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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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夏のバカンス 1

 青い空、白い雲、ゲリラ豪雨にうんざりするほど蒸し暑い空気。

 世界のすべてが夏だった。


 もちろん魔法少女である俺には学生の頃のようなアホみたいに長い休暇はない。

 確か最初に聞いた労働条件では宇宙人の襲来がない日はオフ…という話だったはずなのだが、実際のところは土日は番組のドラマパートの撮影で半日ずつ潰れたり、平日もロケや関連商品の撮影などがあることが多い。


 まあ、だからと言って「条件が違うからやめる!」とは言えないくらい待遇がいいのでやめようとも思わないのだが。



 

 夏休みということで寮に遊びに来ていたみつきちゃんとあかりを見て「よし、海に行こう」と言い出した、絶大な権力を持つ主席長官こと都さんは、一時間ほどで様々な手配を終え、その日のうちに出発した。

 ちなみに、当日いきなり決めていきなり出発ということで、あかりに関しては連れていくのが難しいかと思われたが、みつきちゃんのお姉さん役を買って出た都さんの演技とトークは素晴らしく、結構お堅いうちの両親をしっかり納得させ、あかりの同行を認めさせた。


 そんなあれやこれやがあって、運転席に放り込まれた俺はナビシートに柚那、後部座席にみつきちゃんとチアキさんを乗せて走り出し、馬のエンブレムを持つ俺の愛車よりも公道を暴れる回る馬のような運転をする都さんのアルファロメオを追いかけているうちに海にやってきていた。ちなみに到着した時、都さんの車のナビシートにいた狂華さんはグロッキー。後部座席のあかりは気絶していた。

 そんなこんなで、いわゆる一つの水着回ってやつだ。




 戦技研の魔法少女専用プライベートビーチは、極上の白い砂浜に穏やかな波が寄せるログハウス付の風光明媚な場所だった。

 グラビアの撮影にも使われるということでここからは見えないように工夫がされているが、この砂浜とログハウスを囲むように半径300mほどの距離を取ってそれなりに高い壁と電流の流れている鉄条網でガードされていて、そのため外から一見しただけでは刑務所か自衛隊基地のような外観をしており、まさかここにプライベートビーチがあるとは思えない。


 都さんいわく「セキュリティばっちりで裸で泳いでも安全」ということだが、それでは風情がない。

 というか、俺がいるということであかりが全力で拒否したため、各々部屋で着替えて水着着用で集合ということになった。


「女性の着替えって水着でも長いんすねー」

「一応今はボクも君も女性だけどね」


 元男性ということで同じ部屋に振り分けられた狂華さんと一緒にパラソルやら椅子やらを用意しながらそんな他愛もない話をする。

 狂華さんは都さんの復活以来、どんどん女の子化が進んでいる。元々は私だった一人称は僕に変わり、だんだん発音がボクに変化していたり、初対面の時に感じていたツンケントゲトゲした感じはかなりなりをひそめている。


 それと意外だったのは和食ではチアキさんには及ばないものの、本気を出した狂華さんは結構料理上手で、洋食ならチアキさん以上、とりわけ好物の鮭を使った料理は絶品揃いだ。


「バーベキューコンロはこの辺でいいかな?」

「いいんじゃないですか」

「じゃあボクはバーベキューの材料を用意してくるね」


 そう言って狂華さんは青いワンピースタイプの水着に付いたフリルを揺らしながらトテトテとかわいらしいオノマトペが付きそうな走り方でログハウスの中に入っていった。

 もはや今ここにいる誰よりも女の子、というか幼女だ。


「しかし狂華さんって良く働くよなあ」


 相変わらず隊長業務はしっかりこなしているし、都さんが戻ってきてからは長官の仕事も手伝っている。

 何度か都さんの執務室に行ったが、毎回都さんは椅子で大口開けて寝てて狂華さんが横の机で仕事していて、仕事しろよ都さんとツッコまざるをえないって感じだ。

 一応ちゃんと抗議したほうがいいことは狂華さんに伝えたが狂華さんは「みやちゃんは仕事で疲れてるから」と疲れた顔で笑っていた。


「実はああいう健気な子好きなんだよなあ。ね」


 俺が振り返ると、狂華さんと入れ替わりでやってきたチアキさんがニヤニヤしながら荷物をレジャーシートの上に置いた。


「柚那に聞かれたら大変ね」

「……柚那が好みじゃないっては言ってないですし大丈夫です。それに狂華さんとチアキさんには相手にされてないから柚那的にセーフなんですよ」

「あらそう?」


 そう言ってパーカーを脱いだチアキさんの水着は黒のビキニ。極小というほどきわどいわけではないが胸元が大きく開いたブラについているフリルがアクセントになっていてこれはこれで非常にエロい。


