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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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朱と紅 1

「うんうん、ごめんね手間かけちゃって。ありがとね、華絵ちゃん」

 真白ちゃんにバッチリ見抜かれた通り、翌朝早速俺は田村ジュリとして、華絵ちゃんに佐須ちゃんまわりの偵察をお願いすることにした。

 もちろん現地には行かずに電話でだが。

『このくらいは別にいいけど、どういう風の吹き回し?今更こっちのメンバーのことが知りたいなんて』

「えっと……朱莉さんの指示って言ったらやってくれなかったりする?」

『やる気がなくなったかと聞かれればやる気はなくなったけど、それであんたの立場がよくなるなら別にいいわよ』

「ありがとう華絵ちゃん!」

 自分で自分を褒めるのもちょっと気が引けるが、あの三週間で、防御魔法だけではなく華絵ちゃんを見事に操れるようになってしまったあたり、俺ってすごいと思う。

『気にしないで、そのうちあいつを追い越して私達の隊長になってくれればいいわよ』

「あ…う、うん。がんばるよー」

 まあ、着実に自分の首を締めている気がしないでもないけど。

「ところで華絵ちゃん」

『うん?』

「朱莉さんの何がそんなに嫌いなの?」

 俺は話のついでにその辺りを聞いてみることにした。

『うちのお姉ちゃんが…お姉ちゃんのことはジュリには話したわよね?』

「うん。聞いた」

 まあ、聞くまでもなく知っていたけどね。

『前に、お姉ちゃんが弱みに付け込まれて性的な嫌がらせを受けたらしいの』

「うそだ!」

 事実無根もいいところ、むしろどちらかと言えば性的、非性的にかかわらず彼女から嫌がらせやらなんやら受けているのは俺の方だ!

『え…?』

「あ、いやいや。うそでしょそれは。だって朱莉さんって、私には何もしてこないよ?」

『それは傍に柚那さんとかがいるからじゃないの?それにジュリが弱みを見せないからとか』

「いやいや、私結構失敗するし、弱みはかなり見せていると思うよ」

『弱みを見せちゃったの?じゃあ絶対に二人にならないようにするのよ。絶対だからね』

「あ…うん。心配してくれてありがとう…」

 原因が彼女の姉だっていうことはわかったけど、同時にこの誤解はちょっとやそっとじゃ解けそうにないということもわかった

 別にいいんだけどね。華絵ちゃんが『お姉ちゃんなんて嫌いだ』っていうフリしてても、実はお姉ちゃんの言うことを真に受けて素直に信じちゃうくらいお姉ちゃん大好きなツンデレだって知ってるから。

 大好きなお姉ちゃんがそう言ったら多分白でも黒にされちゃうんだろう。

 というか、姉の方も華絵ちゃんのことをなんとも思ってないような素振りだけど本当は大好きなんだろう。で、一度信頼した相手のいうことは素直に聞いてしまう、言うなれば相当チョロい華絵ちゃんが、俺に騙されてたぶらかされたりしないように先に手を打った。そういうことなんだと思う。

 まあ、俺は別に誰かのことをたぶらかして遊んだとかそういう事実はないんだけどね!

「華絵ちゃんの理由はわかったけど、エリスちゃんはなんで朱莉さんのことが嫌いなの?」

『なんかエリスのパンツを覗いてたことがあるらしいわよ』

「……そんなことないよ」

 無いこともない。実際屋上で俺はエリスちゃんのスカートの中を下から見ていたわけだし。

 まあ、これは俺がエリスちゃんに嫌われているということがわかった後の話なので関係ないだろうけど。

「ちなみにそれは誰情報?」

『だれだったっけな…ああ、そうだ。ジュリは知らないかもしれないけど、前に女性魔法少女専用の掲示板があってね。そこに朱莉さんの悪行が書き込まれたことがあってさ。そこに書いてあったんだ。たしか…『短いスカートをはいている子は、みんな覗かれてる』とかなんとか書かれて』

