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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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男子会2-3

 ラジオ局を出発した俺達はそのまま都内を突っ切り、思い切り大回りをして茨城を周り、栃木へ入り、ちょっとだけ福島の方へ足を伸ばしたりしたあと、宿泊地である温泉宿へとやってきた。

「と、いうわけで。今回も朱莉の見事な騙されっぷりにかんぱーい!」

 豪華な料理が並べられた座卓の前でひなたさんがそう言ってビールの入ったコップを掲げると、皆からも口々に乾杯の声が上がる。

 ちなみに、ドリンクは狂華さんだけが烏龍茶で、その他の皆はビールを飲んでいて、スタジオでひなたさんが持っていたハンディカムは俺の知らないうちに参加メンバーに加わっていた喜乃君が持っている。

 ひなたさんは乾杯してすぐにその場で、コップの中身をぐいっと開けると、喜乃くんを引き連れて、その足で俺の隣にやってきた。そして、手酌で自分のグラスにビールを注ぎ、その瓶の口を俺の方へ向ける。

「いやあ、今回も傑作でしたなあ、まあまあ飲んで飲んで」

 そんなことを言いながら俺が中身をあけたコップにビールを注いでくれた。

 っていうか……あいかわらず、嫌な絡み方をするなあ、この人。

「で、ハメられたってわかって、どんな気持ちだった?ねえ、どんな気持ちだった?」

「めちゃくちゃ悔しかったですよ…っていうか、カメラ寄ってんじゃねえよ!やめてくんないかな喜乃くん!」

 俺は少し強めの語気でそう言うが、喜乃くんはカメラごと首を左右に振るだけだ。

「…で?この後は何するんです?」

「まあ、基本的には普通の宴会なんだけど、その前に小崎Pからかなり気持ち悪い企画を預かっている」

「なんすか?このメンツで王様ゲームとかですか?」

 まあ、中身が男だっていうことを除けばみんな可愛いしそれはそれでいいのだが。

 王様になって狂華さんにあんなことやこんなことさせたり、ひなたさんをパシらせたりするのも、それはそれで楽しそうだし、さぞ爽快だろう。

「お前、狂華に一体何させる気だよ」

「な、なんでそんな俺が狂華さんピンポイント狙いで一緒の布団で眠るとかそんな命令出すと思っているんですか!?名誉毀損も甚だしいですよ!」

 柚那よりもさらに小柄で華奢な狂華さんって、抱きしめたらどんな感じだろうとかそのくらいだし。別にいかがわしいことしないし。

「まあ、いいや。で、企画なんだけど…ああ、ちょうどいいから全員聞け」

 ひなたさんがそう声をかけると、それまでワイワイやっていたのがウソのように静かになり全員がひなたさんに注目した。

「この旅、最後の企画は…恋話だ」

「………ええと…」

「………旦那。それ、あたしらが恋話するってこと?」

「そうだ」

「いや、それはまずいよ。ボクと朱莉と楓は下手なこと言えないんだから」

「というか、それは俺だって佳純だって瑞季だって喜乃だって桃花だって同じだっての。だから、今回の恋話は『魔法少女の、この人とこんな恋してみたいっ☆』だ」

「ひなたさんって変な所プロですよねー」

「うんうん。いまのセリフの後、キラって何かが光るエフェクトが見えた気がするし」

「中身は四十すぎのオジサンなのに…」

 順に、佳純ちゃん、桃花ちゃん、瑞季ちゃんが感想を述べる。

「うるっせえよ!とにかくそういう企画なの!というわけでシンキングタイムスタート。あ、ガチ恋人以外な」

 ……だからそれだと俺も楓も死ぬっつってんだろうが。

「ちょっとまってくださいひなたさん。その企画はマジで危ないですって。狂華さんはともかく、俺と楓、それに喜乃くんは死にます」

「なら骨は拾ってやるよ」

 くっ……取り付く島もない。

「でもでも、ここで例えば自爆狙いで俺が桃花ちゃんを選んで、道連れにしてやるみたいなことをしたら目も当てられないじゃないですか!ちょっとした血祭り騒ぎですよ!」

「って、そんなことしなきゃ良いだけじゃないですか!やめてくださいよ!?柚那さん本当に怖いんだから!」

 よしよし、桃花ちゃんは乗せるのが簡単で助かるぜ。

「それにですよ、それをもし狂華さんが佳純ちゃんとか瑞季ちゃんを道連れのターゲットにしたらどうなることか。おそらく都さんは二人の査定を下げるに違いない、ああ恐ろしい!考えてみてくれ……現在の査定で当て込んでいた、来月のカードの支払どうしよう!」

「ひえっ!なにそれ恐ろしい!」

「………」

 かかったのは佳純ちゃんだけか。さすがは瑞季ちゃん。男性魔法少女一クールな女だぜ。

「………」

 いや、顔を真っ青にして、ブツブツ言いながら指折り数えてるからこれはハマってるのか?どっちなんだ?普段からあまり表情が変わらないからわからないぜ瑞季ちゃん!

