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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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田村ジュリの殺し方

「―ああ、なるほど。そういうことなのね。―うん、うん。真白ちゃんと和希は問題ない。―うん。ごめんね忙しいところ。―はい、じゃあね」

 愛純扮する邑田朱莉はそう言って電話を切ってから大きなため息をついて口を開いた。

「真白ちゃんと和希の件は勘違いだね。和希は正宗君に色々相談していただけ。真白ちゃんはそのことで正宗に苦情を言いに行っただけ。まあ細かい話は二人に聞いてもらえればいいと思うよ」

「ということは…」

「うん。真白ちゃんと和希と同時に付き合ってるとかそういう事実はないみたいだね」

「そっかぁ…勘違いして疑うなんて悪いことしちゃったなあ。よし!今日は正宗の好きなもの作ってあげよう」

「待ってエリス。その二人が違うってわかっても、あいつが他で浮気してないとは限らないわ」

 そう言って、華絵ちゃんは俺を見る。

「ジュリが不幸にならないように私達がしっかり見てないと」

 どうしてそうなった。

「いや、あのね、華絵ちゃん。私は別に正宗の事をどうこう思っていたりはしないし、なんだったら別に、正宗に恋人がいたって全然構わないんだ」

 大体二人が見たっていうことだって、そういういかがわしい事をしていたわけじゃないんだし。

「いやぁ、それは嘘っしょ。っていうか、正宗の部屋から朝帰りしておいて付き合ってないっていうならアタシはジュリと正宗を軽蔑する」

「たしかに朝帰りだけど、さっき言ったように朝起きて朝食前に正宗の部屋に行った帰りだからね!?」

「ふむ…つまりそれって、おはようフェ―」

「違うから!」

 人の顔と声で何を口走ろうとしてんだこの元アイドルは。

「ふぇっ!?そ、そんなことしておいて付き合ってないとかいうの!?」

「ジュリ。本当のことを言って。あんたが頑張って正宗のために一人前になってJKに残ろうとしているのは知ってる。だけどね、ちゃんとした状況がわかっていないと私もエリスも協力できないし、もちろん朱莉さんだって許してくれないと思うの」

「だからぁ…」

 もうなんかこの三人は共謀して俺のことをからかっているんじゃなかろうかという気がしてきたぞ。

「私は別に正宗のことはなんとも思ってないの!朝正宗の家に行ったのだって、あいつがプリントなくしたっていうんで、家のプリンタでコピーして持って行っただけ!それだって夜中に行くのはまずいと思ったから早朝にしただけなの!」

「でもなジュリちゃん。それで行ったついでにおはようフェ―」

「やめろっつってんだろ!」

 ニヤニヤしやがって。絶対わかって言ってんなこいつ。

「おやおやぁ?ジュリちゃん、上司に向かってその言葉使いは無いんじゃないかな?」

「う…」

 クソっ、ここぞとばかりにセクハラ・パワハラのコンボをするとか、鬼かこいつ。

「とりあえずお仕置きね」

 そう言って愛純はニッと口元を釣り上げて笑う。

「ジュリちゃんだけ残って」

「ちょちょちょ、朱莉さん、それはダメだってそんな、お仕置きとかそんなこと言ってジュリになにする気さ」

 そう言ってエリスちゃんは顔を真赤にしながらも俺をかばうようにして腕を広げて愛純を近づけさせまいとしてくれた。なんていい子なんだろう。

…まあ、邑田朱莉のことを何だと思っているんだという話はこの際置いておく。

「ジュリにはこれからも色々教えてもらわなきゃいけないし、かばっておいて損はないわよね」

 華絵ちゃんはそう言ってエリスちゃんの横に立つが、俺はそれが華絵ちゃんなりのツンデレであるということをこの二週間でよく理解した。

 俺が一人で本部に帰るとか邑田朱莉と通信するという話をすると『情報盗んでこい!』だの『探ってこい!』だのと言ってはいるが、ちゃんと『ムリしないでいい』とか『怒られない程度にね』とか『情報の見返りに身体を要求されたらきっちりぶん殴るのよ』とかしっかりとツンデレ…って、この子も邑田朱莉をなんだと思っているんだろうか…。

 俺が『朱莉さんは裏表のないいい人だよ!本当だよ!』といくら言っても聞きやしないし。

「とりあえず誤解を解きたいんだけど、私は本当に正宗とはなんでもないから。朝一でフェ―」

 おっと危ない。

「――じゃなくて、あいつとはエロいことどころか手を繋いだことすらないからね」

「じゃあ一体ジュリは誰が好きなの?」

「いや、別に好きとか嫌いとかそういうの、今はないから」

「前から思っていたけど、アタシとかハナの好きな人とかタイプを聞いておいて自分はそれっていうのは卑怯だと思うな」

「だから今は魔法の練習とかで手一杯なんだってば!好きとか嫌いとかそういうの、今はやっている暇ないから!」

「誰か好きになってよー、ハナは理想が高すぎて恋バナにならないんだよぉ!」

 ああ、完全に脱線してしまった。

 エリスちゃんに限らず、華絵ちゃんも正宗もなんだが、頭が若いとでも言うのだろうか。色んな所に発想とか思考が飛ぶのでミーティングなどでも話が脱線しやすい。そりゃあ面倒見ている佐藤くんもハゲるわってくらいに脱線して、そのまま走っていくので、時間内に話がまとまらずに華絵ちゃんが適当にまとめて報告するなんていうこともJKチームでは珍しくない。

