男子会2-2
狂華さんと楓、それに瑞季ちゃんと佳純ちゃんを説得し、なんとか企画にGOサインを貰った俺は、ひなたさんと小崎Pに企画を任せる体で、裏で小崎Pと綿密な打ち合わせをして、拉致事件当日を迎えた。
時間がないということもあり、流れはそのまんま某番組のパクリ。ラジオ生放送直後に黒服さんを伴って入ってきたひなたさんを黒服さんたちが拉致。
そのまま車に放り込み『どんな気持ち?ねえ今どんな気持ち?』という内容のインタビューを受けていただくという流れだ。
まあ、その先は北関東をぐるぐるして鬼怒川温泉に泊まるので、盛り上がりはその冒頭の拉致ということになる。
「なんだか今日はごきげんですね、朱莉さん」
ラジオのオンエア中、CMに行ったタイミングで柚那が声をかけてきた。
「ああそうだった。言い忘れていたんだけど、俺、今日は寮に帰らないから帰りは柚那が運転していってくれるか?」
「それはいいですけど…どこに行くんですか?」
まあ、俺が企画を知っているということをひなたさんに感づかれないために、柚那はもちろん愛純にも朝陽にも話していなかったから疑問を持たれても仕方がない。
「鬼怒川」
「いや、今ド深夜ですよ?こんな時間に行ったってホテルも迷惑だと思いますけど」
「まあ、それはそれ。番組終わって着く頃には朝になるし」
「……あの、朱莉さん」
「はい…って、どうした愛純。そんな柚那が怒った時みたいな笑顔を浮かべて」
「柿崎さんも今日の深夜に用事があるって言っていたんですけど、もしかして一緒ですか?」
「そうだ」
そうなのだ。万が一小崎Pが裏切ってひなたさん側につき、企画をまるっとひっくり返す。そんなことがないように、俺は柿崎君を始めとして、俺の息がかかっている黒服さん達を企画に参加するメンバーとして推しておいた。
まあ、今日の本番前、彼らが小崎Pと一緒にいることを確認してからスタジオに入ったので、その心配もないのではあるが。
「柿崎さんと何する気ですか?ニヤニヤしているし、なんかエロいこと考えていますよね?」
そういって身を乗り出してくる愛純の表情は、かなり恐ろしいことになっている。
「いや……違うんですよ愛純さん」
「何が違うっていうんですかぁ?あーん?」
何その蛇みたいに冷たい目!
「落ち着けって。実は男性魔法少女協会の企画で、ひなたさんをハメるっていう企画があってな」
「ひなたさんに!?柿崎さんがですか!?人の彼氏をなんだと思っているんですか!?肉バイ―」
「やめなさいって!」
最近愛純はシモネタ多いなあ。
「なんか深夜のテンションで勘違いしているみたいだけど、『に』、じゃなくて、『を』な」
まあ、それはそれでひなたさんにとって屈辱的ではあるだろうけど、そんなことしたら番組にならない。っていうか、犯罪だ。
「要するに、ひなたさんを罠にハメるってことだと思うんですけど、大丈夫ですか、それ。小崎Pって面白い方に流れるから、裏の裏をかかれるかもしれないですよ」
「そのための柿崎くんなんだよ。彼が小崎を見張っていてくれて、何か変な動きがあれば連絡してくれる手はずになってるから」
「なるほど!さすが柿崎さん!頼りになりますよね!」
「なあ、愛純」
「なんです?」
「なんでお前、最近柿崎くんにベタ惚れなの?」
「だって、悪いことしたらちゃんと叱ってくれるし、いいことしたらちゃんと褒めてくれるんですもん。今まで甘やかしてくれる人はたくさんいましたけど、ちゃんとそういう風にしてくれた人っていなかったんですよ!」
そう言って愛純は心底嬉しそうに笑う。
「この間私が油断してちょっと太っちゃった時も、嫌いになったりせずに、一緒にダイエット頑張ろうって、応援してくれましたし」
あれはちょっと太ったなんて可愛いもんじゃなかった気がするんだけど。まあ、それはともかく。
「愛純って、案外チョロいよな…」
「あー!それ、朱莉さんにだけは言われたくないです!」
「俺がチョロいみたいに言うのやめろよな!」
「はいはい、二人共、そろそろCMあけますよ」
冷めた柚那の一声で、ヒートアップしかけていた俺と愛純は席につき、その後は特に滞り無く番組が進行して、運命の時がやってきた。
「はい、というわけで。今週もお送りしました、魔法少女レディオ」
「そろそろお別れのお時間となりました」
「今週もたくさんのお便りありがとうございましたっ」
「さてさて、本編は武闘会編のシーズンクライマックスも近いということで……どうせならまた優勝したいですよねえ」
「…いや、なんかずっと同じチームでしたみたいな顔してるけど、柚那は前回優勝してねえからな。俺と愛純はしたけど」
「去年のあれは私と朱莉さんのお願いごとなんですから、私達の勝利っていうことでいいんですよ」
「そうですよ、そういう細かいこと気にしているから、なんか口調が変になって、リスナーから女々しいとか言われるんですよ」
ジュリの癖が抜けず、俺はここ数回ラジオでうっかりすることが多く、そのツッコミのFAXやらメールやらも結構きていた。愛純の言っているのはそのことだ。
「余計なお世話だよ」
「またそうやってすぐにいじける。そろそろ本気で男らしくしないと、いつまでもかつての男前のままですよ」
「はいはい。そのうち男らしいとこ見せますよ…というわけで、この時間は邑田朱莉と」
「伊東柚那と」
「宮野愛純がお送りしましたー。おやすみなさい~」
愛純がそう締めるのとほぼ同時にスタジオのドアが開いて、ブラックスーツにサングラスをかけ、ハンディを構えたひなたさんと黒服がゾロゾロと入ってくる。もちろんひなたさんのうしろにくっついてきた黒服は柿崎くん達、俺が手配した5人だ。
勝った!今回は勝ったぞ!
