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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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十年目の浮気 4

「……あれ、本当に大和さんか?」


 正宗が思わずそうこぼしてしまうくらい、今日の大和は狂華さんに対して献身的だった。

 いや、あれはもう恋人同士とか献身的とか、そういう関係ではない。主従関係とでも言うのだろうか。

 どこかで見たことのあるような関係なのだがうまく言葉に……ああ、そうか。あれ、狂華さんと都さんの関係だ。


 狂華さんがなにも言わずとも大和はドリンクを持ってきたり、ハンカチを差し出したりと、まあよく気がつく。

 どのくらい気がつくかと、ここに柚那がいたりしたら『朱莉さんもアレくらい気が利いてくれるといいんですけどね』とかチクチクチクチクと、ずーっと先まで嫌味を言われそうな。そんな気づきレベルだ。

 正宗の言うように、俺としても『本当に大和か!?』と聞きたくなってしまうくらいの変わりようで、乗り物に乗る時や階段の登り降りなんかでもスマートにエスコートしていく。正直言って違和感しか無いが、正宗よりも付き合いが長いだろう虎徹が何も言わないので、もしかしたら大和は意外と気の利くやつなのかもしれない。

 まあ、スマートにエスコートしていることからもおわかりのように、大和は俺達の妨害工作などどこ吹く風というように、華麗にかわして狂華さんとの時間をすごしている。

 例えばジェットコースターで狂華さんと俺が一緒になるように割り込んでみれば、いつの間にか狂華さんと華絵ちゃんが入れ替わっていたり、お化け屋敷で大和を脅かして、狂華さんの前で恥ずかしい目に合わせてやろうと思えばいつの間にか後ろに回られて俺達が脅かされたりと、なにをやってもうまくいかない。

 ……いや、いくらなんでもうまく行かなさすぎる。

 万が一大和が魔法で何らかの細工をしていたとしても協定違反ガー!とか騒ぐ気はないが、それでも大和が魔法を使っているのなら何らかの対策は必要だということで、俺は不本意ながら二人乗りのアトラクションに正宗を誘ってその辺りを聞いてみることにした。

「ねえ、正宗」

「ん?なんだ?告白か?」

 本当にこいつって自分に自信満々だよな。まともに取り合っても面倒だからスルーしよう。

「……大和さんって、まさか魔法使ってないよね?」

「使ってないと思うぞ。多分ジュリが怪しんでいるのは、うまく邪魔できないっていうことだと思うけど、あの人の魔法はそういう小手先の魔法じゃない」

「じゃあ、どんな魔法なの?」

「こう、一撃で決める感じの……まあ、簡単にいえばパンチだ」

「パンチなの?普通の?」

「ああ。本当になんの変哲もないパンチだ。だけど、その辺のビルくらいなら簡単に崩壊すると思う」

「随分強力なパンチなんだね」

「強力っつーか、デカイな。こう…学校の屋上にある貯水タンクあるだろ。あのくらいのサイズのエネルギーの拳が大和さんの前に出現して、それを相手にぶつけてそのまま押しつぶすんだよ」

 まあ、パンチはパンチだけどそれを何の変哲もないって言われてもなあ…。

そういえば、うちはそういうゴリゴリのパワータイプってあんまりいないな。しいて言うなら楓くらいか。

「じゃあ、魔法で邪魔されている線はなしか…」

「というか、魔法って戦闘のためのもんだろ?相手の邪魔を出来るとか、そんなまどろっこしい魔法あるのか?」

「なくはないよ」

 特定範囲の中で自分以外の人間がやりたいことを徹底的に邪魔をするというひねくれた魔法の持ち主も、国内にいないではなかったりするし、大和もそういう魔法かと思ったのだが違うらしい。

