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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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彼と彼女と彼女(?)の事情1

 魔白事件のあと、真白は前に比べて大分自分の素を出すようになって、素直になった。

 よく言えば歳相応、悪く言えば少し幼くなったという感じだ。

 例えば今までは嫌々と言った感じで俺と添い寝をしていたが、むしろ真白の方から誘ってくるようになった。

 ただ、その寝方はかなり真白の気分次第で、スヤスヤ眠る真白の隣で簀巻にされることもあれば一緒に二人で一枚の布団で眠ることもある。まあ、一緒に寝たとしてもふざけてベタベタイチャイチャするくらいで、最後までっていうのはまだないんだけども。

 それは別にいいんだ。本題の話とは関係ないし。いや、関係ないってことはないんだけど。

 ちなみに本題っていうのは……


「痛えなこのメガネ巨乳!」

「うるさい!和希の肩を抱くとか何考えてんのよ!」

「お前には関係ないだろ!」


 ……これ、俺いらなくないかってことだ。



「いや、だからさ…もうあえて、タメ口で話をさせてもらうけど。私関係ないよね?全然関係ないよね?」

「そういうなよタマ。というか、俺からの相談料という名の差し入れを食べている口でそれを言うのは流石にどうなんだ?」

 わざわざ朝陽ちゃんから聞いてタマの好きな駅前のパン屋まで行って買ってきたんだ。食べた以上は関係者とまでは言わないまでも話を聞く義務くらいは発生すると思う。

「う……パンが詰まった」

「はいはい」

 俺は冷蔵庫から牛乳を出してコップに注ぎ、タマの前に置く。

「お前、パン好きだよなあ」

「子供の頃、パンばかり食べてたから」

 牛乳を一気に飲み干したタマはそう言って次のパンに手を付ける。

「もともと好きだったってか?」

「違う。それしか食べるものがなかった」

「……どこか海外で育ったとか?」

「半分ネグレクト」

 平然とした顔でそういうこと言われても非常に困るんだけど。

「パンと牛乳はあった。でもそれだけ。まあお金はおいてあったけど、小学校低学年ができることなんてたかが知れているでしょ。自分で食べ方がわかっているものを買うのがせいいっぱいだった。最初はコンビニでパンを買っていたんだけど、そのうち近くのベーカリーに行くようになって、パンにハマった」

「タマ、あのな…」

「…なーんちゃって」

 そう言ってタマは相変わらず無表情なままで舌を出してみせた。

「こういう話をすると同情してもらえるから」

「お前なあ…」

 これ、本当に冗談で済ませていいところなんだろうか。

 こういう話で同情を引くとタマは言ったが、これが作り話だとは言っていない。細かいところかもしれないけど、タマはそういうところキッチリしているので、言い忘れではなく、あえて言わなかったんだろう。

「大丈夫。今は世話を焼いてご飯を作ってくれる先輩が沢山いるから」

 俺の表情からなんとなく言いたいことを察したのだろう。タマはそう言って俺の口元に人差し指を当ててそう言った。

「…まあな。俺とみつきはチアキさんの弟子みたいなところがあるし、あかりも真白も料理はそつなくこなすからな」

 俺も冗談っぽくそう答える。多分この話はまだ触れないほうが良いんだろう。いつかタマがなんらかの整理をつけて話してくれたら良いなと思うけど、変な正義感で踏み込んでいいことでは無いと思う。

 ちなみに、タマは作ってくれる先輩たちがいるからなんて言っているが、実はタマの料理の腕もなかなかのものだったりするので、最近は寮の夕食当番制を真剣に検討している。まあ、静佳や里穂はともかく、えりの腕が壊滅的なのでそこが解決しないと一週間7日を7人で回せないというのが問題で難しいかなと思っているんだけど。

「まあ、お互い似たような身の上同士だ。助けあっていこうぜ」

「ん」

 タマは短く返事をして再びパンにかじりつく。

「で、助け合いなんだけどさ」

「……」

「タマ?」

「面倒くさいことには関わりたくない」

 タマはそう言って残っていたパンを口に押し込んでベッドに横になると、こちらに背を向けてしまった。

「なあ、頼むよタマ。話だけでいいから聞いてくれって。こんな話お前にしかできないんだよ」

「例の男子会で聞いてみればいいんじゃない?」

「後輩にそういう話をするのって、こう、なんか先輩の威厳みたいなものが損なわれると思わないか?その…男子的に」

「後輩女子に相談している時点で威厳も何もあったものじゃないと思うけど」

 本当にこいつはああ言えばこう言うんだから……いや、真白は10倍返ってくるし、あかりだったら反論にいわれのない悪口もつくからタマはマシな方か…。

「なあ、聞いてくれってば」

「聞いてはいるから勝手に話をすればいいと思う」

「じゃあ話すぞ」


 ある日の放課後、俺は思い切って真白のことをどう思っているのか、正宗に聞いてみることにした。

「なあ、お前って実際真白のことどう思ってるの?

