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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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全試合終了

「いやあ、すごいすごい。もうね、酷すぎてむしろ感心したわ」

 都さんはそう言って手を叩いて笑うが、笑っているのは口元だけで、目は全く笑っていなかった。

 楓との決闘から数日後、予選最後の試合が行われたのだが、その結果がまた酷かった。

 酷かったというのは別に俺がまた手を抜いて負けたとかそういう話ではない。その証拠に今この部屋に呼ばれているのは、俺だけではない。

「酷いって…どこが?むしろすごくない?」

 なんとなく都さんの言いたいことを察した狂華さんとひなたさん、チアキさんと楓さんと俺は黙してお小言を聞く所存だったのだが、どうしても空気を読みたくないらしい精華さんがそう尋ねた。

「全チーム勝点5ってどういうことよ!完全にイカサマっぽくなっちゃったでしょうが!」

 そう。都さんの言うとおり、全試合終了した時点でどのチームの勝点も5。

 4回戦が終わった時点でうちが勝点3で精華さんのところが勝点5。他は勝点4で横ばいだったのだが、5回戦目の勝敗はうちが精華さんチームに勝った以外はチアキさんチームがひなたさんチームと引き分け、楓さんチームと狂華さんチームも引き分けた。もちろんこの4チームの引き分けの中にもどんでん返しやドラマはあった。あかりがひなたさんに勝ったり(あとで聞いたところによると、あかりが、みつきちゃんにひなたさんの正体をバラすとほのめかしたらしい)桃花ちゃんが大健闘してえりちゃんに引き分けたり、狂華さんチームと楓さんチームの試合ではエース楓さんとイズモちゃんがそれぞれ九条ちゃんと狂華さんに敗北したものの、鈴奈ちゃんと喜乃君のペアがユウと佳純ちゃんペアを打ち破り、涼花ちゃんが瑞希ちゃんに勝ってイーブン。注目の佐須ちゃんと松葉の試合は霧化して待ち受ける佐須ちゃんと隙を狙うために本気で隠れた松葉の決着がつかずにドロー。チーム同士の勝敗もドローとなった。

 ちなみにうちの勝敗はと言えば俺が寿ちゃんに、朝陽がセナに、愛純が精華さんに勝って勝利。恋柚那は貪食コンビにパックンを食いつくされて敗北。タマに押し負けて敗北した深谷さんは一応教え子であるタマに負けたのがショックだったらしく、しばらく控室の掃除用具入れに引きこもってしまった。

 まあこんなことは完全に余談なんだけど。

「まあまあ、都。俺達も真面目にやってこうなったんだからしょうがないだろ。それに勝ち点が並んでいても勝ち星で順位はつくわけだしさ」

 さすが最年長!精華さんが口火を切ってくれたとはいえ、一応抗議してくれるひなたさん素敵!

「同率三位が2チームとかならわかるわよ。でも全チーム勝点が同じで勝ち星の数でなんて話になったらそれぞれのファンが黙ってないでしょ」

 まあ、ファンから見ればただたんにそういうシナリオだと思われるだけなんだろうけど、シナリオだからこそ『同点で並んでるならなんで俺のお気に入りのチームが落とされたんだ!不公平だ!』ってなるだろう。そこは勝ち星がとかなんとか言ったところで納得はしてもらえないと思う。どんな理屈をこねたところで、今の状態はゴール前でみんなで手を繋いでゴールしたのに、ゴールしたあとで順位をつけるって言っているのと同じことなのだから…あ、そうか。じゃあ逆に。

「代表戦がいいんじゃないっすか?各チーム一人…まあダブルスでもいいですけど、代表を出してバトルロワイヤルとか。それなら6チーム参加できてしかも一試合で済みますし、視聴者的にもお祭りっぽくてお得な感じになるし、応援しに来ている体で全員映せばなんとなく納得してもらえる気もするし、くじ引きで代表者を決めれば恨みっこなしって感じだし」

