないから」
「寿さん…」
彩夏ちゃんがなんか感動しているけど、俺には『仕事すりゃあとは好きにしていい』って言っているように聞こえたんだが…まあ、俺がひねくれ過ぎなせいか。
「善は急げだ。早く行っておいで」
嫌な言い方だけど、これで1カップル成立。
正宗もJKのどっちかとくっついてくれればいいんだけどなあ。
まあ、これは二人のほうが絶対にその気にならなさそうだから無いだろうけど。あと、大和は狂華さん攻略戦を諦めていないようなので他の子とっていうのは望み薄だ。
「いや、その…私に彼氏の作り方…というかまずどうしたら良いか、教えてもらえませんか?」
「え?」
「はぁっ!?」
「いやいや、彩夏ちゃん。君って結構経験豊富なんじゃないの?それに虎徹に告白されたんだよね?何を今更」
言葉の端々にそんなニュアンスがあったし、経験もいろいろありそうなことを言っていたのに、何を今更こんなことを言い出しているんだこの子は。
「……だって、言いたかないですけど、年齢イコール恋人いない歴とか、魔法少女になる前の朱莉さんみたいじゃないですか」
彩夏ちゃんはそう言ってバツが悪そうな顔で俺から目をそらした。
っていうか、そういうの地味に傷つくから、言いたくないなら言わなくていいのよ、彩夏ちゃん。
「ああ、でも確かに彩夏って、こまちから頑なに逃げていたし、あれってつまり初めては好きな人にとかそういうことを考えていたっていうことか」
ぽんと手を叩きながら、寿ちゃんがあっけらかんとした表情と口調で東北のベッド事情を赤裸々に語る。
……あれ?じゃあセナって意外に…いや、まあセナも普通の今時の女の子だしな。うんうん。
いやでもそうすると――
「つまり君って―――」
「う……」
なるほど、やっぱり耳年増で口だけのおぼこ娘か。
「うるせー!ああそうだよ、いい年して処女だよ!文句あっか!?」
俺も、おそらく俺よりもかなり長い時間一緒にいるであろう寿ちゃんでさえ見たことがないだろう真っ赤な顔と涙目で、彩夏ちゃんはそう叫んだ。
愛純話は何度書いてもただのイチャラブで作者のストレスがマッハだったので中止しました。




