男子会2-1
リクありがとうございます。
※作者も朱莉もノープランです。
男性魔法少女なんとかかんとか会長として都さんと相対するという、非常に疲れる仕事を終えた俺は、都さんと別れたあと、寮のラウンジで男性(以下略)副会長をしてくれている桃花ちゃんと一緒に珈琲を飲むことにした。
「やっと終わったな……」
「ですねぇ…」
珈琲を淹れた後、俺は椅子に身体を預けて天井を仰ぎながら、桃花ちゃんはテーブルに突っ伏しながら大きくため息をついた。
「というか、酷いですよ、朱莉さん。私は全然関係ないのに、なんで副会長なんてやらなきゃいけないんですか」
「文句ならひなたさんに言ってくれ。ひなたさんが『副会長に桃花を置いたら仕事も減るだろうし、いいんじゃないか?お前、桃花に貸しがいっぱいあるんだろ?』とかいう悪魔のささやきをしなければ俺は君を副会長にしようなんて考えてもいなかったんだから。というか、全然関係ないはないだろ。ひなたさんの口車に乗っかって、前の男子会の時に、しこたま俺に酒を飲ませたんだから」
「う……」
というか、実はひなたさんには副会長を指名してもいいぞとは言われたけど、貸し云々は俺の創作だ。
とはいえ、ひなたさんを副会長に指名したところでサボるのが目に見えているし、狂華さんはこれ以上仕事押し付けたら疲れた笑顔を顔に貼り付けたまま黙って死んでいきそうだし、楓は事務作業がさっぱりだとイズモちゃんが言っていた。佳純ちゃんと瑞季ちゃんは飛行機の距離なので気軽に来てくれと言いづらい。
ということで、消去法で桃花ちゃんになっただけとも言えるんだけど、まあここはひなたさんのせいにしておいたほうが角が立たなくて良いだろう。
「ま、まあ、100歩譲って私の責任もあるということで、副会長なのはまあいいですよ。でもひなたさんだけ勝ち逃げとか、超ズルくないですか!?」
「まあそれはあるよな…」
「予算とってこいっていうだけじゃないですかあの人」
男性(以下略)の予算取ってこいとかいう癖に、自分ではなんにも動かないひなたさんに対しては俺もいろいろ言いたいことがある。
「しかも、都さんに『予算くれ』って言ったら、『親睦を深めるだけの集まりなら、予算の見返りになるような、金になる企画出せ』だもんなあ。正論過ぎてぐうの音も出ねえよ」
「しかも押し切られて、『企画のパイロット版撮ってこい!』ですもんね…」
しかもそのパイロット版には予算がつかないのでやるなら俺達の自腹で機材を揃えなければいけない。しかもその機材代も返ってくる保証はない。
「桃花ちゃんは元アイドルだったわけだし、そういうノウハウないの?」
「……ああ……まあ…私にはないですけど」
「ん?」
「小崎Pに聞いてみます?」
「……激しく嫌な予感しかしないんだけど。っていうか、逆にお金すごくかかりそう」
小崎の性格もさることながら、あれでも彼は一応売れっ子プロデューサーなのだ。仕事を頼めばお金がかかるだろう。
「いや、この間周年行事も終わって、今すごく暇らしいんで、多分暇つぶしにやってくれるような気はするんですけどね」
「その言い方だと、桃花ちゃんもなんか不安があるんじゃないの?」
「あの人えげつないから、私達のキャラにあわない番組になる気がします」
まあ、みんな実は結構えげつないけどね。俺を含めて。
「いや、そのえげつないので、ひなたさんをギャフンと言わせてくれるような企画だったら、たとえお蔵入りになったとしても、俺は機材代くらい持っても良いと思ってる」
「今の朱莉さん、私が今まで見た中で一番いい顔している気がするんですけど…」
「すまん。ひなたさんがぎゃふんと言うのを思い浮かべたら、もうなんか嬉しくなってきちゃってさ。なあ、桃花ちゃん。小崎さんに頼んでみてもらっていいか?俺からよりも、元々グループに所属していた君からのほうが、話が通る気がするし」
「…いいですけど、どうなっても知りませんからね」
「いやあ、邑田さん。久し振りですね!」