「あらありがとう」

「心読むのやめてくださいって」

「読まれて困るようなこと考えなきゃ良いでしょう。ああそうだ、反応が面白そうだから朱莉に日焼け止め塗ってもらおうかしら」

「いや、ナノマシンの割合が少ない都さんやあかりはともかく、俺達は日焼けなんかすぐに治せるじゃないですか」

「それはそれ、これはこれよ。なにより風情がないじゃない」

「まあ、確かに日焼け止めとかサンオイルを塗るのって重要なイベントですけど」

「じゃあ塗って」


 そう言って俺に日焼け止めを渡したチアキさんはレジャーシートにうつぶせになると、背中に手をまわして水着のブラを外した。


「マジっすか……」


 チアキさんの背中に日焼け止めを塗るのが嫌なわけではない。むしろ大歓迎だ。だが、エロいことを考えしまえばそれはたちまち彼女に伝わってしまう。

 わかるだろうか、チアキさんの背中を見ている時、チアキさんの背中もまた俺を見ているようなこの状況。

 もういっそダダ漏れになる覚悟でチアキさんの背中を堪能するという手もなくはないが、万が一だらしない顔をしながらオイルを塗っているところを柚那に見られたらまた鼻の下を抓られてしまう。

 柚那だけならまだいい。あかりに冷めた目で見られ、みつきちゃんに苦笑いされたりしたらと考えるとそら恐ろしい。


「早くしないと柚那たち来ちゃうわよ」

「ぐぬぅ……」


 タイミングが微妙すぎる。俺は一体どうするべきなのか


「どうするべきかと言えば平常心で日焼け止めを塗るべきだけど、それが無理ならさっさと済ますことね。多少変な事考えてもこっちはそれを楽しむから別にいいわ」

「じゃ、じゃあ塗りますよ」


 俺は一応そう断ってから手のひらに日焼け止めクリームを出してチアキさんの背中に塗り込む。

 柚那よりも肉付きのいいチアキさんの背中は柚那の背中よりもやや柔らかい。もちろんそれは嫌な柔らかさではなく、おそらく多くの男性諸氏が好む柔らかさだ。

 肉付きがいいのところでピクっと反応したチアキさんだったが、どうやら嫌な柔らかさではない、男性が好きな柔らかさというあたりで納得してくれたのか、上げかけた顔を両腕の間に戻してくれた。

 なるほど、そういうルールか。


「チアキさんの肌って、すべすべのモチモチですよね。柚那もすべすべですけど、チアキさんのは大人の女性らしい柔らかさがあるっていうか」

「お世辞言っても何も出ないわよ」

「いやいや、本当に。とっても魅力的だと思いますよ」

「……」

「柚那とはまた違った魅力と言いますか、大人の女性の魅力と言いますか」


 この辺りは読まれても問題ないホンネ。実際の俺の本音は別のところにある。そのホンネを隠すために俺は会話を途切れさせないように続ける。


「何が目的よ」

「飲ん兵衛の都さんがいるし、あかりとみつきちゃんが寝た後はどうせ呑み会になるじゃないですか。多分チアキさんがつまみ作ってくれるんだろうし、少しでもご機嫌取っておこうかと思いまして」


 弱点とまではいえないかもしれないが、チアキさんは声を発している相手の心は読めないと言っていた。なんでも声を出すために考えるせいで心の中の本音と頭で考えていることがごっちゃになってノイズが乗るのだとか。


「はぁ……何が食べたいの?」

「そうですね……冷蔵庫の中に色々ありましたけど、すごくおいしそうな牛肉の塊があったんで、ローストビーフとか食べたいです」

「そういうのは狂華のほうが得意でしょう」


 チアキさんの言う通り、彼女はどちらかと言えば和食特化。洋食や中華も作れないわけではないが、和食と比べてしまうとちょっと落ちる。対して狂華さんは洋食特化+鮭の調理に特化している。