 まあ、そこに関東一の揚げ足取りで脱線女王の愛純が加わっているのでこうなることはなんとなく予想していたのだけど。

「とにかく、好きとか嫌いとか、今は無理。一人前になったらそういう話もするからちょっと待ってて」

「よし、じゃあそうと決まれば修行だ」

「そうね。ついでだから本部の施設を使って今日は節約しましょ」

 そう言ってエリスちゃんと華絵ちゃんは両脇から俺の腕を抱えて部屋の出口に向かって歩き出す。

「…二人共、修行つけてくれるのはいいんだけど、とりあえずジュリちゃんは置いていってね。あと、今日は彼女ちょっと遅くなるから先に帰っていていいよ」

 にこやかな表情と声色で愛純がそう言って俺たちを呼び止める。

「チッ」

「気づかれたか…いい?何か変なことされそうになったら大声出して人を呼ぶのよ?」

「う、うん…」

 二人共、本当に朱莉さんのことなんだと思っているの?朱莉さんそんなことしないよ、本当だよ!



 二人が退場した後、俺は愛純に連れられて別の部屋に移動した。

 もちろんその部屋にはベッドがあって、愛純にいきなり押し倒されて…なんていう展開はなく、普通に会議室で、普通に柚那と朝陽と恋と深谷さんがいた。

「よっ、みなさんお揃いで」

 俺がそう言って軽く手を上げて挨拶すると、四人は脱力したようにため息をつく。

「朱莉さんはとりあえず座ってください」

 柚那はそう言って俺に椅子をすすめると、ホワイトボードの前に立ち、『田村ジュリの殺し方』と物騒極まり無い言葉を書き込んだ。

「……ええと…俺、またなんかまずいことした?」

 柚那の無表情が凄く怖いんだけど。

「私達、ここでさっきのやり取りを見ていたんですけどね」

 恋がそう言って机の上のモニターを指差した。

「え?正宗の事?いやいや、してないって。全然してないって。つーかありえないって」

「そうじゃなくてね。まあ、それもあるんだけど」

 深谷さんはそう言ってもう一度ため息を付く。

「朱莉さん…どうやってJKを抜けるつもりですの?」

「……はっ!」

 朝陽の言葉に俺はハッとなった。

二人とかなり仲良くなってしまい、真白ちゃんと深谷さん以外のメンバーには俺の正体はバレていないという現在の状況。

しかもJCのメンバーはもちろん、あかりとの関係も朱莉の時よりもうまくいっているくらいというこの状態は確かに抜けづらい。というより、抜けるとなったらエリスちゃんと華絵ちゃんからは引き止められるだろうし、なにより今の良好なあかりとの関係を手放すのは惜しい。

「やっぱり考えてなかったんですね。考えなしに仲良くなっていたんですね」

 うわぁ、柚那の目が絶対零度の冷たさだ。

 でも理解した。それで『田村ジュリの殺し方』なわけだ。

「って、言っても殺すは物騒じゃないか?普通に種明かしをすればいいだけだし」

「そんなことしたらJKやあかりちゃんにもっと嫌われますよ」

「それは確かに…って、あれっ!?愛純今もっとって言った?」

「え?気のせいじゃないですかね」

「そ、そうか?」

 ああ、でもこまちちゃんからも『一部で嫌われている』って言われたしなあ…華絵ちゃんやあかりはともかくエリスちゃんにはわりと好かれていると思っていたのに、ちょっとショックだな。

「何もしなくてもニコニコしているだけでお小遣いくれるおじさん相手にならそりゃニコニコしますよ」

 俺の心を読んだらしい柚那が吐き捨てるようにそう言った。

「人の心を読んで酷い中傷しないでくれないかな!?」

「まあ、そうことで、実際に殺すかどうかはともかくとして、二人の前からフェードアウトする工夫は必要だっていうことです」

 柚那と俺が不毛なやり取りに突入しそうだと感じたのだろう。恋がそう言って軌道修正をしてくれた。

「うーん…フェードアウトかあ…例えば転属になって他所にいくとかじゃダメなの?」

「それでもいいですけど、それだと全員での集まりのたびに朱莉はジュリと朱莉の二役をしなきゃいけなくなりますよ。それに今は携帯もあるから、連絡も頻繁だろうしその相手も大変なのでは?」

「……まあ、そこはなんとか」

 最近JKならではの文字の使い方やら変な略語やらにも慣れてきて、二人とのメールとかメッセとか楽しくなってきたところだし。

 そんなことを考えていると、俺のスマートフォンが震えた。画面をちらっと見ると、柚那からのメッセージのようだが、目の前にいるのに何を考えているんだろう。

 そんなことを思いながら画面を開くと。メッセの画面には『^^』とだけ書かれていた。

 なにこれ、笑っている顔文字なのに超怖いんですけど!