「な、なんですかひなたさん!」
俺は笑い出しそうになるのを必死にこらえながら芝居を打つ。
「……」
ひなたさんは俺の問には答えず、サングラス越しにもわかるくらいの不敵な笑みを浮かべて指を鳴らした。
それを合図に黒服の五人が一斉にひなたさんを持ち上げ……ずに、俺を持ち上げた。
「ちょ、何してんだよ柿崎くん!おい!こら!やめろって!パンツ見えんだろ!」
容赦なく持ち上げられた俺は先頭を行く二人の肩に一本ずつ足を載せられ、後ろの二人に、腕をガッチリホールドされながらエレベーターに乗せられる。
「お前らなんでだよ!ちゃんと金払ったろ!?あ、もっとか?もっとひなたさんに積まれたか?じゃあ俺はその倍払うからひなたさんも拉致れよ!っていうか、やり直せー!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ごめんね」
五人のうち、四人は黙ったままだったが、一人だけ、柿崎くんの顔と背格好をした人物だけが小さな声で謝ってくれた。
そしてその声を聞いた俺はすべてを理解した。
「……狂華さん」
つまり、残りの四人は楓、瑞季ちゃん、佳純ちゃん、桃花ちゃんだろう。
「なんで……?」
「なんというか……ひなたが小崎さんを丸め込んじゃったんだ『自分にはバレバレだから、勝ったと思って油断しているはずの朱莉を引っ掛けたほうが面白いぞ』って。それで小崎さんからボク達に『こういう主旨に変更しますから』っていう連絡が来て、みやちゃんもそれでOKを出しちゃってさ…」
なるほど、柚那の心配が現実になったというわけだ。
というか…
「あの人、金出さないくせに口だけ出すのな!…じゃあ柿崎くんたちも都さんの命令で狂華さんたちに交代したんですか?俺に嘘の連絡を送って?」
友達だと思ってたのに!最悪桃花ちゃんが裏切ってもあいつらは裏切らないと思ってたのに!
「いや、彼らは朱莉と仲が良いから、企画を伝えずに、小崎さんが携帯の電波が入らない本部地下の駐車場に閉じ込めてる」
「俺だけじゃなくて、そっちも拉致監禁じゃねえか!」
「だからどうなっても知らないって言ったじゃないですか」
そう言って、ちらりと俺の方を向いた右足担当の黒服の声は桃花ちゃんだった。
「つーか、お前!本当にふざけんなよな!なんで毎回裏切るんだよ!俺、お前になんか悪いことしたか!?」
「え?何もしてないですか?」
と、悪びれる様子もなく言いながら、俺の右足を持つ力を強める桃花ちゃん。
「痛だだだだ……う……ま、まあ、それはその、していなくもない」
「ですよねー?いやあ、騙されそうになっちゃいましたよー。ひなたさんが私を副会長に推した?弱みに付け込めって言った?そんな事実ないじゃないですかやだー」
「……すみませんでしたー」
「まあ、人を呪わば穴二つってやつだな。あたしは一応企画が始まる前にやめとけって言ったのに、前回も今回も聞かない朱莉が悪い」
「うう……」
確かに前回も今回も楓にはそう言われていた。
「というか、ひなたさんになにかしようと言うのが無謀すぎっす」
「…命あっての物種。命は大切にしないと」
佳純ちゃんはそう言って笑い、瑞季ちゃんはため息混じりに首を振る。
「ぐ…なんも言えねえ…」
「ま、まあまあみんな。朱莉も反省しているからさ。朱莉も、このあとは普通の旅番組を撮って、旅館で宴会しておしまいだから。美味しいもの食べて元気だそう。ね?みやちゃんも大笑いしながら予算出してくれたから、多少高いものでもOKだよ」
そう言って俺の頭をなでてくれる狂華さんはやっぱり天使だ………まあ、みんなと一緒になって俺のことを騙した分はあとでしっかり精算してもらうけどな。