 

「あの人、なんであんなに鮭好きなんですかね」

「高校生の頃付き合いたての都が最初に作ってくれたお弁当のメインが鮭だったんだって。で、その時の鮭の味が忘れられずに至高の鮭を求めてるらしいわよ」

「高校の頃にそんな高い鮭を弁当に入れるって…都さんちってお金持ちなんですか?」

「そういうんじゃないわよ。都に聞いたら『あれはスーパーで買ってきた100円の鮭を適当に焼いただけ。面白いから狂華には内緒』って言ってたから思い出補正と初恋補正で本当の味がわからなくなってるんでしょう」

「狂華さん…」


 なんて不憫な人なんだろうか。


「あの子ってなんだかんだ言って純粋なのよね」

「というか、都さんが悪魔すぎるんですよ。時々狂華さんの下着とか隠してるし」

「悪魔って言うか、好きな子をいじめるガキ大将じゃない?」

「ああ、確かにそれは言えているかもしれませんね」


 俺はそう言いながら手を背中から肩甲骨のほうへ滑らせる。

 こうして喋っている本当の目的は本音を隠すことではない、この状況であれば男子は皆狙うだろうラッキースケベだ。

 ターゲットはチアキさんの体とレジャーシートに潰されて横にはみ出している横チチ。バランスを崩したふりをして、そこにタッチすること。それが俺の真の狙いだ。

 狙ってやったらラッキースケベじゃない?何をバカなことを。幸運とは自分の力で手繰り寄せるものだ。


「いやあ、何かこれって白くてぬるぬるしててなんか…おっと、手が―」

「滑ったって?」


 チアキさんは俺の言葉を遮って起き上がると、あろうことか俺の手を引いて自分の胸に押し付けた。


「キャー!朱莉、何するの!」

「ちょ……」

「私の能力の話、あれ嘘よ。本当は30m半径はばっちり聞こえるの。もちろん感度も自由自在だし、相手がしゃべってたってノイズが乗ることなんてないの。そして今、さっきその射程に柚那たちが入ったわ」

「は、謀った――」

「…朱莉さん」


 チアキさんに耳打ちされ、俺は慌てて体を起こそうとするが俺が体勢を整える前に、背後から柚那の冷め切った声が聞こえる。


「ち、違う。柚那、信じてくれ」

「……大丈夫ですよ。その痴女がすべての元凶ってことですよね。いいです、解ってますから」


 柚那は座った目で笑いながら拳を握って構える


「チアキさんはいつもいつもいつもいつも!どうして私と朱莉さんの邪魔をするんですか!」

「からかいがいがあるんだもん」

「からかいがい?そんなことのために人の恋愛にちょっかいかけてるってんですか!?」

「そうよ。ていうか、すぐにキレる柚那と恋人同士なんて朱莉がかわいそうでしょう?だから朱莉の目を覚まさせてあげようと思って」

「私を舐めてるんですか?」

「舐めてんのはあんたのほうでしょう。恐怖で縛ってそれで朱莉と恋人同士?ずいぶんといびつな恋愛だこと」


 チアキさんが謀ったのは、こっちのほうか。つまり柚那を挑発するために俺を利用したっていう訳だ。

 でもいったい何のために?俺がその疑問にぶつかった時、チアキさんはちらっと俺のほうを見てニッと笑った。


(任せろってことか……)


「まあ、チアキさんにはチアキさんの考えがあるんでしょうよ。ほっといて私たちは好きに遊んでればいいのよ」


 そう言って都さんは俺の肩を抱いて歩き出す。


「え、でももし怪我したりしたら……」

「チアキさんがそんなヘマするわけないじゃん」


 そう言ってみつきちゃんはビーチボールを膨らませ始める。俺と同じように心配そうにしていたあかりも二人があまりに普通なので今の状況が普通だと思ったのか、レジャーシートの上に転がっていた日焼け止めクリームを拾って塗り始めた。


「まあ、いざとなったら狂華に止めさせるから大丈夫よ。さ、楽しみましょ」


 そう言って都さんは俺の肩に置いてあった手を下に滑らせて尻を揉んできた。




 柚那vsチアキさんという番組ファンなら見てみたいと思うだろう魔法少女同士の対決は、開始30秒ほどは柚那が一方的に押しているように見えたが、その実チアキさんは攻められていたわけではなく、柚那の攻撃をいなし続けていただけで、いくら攻撃してもまともにダメージが通らずイラついた柚那の一瞬のスキをついて砂浜に首だけ出した状態で埋めてしまった。

