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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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田村ジュリのJKライフ 2

放課後、エリスちゃんにくっついてドラッグストアに行こうとした俺は、下駄箱で追いついてきた華絵ちゃんに襟首を掴まれ、校門までの動線からは少し外れた樹の下まで引っ張ってこられた。

「あんたって、正宗の護衛だけじゃなくて自分の修行にも来てるのよね?」

「う、うん」

「じゃあフラフラとエリスと遊びに行っちゃまずいんじゃない?」

「そ、そうだね」

 エリスちゃんが休み時間とか昼休みとかすごくかまってくれるので、すっかり忘れてた。

「こっちはこのままなら一月後には追いだすつもりなんだから、本気でやらないと何にも出来ずに帰ることになるわよ」

「え、私追い出されちゃうの?」

「条件次第だけどね。あんたの面倒を見る代わりにって私達が深谷さんからもらったのは今月分の一万円だけ」

 あれ?深谷さんから上がってきた金額は2×2で四万だったんだけど…まあ、経費として落とすのは時計坂さんに蹴られたから俺の財布から出すころになるので、そこは後で深谷さんを締め上げよう。

「エリスはどう考えているか知らないけど、来月以降も手がかかるなら私はあんたを本部に突っ返すつもり。というか、本部の首輪がついてるあんたを傍においておきたくないのよ」

 首輪どころか上司本人なんだけどね。まあ、華絵ちゃん的にはエリスちゃんと二人で楽しくやっていたところに監査みたいなのが入るのが嫌なんだろう。

「ただ、あんたが一人前になって、朱莉さんから情報を取って逆にこっちに流してくれるっていうなら傍にいさせてあげないこともない」

 随分乱暴な話だなあ。でも昨日の通信で彼女に俺の正体がバレたということはなさそうで、そこは一安心だ。

「情報って?」

「他の地区とか他の部隊の魔法少女の近況とか、あと上の弱みになりそうな話とか」

 ああ、彼女がほしいのはお姉ちゃんの情報か。普段は彼女のことを嫌っているような口ぶりなのにシスコンだなあ、この子。

「その魔法少女ってだれか特定の人?」

 わかりきっているけど、俺はあえて知らないふりをして尋ねてみた。

「それは……いいのよ、それは!」

 まあ、そりゃ言わないわな。俺だって友人ならともかく、自分の姉があれだったらちょっと嫌だし。

 まあ、でもこの条件は逆に利用できそうだ。

「いいよ」

「いいよって何?」

「情報でしょ?別にいくらでも取ってきてあげる。その代わり、華絵ちゃんの防御魔法を私に教えてよ。きっちり教えてくれたらできる限りの情報を取ってくることを約束する」

「あんた、なんかさっきと雰囲気違わない?」

 まあ、そう心がけて表情も口調も作ってるからね。

「華絵ちゃんはいつもの私より、こういうほうが好きなのかなって思って」

「は……?はぁ!?あんた一体何言ってんの!?」

「私の勝手な予想だから、違ってたならごめんね」

 俺がそう言ってニッコリと愛純直伝の笑顔を向けると、華絵ちゃんはイラッとしたらしく下唇を噛みながら睨みつけてきた。

「それで?きっちり教えてくれるの?くれないの?」

「……逆手に取って自分有利に進めようっていうんだろうけど、冗談じゃないわ。教えてあげるけど、イニシアティブはあくまで私。そこは忘れないでよね」

「了解」

 まあ、イニシアティブをよこせなんて自分で言い出さなきゃいけない時点で大体の場合はイニシアティブを取られた後なんだけど、それがわかってないあたり、なんだかんだ言ってもまだまだ子供だなあ華絵ちゃんは。

「ちなみにあんたお金はいくら持ってる?」

「…いやあるけど…ねえ、JKチームってそんなにお金に困ってるの?」

 割り当てた経費の利用がないからここに来るまでそんなに困ってるとは思わなかったんだけど、そうでもないんだろうか。というか、なんで経費の申請しないんだこの子は。

「困ってない!……とはいえないかな。私達のお給料じゃJC用の特訓施設使うの厳しいし」

 華絵ちゃん、それ十分経費で落とせるやつや。

「ちなみにね、ここに来る前朱莉さんに聞いたんだけど、私がJCじゃなくてJKチームに所属なのはほとんど申告がなくて経費に余裕があるからって話だったんだよね。あ、いや。もちろんJCみたいに前線で戦えるほど強くないっていうのもあるんだけどさ」

