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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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※タイトル、本文微調整3/9


下書きしたつもりが投稿してしまっていたでござるの巻でした。

 


「以上。なにかわからないところはあるかな?」

 今日の今日、ついさっき終わった真白ちゃんのプレゼンで決まった正宗の留学受け入れについての説明を終えた俺は、正宗の担当になる二人の顔を見て尋ねた。

「いやあ、わからないことだらけっていうか、わからなさすぎてもう何から聞いていいやらって言う感じなんですけどね…なんで私らなんです?私ら超弱いっすよ」

 そう訪ねてきたのは褐色の肌にピンクの髪という、生粋の日本人にしては個性的なファッションをしている村雨エリスちゃんだった。

 彼女の序列はこの国の魔法少女の中ではかなり下の98位。自己申告のあったとおり、超弱い。

「女子高生が君らしかいないっていうのが一番の理由かな。正宗の魔力はきっちり封印するし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「あー、それなら安心だー」

 エリスちゃんはそう言って大きな口を開けてケラケラと笑う。

「安心じゃないって…あの、邑田一尉。正直言って私とエリスには荷が重いです。というか、割に合いません」

 そう言って見た目はエリスちゃんと真逆の黒髪ストレート、前髪パッツンの関華絵ちゃんが黒縁の眼鏡をクイッと上げた。

「一応手当は出るけど?」

「足りません。割に合いません。貴重な学生生活を犠牲にして、さらには危険と隣り合わせの任務なのに安すぎます」

 まあ、確かに何かあった時に割に合うかと言われれば、月二万円の手当は足りないかもしれないが、それとは別に基本給は出るわけだし、正宗については…というか、異星人組についてはGPSを持たせることで放課後の護衛はなしということになったので、犠牲になる学生生活なんてせいぜいが授業時間と休み時間のちょっとの間くらいだ。これ以上おかわりされてもちょっと困ってしまうというのが正直なところだったりする。

「じゃあ、月の手当をどっちかに集中させて一人で見る?タマなんかは一人で里穂をみているわけだし」

「あ、じゃあ私やるやるー。二万でもいいけど四万もらえるなら超頑張るー」

 そう言ってエリスちゃんが手を上げながらぴょんぴょん跳ねる。

「ちょっと待ちなさいよ!それだと私の手取りが減っちゃうでしょ!?っていうか、交渉は私がするから黙っててって言ったじゃない」

 ああ、そういう役周りだったのね。多分本当はエリスちゃんのほうが駄々をこねて華絵ちゃんが諌めてそこそこの条件を引き出すっていう、良い警官悪い警官、もしくはチンピラと若頭のようなことをしようと思っていたというわけだ。

 そういうことをしようと思った時に、元気だけど大らかでちょっと足りないエリスちゃんと頭はいいけどお金に細かい華絵ちゃんという組み合わせはたしかにしっくり来る。

見た目も性格も真逆の二人は都さんが好きそうな取り合わせで、都さん的にはそんな組み合わせをニヤニヤしながらみたいということもあってバラバラにご当地じゃなく、二人セットであかりの学校の隣に進学させたんだろう。……まあ、俺も好きだからニヤニヤしながら眺めたり甘やかしたりしたいんだけどね!

「とはいえ、これ以上の現金支給はちょっと厳しいんだよな。予算の関係もあるし…あ、じゃあこういうのはどうだろう。現金は無理だけど、スポンサーからもらった食料なり、服なりを一番最初に選ぶ権利を二人にプレゼント」

 国を守るとかそういう俺達の本業を置いておいても、クローニクは高視聴率だし、最近は魔法少女のメディア露出も増えてきているので、そこで話題に上がることを見越してスポンサーから送られてくる服や食料、それに化粧品類などの物資は結構いいものが多い。

 現状は誰が一番にえらぶという感じではなく、倉庫においてあるところからそれぞれ好きなモノを勝手に取っていくという感じなのだが、その方式だとどうしても本部詰めとか、それぞれの支部にいる子が先に選んで都道府県常駐のご当地とかJCなんかはあまりものになってしまうことが多かった。そしてそれはこの二人にも言える。

「マジで!?化粧品とかもあったよね確か」

「マジマジ。化粧品でもなんでも好きなの持ってっていいぞ」

「やるー!化粧品代とか浮けば浮いた分食材に回せるし。ていうか、確か高級食材もあった気がするし、華絵もいっぱい美味しいもの食べれるよ!ああもう、邑田隊長大好きー!二人暮らしの救世主―!」

