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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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男子+女子 中学生の日常 3



「で?なんで俺達の後をつけたりしたんだ?」

 尾行マニア、尾行のプロ、諜報活動なら任せておけ。普段からそんなことを言っていたベスは。尾行開始からものの数分で見つかってしまった。

 原因は魔力の気配が丸出しだったから。

 一般人相手なら見つからなかっただろうその理由と、そもそもコントロール次第で魔力を消したりすることができるということを知らなかった私たちはベスを責める気はなかった。

「それはあれです、その…千鶴が『和希の野郎、私には軍団解散させておいて自分は男はベらしてんじゃねえかよ。ムカつくから後つけようぜ』とかそんなことを言い出したものですから」

 …責める気はなかったんだけど……うん、こいつはこういう奴だった。やっぱり責めよう。

「そんなことは言ってない。私とアビーとカチューシャは特に問題がなさそうだから、放っておこうっていう話をしたの。なのにベスが『取れる情報は取って、撮れる証拠は撮って、たっぷりと絞りとってやろう』とか言い出して、私達が止める間もなく尾行を始めちゃったの。で、私たちは慌てて追いかけたんだけど、止める前に和ちゃんに見つかっちゃったと、そういうわけ」

 完璧!アビーとカチューシャをかばうことで味方に引き入れつつベスにすべての罪を着せる!完璧な言い訳だ。

「なっ…ちがいます!私は確かにデータは取ろうとしましたけど、そんな…取った証拠をネタにあなた方をゆすったり、あわよくばそっちの男とあかり先輩を別れさせようなんてそんなこと考えていませんでした!」

 ああ…そういえばこいつも里穂ちゃんと同じくお姉が好きだとかってアビーが言ってたっけ。高山先輩もそうだけど、一体あのお姉のどこが良いんだか。

「ほらね?わかったでしょ和ちゃん。私悪くないもん!私は―」

「こら」

 和ちゃんはそう言いながら私の額をこつんと小突いた。

「嘘じゃなくても、大げさに言ってるだろ」

「……うん、ごめん」

 すごく真剣な顔で叱られたせいか、私の口からは自分でも驚くほどすんなり謝罪の言葉が出た。。

「あとな、そっちの…ベスだっけ?お前も千鶴だけに罪をなすりつけるようなこと言っちゃダメだろ。千鶴と友達じゃねえの?」

「……友達ですけど…」

 少し不貞腐れたような表情でベスがそう言って、和ちゃんから目をそらした。

「ならそういうことすんな。まあ、友達じゃなくても誰かに罪をなすりつけるなんてことしちゃダメだけどな」

「はい…」

「で?結局尾行した理由はなんだったんだ?」

「よろしいでしょうか」

 アビーがそう言って直立して敬礼する。

「そんなかたっ苦しい態度じゃなくていいよ。言ってみ」

「千鶴もベスも、和希さんや他の皆さんのことを心配しての行動なんです。決して二人が言ったような理由じゃなくて、その……」

 アビーはそう言って、一度深呼吸をしてから正宗さんを見る。

「その方が一緒にいることでなにか起こるんじゃないかと、心配しての行動です!」

 ああっ!アビーが真っ直ぐすぎて心が痛い!

 ごめんよ、アビー。実はベスが言ったようなことも、考えていないではなかったんだよ。

「なるほど、つまり俺が気になったというわけか」

 今の話のどこをどう解釈したらそのドヤ顔が出るのか教えてほしいところではあったが、正宗さんはどうやらアビーの話を良い方にとらえたらしく。得意げな顔でうんうんとうなづいていた。