「経費に余裕があったって生活や自分たちの特訓に使えるわけじゃないし」

「特訓の費用には使っていいんだよ!あと、生活費も全部は無理でも、例えば二人で訓練してその時に食べたおやつとかジュースとかそういうのは全然申告していいの!」

 特にチームに割り当てられている予算については使いみちの限定はかなり緩くなっているので、JCなんかはお菓子代とかでバンバン使っているし、朝陽も公式ブログ書く用にパンやらケーキを買った代金を経費で落としていたりする。

「そうなの!?じゃあ、もしかしてJC用の特訓施設で払わなきゃいけない電気代とかも…」

「もちろん大丈夫。請求を本部に回してもらえればその場で払う必要もないからね」

「それでいつも施設のおじさんが変な顔してたのか…っていうか、早く言ってよ!」

「言った!…はずだよ、朱莉さんは」

 危ない危ない。ここで邑田朱莉として口喧嘩するのは非常にまずい。

「とにかく、そういうのは経費で落とせるから」

「だとすると……すごい!百時間以上使える!」

「まあ、それ以外にも必要な物があれば使えるから、全部電気代にする必要はないけどね」

「た、例えば?」

「華絵ちゃんが事務作業するパソコンとか、ダイニングのテーブルなんかもOKだと思うよ。ミーティングの時とかも使うんだろうし」

「……じゃあ今までしていた貯金は…」

「自分たちのために使ったら良いと思うよ」

 本当に真面目だなあ。深谷さんとか佐須ちゃんとかあかりに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。

「お……おお…どうしよう、何に使おう」

「当面欲しいものが無いならとっておくっていうのもありだと思うけどね」

「と、とりあえずそうしようかな」

「ちなみにいくらくらいあるの?」

「……二人分で120万」

「え?二人?でもエリスちゃんは確かお金がないはずじゃあ…」

「基本エリスのお金で生活して、私のはお小遣いとか、そういうの以外はほとんど積み立ててたから」

 真面目過ぎて生きづらそうだなあ、この子。姉とは大違いだ。

「でもなんでそんなに切り詰めて貯金してたの?」

「だって、私達なんてそんなに実力があるわけじゃないし、それに大学とかの費用も貯めなきゃだし」

 ああ、確かにエリスちゃんは黒須さんの施設の出だし、華絵ちゃんも色々あって実家がないからなあ…

「…又聞きなんだけどね、私たちは奨学金が比較的受けやすいし、国立だと学費免除になるとか色々あるみたいだから詳しく確認してみたほうがいいよ。それと、裏方でも働きながら大学行ってる人とかもいるし実力がどうとかはあんまり心配しなくても大丈夫だと思う」

「ほんとに!?知らなかった、ありがとう!」

 そう言って華絵ちゃんは俺の手を取るとブンブンと上下に振った。

 まったく、こんな大事な話をちゃんとしてないなんて酷い上司だな。俺だけど。

「それで、その…ジュリ」

「うん?」

「ごめん。私から話振っておいて悪いんだけど、今日は訓練なしでいい?私がちゃんと聞いていなかったせいでエリスにすごい色々我慢させてきたから、ちょっと買ってあげたいものがあって。あ、もちろんそれは貯金を半分にして私の方から出そうと思っているんだけどね」