「どうって?」

「いや、割と仲がいいじゃん?」

「何を言っているんだお前は…あ、もしかして翻訳機能が壊れたのか?」

 正宗はそう言って首をかしげながら耳の裏あたりを押さえる。

「正宗が真白と仲が悪いって聞こえているなら壊れているな」

「だったら機能は正常に動いているっぽいけど…じゃあつまり和希が壊れたってことか?」

「昨日も俺の頭も正常だ」

「いやいやいや。どう見ても俺と真白は仲が悪いだろ」

正宗が真白って呼んだ!?

「何機嫌悪そうな顔してんだよ」

「いや、だってお前いつもは真白のことメガネ巨乳とか呼ぶのに、今日に限って真白とか親しげに呼ぶから」

「あのなあ、真面目な話っぽいから話を合わせてやったのにどうしてそうなるんだよ。大体、元々あいつのことを真白って呼べって言い出したのはお前のほうだろ」

「そうだけど」

 そうだけど、それとこれとはまた違うというかなんというか。

「何か言いたそうだけど、言いたいことがあるならハッキリ言ってくれ。俺はお前のところの奴らみたいに心のなかを読むみたいなのは苦手なんだから」

「……仲良く見えるんだよ。喧嘩するほど仲が良いっていうか、そういう風に見えるんだよ。だけど仲が良いのは悪いことじゃないし、なんていうか…」

 なんていうかも何も俺は正宗に嫉妬しているんだろう。

「なんだヤキモチか」

「人が言おうかどうか考えている間にハッキリ言うなよ!」

「ははは、すまんすまん。お前が俺のことをそんなに好きだと思わなかったからな」

「だからそうじゃないって」

「そういうことだと思うぞ。真白をとられるのが嫌なら俺に対して冷たい態度を取って真白が俺に近づく理由をなくせばいいだけだろ?そうすればわざわざ俺に相談する必要なんて無いんだからな」

 嫌なやつ。

 でも確かにそうなのかもしれない。もちろん俺は正宗のことを好きだとかそんなことはないと思っている。思っているけど、それでもやっぱり嫌いにはなれないし、友達ではいたいと思っている、だからこそ悩んでいるだと思うし、二人に対して嫉妬してもいるんだろう。

「モテる男はつらいな」

「そこでドヤ顔してそういうこと言うから彼女が出来ないんだよ、お前は」

「でも嫌いじゃないだろ?」

「嫌いじゃないけど」

 友達としてだけどな。

 真白の言うように高級食材とまでは言わないけど、こいつは元男の俺から見ても身長はあるし顔もそこそこいいし、頭だって別に悪くはない。

 慣れた相手だと遠慮がないっていうのはやや欠点と言えなくはないけど、それだってフレンドリーと見れば、長所と言えないことも無いと思う。

「惚れなおしたか?」

「元々惚れてねえよ……」

 まあ、こういう余計な一言が全部台無しにしているんだけど。

「とは言ってもな和希。俺も俺で恋しているからさ。真白とかお前とは恋人にはなれないんだすまんな」

「いや謝らなくて…って、恋してんのっ!?」

「え?ああ、してるぞ。多分バレバレだと思うけど」

「いや、全然わかんねえ。誰?」

「千鶴」

「はぁっ!?お前あかりと朱莉先輩に殺されるぞ」

 まあ、こいつに限って有象無象の元千鶴親衛隊がどうこうできるとは思わないが、あの家族フェチとも言えるほどの家族愛を有する邑田家の二人が何もしないとは思えない。

「そうなのか?千鶴はあかりほど愛されてないって聞いてるんだけど」

「誰に聞いたんだそんなこと」

 ちなみに千鶴が邑田家で愛されていないとかそんなことは全く無い。両親や祖父母はもちろん、あかりはあかりであんな態度を取りながらも千鶴の行動には気を払っているし、朱莉先輩なんて言わずもがなだ。

 あの人はあかりも千鶴もさおりも目に入れても痛くないほど可愛いと言っていたし、実際あかりに白い目で見られても千鶴に鼻で笑われてもさおりに同情されても三人への介入をやめようとしない。

「千鶴本人に」

「本人がそう言ったのか?」

「ああ。メッセでそう言ってたぞ」

「…あいつのIDなんて、俺は教えてもらってないんだけどいつ聞いたんだ?」

「この間井上の家に行っただろ?あの日、お前と高山があかりに締められている時に聞いたんだよ」

 手が早え!