 ……というか、なんかちょっとうちのお姉と同じ臭いがするぞ、この人。

「じゃあさ、一緒についてくればよくないか?」

「あのなあ、正宗。俺たちは井上の家に行くって言ってるだろ。流石にこんな人数入らねえよ。なあ井上?」

「そうだね。さすがにこの人数は……というか、そもそもこの子達としてはあまり僕らと遊びたいとかそういう感じじゃないんじゃない?」

 そう。今、井上先輩がいいこと言った。別に私たちは和ちゃんたちとグループ交際がしたいわけじゃないのだ。

 あくまでこっそり尾行して面白い情報が得られればいいな。くらいのものだったので、一緒に遊びに行こうという誘いは実は全く的を射ていない。

 まあ、もし和ちゃんが私一人にそんなことを言ってくれるのであれば的どころかハートを射られてしまうのだけど。

「ところで和希、この子達は全員魔法少女なのか?」

「いや、千鶴は違う」

「あ、そうなのか、残念。結構好みなんだけどなあ」

 まあ、私可愛いしね。しょうがないよね。

「お前って、本当に面食いだな……ちなみに千鶴はあかりの妹で朱莉さんの姪だから、下手なこと考えないほうがいいぞ。こいつに手を出したら血祭り決定だ」

 いやいや、和ちゃんは何を言っているんだろう。お姉に手を出すならともかく、私が誰と付きあおうが…それこそ高山先輩だろうが高橋先輩だろうが、和ちゃんだろうが、この正宗って人だろうが、うちの人たちは何も言わないと思うが。

「ま、いいや。千鶴たちが俺達と遊びたいっていうんじゃないなら、さっさと井上の家に行こうぜ。ついて来たきゃついてきてもいいけど、特に面白いことは起きないないと思うぞ。今日は普通に遊ぶだけだから、正宗が魔法を使うってこともないだろうしな」

「……行きません」

 普段の言動から尾行に自信があったんだろうことが伺えるベスは、あっさり見つかったのが相当悔しかったんだろう。そう言って和ちゃんたちに背中を向けた。

「私もいいや」

 そう言ってベスに続いてカチューシャが一歩下がる。

「じゃあ、私――」

 私もと言おうとした時、袖を引っ張られた。

 引っ張られた袖のほうを見ると、アビーがなにかを懇願するような顔で私をじっと見つめている。

「はぁ…」

 私の中のアメリカ人って、もっとこう『オープンで明るくて、細かいことを気にせず、常に周りを引っ張っていくリーダー役。いつでも串にさした肉か、変な箱に入ったご飯を食べてて『HAHAHA』って笑う』そんなイメージだったんだけど、この子は違う。

 違うというか、見ているとがんばってそういうところを目指そうとはしているんだけど、この子の本質はどちらかと言うと内向的で思慮深くてやや臆病。仲間内の調整役といったポジションで、いわゆる日本的な『普通のいい子』だ。もちろんリーダー気質の人間ばっかりだったら社会が成り立たないからアビーみたいな子がいるのは当たり前なんだけど。

 まあ、要するにアビーが無言のアピールで何を言いたいかというと、本当は探りに行きたいんだけど、男子ばっかりのところに一人じゃ寂しい、怖い、そんなところなんだと思う。

 深雪も興味があるのか、行くと言うか行かないと言うかで迷っている雰囲気だ。

「じゃあ私とアビーと深雪は一緒に行ってもいいかな?正宗さんがどうこうというより、私は先輩たちと仲良くしておきたいし、二人も興味あるみたいだし」

「三人か…どうだ?」

「ああ、三人くらいならギリギリ大丈夫だと思うよ」

「あ、でも大丈夫ですか?静佳先輩に浮気を疑われたりしません?」

「大丈夫だよ。他のみんなもいるし」

 井上先輩はそう言ってニコニコ笑うが、むしろ他のみんながいるから見た感じが4対4の合コンみたいになってしまうと思うんだけど…まあ、井上先輩がいいならそれでいいか。


 8人でゾロゾロと歩き出してすぐ、もともと妹属性持ちで人見知りもそんなにしない深雪はあっさりと年上男子の輪に溶け込んでいったが、やっぱりというかなんというか、アビーはちょっと蚊帳の外気味で少し後ろをついてきていた。