「それ、私も賛成。朱莉の案は視聴者的にも制作サイド的にも納得してもらえる方法じゃない?」

 そう言ってチアキさんは俺に賛成してくれた。

「ボ、ボクもそれが良いと思うな。チアキの言うとおりみんな納得してくれそうだし」

 狂華さんもチアキさんに続いて賛成してくれたが、都さんはそれが気に入らないらしく、狂華さんを睨みながら不満気に口を開く。

「はあ…あたしはそもそもあんたが勝つと思ってたのになあ、っていうか勝ってくれてれば何の問題もなかったのになあ」

「…ごめん」

 ああ、なんだ。都さんは狂華さんチームがトップにならなかったのが気にいらないだけか。

 というか、視聴者がとかなんとか言ってたけど、勝ち星で決めると狂華さんチームは落ちるので、都さん的にはそこが引っかかってたっぽい気がする。

「楓はどうだ?」

「ああ、あたしも朱莉に賛成」

 よかった、楓も賛成してくれた。今すぐここで白黒つけようぜとか言われたらどうしようかと思っていたのでちょっとホッとした。

「ひなたさんと精華さんは?」

「異論なしだな。それが一番丸く収まるんじゃないか」

「うーん…まあ、そうかもね」

「たしかにそれが一番丸く収まりそうだし、みんながそれでいいならそれで良いと思うわ」

 ひなたさんと精華さんに続いて、最後にしぶしぶといった感じで都さんがそうまとめたが、多分心のなかでは狂華さんが落ちなかったことについてホッとしているに違いない。

「じゃあそれで決まりっていうことで。どうします?くじ引きはいつやりますか」

「5回戦最後の回が終わった後でライブに切り替えてくじ引き。その日に収録っていうのでどう?」

「…つまり、本当にガチンコってことですか」

 当日まで組み合わせはおろか、チームの中でも誰が選ばれるかわからない、非常に緊張感のある決め方だ。

…まあ、やらせなしのガチンコゆえに、柚那、あかり、寿ちゃん、イズモちゃん、瑞希ちゃん、時計坂さんとかっていう盛り上がりに欠ける組み合わせになる可能性も無きにしもあらずなわけだが…いや、それはそれで逆に見てみたい気もする。

「ガチンコだから面白いんでしょうが。それに、そうしたほうがあかりちゃんとひなたみたいなどんでん返しも見られるかもしれないしね」

「ああ、そう言えばひなたは妹のほうに負けてたわね。ぷぷぷ」

「あ、あれはその……あれだよ…その…」

 言えないよなあ。都さんはわかって言っているけど、精華さんと楓はみつきちゃんとひなたさんの関係を知らないわけだし。

「そ、そこでニヤニヤしているシスコンが俺に金握らせたんだよ!」

 ま、巻き込まれただと!?

「うわあ、朱莉最低だな」

「違うって!むしろ俺はひなたさんからお金もらいたいと思ってるくらいなのに渡すわけないだろ」

 みつきちゃん関係ではこまごま色々とお金がかかっているのでできればそれを精算したい。

「足りないなら言いなさいって言ったでしょうが…」

 チアキさんに読まれてしまったでござる。

「と、とにかく、俺が用意できるくらいのはした金でひなたさんが負けてくれたりするわけ無いだろ!?」

「まあ、確かに相馬の旦那はちょっとくらい金を受け取ったとしてもそのまま約束破って勝ちそうなイメージだしなあ…」

「いくらなんでも楓の中の俺のイメージ酷すぎないか!?」

「でもそんな感じするもんね」

「狂華まで!?」

「つまり、話をまとめると朱莉はひなたにお金を渡して負けてくれるように頼んだのにひなたは約束を破って勝とうとして、それでも妹の方のあかりに負けたってこと?」

 精華さんはどうして俺にもひなたさんにも不名誉な形でまとめたし。

「まあ、精華のをさらにまとめると二人合わせてごみくズってことね」

 都さんはなぜ俺とひなたさんをユニットっぽくまとめたのか。

「まあ、冗談はこのくらいにして、代表戦ってことでいい?よければ制作サイドにはそう伝えるけど」

 都さんがそう尋ねると、五人は黙ってうなずいた。



 細かい打ち合わせが終わってみんなでご飯でもいこうかとなったところで都さんは「あ、そうだ」と声を上げた。

「朱莉ちょっと残って」

「俺っすか?」

「そうそう。俺よ、俺」

 都さんはそう言ってニコニコ笑いながら手招きなどしている。

 ……なんか微妙に機嫌良さそうなのが逆に怖い。

「俺、最近何かしましたっけ?」

 最近は都さんに怒られるようなことはしていない…はずだ。ああ、でも魔白ちゃん事件とか、それに絡んだ反省会してないしそれのことかな。嫌だなあ。

「そういう風に聞いてくるっていうことは何かしてるんじゃない?っていうか、してるかどうかの確認」

 うへえ、藪蛇。

「じゃあボクも残って一緒に―」

「あ、狂華はいいやー、みんなとご飯行っといで」

「え…?」

 あ、狂華さんの顔色が変わった。

「私、朱莉と二人っきりでお話したいな~」

 ここで煽っていくスタイル!?

 やめて都さん!狂華さんの顔が怖いから!超怖いから!!

