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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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やれることよりやりたいことを


 かなり遅い俺の自分探しは、一日目からかなりの出費となった。


「ちょっと朱莉、なんで飲まないの?せっかくなんだからどんどん飲みなよ」

「せっかくって言っても完全に俺の金だけどな!」

 こまちちゃんと別れた後、適当に本部を歩いていた俺は、ジャンヌとユーリアに出会った。

 せっかく出会ったんだしいい機会だからと二人に事情を話した俺はユーリア御用達だという焼き鳥屋へと連れてこられたのだが、これが大間違いだった。

 朝だろうが昼だろうがお構いなしに常に赤ら顔をして上機嫌に酔っ払っているユーリアの飲む酒の量は半端ではなく、すでに机の上や畳の上には洋の東西問わず数多くの酒瓶が転がり、床には運転要員としてユーリアとジャンヌが無理やり引っ張ってきたインドの連絡将校、ララが酔い潰されて転がっていて、ジャンヌも顔を赤くして変に色気のある感じでニヤニヤ笑いながらグラスを揺らしているっというカオスな状態になっている。

 これ、今日はどっかその辺に泊まりかな。…あ、もちろん部屋は別々だよ。ほんとだよ!そのつもりだよ!

 空いてなかったらしかたないけどね。

「それで、俺の立ち位置の話なんだけどさ」

「そういえば最初にそんな話してたね。で、立ち位置って何?異動でもすんの?」

 俺が話している最中に『任せとけ!』って言い出したから絶対理解してないだろうなと思ってたけど、本当にわかってなかったとは。

「そうじゃなくて、俺が何をしても中途半端だからさ、もうちょっとこう、しっかりした長所を出していこうっていう話で、その俺の長所ってのをみんなに聞いてまわろうと思ってたんだ」

「ふーん…どう思う?ジャンヌ」

 人の金で1番飲んでるのに自分で答えずジャンヌにスルーパスだと!?

「えぇ?わたしはぁ、朱莉はぁ、そのままでぇ、いいと思うよぉ」

 そう言ってジャンヌはクネクネしながらヘラヘラ笑う…っていうか、酒入った途端にポンコツすぎてもはや別人じゃねえか。

「だってさ」

「だってさ、じゃなくて。こんだけ呑ませてるんだからさあ。人任せじゃなくてユーリアもなんかいい感じのアドバイスくれよ」

「……ブリャーチ…」

 なんか今すごい顔で舌打ちされたんだけど!?

「俺、そんなにユーリアを怒らせるようなこと言ったか?」

「言ったね。人が旨い酒を楽しく飲んでいる時に頭を使わせようなんて、なんて酷い!酷すぎる!」

 理不尽だ。っていうか、酷いのは相談に乗るって言っておきながら相談にも乗らずに、もう計算するのも怖いくらいの量の酒を飲んでいるユーリアだが、迫力がありすぎてそんなこと言えない。

「理不尽なのはユーリアでしょう……まったくもう…」

 ユーリアの迫力に押されて思わず謝りそうになっていた俺の肩を掴んで、ララがそう言いながら起き上がった。

「楽しく飲むのは結構ですけどね、朱莉のお金で飲んでおいて相談に乗らないなんていうのは言語道断です…だいたい、あなたは…」

「まあまあ、落ち着きなよララ。ほら、水でも飲んでさ」

「あら、気が利くじゃない」

 そう言ってララはユーリアからコップを受け取って一気にあおり、そしてそのまま目を回して後ろに倒れた。

「あっはっは、これから敵対しようとしている相手からグラスを受け取るとか、油断し過ぎじゃない?」

「おいおい、一体何したんだよ、まさか毒とかじゃないだろうな」

「ただの焼酎だよ。まあ、あんなに簡単に飲むんだったら毒殺とかも簡単にできるだろうけど」

 おそロシア!

 まあララも『アルコールの分解くらい余裕、ちょっとくらい飲んでも検問に引っかからないように帰れる』って言ってたわりには早々に潰れたので、ユーリアがおそロシアなのかララがへちょインドなのかはわからないけど。

「ううっぷ…」

 ああっ、とかなんとか言ってるうちにララが吐きそうになってる!メディーック!メディーック!