 しかも仰向けに埋めるのではなく、深く縦に埋まっているため、柚那は自力で脱出するのは絶望的だと言えるだろう。


 正直、万能型のチアキさんに対して回復、補助タイプの柚那ではあまりに分が悪いとは思っていたが、ここまで実力差があるとは思ってもみなかった。


「頭が冷えるまで、そこでそうしていなさい」


 自分で挑発しておいてその言いぐさはないだろうと思わないでもないが、勝者であるチアキさんの言葉は絶対だ。

 狂華さんにしても都さんにしても、チアキさんが柚那を無傷で無力化したため、特に文句はないとのことで頼りにできず、むしろ「じゃあチアキさんに直談判すれば?勝てば出してくれると思うよ」などと言ってくる始末。

 柚那に対する愛情は確かにあるのだが、情けない話、俺にはチアキさんにたてつくような度胸はなかった。


「ごめんな柚那、俺にできるのはこうしてお前に焼けた肉を運んできてやることだけだ」


 紙皿に乗せたバーベキューの肉を箸でつまみ、柚那の口元にはこんでやると柚那はそれにパクっと食いつく。


「むぐむぐ…大丈夫です、朱莉さんにそういうのは期待していないですから」

「それはそれで寂しいんだけどな」

「朱莉さん、あーん」


 そう言って柚那が口を開けて次を催促するのでもう一枚肉を放り込んでやる。


「なあ、柚那」

「んぐ…なんですか?」

「なんで最近やたらとチアキさんにつっかかってるんだ?」

「……あの人が私たちのことを子供のお遊びだってバカにするからですよ」


 俺としては柚那との関係は遊びのつもりなんてないが、恋愛経験が全くない俺と柚那の関係はもしかしたら歪でチアキさんから見たら子供のお遊びに見えるのかもしれない。


「別に他人がなんて言おうが、俺とお前の問題だろ。チアキさんの言うことなんて気にしなきゃいいんだよ」

「だって朱莉さんって、チアキさんとかアーニャさんとか、精華さんとかこまちちゃんとかに迫られているじゃないですか」

「……ご、ご存知でしたか」


 チアキさんからのアプローチは特にないので柚那の勘違いだと思うが、ほかの三人については多少心当たりがあった。

 ただ、アーニャには最初にけしかしけた柚那の自業自得だ。それにアーニャが本気になりかけているのに気付いた後は、俺の方から少し避けるようになったからやましいことはない。

 精華さんについては恋愛云々とかではなく、この間のことで逆恨みされて命を狙われているような面が強いのだが、彼女は意外とドジっ子なところがあるので、ラッキースケベに見舞われやすい。なので、やましいことがなくはないが、やましい気持ちはまったくない。

 あと、こまちちゃんについては俺はああいう特殊な趣味はちょっと苦手だ。まあぶっちゃけて言ってしまえば、柚那とつきあっているということからもわかる通り、俺はどちらかと言えばMなのだ。要するに彼女とM談義に花を咲かせることはあっても、付き合うとか関係を持つとかそう言うことはまずない。


「ご存知でしたよ!わかってます?私、すごい不安なんですよ」

「いや、でもあの四人と俺が何かするなんてことはないって。それは向こうだって同じだと思うし」

「別にいいんですよ、アーニャさんは多分面白半分だし、精華さんだってどっちかって言えばこの間の仕返しをしようとしている感じだったり、こまちちゃんはただの被虐趣味ですから、その三人のことは別に良いんです。問題はチアキさん」

「は?一番ないだろ。そもそも、この間柚那が自分でチアキさんはセーフって言っていたんじゃないか」

「状況は刻一刻と変わっているんです!」

「お、おう」


 だったら、前もって俺に言っておいてくれたらよかったんじゃないのだろうかと思うが、それを言うとまた怒られそうなので黙っておく。


「あの人、この間『柚那みたいなお子様じゃ朱莉は満足させられないわ。代わりに私が彼を満足させてあげる』とか言ってたんですから」

「……声真似すげえ似てるな」


 柚那の意外な特技を発見した。


「そんなのどうでもいいんです!とにかく私にとってあの人はライバルなんです!」

「そういうのはライバルになれるだけの実力と色気を兼ね備えてから言いなさい」


 焼きそばの乗った皿をもって現れたチアキさんがそう言って柚那の横に座り込む。


「何しに来たんですか!私を笑いに来たんですか!?」

「ああ、もう向こうで散々笑ったからいまさらここで笑ったりはしないわよ。ほら、仲直りの焼きそば持ってきたから食べさせてあげるわ。隠し味のこーれーぐーすが効いてて美味しいのよ」