「暑っ苦しいから、グイグイ近くにくるのやめてくれませんかね!」
ほぼ一年ぶりに顔を合わせた小崎は、グイグイくる感じで、あいかわらず非常にやりにくい相手だった。
「いやあ。感激だなあ。魔法少女の男子会に僕も誘ってもらえるなんて」
「誘ってねえよ。なんかテレビの企画考えなきゃいけないから、その手伝いをお願いしたいっていうだけだよ」
真面目な話、ひなたさんに加えてこの人までいたら、もうなんかいろいろと収集がつかない気がする。
「いやいや、なんだったら、僕も手術を受けて魔法少女になるというのもやぶさかではないですよ」
「あんたに適性があったとしても、今は条約がいろいろあるからそうそう人数を増やせないの!あと、あんたみたいな多忙な人間が失踪したり死亡したら、その後周りが大変だろうが」
「いや、もう私は後進に道を譲ってますからね、名前を貸しているだけなんで、最悪本人と音信不通でも、プロジェクトはどうとでも動きますよ」
そう言って少し自嘲気味に笑う小崎Pの表情は少しさみしそうにも見えた。
「で。企画ということなんですけどね」
さすがプロというべきか、実はまったく感傷などなかったのかは分からないが、小崎はいつもの胡散臭い笑顔を浮かべて、ブリーフケースの中からクリアファイルを取り出すと、その中から企画書を取り出して俺の前に置いた。
「桃花の話だと、邑田さんは意表をついた驚かせ方をご希望ということで」
「……ええ、まあ、今までもかなりひどい目にあわされているので、その復習をしてやりたいと思ってまして」
「なるほど。あ、メイキング用にカメラ回すんで、あまり魔法少女や宇宙人の核心に触れるような話はしないようにしてください」
そう言って小崎はブリーフケースの中から持参したハンディと三脚を取り出し、セットを始める。
「了解です」
本編以外にメイキングを作るってことは、つまりDVDも視野に入れているってことか。これは都さんも予算を出してくれる可能性が高まったぞ。
「今回、ターゲットはひなたさんということで」
「ええ。あの人って悪い意味で大人っていうか、何をやっても騙されたり負かされたりするんで、できれば今回はあの人を打ち負かしてやりたいんですよね」
「なるほどなるほど。ただ、全編通してそれだと流石に殺伐とするんで、最初だけにしたいんですけど…邑田さん、これ、ご存じですか?」
そう言って小崎が机の上に置いたのは男性タレント二人が旅行する番組のDVDだった。
「知ってますよ」
「それなら話が早い。今回私が提案するのは、邑田朱莉拉致事件に見せかけた、相馬ひなた拉致事件です」
「………つまり、パクリ?」
「時間も予算もないんですから、しょうがないじゃないですか」
まあ、確かに時間も予算もかなり無理を言っているからなんとも言えないけど。
「で、まあ。あとは普通の旅番組です。ハンディでみなさんに撮ってもらいながらゆる~く食べ歩きをするような感じで、可愛らしい感じにしようと思ってます」
拉致で始まって可愛らしい感じって…。
「っていうか、それ…視聴率取れるんですか?」
「あ、オンデマンド番組なんで」
まあ、内容がかなりユルユルだし、それが現実的だよなあ。要するにスポンサー探す時間もないし、手っ取り早く撮って、好きな人だけ金払って見てくれればいいってわけだ。
まあ、それでも狂華さん、ひなたさん、楓に、自分で言うのもなんだが俺もそこそこ数字を持っているので、そこそこの金額が見込めるだろう。
「他になにか、もっとひなたさんをこうしてやりたいというような希望があればできるだけ取り入れますが」
とはいえ、怪我するようなことはできないし、いろいろ謀略を巡らせるのが大好きなひなたさんにとって、その謀略が失敗し、さらに自分がハメられたとなればダメージが大きいだろう。
「わかりました。それでお願いします」
「了解しました。では日程などは後日ということで、邑田朱莉拉致にみせかけた相馬ひなた拉致事件をお楽しみに」