 結局潰れてしまい朝まで再起不能っぽいララと、もうポンコツ過ぎて話にならないジャンヌを一緒の部屋に放り込んで、俺とユーリアは一緒の部屋で一晩飲み明かすことにした。

 状況が状況で、不可抗力とはいえ、一応柚那に連絡したのだが『朱莉さんがユーリアをどうこうできるわけないじゃないですかー、もう夜も遅くて眠いんですからそんな連絡いらないですよー』と言われてしまった。

 はたして信頼されていると喜ぶべきか侮られていると憤るべきか。非常に悩ましい。

「どしたの、深刻そうな顔して」

 そう言って湯上がりのいい匂いをさせながらユーリアが俺の顔を覗き込んできた。

「むしろどうしたんだそのセクシーな格好は」

 手にはしっかりと持ち込んだ缶ビールを持っているが、彼女はバスローブ一枚で、胸の谷間がかなりはっきり見える。

「いや、どうせ密室ならリラックスしながら飲みたいしさ」

「まだ飲むのか…」

 一応、部屋にある酒はコンビニで買い込んだ分しかないので有限だし、この時間はルームサービスもしてくれないらしいのでこれ以上お金がかかるということはないだろうが、それでも『朝まで飲む』は方便だと思っていた俺としては驚きだ。

「そりゃ飲むよ。お酒を飲まない時間なんて、寝てる時と会議してる時とシャワー浴びてる時だけで十分でしょ」

 そんな生活したらあっという間に肝臓が死ぬわ。

「んで、朱莉をどう育成するかって話だっけ?」

「あれ?相談に乗ってくれるの?」

「まあ、他に酒の肴になりそうな話もなさそうだしね」

 そう言ってユーリアはぐいっと缶に残っていたビールを飲み干してゴミ箱に投げ―

「結論から言っちゃうとね」

 ―そう言いつつワンカップを開けている。

「うん」

「基本的にはジャンヌと一緒」

「そのままで良いって話?」

「そそ。だって朱莉は今までも十分やってきているのに、下手に変えるといままでやれたことができなくなっちゃうかもしれないわけだし、路線を変えないっていうのも手だと思うよ」

「うーん…そう言われるのは嬉しいんだけど、それだと当面の目標である楓さんに勝つっていうことができなくなっちゃうんだよね」

「楓に勝つのが目的なの?だったらそれこそ今の朱莉のままで良いんじゃない?離れてドーンと魔法使うとか、トラップを使うとかさ」

「いや、この間、素の俺でいったら負けたんだよ」

「いやいや。朱莉はこまちの言っていたことが何にも理解できてないんじゃないかな」

「どういうことだ?」

「つまりね、朱莉には強みがないわけじゃないんだと思うよ。その、こまちが出したゲームの例えにしたって、どっちも強みがあるわけでしょう?」

「いや、遊び人にはまったく強みがないと思う。あと、赤魔道士も」

「じゃあ、なんでそんな職業が用意されているの?」

「……将来性とか、ゲーム初期の利便性とか?」

 そういう意味だとレベル低いうちは使い物にならない遊び人とレベル低いうちしか使いものにならない赤魔道士って真逆なんだな。

「細かいところはよくわからないけど、こまちは朱莉が弱いとか使えないって言ってるんじゃなくて、そういうわかっている強みがあるんだ、それを活かすことのほうが重要なんだって言いたかったんじゃないの?まあ、朱莉が変わりたいってものを無理やりやめさせるつもりはないから、そこは朱莉の好きにしたら良いっていう感じだけど、勝ちたいっていうだけなら、そういう選択肢もあるってことは覚えておいたほうがいいよ。そもそも、柚那達の言っている問題は朱莉が弱いってことじゃないんだから」

「ああ、そうか。そう言われればそうだ。たしかに俺の実力云々とかじゃなくて俺の性格的な部分、まじめに取り組まないとか空気を読まずに余計なことを言うとかそういうところを主に言われていたんだもんな」