「浮気?」

「馬鹿なこといいなさんな。色恋方面は朱莉より狂華のほうがいいって」

「……ならいいけど」

 狂華さんはそう言って小さくため息をつくと、四人に続いて部屋を出て行った。

「で、なんです?」

「いや、最近ちゃんと話す時間がなかったから、前に頼んでいたことちゃんと進めてくれているかなって思ってね」

「ああ…JC指揮権をチアキさんに移管するとかそのへんの話ですか?」

「そうそう。色々あんたに丸投げしちゃってたから気になっててね」

「心配しなくてもちゃんと進めてますよ」

 なんだ。そんなことか。三週間も本部を空けて、JKと楽しく修行に明け暮れていた件を責められるんじゃないかと思っていた俺は、ほっと胸をなでおろした。

「いやあ、朱莉も女子高生と遊ぶのに忙しかっただろうに、色々やらせちゃってごめんね」

「ご存知でしたか」

 遊んでいたわけじゃないけどね。

「ご存知でしたよ。で、うまくいったの?」

「俺の修業の成果は対楓戦で実証したとおりですよ。バッチリです」

「ああ、違うって。JKのパワーアップのほう」

 ……そっちも知られてしまっていたとは。

「一応は。元々華絵ちゃんは楓の『山』並の防御力がありましたから、伸ばすのは結構簡単でした。多分一発くらいなら楓の『火』だろうが、ひなたさんの奥の手だろうが無効にできると思いますよ」

 まあその後が続かないだろうけど。

「エリスの方は?」

「ああ……彼女はなんというか…」

「ダメだった?」

「いえ、一発だけなら深谷さんレベルの攻撃ができるようになっていると思います」

「おやおや。夏樹ってあれで結構レベル高めなのに、そのレベルになっちゃってるんだ」

「深谷さんは勝負に弱いというか、相手の引きが悪いから弱く見えちゃいますけどね。まあ、正宗の護衛っていう立場上、少しパワーアップしてもらわないといけませんでしたから、もののついでです」

 正直、華絵ちゃんはともかく、エリスちゃんの実力不足がかなり深刻だったので、バレないようにそれとなく鍛えるのにすごい苦労した。

「上々じゃないの……これで例えばJCが正宗を襲おうとしてもそう簡単にはできないっていうわけだ」

 そう言って都さんは少しシニカルに笑う。

「あいつの警護を俺に任せたのは都さんでしょ」

「別に文句は言ってないわよ。いい出来ねって話をしただけ」

 少し含みをもたせたようにそう言ってから、都さんはコーヒーを口に運んだ。

「……あの、都さん」

「ん?」

「みつきちゃんの予言、ここ最近は外れていますよね。深海一美の件もそうだし、その他のことも」

 俺がJKに鍛えられるだけでは飽きたらず、逆に彼女たちを鍛えて帰ってきたり、JCの指揮権を本部詰めの俺ではなくチアキさんに移したりしたのには理由がある。

 それは大人みつきちゃんの予言だ。その予言を防ぐために俺と都さんは色々と策を講じてきた。

「そうね。だから、もしかしたらJCが正宗を襲うなんていうことは無いかもしれない。だけど、手は打っておくべきよ……あんたのことだからJK以外にも策を講じてるんじゃないかなって思うんだけど?」

 そう言って都さんは少し期待のこもった眼差しを俺に向ける。

「まあ……華絵ちゃんの姉に災害時応援協定のようなものを」

「ああ、そりゃあ安心だ。あの子って何だかんだ言っても、あんたと同じように妹大好きだからね」

「色んな妹を、色んな意味で、ですけどね」

「あはは、そりゃあ、あんたもでしょうが」

「確かに」

 あかりはもちろん、姪である千鶴も沙織も妹のように思っているし、姉妹制度の妹である愛純や、なにかと世話を焼くことの多い朝陽も可愛い妹のようなものだし、柚那も恋人であると同時に妹のように思えることもある。

 ……こう考えると、俺ってひなたさんの言うようにシスコンなのかもしれない。

「ま、防災対策も減災対策も十分に準備をした上で使わないで済むならそれが一番なわけで『使わないと思って準備していませんでした』だけは避けないとね」

「そうですね。そういう意味ではご自愛くださいよ、閣下」

 大人みつきちゃんの話によれば、正宗の襲撃も何もかも、きっかけになったのは都さんの暗殺未遂だ。

 だから俺達はそれを防ぐと同時にそうなっても大丈夫な土台作りをしている。

「ま、狂華も幸せにしてやらんといけないし。あんたたちもまだまだ手が掛かるし。なんかみつきが私の後を継ぐみたいなことをチアキさんに言っていたらしいから、それまでは死ねないわー」

「ま、死んでないらしいですけどね」

「大人みつきの世界線ではそうでも、この世界では死んじゃうかもしれない。もしかしたら何も起こらないかもしれない。あーあ、未来なんて知るもんじゃないわね。煩わしいったらありゃしない」

「ま、おかげで防災できるってもんでしょ」

「たしかにね。ま、ちゃんとやってくれてるならいいや。それじゃ私達もみんなに合流しますか」

 都さんはそう言って笑うと、財布とスマートフォンを持って立ち上がった。


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