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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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十年目の浮気 2

 予想通りと言えば予想通りだが、結局都さんは謝らなかった。

 一応凹み状態からは回復したが、やっぱり「私らしくない」とやらに固執してしまって、狂華さんとは目も合わせないし、それどころか書類のやり取りすら都さんは臨時で愛純を、狂華さんは朝陽を雇ってする始末。

 とは言え、狂華さんが朝陽を雇ってくれたことで俺は狂華さんの動向をつかむことができ、デートの日取りとどこへ行くのか、何時集合なのかなどを聞き出すことに成功。俺はその情報を元に裏で彩夏ちゃんと虎徹に頼み、ふたりきりのデートをとりあえずダブルデートに変更することに成功した。

 そして当日。

「あの…」

「ん?何?」

「なんで俺、こんな格好で都さんの車に乗っているんでしょうか」

 今朝、目覚めた俺は、いつもは寝起き最悪のはずなのに、今日に限って朝から目がらんらんとしている柚那と、なぜか朝から俺の部屋にいた愛純の言うがままの服を着て、メイクをされ、髪をセットされて、よくわからないうちに寮から外に出された。

「その格好の時は一人称『私』でしょ、ジュリちゃん」

 車に乗せられ、バックミラーを覗き込んで初めて分かったのだが、俺はジュリの顔でジュリの服を着てジュリの髪型で…まあなにしろ頭のてっぺんから足の先までジュリだった。俺がいつの間にかジュリになっていたのは柚那か愛純か、ヘタすれば朝陽か恋か、そのあたりの魔法だろうけど誰の魔法かわからないと解除するのも一苦労なので、とりあえず解除は諦めた。

 ちなみにとてもガーリーな格好で可愛らしい俺に対して、都さんは完璧な男装。魔法で顔を変え、普段と違うメイクとサラシか何かで潰しているのだろう胸のおかげで、中身が男の俺からみても思わず『おおっ』と思うほどのイケメンだ。

 声や体型が変わっていないのは多分ナノマシンの量の関係で都さん単体ではこのくらいの変身が精一杯ということなのだろう。

「一応聞きますけど、なんで私は男装した都さんの隣に?」

「今日の俺は都じゃない。ミヤオだ」

「………そのイントネーションだと、苗字っぽいんですけど」

 何にしても都男とか安直すぎるが。

「ああ、間違ってないぞ。俺は女子高生の彼女を連れたイケメン青年実業家、宮尾さんだからな」

 いや、なんか犯罪の香りしかしない設定だぞそれ。っていうか自分でイケメンとか言っちゃってるし。

「まあ、色々突っ込みどころはありますけど、とりあえずそれは保留にするとして、これってつまり、狂華さんのデートを覗きに行くってことですよね?」

「……違うし。宮尾さんが大好きな彼女のジュリちゃんとデートしに行くだけだし」

 その格好で拗ねた顔してそういう事言われてもあまり萌えないんだが。

「はあ…なんでさっさと謝らなかったんですか?」

「別に謝ってないわけじゃないわよ。一応、あの後狂華のところに行って謝ったのよ。でもね、いつもはそれで『いいよ』って許してくれるのに完全にスルーしたり、鼻で笑ったりして全然話してくれなくてね」

 ……あ、これ多分全然謝罪になってないやつだ。

 俺たちに対して横暴で暴君な都さんではあるが、一応自分が悪いことをしたり、間違ったことをしたらちゃんと謝る。しかし、狂華さんだけはある意味特別で、謝る前に『しかたないなあ』とか言って許してしまうことが多い。なので、都さんは狂華さんに対して謝り慣れていない。つまり、都さんがこうなってしまったのは10年近くに渡る狂華さんの甘やかしの結果なので、都さんだけを責めるのはちょっと違うとは思う。

 というか、俺としては『狂華さんは、都さんをこういう性格にすることで、自分に依存させるように仕向けていた』説の論者なので、都さんの態度は狂華さんの自業自得だと言ってもいいと思っている。

「覗きに行くのはいいですけど、邪魔はしませんからね。やり方はともかく、大和としては本気で狂華さん狙いで、狂華さんもそれを承知で誘いに応じた。その二人の邪魔をするっていうのは流石に横暴って言葉じゃ済まされないと思いますから」

「…わかってるわよ」

 まだ拗ねたような表情をしているが、ここで『味方しろー!』とか言わないっていうことは、一応反省はしているみたいだ。

「まあ……一応彩夏ちゃんにはそれとなく居場所を教えてもらえるように連絡しておきますから、どうしても我慢できないようなことがあれば止めましょう」

「…ありがと」

「ちなみに、どのくらいまで許容範囲ですか?」

「手をつないだらアウト」

 小学生の娘の初デートを見守る父親かよ。

「いや、狂華さん達が行っているのってディスティラリーランドですよ?結構人が多いし、はぐれたりしないように手ぐらいつなぐのはしょうがないんじゃないですかね、一応デートなんですし」

 ちなみにディスティラリーランドはウイスキーをテーマにしていて、様々なウイスキーを擬人化したキャラクターがウリの新進気鋭のテーマパークだ。断じてネズミがどうとかこうとかいうテーマパークとは関係がない。俺は一度柚那といったことがあるのだが、色んな意味で大人向けのテーマパークだった。

「というか、前に狂華さんがキャンキャン泣かされるのが見てみたいとか、俺に陵辱させたいとか言っていませんでした?それなのに手をつなぐだけで我慢できないとか流石に意味がわからないんですけど」

「それはあくまで軽口として言っていただけでしょ?いざ寝取られかねない状況でそんなこと言う奴いないわよ」

 なんという自分勝手。…ああ、でもそう言えば、昨日時計坂さんが『司令から上がってきた書類の『VTR』っていう記載の部分が、全部『NTR』になっているんだけど、何か心当たりある?』とか聞いてきたっけ。

「軽口でもそんなこと言わないほうがいいですよ」

「そうね、気をつけるわ」

 素直!今日の都さん超素直!