 あくまで、楓さんとの再戦は俺の姿勢を見せるためのものであって、楓さんに勝つことが目的ではない。ということだ。俺自身で言い出したことなのに目的と手段が完全に入れ替わっていた。

「ダー。で?それを踏まえてあんたの伸ばすべき部分は?」

「うーん……総合力を上げる。だとあんまりなあ…」

「と、いうか総合力ならいまさら伸ばさなくてもチアキと同じくらいあるでしょ。じゃあ、長所とかやれる事とかじゃなくて、やりたいことは?」

 正直、楓さんの純粋な攻撃力とか、ひなたさんの攻撃の多様性とか、精華さんの必殺技の反則っぷりや、狂華さんのように圧倒的な物量で押しつぶす魔法に憧れがないといえば嘘だけど、俺はもともと性格的にあまり攻撃向きじゃないんだろうなというのはある。

 もちろんむかついた相手に対して拳に魔力を集めてぶん殴るとかそういうことはできるけれども、普段から攻撃してやるぞっていう技は俺向きじゃない。というか、使いどころがないのだ。

 怪人級あいてなら基本的にぶん殴るだけでいいし、意思疎通の撮れる幹部クラスなら仲良くしたほうがお互い利益がある。

 だから多分俺は性格的には保守、防御向き。

 それは実際俺がこれまでやってきた、敵を仲間に引き入れて無血開城を目指すっていう姿勢からも明らかだ。

「どっちかと言えば、皆を守ることかなあ」

「お、やりたいことは結構すんなり出てきたね…まあ、私は前々から朱莉はそっち向きだと思ってたんだよ」

「そっち向きって?」

「無駄に打たれ強いから、私と同じタイプを目指すべきだなってさ」

 そう言えばユーリアは防御のスペシャリストだった。

 そもそも、ジャンヌと仲良くなったのだって矛楯対決でまったく決着がつかなかったのがきっかけだって言っていたし。

「ちなみに今までまともな防御魔法って使ったことある?」

「防御魔法を勉強したことないから、適当に魔力でジャンプ作って服の中に入れる感じでやってたんだけど、それじゃダメか?」

「日本を代表する漫画雑誌になにしてんのあんたは」

 ユーリアはそんな風に突っ込むが、腹にジャンプはそれこそ刃物対策としては日本を代表するくらいメジャーな方法だと思うんだけどな。

 …まあでも、ユーリアにそれを言ってもしょうがないか。

「それで今までやってきたってのがむしろ恐ろしいわ。話に聞いただけだけど、あんたそれで愛純の全力パンチを受けきったんでしょう?」

「いや、でもあれは別に殺意とかはなかったらしいし、一応腹ジャンプもしてたしね」

 多分ユーリアはバレンタインの時の事を言っているんだと思うのだが、あれは愛純自身『殺すつもりはなかった』って言っていたし、意識的にか無意識にかはともかく、愛純が手加減してくれていたんだろうと思っている。

「それでも防御魔法が得意でもないあんたが気絶することもなくあれを耐えるのはありえないって愛純自身も、傍で見ていた鈴奈も楓も言っていたんだよね」

 確かに鈴奈ちゃんにそう言われた覚えはあるけど、わりと親日とは言っても一応他国の人間に三人とも話しすぎだ。

 …まあ、俺もこんな相談をしている時点で同じ穴のムジナだけど。

「じゃあ、教えてくれるのか?」

「それなりにレベルアップしたらね。私1から教えるのは苦手だから。もうちょっとコツを掴んだらその伸ばし方みたいなのは教えてあげる」

 そう言ってワンカップを空けたユーリアは、今度はジンの瓶をラッパ飲みし始めた。

「じゃあ、1からの講師は探さなきゃダメなのか」

「国内のデータベースがあるんだし、あんたはそれを見れるんだから、探すのは簡単でしょ」

「まあ…検索するまでもなくアテがないではないんだよ。ちょっと頼みづらいけど」

 そう言って俺は防御だけなら楓さんの『山』にも匹敵する魔法を持つ魔法少女の顔を思い浮かべてため息をついた。


ジャンヌは不憫かわいい。

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