 そう言いながらエリスちゃんは俺を抱きしめて顔中にキスの雨を降らせてくれた。

 エリスちゃんは日本人にしては愛情表現がストレートで歳の割に成長も著しいのでおじさんは大好きだぞ。

「華絵ちゃんは?」

「……スポンサーからの提供品って家電もありましたっけ?」

 しばらく考えたあと、華絵ちゃんはそう聞いてきたが、これは明らかに転売を狙っている目だ。

「家電もあるし、あるときは車もあるけど、自分で持って帰れる分だけにしてね。他のみんなに行き渡らなくなっちゃうのはまずいから」



 条件面以外のところを少し詰めてから二人を見送り、執務室に戻ってきた俺を待っていたのは、こまちちゃんだった。

 だった、というか、寿ちゃんの代わりに東北代表でプレゼンに参加していところを捕まえて呼んだのだけど

「暇人みたいに思われてこうやって頻繁に呼び出されるのはちょっと迷惑だったりするんだけどね」

「まあまあ、そう言わずにさ。彩夏ちゃんの時手伝ったじゃん」

 俺はそう言ってこまちちゃんに椅子を勧めて、ミニ冷蔵庫からペットボトルを取り出して彼女の前に置いた。

「それはイカサマ一回で話がついているはずでしょ …それで?私が声をかけられたのは例の楓さんに勝ちたいとかっていう無謀な話の絡み?」

「さすが、耳が早いね」

「セナが朝陽ちゃんから聞いて教えてくれたんだよ」

 朝陽のおしゃべりめ。そんな話が楓さんの耳に入ったら今から修行しだすぞあの人。

「まあ無謀だっていうのは自分でもわかっているよ……で、楓さんに勝ったこまちちゃんから見て俺に勝ち目あるかな」

「ないね」

 即答された。

「薬飲んで体調を完璧にして…っていうか、パワーアップまでしても勝てなかったんでしょ?だったら一ヶ月やそこらなにかしたところで勝つのは無理じゃないかなと思うよ。というかそもそも、朱莉ちゃんのステッキは全く格闘に向かないし、それを背中に括りつけて思いつきで出した刀を振り回して、それこそ付け焼き刃で対抗しようとしたって絶対に楓さんには勝てないよ」

 こまちちゃんは面倒くさそうにしながらもちゃんとアドバイスをくれるので本当にありがたい。

「こまちちゃんはこの間の楓さん戦はどういう風に動いたの?VTRだと普通に動いているようにしか見えないんだよね」

「うーん……まあ、いいや。立ってみ」

「え?うん」

 こまちちゃんに促されて俺が立ち上がると、立ち上がり終わったその瞬間にはこまちちゃんの顔が目の前にあった。

「こうやったんだけど」

「……いやいや。どうやったの?」

「だからこう」

 こまちちゃんの顔はいつの間にか俺の正面から消えており、今は後ろから俺の右肩に顎を載せている。

「テレポート?」

「魔法じゃないよ。技術。楓さん相手にまともに正面からいってもパワー負けするし、あんなに近くによることもできないからね。楓さんと話しながらほんの0コンマ何秒かだけ気を逸らすの。で、その隙を縫ってピッタリくっつくと」

 なるほど、言っていることはわかるけどやり方がまったくわからん!

「でもそんなの楓さん相手にできるもんなの?」

「いや、実は楓さん相手だから簡単なんだよね。あの人感覚が鋭いから、ちょっとした小石の音でも一瞬意識をそっちに飛ばして警戒するんだよ。ただ、感覚が鋭い分判断が早くて意識の戻りも早いから本当に一瞬だけどね」