「なあ柚那…って怖っ!」

 顔文字と同じ顔して笑ってるし!

「ま…まあその。それはなんとかするよ。なんだったら多少面倒でも相手をし続ければいいだけだし。それにほら、嫌われている朱莉には話してくれないようなこともジュリになら話してくれるだろうし、ある意味風通しが良くなるっていうか…」

「はぁ…なんで男って女子高生が好きなんだろうね」

 深谷さんは重みのある声でそう言ってため息をつく。

「えっと…女子高生よりも深谷さんが好きっていう人もいますって、きっと」

「な、何を言っているの朱莉ちゃん。べ、別に私は昔、彼氏を女子高生にとられたりとかそんな経験してないからね!?」

 とられたんだな……。

でもまあ佐藤くんは深谷さんが好きなわけだし、彼が本気でアプローチすればそのうちきっと深谷さんも幸せになれるよね。エリスちゃんには悪いけど。

「ええ~…」

 しまった。柚那に心を読まれてしまったでござる。

 よし、知ってしまった以上は手伝ってくれ柚那。俺達で深谷さんに幸せを届けよう!

 俺がそう思念を送ると柚那は力なく首を振って右手で前髪をかきあげた後、おでこを指差してから深谷さんを指差し、胸の前でバツを作った。

 どうやら深谷さん、ハゲはお嫌いらしい。

「また脱線してますわよ、朱莉さん。深谷さんが昔彼氏をとられた話は、今は関係ありません」

「そうそう、私の話は…って、朝陽ちゃん!?」

 おっと、いかんいかん。JKの影響かどうも話を脱線させてしまいがちだな。

「じゃあ話を戻そう。俺がどうやってJKを抜けるかって話だけど。とりあえずいまのままでいいんじゃないかなと思っている。で、修行が終わったら転校。これはやましいこと抜きに二人と仲良くするのが楽しいっていうのもあるんだけど、あかりもジュリの言うことなら素直に聞いてくれるたりするし、正宗もただの同級生として話をしてくれるから、色々本音が聞けたりして、メリットも大きいんだ。恋の言うような手間っていうのは確かにあるけど、JKも正宗も嫌いじゃないから、まあそれはそれで楽しめるかなって思ってるから別にいいや。っていうのが、偽らざる俺の本音なわけだけど、どうだ柚那」

「なんで私に話を振るんですか」

「いや、コソコソ考えてると不安だろうなと思ったから全部言ってみた。俺はお前が1番大切だから柚那が嫌だっていうなら他の子を傷つけようが多少デメリットがあろうが俺が嫌われようがスッパリJKから抜ける」

「朱莉さんにはスッパリは抜けてもらいますけど、その後ジュリちゃんがメッセや電話で二人とつながろうが何しようが別にいいですよ。朱莉さん友達あんまりいないし、友達くらいは作ってもいいんじゃないですか」

 はいはい、ツンデレツンデレ。

「みんなは?」

「朱莉と柚那がいいのなら私は別に。夏樹は?」

「…なんで話振っておいてスルーするかなぁ…」

「……OKだって」

 いや、深谷さんはなんかブツブツ言ってるだけだけど…。

「私も特に異存はありませんわ」

「私も柚那さんがいいなら別にいいです」

「じゃあ決まりだな。とりあえずジュリについては二人とJCの前でだけ継続ってことで」

「あれ?でもこれって…」

「どうした朝陽。何かあるのか?」

「いえ……」

「なにかあるなら遠慮無く言ってくれ」

「いいんですの?」

「おう。もちろんだ」

「…これって、私達が朱莉さんの致命的な秘密を掴んだということになるのではないかと。いえ、私はもちろんこれを悪用して何か奢らせようとかそんなつもりは無いんですけど」

 うんうん、朝陽はそんなことする子じゃないよな。もちろん柚那も。恋もそういう狡いことはしないし、深谷さんはカウンターでなんとでもできるネタが沢山だ。

「ちょっと朝陽。それじゃまるで私が朱莉さんを脅してゆすろうとしてるみたいじゃない」

 ただ、こいつは別だ。いい子でも俺に対して惚れた弱みがあるわけでも狡いことをしないわけでも、弱みになるようなネタを持ち合っているわけでもない。

だいたい今回の邑田朱莉(代理)だって結構色々条件付きでお願いしていたりするし。

「愛純…お手柔らかにな?」

「ひどーい、朱莉さんまでそうやって私を悪者みたいに言って!」

 そういう話し方してる時の君は大体悪者だよ!

「せいぜいこうやって集まった時のランチ代をお願いするくらいですよ!」

「あ、それいいですわね」

「まあ、ランチくらいなら丁度いいかもね」

「一人だと言い出しづらいけど、みんななら罪悪感も少なくて済むからいいわね」

「じゃあ今日のランチは朱莉ちゃんのおごりで決定!」

 

 この後滅茶苦茶たかられた。


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