「何がこーれーぐーすですか!チアキさんの高齢ブス!」


 うまい!うまいがそれはまずいぞ柚那。

 柚那の言葉を聞いたチアキさんの表情は笑ったままだが、その笑顔の迫力というか圧迫感が半端ではない。

 チアキさんは持っていた皿を柚那の目の前において、一度鉄板のところまで戻ると透明な瓶を持って戻ってきた。件のこーれーぐーすだ。そしてチアキさんはそのこーれーぐーすをおもむろに焼きそばにどかどかふりかけ始めた。


「うっ…お酒臭…あっ!あーーーっ!?目、目が痛いです!目、目がー!朱莉さん助けて!」


 焼きそばの熱で気化したこーれーぐーすが湯気と一緒に柚那の目に入ったのだろう。柚那が必死に顔を左右に振って助けを求める。


「はいはい」


 俺は柚那の顔の前から焼きそばの皿をどけてやり、チアキさんの手からこーれーぐーすの瓶を取り上げた。


「チアキさん、あなたがどう思っても、俺も柚那も真剣なんです。ちょっかいかけるのやめてもらえませんか」

「何本気になってんのよ。別にいいじゃない、減るもんじゃなし」

「減るんですよ。主に柚那のSAN値が」

「もともと0か、限りなくそれに近い感じじゃない?」

「………」

 

 反論できないのがちょっとつらい


「とにかく、チアキさんがちょっかいかけなきゃ素直でいい子なんですから。それになによりかわいい」


 そう言って俺が柚那の頭をなでてやると、柚那は少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「かわいいだなんてそんな……照れちゃいます」

「はいはい、ごちそうさま」


 チアキさんはそう言ってひらひらと手を振ると、一人で海へ入っていき、沖のほうへ泳いで行った。

 一人で泳いでいったのが少し心配ではあるが、あの人に限ってというか、魔法少女に限って海くらいでは死にはしないと思うので、心配ないだろう。


「チアキさんもいなくなったし、そろそろ出るか?」

「でも私を勝手に出したりすると朱莉さんがチアキさんに怒られるんじゃないですか?」

「頭冷えるまでってことだったんだしもういい加減大丈夫だろ。それにここに埋まったままだとあっという間に水の中だ」

 入り江はもう潮が満ち始まっていて、柚那のすぐそばというわけではないがさっきよりは大分波うち際が近づいてきている。

「さっさと出てみんなのところに行こうぜ。肉だって焼きそばだって焼きたて、つくりたてのほうがうまいからな。

「はいっ」

 

 掘り起こした柚那が海で砂を落としてくるというので、自分の持ってきた皿とチアキさんが持ってきて放置した焼きそばを手に持って海を見ていると、後ろからチアキさんが現れた。

「なんだ、もう掘り起こしちゃったんだ」

「あのままだと柚那が溺れちゃいますからね」

「なるほど」

「なるほどじゃないですよ……あと、柚那を変に煽るのやめてくださいね。よくも悪くも素直だからすぐ本気にするんで」

「そんな大げさな」

「だからってわざと俺に胸を触らせたり、俺を狙ってるとか言って挑発する必要はないでしょう」

「え?え?」

「柚那にそう言ったんでしょう?チアキさんが本気じゃなくても柚那は本気にするんですからやめてくださいよ」

「そんなこと言っ…た、はい、言いました!」


 なんかチアキさんの様子が変な気がするんだけどどうしたんだろうか。

 海で怖い目にあってSAN値が0になったのかな。


「あ、その焼きそばいただきー……ブェッフェっ!?」

 俺の心配をよそにチアキさんはさっき自分が置いていったこれーぐーすたっぷりの焼きそばを俺の手から奪いとると、まるで普通の焼きそばのように食べてそのあまりの辛さにむせこんだ。



 ドジっ子かよこの人。


 



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