 いや、それよりも。

「正宗のところってそういう戦闘特化みたいな魔法ばっかりなの?」

「そうだなあ、華絵みたいな防御に特化している人間はいないし、だいたい攻撃かな。一人だけ不死身っていう相手をするのが面倒くさい人はいるけど」

「なるほど」

 まあ、一応侵略者だからなあ。衛生兵みたいな人間はともかく、相手の邪魔をするだけの人間なんてたしかに回りくどくて必要ないのかもしれない。

「でも魔法じゃないとなると、打つ手なしかぁ…もう面倒くさいから投げちゃおうかなあ」

 アフターが心配って言ったって狂華さんだっていい年した大人なんだし、自由にしたら良い。

それに、もう最悪ギリギリ、ホテルに入る直前のタイミングになっても、都さんが土下座でもすれば終わる話なんだろうと思うし。

「じゃあ、この後ふけて二人でどこか行くか?」

「……いやいや、私は別にいいけど、後で正宗が華絵ちゃんに殺されるよ」

 自分で言うのもなんだけど、ジュリって華絵ちゃんに超愛されてるし。

「そうなんだよなあ……」

「ちなみにさ、正宗って誰が本命なの?」

 虎徹は彩夏ちゃん、大和は狂華さん。あとの二人はまだあまり話していないからよくわからないけど、いい機会だし正宗の本音も聞いておこうということで尋ねてみた。

「一応、先に言っておくけどクラスの普通の女子はなしね…っていうか、そっちじゃないでしょ?」

「まあな」

「真白ちゃんとか和希ちゃんとかと噂もあったりするけど、その二人は違う?」

「あ、違う違う」

「そっか」

 ちょっとだけホッとした。和希も真白ちゃんも正宗のことを気にしてくれているが、それはあくまで友人としてだろうというのは見ていてよくわかる。だからこそ、俺としてはその三人に本気の修羅場には突入してほしくなかったのだ。

「ジュリが知っているかどうかわからないんだよなあ…」

「いや、大体の魔法少女は知っているし、正宗に関わっている人なら大体わかるから大丈夫だよ」

「いや、魔法少女じゃないんだ。その…フォロワーで、JCのあかりの妹に千鶴っているんだけど、あいつが好きなんだよ」

「…………え?なんだって?」

「あ、やっぱりわからないか?」

「いやいやいや。よく知ってる。よく知ってるけど」

 なんで千鶴なんだ?

「なんで千鶴ちゃんなの?子供作れないよ?」

 連絡将校見習い組と口だけで渡り合っていたり、実は勉強も運動もスペック高めだったりはするけど、一応真人間だし。真人間の女性と正宗達の間には子供ができない事が判明しているので、正宗が千鶴を選ぶと、彼らの目的とは合致しなくなる。

「でもかわいいじゃん」

「かわいいけどさ」

 出会った頃の姉貴に似ているので、俺も時々『お!?』って思うことがあるしな。

「いや、子供がつくれなくても、二人で一緒にいられたらそれで幸せかもって」

「見た目だけ?」

「最初はそうだったんだけど、あいつの無理に強がっているところがかわいいなって思ってさ」

 うん、それは確かに千鶴の魅力。

「仲いいの?」

「近い近い。ドキドキするから顔近づけんな!あと、目が怖えよ!……まあ、仲は良いと思うぞ」

「というか、接点なくない?どうやって知り合ったの?」

「えっと……合コン?」

 なにそれ、叔父さん聞いてませんよ。

「合コンって合コン?いつの間に?」

「少し前なんだけど、休日にフォロワー男子と和希の集まりにくっついて井上の家に言ったんだけどさ、あとから千鶴とアビーと深雪が合流して、それでみんなでゲームしたりしたんだよ。で、その後、和希と高山があかりに叱られたりしてさ」