「それと…なあ、楓」

「お、おう」

「お前、イズモちゃん以外で恋話とかできるか?しかも自分で選んでとか」

「……いや、できないな。他に好きな子居ないし」

 そう言って楓は少し頬を赤く染めて照れくさそうに目をそらす。

 だから、なんでそのデレの片鱗だけでも彼女の前で見せてあげないんだ君は。

「喜乃くんは……なんだっけ、鈴奈ちゃん以外だと、セナだっけ?」

「なんで僕の時だけそういうこと言うんですか!?」

「え?なにお前セナの事好きだったのか?」

 喜乃くんとセナの関係に興味を持ったらしい楓が身を乗り出して、喜乃くんの方に顔を近づける。

「む、昔のことですよ!今は鈴奈だけです!」

「と、このように、当然過去のことを知っている人間がいる場でそういう話になれば、ほじくり返されるし突っ込まれるってことだよ。それに……未来もね」

「く……」

 完璧!超完璧!みんなの興味を喜乃くんにそらすことで、みつきさんの予言には触れずに、それでいてひなたさんを牽制する。我ながら最高の口八丁だ。……まあ、口八丁なんて威張れるもんじゃないけど。

「以上を踏まえて、俺が提案するのは―――」




 いやあ、我ながらすごい企画だった。

 まさかあれがああなって、こうなって、まさかああいう結末になるとは。

 小崎Pの企画よりも確実に良い出来の番組を収録し、同室の桃花ちゃんが俺を警戒し疲れて押し入れの中で寝息を立て始めたのを確認してから、俺は、一日貸切にしてもらっている露天風呂へとやってきた。

 趣きのある脱衣所で服を脱ぎ、ゴツゴツとした岩でと竹垣に囲まれたいかにもといった風情の風呂場に入ると、湯船に人が浮いていた。

「……いやいや。なにやってるんですか、狂華さん」

「あー、あかりー。こうしてるときもちいいよー。あかりもやろー」

「やりませんって」

 俺が来るまでうつ伏せに浮いていた狂華さんはくるりと回って仰向けになると、ふわふわと湯船に浮かびながらそう言った

 いや、無防備に裸を晒してくれちゃっているけど、一応俺も中身は男なわけで、月の光で照らされた揺れる水面に漂っている狂華さんの姿を見ていると、やはり少し変な気分になる。

「どうしたの?」

「…いえ。別に」

 俺が軽くお湯で身体を流してから湯船に入ると、狂華さんは水面に漂うのをやめて湯船の中に座り直した。

「そう言えば、朱莉が魔法少女になったばっかりの頃もこうして二人でお風呂入ってたよね」

「俺がチアキさんのダイナマイトボディを直視できなかったですからね」

「あはは。確かにそんなことを言ってたよね」

「そんなこと言ってたのかこいつ。学園の方に来た時には普通に大浴場に入っていたから全然知らなかったぜ」

「まあ、その気持はすごくわかる。あたしも同期と風呂入るのに慣れるまで結構時間かかったし」

 いつの間に入ってきたのか。気が付くと、ひなたさんと楓が俺と狂華さんの対面に座っていた。

「……つまり、楓もみつきちゃんと?」

「いや、そりゃあ入ったけどさ。朱莉みたいに二人でとかじゃないからな」

「なんでその話、やたら広まってるの!?いや、でも楓って胸が小さい子好きだし、なんでもないフリして実はみつきちゃんにドキドキしてたと見た!」

「いや……みつきはまだ子供だろ?さすがになんも感じないって」

 なんですと!?