 なるほど、じゃあ犯人は柚那か…まあ、事実無根もいいところなんだが。

「その文面じゃ朱莉さんがエリスちゃんのスカートを覗いたことにはならないんじゃない?」

『疑惑が出る時点でギルティでしょ』

「ですよねー」

 そんなものだよね、世の中なんて。

『じゃあ私はそろそろ学校行くから、あんたも仕事ばっかりじゃなくて勉強も頑張りなさいよ』

「あ、うん。でも、私の方はまだ転校手続き済んでいないから勉強はしばらくお休みって感じかな。それよりごめんね、朝の忙しい時間に」

『いいわよ。じゃあまたね』

「はーい、いってらっしゃい」

 俺がそう言って電話を切ると、次の瞬間その場にいた柚那と愛純が笑い出した。

「あははははははははははっ!にあ、似合わねえ!あははははは!」

「あはははっ、似合わない、似合わないけど、そこがちょっと萌える!あはははっ!」

 愛純は腹を抱えて転げまわりながら柚那はその場でうつ伏せになって丸まって笑い続ける。

「ちょっと、いつまで笑ってるの?ていうか、二人共そんなに大口開けてはしたないよ」

「じゃ、若干ジュリちゃんが残ってるぅぅぅ!」

「あははははっ、やめてよ愛純、あはははははは!」

 ぐぬぬ…。

「ねえ、もうほんとやめてくれない!?三週間もこの喋り方だったんだから仕方ないで…だろ!?」

「あははははっ!ダメ、むしろ朱莉さんがやめて!朱莉さんをやめて!」

「そ、そうそう。そうですよ、朱莉さんが朱莉さんの姿だから変なんですよ。ジュリちゃんになってくれればきっと多分…くふっ…」

 っていいながら言いながらもうすでに笑ってんじゃねえかよ。

 酷い。酷すぎるぜ、関東チーム。もうあの日に帰りたい。

 具体的には『ちょっと物足りない、だがむしろそこがいい』でお馴染みの、華絵ちゃんの胸の中に帰りたい。流石に一週間も経ってないからまだ帰れないけど……まあいいや。とりあえずジュリに変身して二人をおとなしくさせよう。そうしないと話もできやしない。

「ぶあははは!本当に変身した!」

「あははは!朱莉さん可愛い!」

 だめだこりゃ…。


 10分ほど笑い転げたあと、やっと二人がおとなしくなって、「さあ話しをしよう」と思った矢先に現れた朝陽にかわいがられること、さらに10分。朝陽をなんとか説得した後、俺達はローテーブルを囲んでミーティングを始めた。

「というか、朝陽。そろそろ開放してくれない?」

「え?何がですか?」

「いや、膝枕だと話し合いがしづらい」

「あ…ごめんなさい。さっき朱莉さんを撫でていた時に、ちょっと妹子のことを思い出してしまって」

 そう言って朝陽は俺の頭を撫でていた手を止めて少し悲しそうに目をそらした。

「朝陽…」

 そんなこと言われたらやめろと強く言えなくなってしまうじゃないか…。

「そんな申し訳無さそうな顔なさらないでください…嘘なんですから」

 そう言って朝陽はちろりと舌を出した。

「嘘かよ!じゃあなんでちょかいかけたんだよ!」

「いえ、三人が楽しそうだったので私も混ぜてもらおうかと思いまして」

「楽しくねえよ、笑いものにされるのは微塵も楽しくねえよ!?」

「えー?そうなんですか?朱莉さんって言葉責めとか好きそうなのに」

 まあ、嫌いとは言っていないけどな!

「あ、じゃあこの間真白ちゃんに聞いたのやってみようかな。3日かかる奴」

 なにそれ怖い!でも…悔しい!ちょっと期待しちゃう!

「あ、もし手が必要だったら私も手伝いますよ」

「うーん…それは流石に柿崎さんに悪いからね」

「ですか」

 なにそれ。絶対言葉責めだけじゃないよね!俺、多分なんか色々されてるよね!?

「あらあら朱莉さん。何か期待しているような顔してどうしたんですの?」

「いえ、何も期待しておりませんですのよ」

「そうですか?柚那さん、愛純がだめなら私が手伝いますわ!」

「朝陽かぁ…朝陽って結構唾液の量は多い方?」

「え?まあ、それなりに多い方だとは思いますけど」

 まあ、同じ年代の女の子に比べて、よく噛むし、よく食べる朝陽は唾液の量も結構多いだろう。

「…じゃあ朝陽に手伝ってもらえればEXもいけるか…」

 なに!?EXってなに?俺、一体何されちゃうの!?

「よし。朝陽は後でちょっと打ち合わしようか」

「私も後学のために打ち合わせだけ参加したいですー」

「いいよ。じゃあ三人で」

 って、ええっ!?

「当事者の俺は!?」

「先に何するかわかっちゃったら面白くないじゃないですか」

「そうですわよ」

「わかってないなあ朱莉さんは」

 そんな三人で一斉に責めなくてもいいと思うんだけど。

「えっと、一応聞くけど……安全?」

「手が滑らなければ」

「安全じゃ無いじゃん!」

「まあ、それは置いておくとして」

「いや、置いておかないでくれないかな」

「楓さんとの再戦なんですけどね」

 無視されたでござる。

「明後日で決まりましたから」

「え?いつ?」

「明後日」

「俺、まだユーリアに何も教わってないんだけど」

「じゃあ明日教わればいいじゃないですか。どうせ一日お酒飲んでいる人と、一日中部屋でパソコンやってるか、女の子と話してるだけの人なんですから、予定なんてどうとでも合わせられるでしょう?」

 言い方!いくらなんでも今の柚那の言い方は酷いと思います!

「いや、ユーリアはともかく俺のは仕事だからね?三週間で溜まった仕事を今超大急ぎでやってるんだからね!?」

「別に三週間溜めちゃったならもう数日遅くなっても大丈夫ですよ。肩の力抜いていきましょう」

 愛純さん、その先延ばしはどう考えてもいい方向には転がらないと思うのですが。

「そういえば朱莉さん。この間言っていた美味しいパン屋さんの情報のことなんですけど」

 朝陽に至っては脈略がなさすぎてもはや意味がわからない!