 なにそれ、全く状況がわからない。

「ちなみに、その合コンってその後どうなったの?」

「高山はあかりに引っ張っていかれてその日は行方不明」

 ……まあ、どうやってその情報を掴んだのかしらないが、あかりからしたら彼氏が浮気したみたいなもんだしな。

そのまま別れても良いんだぞ、あかり。

「あとは、井上は静佳と佳江さんに締められてた」

 佳江さんって、2、3回しか会ったこと無いけど、静佳ちゃんのこと滅茶苦茶かわいがっているからなあ…。

「で、その時に千鶴とメッセのIDを交換してやり取りしているんだけどさ。なんていうか……めちゃくちゃ可愛いな。あと、先輩って呼ばれるの新鮮で嬉しい」

「あ、可愛いうちは演技だから」

 なんだ、まだ可愛い段階か。だったらまだ大丈夫だ。

「え?どういうことだ?」

「あ……いや……おんなってそんなものだよってこと」

 危ない危ない。ついつい気が緩んで口がすべってしまった。

「そういうもんなのか…」

「そういうもんよ」

 そんな話をしているうちに、アトラクションの出口が見えてきた。

「あ、俺の話をしてるうちに終わっちゃったな。なんかゴメンな」

「ううん、私が振った話だから。それにいろいろ聞けてよかったしね」

 まあ、厄介事のタネになりそうな話を聞いてしまっただけとも言うが。




 正宗と話をした後、都さんに『解散した後に二人でどっかいかれちゃったら見失いかねないし、早めになんとかしたほうがいいんじゃないですかー?』という適当なメールを送り、なんとかするつもりがあるのかないのか、肩を落としてトボトボと去っていく都さんを見送り、華絵ちゃんとエリスちゃんと楽しく遊んだりしているうちに、あたりはあっという間に夜になりパレードの時間になった。

「楽しい時間って、すぎるの早いわよね…」

 そう言ってパレードを見守る華絵ちゃんの顔は少しさみしそうに見える。

「まあ、また来ればいいじゃん」

「そうね、またお姉ちゃんがチケットくれたらね」

「あれ?華絵ちゃんのお姉ちゃんがチケットくれたの?」

 てっきり俺は生活費を切り詰めたのか、貯金を崩したのだろうと思っていたのだが、そうではないらしい。

「うん。でもチケットは日付指定だわ、お小遣いをよこさないわってあたりが、実に気が利かないと思わない?」

 華絵ちゃんはそう憎まれ口を叩くが、憎まれ口を叩きながらも少し笑っているので本気でそう思っているわけではないだろう。

「まあ、正宗のは自腹だけどね」

「私達とデートできるんだから良いのよ」

「というか、チケットも自腹なのに、なんで二人の交通費が俺持ちなんだ…」

 エリスちゃんの言葉に華絵ちゃんが突っ込みを入れ、正宗がぼやく。JKにいたときは当たり前だったこんな風景も、離れた今は少し懐かしい。

 そんなことを考えながら視線を大人組に移すと、彩夏ちゃんと虎徹はいい感じの距離でくっつきながら、パレードの列をゆっくりと走るフロートを指差して何か言ったりしている。

 狂華さんと大和のほうも、つかず離れず、友達以上恋人未満といった距離で二人並んでパレードを見ていた。…こころなしか大和のほうが目を輝かせているような気がしないでもないのがちょっと気になる。

 そして、あたりを見回してみても都さんらしき姿は見えない。

 はたして、何か策があるのか、それとも本気でどうでもよくなったのか、はたまた、またメンタルが崩壊しているのか。

 そんなことを考えながら狂華さんと大和のほうに視線を戻すと、どこから現れたのか、都さんが狂華さんの腕を掴み、そして狂華さんもろともその場から忽然と姿を消した。

 って、何やってんだあの人は!

「ごめん!ちょっと用事を思い出したから、私先に帰るね。今日は楽しかった!ありがとう!」

 三人にそう声をかけてから、俺は急いで人混みを抜け、物陰で柚那に電話をかける。

 今はまだ、パレードに夢中で大和は狂華さんが消えたことに気づいていないが、気づいて暴れだしたりしたら大惨事なんていう言葉では片付けられないほどの被害が出かねない。その前に俺がなんとかフォローしなくてはならないだろう。

『はい、なんですか朱莉さん』

 幸い、柚那はすぐに電話に出てくれた。

「緊急事態だ。今日俺に変身魔法をかけたのは誰だ?」

『どうしたんです?いきなり』

「いいから教えてくれ。早く解呪して元に戻らないと大変なことになるかもしれない」

 誰の魔法かがわかっても、そこから解呪まではまた一苦労だ。情報を早くもらって解呪に取り組みたい。

『えっと…』

「都さんがデート中に狂華さんを攫った。幸い今はまだ大和は気づいていないけど、気づかれてキレられたらどうしようもないから、その前になんとかフォローしたい。そのためにはジュリの姿じゃまずい。早く元に戻りたいから誰の魔法か教えてくれ」