「なんかみつきも渡してくれたぞ」

「みつきまで!?」

 流石に今はみつきのIDは知っているけど、俺はJCで同じチームになるまで教えてもらえなかった。

「…ちなみに他には?」

「近いところだと、あの日いた男子は全員知ってるし、佳江さんも聞いたな。あと、アビーもついでだからって教えてくれたし、その後アビー経由でベスからも連絡が来た。その他だと深雪と、あかりと…一切やり取りしてないけど、一応真白のもあるぞ」

「真白のは聞いてるけど…お前本当にモテるのな」

 ベスのは諜報活動の一環だと思うけど、一年生組のIDなんて俺は一人も知らないのに。というか、井上母まで聞いてるとかどういうことなのこれ。

「ちなみに近くないところだと何人くらいいるんだ?」

「女子?」

「…とりあえず女子」

「ええと…奈津子、結、菜々、博子、なつめ、麻沙美、嘉穂、陽子、和美、亜美、ナオ、愛梨、さなえ、愛衣…」

「それ、クラスメイト?」

「クラスメイト」

「すごいなお前…」

「いや、勝手に登録されただけだから別に俺がすごいわけじゃないと思う」

「いやいや、そっちのほうがすげえよ!?」

 なんというか、こいつは俺とか朱莉さんとは次元が違う存在だと思う。

「まあ、それだけいても千鶴がいいと」

「そうだな。なんだっけ…えっと、ギャップ萌え?千鶴はそういう所が良いなと思う」

「ギャップ…?」

 あのいつも飄々としている千鶴にギャップなんてあるんだろうか。

「まあ、振られたんだけどな」

「千鶴に?」

「ああ。好きな人がいるんだってさ。だからまあ、今は友達をしながらチャンスを伺っているっていう状況だ」

「ふぅん…」

 まあ、この間千鶴と話をした時に、深雪とかアビーと遊ぶのが楽しいって言っていたし、好きな人がいるとかいうのは正宗を遠回しに断るための方便だと思うけど。

「ちなみにさ、和希」

「ん?」

「お前、真白とどこまで行った?」

「えーっと…北海道とか?」

 わかっている。質問の意味はわかっているけど、下手に話すと真白に超怒られそうな話題なので、できれば逸らしたい。

「そういう意味じゃなくて」

 ですよねー。

「…キスくらいなら。あとはゴロゴロしてる時にくすぐり合うくらいの感じかな」

 実際はもうちょっと生々しいけど。

「手を繋いだりとかはないのか?」

「もちろんあるぞ。しかもこう…ちょっと手貸してみ」

 俺は差し出された正宗の手を取って、自分の指を正宗の指の間に入れて手を握った。

「こんな感じでカップルつなぎとかしてみたり」

「お、おう…なんかドキドキするな、これ」

「だろ。俺もドキドキするんだけどさ、真白がこれ好きで――」

「正宗ー」

 ぎゃああああああああああっ!

 後ろから聞こえた聞き覚えのある声に、俺は思わず心のなかで叫び声を上げ、大慌てで正宗の手を離した。

「お、おう。エリス。どうした、こんなところで」

「や。買い物帰りで荷物多いから、力仕事お願いしよっかなと思ってさ。…あ、こんにちは和希ちゃん」

 慌てて飛び退いたおかげか、どうやら村雨先輩は俺と正宗が恋人つなぎで手をつないでいたことには気が付かなかったようだ。

「こ、こんにちは村雨先輩」

「よかったら和希ちゃんも夕食一緒にどうかな?あたし頑張って作っちゃうよー」

 ギャップという意味では千鶴よりもこの人のほうがある気がする。村雨先輩は見た目は料理とか苦手そうなのに、料理はかなり上手だし、家事万能だ。

 それに性格もいいし話も楽しいのでいつもならお言葉に甘えたいところではあるんだけど、さっき手を繋いだせいか、それとも現場を先輩に見られかけたせいかまだドキドキしていて、こんな状態で先輩達の家になんて行ったら、村雨先輩はともかく関先輩には正宗と何か会ったんじゃないかと見破られてしまう気がする。

「え!?えっと……今日はその、失礼します!また誘ってください!ま…正宗もまたな!真白には内緒だからな!?」

 俺は正宗にだけ聞こえるように小さい声でそう言ってからその場を逃げるように立ち去った。




「もっとくわしく」

「近えよ」

 タマは俺と正宗が手を繋いだという話の中でおもむろに起き上がると、普段真白ともこんな距離にならねえよというくらい近い距離でじっと俺を見つめて話に聞き入っていた。

「手を繋いだ後、どうなったの?もちろんその日の話じゃないよ。次の日とかその次の日とか、正宗さんとあった時にドキドキするようになったとかそういう話」

「しねえよ。ノリで変なことしたからその時はドキッとしたけど、手を繋いだから好きになるとかそんなこと無いって」

「チッ」

「……」

 まあ、真白で慣れているから何か想像されても妄想されても別にいいんだけどね。

「で?」

 なんでそこで不機嫌そうな顔になるんだよ…

「でって?」

「いや、正宗さんは別に真白先輩のことは好きじゃないんでしょう?」

「一応そう言っていたけどさ…なんかこう、不安というかなんというか」

「ああ、真白先輩のほうが正宗さんを好きになるんじゃないかと思っているんだ」

「……」

「無いと思うけど、不安なら真白先輩のほうに話してみればいいんじゃない?多分そんな不安を感じなくなるほど愛してくれると思うよ」

 愛してくれるってなんか生々しくて、話したら真白は何してくれるんだろうとか考えちゃうな。まあ、それはそれとして。

「そうか…そうだな。うん、話してみるよ。ありがとうな、タマ」

 タマに短く礼を言ってから、俺は真白の部屋へと向かった。


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