「とにかく、楓さんとの約束は明後日で取り付けちゃいましたから、明日中にユーリアに習うなり、自分で開発するなりしてなんとかしてください」

 まあ、楓さんに約束しちゃったならしかたない……当日になって準備出来てないっていっても問答無用で切りかかってきそうだし。

「了解。なんとか頑張るよ」




 盾。シールド。剣と同じくらいお国柄が出るこれは、それこそ人によって思い描く形は千差万別だと思う。ましてや近年はマンガやアニメや映画やドラマで古今東西、空想・現実、幻想からSFまで様々な形のものを見ることができるのだからなおさらだろう。

 ちなみに俺が防御魔法をやろうと考えた時に最初に思い浮かべたのは東北チームとの模擬戦の時に柚那が見せたピンポイントバリアなのだが、JKチームから帰ってきてすぐに柚那にアドバイスをもとめたところ、常に魔力の盾を自分の周りで動かし続けなければいけないため、恐ろしく魔力を喰うらしく断念した。

 次に考えたのが防御のみを考えた大型の盾。通信基地にあるような大型のパラボラアンテナをひっくり返したような大きさのものだったのだが。これは愛純に『そんなん、後ろに回り込めばいいだけですよね。しかも攻撃までにラグがある』と言われてしまった。まあ、愛純に言われるまでもなく、そんな馬鹿でかいものを素早く出したり消したりできるほど器用ではないし、そのまま振り回して向きを変えたりシールドで叩こうと思っても大ぶりすぎて当たらないし自分が振り回されるのがオチだと思うのでこれも却下。

 で、愛純に指摘された俺は、そこで防御から攻撃までのラグというやつに注目した。アタッカーが別にいて防御だけしていればいい状況ならラグがあろうとなんだろうと別にいいのだが、単独で事にあたる可能性もある以上は防御だけを考えていてはダメだろう。防御から攻撃にシームレスに移行できる盾。それが俺に必要な武器だ。


 というわけで。


「これが俺の盾だ!」

 結局俺が創りだしたのは両手に装着した小手と、盾とトンファーが一緒になっているようなデザインをした一対の武器だった。

「ちっさ」

 ユーリアは俺の武器を見て一言で切って捨てたが別にいい。俺はユーリアになりたいわけじゃないんだから。

「いいの!とりあえず自分の前だけ守ればいいんだから」

「仲間は守らんの?」

「俺が一番前にいて敵の攻撃を引き受けて、もしも回りこまれたら急いでそっちに行けばいいだけだろ」

「…ま、いいんじゃないの、っとぉ!」

 ユーリアはそう言って少し納得したような笑いを浮かべて一気に距離を詰めると、おもむろに俺の盾を素手で殴りつけたが、当然そのくらいで砕け散るような作り方はしていない。

「お、なかなか硬さじゃん。小さくて硬いとか、さすがウタマロ」

「下品な比喩はやめなさいって」

「んじゃそのウタマロの硬さ、確かめさせてもらおうかな」

 そう言ってユーリアはおもむろに手を叩くと「せんせい!せんせーい!」と声を張り上げた。

「なにそれ」

「え?時代劇とかでよくやってんじゃん」

「…ユーリアって意外にそういうの好きなの?」

「最近ね。ちょっと前に妹のほうのあかりが、カチューシャに薦めたらしくて、その流れで私もハマって――」

 そう言ってユーリアが振り向いた先には、なぜかよれよれの袴をつけて、葉っぱを加えたジャンヌが立っていた。

「――ジャンヌもハマったってわけ」

「無理無理、ジャンヌは無理。だってジャンヌの攻撃って単純な威力だけだったら楓さんより相当強いじゃん!」

 というか、噂ではアメリカ本国にいるベストメンバーと合わせても5本の指に入る威力のはずなので、地球全体で考えてもかなり上位に入る攻撃力の持ち主だ。

「ふ…今宵の虎徹は血に飢えておる」

 俺の抗議などどこ吹く風といった態度で、ジャンヌが腰に帯びた太刀をゆっくりと抜き放ち、八双に構える。

「まあ必殺技なしだし、ランスじゃないしさ。気楽に気楽に」

 そう言ってユーリアはケラケラ笑うが、防御魔法の初練習でジャンヌ相手とかハッキリってシャレにならない。

 ……まあ、でもユーリアの言うとおり、必殺武器のランスじゃないだけ、必殺技を使わないだけマシか。マシだよな。マシだと言ってくれ。

「ゆくぞ朱莉!必殺!永遠に忠誠を(センパー・ファーイ)!」

 いや、それ必殺技の一つですやん!しかも普段ナイフでやる奴ですやん!

 光り輝くジャンヌの虎徹(仮)から放たれる、普段よりも大きな『永遠に忠誠を(センパー・ファーイ) 』を必死に受け止めながら俺は心の中でツッコミを入れた。


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