『あ、ああ。そういうことですか。なるほど、それなら――』

「私の魔法ですわ。朱莉さん」

「朝陽だな?わかった…って、朝陽!?」

 俺が振り返ると、そこには朝陽はおらず、大和が一人で立っていた。

「ええ、私です」

「………いやいや。まさか」

 朝陽の声で喋る大和の出現で俺の中に一つの仮説が生まれた。もしも俺が考えている通りだとすれば、すべての辻褄が合うには合う。

 例えば、今日の俺の格好は、都さんから三人に要請が行く前に、すでに黒幕が段取りを組んでいたんじゃないか。

 そもそも、都さんが変装してジュリに扮した俺を連れ、俺が仕組んだWデートを尾行をするということすらも、黒幕のシナリオどおりなんじゃないだろうか。

 いや、むしろ、Wデートそのものすらも、俺が提案したつもりになっていただけだ。あれは、彩夏ちゃんのほうから『そういう事情なら、こてっちゃんと一緒にWデートしましょうか?一応こてっちゃんのほうが上司だし、大和氏も嫌だとは言わないはずですよ。あ、費用は朱莉さん持ちでお願いしますね』という提案をしてきたものだ。つまり、俺も良いように操られていたということだ。

 それに加えて、華絵ちゃんに日付指定のチケットが送られて、三人が今日ここに来たことすらも、俺を偽物の大和に近づけすぎないための策略なんじゃないのだろう。

 そして、そのすべてを裏で操っていた黒幕は、多分、狂華さんだ。

「なんとなく理解したという顔をしているようですので、詳しい話は省きますけれど、今日のことはすべて狂華さんが仕組んだことです。都さんに嫉妬させ、焦らせ、本気で反省させる。そういうシナリオなんです。まあ、最後の最後でテレポートで攫われてしまったのは予定外でしたけど」

『はいはーい、そのテレポートは私がレクチャーしましたー』

 大和朝陽の出現で耳から離して手に持っていた電話口から愛純の元気な声が聞こえてくる。

『いやあ、ビデオ通話で魔法教えたの初めてですけど、人間やればできるもんですね。数時間でテレポートできるようになっちゃいましたよ』

「あの人が特別なんだろ」

 俺のメールを受け取った後、都さんがいなくなっていたのは愛純にテレポートを習いに行っていたからということのようだ。

「……一応聞かせてくれ。誰と誰と誰がグル?」

『私達三人と、狂華さん、あとは彩夏、虎徹さん…というか、東北チームはみなさんの監視誘導という点でも全面協力してくれました』

 だろうな。チケットが送られてきた時点で、お姉ちゃん大好き華絵ちゃんはお礼という名目で姉に電話をかけるだろうから、その時の口裏合わせは必須だ。

 だから今日のデートが仕込みだとわかった時点で、東北チームは抱き込まれているだろうなというのは思っていた。

 それに、彼女らがうまく監視、誘導することで、俺達の順番割り込みや、お化け屋敷での先回りといった作戦を予め狂華さんに伝えたりすることで回避が可能だったというわけだ。

 ……あと、今考えると、あっちこっちで考えられないようなドジを踏んでいた清掃員がいたんだが、あれはこっちの監視をしていた精華さんだったのかもしれない。

「それならそうと先に言ってくれよ…無駄に疲れちゃったし、それだったら…いや、なんでもない」

『それだったら何ですか?』

「なんでもないって。じゃあ朝陽と一緒に帰るから」

『あ、ちょっと朱莉さん!?』

「じゃあ後でな」

 JKに泊まりに来いって誘われていて、実は行きたかったとは流石に言えないわな。

 そんなことを考えてスマートフォンをポシェットにしまおうとしたところで、柚那に設定してあるメッセの着信音が鳴った。

『^^』

 ええー……なんで?電話越しで、しかも口に出してないのになんでバレたんだ!?

 とかなんとか考えているうちにさらに着信。

『>>何か心当たりない?

 >そう言えば、さっき、JKの二人に今夜泊まりに来いって誘われていましたわ。

 ……まっすぐ帰ってきてくださいね^^』

 

 やだ、柚那さんったら超怖い。

 あと、朝陽ったら逃げ足超早い。





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