 楓さんの隙云々じゃなくて、俺の能力的に全く無理そうな話だった。

「でも、どっちかといえば鈍感な俺もこうしてくっつかれてるのはなんで?」

「単純に隙が大きいからだよ。立ち上がるときに思い切り私から目をそらしてたし、近くで私が目を見つめたらちょっと目をそらしたでしょ?」

 ……うわぁ、俺すごいチョロいやつみたいになってる。

「そういうわけだから素人にはちょっときついと思うよ。というか、そもそも刀の間合いの内側に入っても朱莉ちゃんには楓さんに対して有効打を与えられる攻撃がないでしょ」

「確かにな。それに近づき過ぎるとこまちちゃんが楓さんにやったように、俺のステッキが奪われてステッキ破壊で負けちゃうだろうし」

「まあ、あの人に限ってそんな決着のつけかたを良しとするとは思えないけど、そういう結果もありうるよね」

「ステッキを変える時が来たってことかな」

「それもありだと思うけど、その前に朱莉ちゃんはそろそろ自分がどういう役割なのかを決めたほうがいいと思う」

「役割?」

「例えば愛純ちゃんなんかは楓さんと同じ近接戦闘タイプじゃない」

「そうだな」

「朝陽ちゃんはどちらかと言えば支援タイプ」

「うん」

 だから俺は自分が隊長になってからは愛純と朝陽でコンビを組ませていたわけだし。

「で、柚那ちゃんは回復タイプ。それぞれゲームだったら武闘家、魔法使い、僧侶なわけだ」

「うんうん」

「じゃあ朱莉ちゃんは?」

「うーん…勇者?」

 うわぁ、こまちちゃんがすごい顔してる。

「……もう少し喩え話を続けようか」

「はい」

「チームを1台の戦車小隊に例えるとするじゃん?うちで言えば寿ちゃんが車長、彩夏ちゃんが操縦手で、セナが装填手。私が砲手で」

 そういえば彩夏ちゃんが某アニメを「いいぞぉ」って言って寿ちゃんに見せて、そこから東北で流行ったとか言ってたっけ。

 ちょっと前に寿ちゃんが紅茶こぼさない感じのセリフ言ってたくらいはまってたみたいだから、こまちちゃんも寿ちゃんに薦められて見たんだろうな、きっと。

 とはいえ

「その喩えなら俺は車長だろ」

「まだ続きがあるからね。じゃあ精華さんはなーんだ」

「……つ、通信手?」

 ややむちっとしてるし。

「コミュ症の通信手とか最悪だよね」

 ひどいことを仰る。

「うちの場合は精華さんが入るとがらっと変わるんだよ。精華さんは車長、でそうなると操縦手が寿ちゃんになって彩夏ちゃんが通信手になると」

「役割がフレキシブルに変わるってわけだ」

「そうだね。じゃあ関東で例えてみよう。柚那ちゃんが操縦手、愛純ちゃんが通信手兼装填手、朝陽ちゃんが砲手」

「やっぱり俺が車長じゃん」

「それは他にやることがないからでしょ。じゃあ一旦朱莉ちゃんを車長に入れるとして、そこに狂華さんを入れると?」

「狂華さんが車長だな」

「朱莉ちゃんは?」

「つ、通信手?」

「多分兼任でも愛純ちゃんがやったほうがいいね、朱莉ちゃんって嫌われているところでは嫌われているから」

 さらっと自分が一部で嫌われているという衝撃の事実を聞かされてしまったでござる。

「さて、じゃあここでRPGの例えに戻るけど」

「ちょっと待って、関西は例えなくていいいの?」

「……戦車に乗らずに素手でひっくり返しそうなところを例えても仕方無くない?」

「画が想像できるだけに、なんも言えねえ」

 楓さんとかちゃぶ台感覚で戦車ひっくり返しそうだし。

「で、さっきの武闘家、魔法使い、僧侶のパーティに、狂華さんを入れると?」

「勇者だな」

 なんだかんだあの人は器用だし、万能型だと言える。というか、単純に強いし、勇者以外ない。

「チアキさんなら?」

「賢者とかかな」

 あの人もあの人で万能だ。しかし勇者というよりは一歩下がったところでチームを見つめる感じなので賢者がしっくり来る。

「さて、じゃあそれを踏まえて朱莉ちゃんは?」

「しょ、商人?」

「遊び人でしょ」

 バッサリ切り捨てられてしまったでござる。

「もっとわかりやすく別のシリーズで例えようか。柚那ちゃんは白魔道士、朝陽ちゃんは黒魔道士、愛純ちゃんはモンク、それぞれ終盤まで活躍できるジョブだね。さて、じゃあここで考えてみよう…」

「赤だな」

 言われるまでもない話だ。俺自身、その自覚はある。

「正解」

 朱莉だけに赤とかではなく、要するにこまちちゃんが言いたいのは俺には強みがない、器用貧乏っていうことだ。

「剣も振れるし、攻撃魔法も使えるし、回復魔法も一応使ったことがある。まさに朱莉ちゃんだね」

「それが強みだと思ってたんだけどな」

「今まではそれでよかったかもしれないけど、そのせいで使い勝手が悪くなっちゃっているっていうのはあると思うよ。それは都さんや狂華さんだけじゃなくて朱莉ちゃん自身も感じているんじゃない?」

 たしかに最近愛純とか朝陽についてはどう戦え、どう動けっていうのはすぐに判断できるし指示も出せるけど、自分をどこに置くかって考えた時に非常に困ることが多く結局最後の大技狙いで柚那の護衛についている。みたいなことも多い。

「だから、とりあえず自分の強みを見つけてみたらいいんじゃないかな。というか強みを見なおしてみたら?多分自分で思ってる強みと周りからみた強みって違うと思うから」

「そうだなあ…ちょっと色んな人に話を聞いてやってみるか」

 あんまりろくな回答が返ってこない気もするけど。

 


 


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