「大丈夫?」

 こんなことを言うのは私のキャラではないが、そういうフォローを期待できそうなカチューシャがいないので、一応声をかけてみる。

「うん。それよりごめんね、無理やりつきあわせちゃって」

 ああ、普通だ。この子は普通に良い子だ。

「別にいいよこのくらい。それにしてもアビーって真面目だよね、そもそも今日こうして正宗さんを見つけたのだって偶然なんだし、見なかったことにしちゃえば探ったりしなくてもいいのに」

「それは……任務とかじゃなくて、相手のことをよく知っておきたいなって思ったから。よく知った上で駄目だ、あの人は敵だってなるならともかく、そうじゃないのにあの人たちと戦うとか戦わないとかって判断しなきゃいけなくなったら嫌だなって…もちろん、私は軍属だから、もしも国とか上官が戦うって言ったら戦わなきゃいけないんだけど、それはそれというか…」

「あんた、ちょっと前に『日本人ははっきりしない』とか言ってたけど、あんただってはっきりしないじゃないの」

「そう…かも…」

 私が指摘すると、アビーはそう言ってしゅんとしてしまった。

「うそうそ、アビーははっきりしてると思うよ。要は無駄な戦いはしたくないっていうんでしょ?」

「うん…」

「軍人失格だ」

「う…」

「でも人間としては合格なんじゃない?少なくとも私は何も考えないで機械みたいにバッチリ守ってくれる人よりも、人間らしく戦うことに悩んで、どうしよっうってこっちを見てくれる人と友達になりたいと思うし」

 まあ、私自信があんまりリーダーっぽい人が好きじゃないっていうのもあるのだけど。

「…ただ、ママはあんまりそういうタイプじゃないから、私もそうならなきゃいけないのかもしれないけど」

「ま、親子だの姉妹だのでも、別人格で性格も考え方も違うもんでしょ。そんなことで悩むより、色々な考えに触れて、自分でも色々考えるほうがいいんじゃない?…そう言えば、アビーのママってどこにいるの?」

「一応、日本にいるよ。あんまり会ってないけど」

「そうなんだ。日本人なの?」

「アメリカ人」

 もしかしたらマリカ先輩みたいにハーフなのかなと思って聞いてみたのだが、どうやら違ったようだ。

「……ねえ、千鶴」

「んー?」

「私って面倒くさくない?」

「そういうのを前置きして聞いてくるところは面倒くさいと思う」

「う…」

「わざわざ聞いてこなければ面倒くさくない。で?何?」

「これからもこういう話をしたいなって思って。なんとなくベスとかカチューシャには言いづらいんだ」

「ああ、別にいいよそのくらい。っていうか、友達だし普通じゃないのそれくらい」

 私自身、普通の友達ってやつがいなくなってから少しブランクがあるのでなんとも言えないが、小さい頃いた普通の友達っていうのは思ったことや感じたことをいちいち共有していた気がする。

 それは子どもならではの感受性の高さや未熟さ、経験の浅さのせいだったのかもしれないけど、多分今の私達の歳でもそう変わりはしないんじゃないだろうか。

「ま、私もだけど、ベスもカチューシャも深雪もアビーが弱ってるのを見るのは嫌じゃないと思うし」

「えっと…もうちょっとなんか言い方があるんじゃない?」

「お互い様ってことだよ。私だって困ったり弱ったりするときはあるし…というか、この間の軍団解散はみんなに手伝ってもらったし、その時だってアビーもカチューシャも深雪も、あのベスでさえ嫌だって言わなかったじゃん」

「だってそれは…」

「友達だからでしょ」

「………」

「変な遠慮しないの。遠慮は日本人の専売特許なんだから、変な遠慮してると特許料取るわよ」

「……うん!」


特に事件も起こらずちょっと冗長ですがもうしばらくお付き合いを。



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