 っていうか、そんなに嫌ならもう土下座でもなんでもして許してもらえば良かったのに。




 園内に入った俺と都さんが、『それとなく位置を教えて』とお願いしていた彩夏ちゃんから送られてきたURLをクリックすると、かなり詳細なディストラリーランドの地図の上で「Kotetsu」と書かれた印が動いているウェブページが表示された。

 というか、これは多分、少し前に流行った彼氏監視アプリの改良版だ。

「……怖いなあ、彩夏ちゃん」

「まあ、あの東北でうまくやっているんだから、あの子の腹黒さもお察しでしょ」

「ですね」

 うまくやっているかどうかはともかく、実際東北チームをうまくコントロールして切り盛りしているわけだし、考えてみれば姉妹ゲンカの時は時計坂さんを利用して、俺やこまちちゃんを手球にとり、更には結果的に寿ちゃんまで意のままに操った。そう考えると、東北で一番腹黒いのは彩夏ちゃんなのかもしれない。

「とりあえず行きますか」

「そうね。ここでこうしていても仕方ないし」

 そういって俺達が歩き出そうとしたところで、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「あれ?ジュリじゃね?」

「あら、ほんと」

「間違いないな。おーい、ジュリー」

 いやいや、嘘だろ、ありえないだろ。何だそのタイミング。

 っていうか、何なの君たち。エリスちゃんと華絵ちゃんはともかく、なんで正宗までいるの?なんだかんだ言って、本当は仲良しなのか君たちは。

「ぐ…偶然だね、三人とも。どうしたの、こんなところで」

「正宗がどっか遊びに行きたいっていうから、連れて来てあげたんだ。ジュリは?あ!もしかして、その人彼氏?」

「え?わ、私はその…」

 俺が答えあぐねて都さんの方を見ると、流石に状況が状況のためか、都さんも固まっていた。

こうなったら、ここは俺がなんとかするしか無いか。ええい、ままよ!

「その…実は今日は正宗の上司の大和さんが、狂華さんとデートするっていうから、その監視なんだ。正宗は知っていると思うけど、大和さんって前に狂華さんに対してストーカーみたいなことしちゃって接近禁止になったでしょ?で、今回はその和解をしたいっていうことで、狂華さんもデートに応じたんだけど、朱莉さんが二人だけじゃ心配だからって虎徹さんと彩夏さんをつけてダブルデートにしたのね。でもそれでも心配だからって、司令がこうして私と黒服の宮尾さんに後をつけさせているっていうわけ。あと、宮尾さんはこんな格好しているけど、女の人だから、彼氏とかじゃないから」

 どうよ、本当の事に嘘を織り交ぜることで信憑性を高めたこの言い訳。頼むからうまく騙されてくれよ、華絵ちゃん!

「そ、そうなんだよ。実はこう見えて私は女でね」

 都さんもそう言って話を合わせてくれ、エリスちゃんと正宗はそれで納得したらしく、「ふーん」と言いながらうなずいたが、華絵ちゃんだけは何か気になるのか、都さんを頭のてっぺんから爪先まで舐め回すように見ている。

「な、なに?」

「へえ…女の人なんですか…」

 そう言って華絵ちゃんは宮尾さん、もとい都さんの胸元をしばらく凝視してから、小さな声で「よしっ、勝った!」とか言いながらこれまた小さくガッツポーズをした。

 ……まあ都さんって、本当はかなり胸デカイんだけど。というか、小さいなら小さいでそれも個性なんだから気にしなくてもいいのに。愛純なんか最近はむしろそれをウリにしているくらいだし。

「というわけで、チャオ」

「ちょっと待ちなさい」

「グエッ」

 別れの挨拶をして颯爽と去ろうとした俺の襟首を掴んで華絵ちゃんが俺たちを呼び止めた。

「私達も手伝うわ」

「え…えー…いいよ別に。三人は遊びに来たんでしょう?私達のは仕事だし」

「手伝うわ」

「いや、でもこれ、お金でないよ?」

 別に懐が寂しいというわけじゃないけど、何かあるたびにお金が貰えると思われてしまうのはちょっとよろしくないし、俺がやたらとお金を上げていることがバレると姉のほうに叱られる。

「いらないわよ」

「でも悪いよ。折角の休日なのに」

「………」

 なんで華絵ちゃんは面白くなさそうに俺を睨むのか。

「まあまあ、ハナもお金なんていらないって言ってるんだし、いいじゃん」

「でも…本当にいいの?」

 手が多ければ見失う確率は少なくなるし、勘のいい狂華さんの後をつけるなら交代しながらやったほうが見つかるリスクも低くなるので助かるは助かるのだが。

「本当にジュリは鈍いよな。俺にだって華絵が何を言いたいのかわかるのに」

「え?」

「つまり華絵が言いたいのは『別にお金なんていらないから大好きなジュリと一緒にディスティラリーランドを楽しみたい……こんなこと言わせんなバカ』って――」

 最後まで言い切らないうちに正宗の身体が宙に舞い、浮いた正宗の身体を華絵ちゃんがエアリアルコンボ。さらにその正宗の身体をエリスちゃんが掴んでパイルドライバーでとどめを刺す。

「―ことなんだよ。それに俺も大和さんとか虎徹さんのデートに興味あるしな」

 地面に仰向けに倒れ、俺のスカートの中と空を仰ぎながら正宗がそう言って笑った。

 まあ、今日はスカートの中にレギンス穿いてるから別にいいんだけど……っていうか、本当に丈夫だな、こいつ。

 


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