「……いや、あのなお前ら。一応俺はみつきの父親だからな?あいつを変な目で見るなよ?」

「いやいや、見てませんって」

「というか、あたしそれ初耳なんですけど」

「あ…まあ、それについては、本人以外には今更隠すようなことでもないから良いんだけどな。でも、精華にはまだ言ってないから言うなよ。あいつ隠し事できないから絶対ボロを出すと思うし」

「でも、あたしが知ってて…驚いていないっていうことは、狂華先輩と朱莉も知っているんだよな?」

「うん」

「まあ、わりと前から知ってた」

「となると、多分チアキさんも知ってるんだと思うけど……この状況って、後で知ったら精華の奴、いじけるんじゃないか?」

「確かにそうかもしれないが、それでも、今はちょっと精華のことまで抱え込んでいられる状況じゃないんだよ」

「まあ、桜ちゃんと別れて一美と結婚するかどうかの瀬戸際なわけだから、精華さんなんて面倒くさい人間の相手をしている場合じゃないだろう」

「お前なんで今ここでそんなこと言った!?」

「あれ?俺口に出していました?」

 失敗失敗、心の声が口をついて出てしまった。

「わざとだよな!?お前、絶対わざとだよな!?」

 まあ、わざとだけどね。

「そんなことないですよ」

「くっそ……お前ついさっきそのことで俺の動きを牽制したのに、あっさりバラすか普通!」

「だから事故ですよ事故」

「で、なにその面白そうな話」

「ボクも聞いてないよ!」

「はあ…みつきさんがな、ちょっと前に不吉な予言をしてくれたんだよ。俺が桜と別れて、寂しがっている時に一美に優しくされてコロっと行ったと。そういう話をさ。あ、でもお前たちも人ごとじゃないからな!みつきさんは狂華と都以外今の時代のカップルは全滅だって言ってたんだからな!」

 実の父親であるはずのひなたさんがみつきさんと呼ぶのはちょっと可笑しかったが、まあ区別がつきやすいので突っ込まないでおこう。

「それについては俺と柚那は対策済みですし」

 みつきさんの予言を聞いてから、柚那と俺は三日三晩かけてお互いのボーダーラインについてたっぷりと話し合いをしたので、よっぽどのことがなければ、別れるようなことにはならないはずだ。

「うちも今更イズモと別れるとかそういう感じにはならないと思う……あたしのほうが親バレしてから、なんか家同士の話になってきちゃったし」

「何その自信!ちょ…じゃあヤバいのは俺と桜だけか?いやいや、でも朱莉とか絶対柚那の逆鱗に触れるようなことして別れるだろ!?」

「別れませんよ。むしろ柚那の逆鱗を優しく撫でてデレさせますね」

 いつかきっと、近い将来には、多分、できる…ようになっているといいな。

「か、楓だってイズモ以外の奴を好きになったりしてるじゃんか!ほら、去年の愛純とのデートとかさ」

「むしろ愛純の時で懲りた。あたしに付き合いきれるのはイズモだけだと思う」

 うんうん。俺もそう思う。

「く…狂華のところだってなあ…」

「ありえないね」

 そう言って笑う狂華さんの笑顔は自信に満ち満ちていた。

「ピンチなの俺だけかよ!」

はっはっは、見苦しいぞ中年。まあ俺も中年だけど。

「でも今の朱莉の話で納得したよ。ひなたが深海一美の釈放に反対していたのって、それが原因なんだね」

「ああ、なるほど。どうりで一人だけやたら反対するわけだ」

 ちなみに、もちろん俺と都さんとチアキさんは面白半分で釈放に票を投じた。

「いや、確かにそれもあるけど、お前ら全員頭おかしいからな?普通釈放しねえよ」

「なに言っているんですかひなたさん。民主主義ではマジョリティの意見が常識なんですよ」

「ドヤ顔すんな!つーか、お前絶対、都とか、ガネさんとグルだろ!」

「知らぬ存ぜぬ」

「口で言うな!」

 とはいえ、小金沢さんが何を考えているのかは、俺と都さんも測りかねているところがある。俺と都さんとはグルだが、俺たちと小金沢さんとはグルではない。

 これで、深海一美を公安派に取り込もうとしているということであればわかる話なのだが、そんな話も聞かないので、俺たちは彼の狙いがわからないで少し気持ちの悪い思いをしている。

「つか、旦那は結局桜がいいんですか?」

「え…………まあ、一美よりは」

 楓の質問にたっぷりと間をとってからひなたさんが答える。

 だが、その回答が不正解であることは俺や楓でさえわかっている。

「振られたな」

「振られるね」

「振られちゃう未来しか見えないな」

「なんでだよ!だいたいなあ―――」


 この後、俺たちは夜明け近くまで盛り上がり、親睦を深めた。

 



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