 ほんと、真面目だこの子。

「うん、良いと思うよ。買ってあげなよ。私のほうはまだ時間があるんだし気にしないで」

「ありがとう!じゃあ私行くから、また後でね」

 そう言って華絵ちゃんはそそくさと校門の方へ歩いて行った。


「友情っていいなあ…」

 マンションへの帰り道、俺がほっこりした気持ちでそんなことをつぶやきながら歩いていると、前方に仲よさげに歩いている正宗と和希を見つけた。

「パッと見、完全にカップルだよなあいつら…」

「そうなんですよ。だから正直むかつくんですよね」

 いつの間にか俺の隣を真白ちゃんが歩いていた。隣というか、俺の影に隠れて二人の様子を伺っているので、正確には少し斜め後ろなのだが。

「ええと…甲斐田真白ちゃんだっけ?」

「ああ、私は柚那さんから事情を聞いてますから、変なお芝居しなくて大丈夫ですよ、朱…ジュリ先輩」

「さいですか」

 魔白ちゃん事件のあとあたりから柚那と仲が良いみたいで何より。

「ちなみにJCでは私と深谷さん以外事情を知らないので、そこはうっかり口を滑らせたりしないように気をつけてくださいね」

「真白ちゃんはともかく、他人に秘密を持つって言うことに関してはザルみたいな深谷さんがネックなんだよな」

「確かに」

 上司に対しても遠慮ないなあ、真白ちゃんは。

「ちなみに、正宗と和希ってそんなに仲いいの?」

「ハッキリ言って正宗は和希狙いでしょうね」

「言い切るね」

「というか前に宣言してたんですよ。私達の中だったらトップは和希、次点でみつきちゃんだそうです」

「和希は気楽さ、みつきちゃんは顔かな。ちなみにナイスバディの真白ちゃんは入らないわけ?」

「私は彼とは喧嘩してばかりですからね。そういう対象じゃないと思いますよ」

 思い切ってセクハラしてみたのにスルーされてしまった。ちょっと寂しい。

「そういうのも萌えると思うんだけどなあ」

「男同士ならそういう関係も萌えますよね」

 今怖いことをさらっと言ったなこの子。

「真白ちゃんは和希とはどう?」

「どうって、普通ですよ。普通に学校に一緒に行って、学校から帰って一緒に勉強したり。あと、最近また『添い寝してくれー』って言ってくるんで、縄でぐるぐる巻きに縛って一緒に寝たりしてます」

 和希……。

「順調そうで何より」

「…なんで泣いてるんですか?」

「いや、なんでもない。他の皆は?」

「あかりちゃんは先週高山君がなにかやらかしたらしくて少し揉めてましたけど、次の日にはイチャイチャしてました」

 それは聞きたくなかった!

「みつきちゃんはみつきちゃんで、少し正宗を意識しているみたいです」

「ええっ!?そんな、まさかまかり間違ってみつきちゃんが処女を散らすなんていうことになったり―」

「……流石にスルーしきれなくなったら私も怒りますよ」

「ごめんなさい。っていうか、柚那みたいな顔すんのやめてください」

「だったら変なこと言うのやめてください」

「ごめんごめん。あとは…タマはどうしてる?」

「タマですか?うーん…最近は里穂と一緒に行動していることが多いですね」

「そっか…」

「タマのことで何か気になる点でもあるんですか?」

「いや、実はタマって何者なのかさっぱりつかめなくてさ。都さんに聞いてもはぐらかされるし。まあ、都さんが指名してJCに入れているくらいだから大丈夫だとは思うけど」

「そう言われてみればタマの家族の話って聞いたことないですね。それとなく聞いてみたほうがいいですか?」

「いや。今JCがうまく回っているなら別にいいや。同期のこまちちゃんや寿ちゃんも知らないくらいだから、何か話したくない事情があるんだろうし、下手に探ってJCの雰囲気を壊しても本末転倒だ」

「そうですね。わかりました……と、すみませんジュリ先輩。ちょっと先に行きますね」

 冷たい声でそう言うと、真白ちゃんは前を向いてグッと足を踏ん張り、そして走りだす。

「お、おう。またな」

 ただならぬ雰囲気の真白ちゃんの表情の理由は、真白ちゃんを見送っている途中でわかった。今まで普通に並んで歩いていただけだったはずの正宗が和希の肩を抱いていたのだ。

「和希ぃっ!」

 そう声を上げながら突っ込んでいった真白ちゃんは正宗に体当たりをして突き飛ばすと、裏拳、ローリング・ソバット、おまけにローリングソバットで遠心力のついたおさげという三連コンボを叩き込み、正宗を道路脇の植えこみへと沈めた。

 強いなあ、真白ちゃん。

「痛えなこのメガネ巨乳!」

「うるさい!和希の肩を抱くとか何考えてんのよ!」

「お前には関係ないだろ!」




 よし、喧嘩が終わりそうにないし道を変えよう。

 俺はしばらくその場にとどまって様子を見ていたが、終わりそうに無いのでそう決断して路地に入った。

 ほら、下手に仲裁してテンション上がった真白ちゃんがうっかり俺のことを朱莉さんなんて呼んだら色々台無しだしね。

 そう。そうなんだよ。作戦遂行のために必要だからなんだ。決してキレている真白ちゃんが柚那みたいで怖いとか、オロオロしているだけの和希が自分に重なって辛いとかそんなことじゃないんだ。


 本当だってば。


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