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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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男子+女子 中学生の日常 1

『――と、言うわけで、今回の大会で俺が負けた相手に修行の相手をお願いしようと思っててさ』

 俺は朱莉さんの話を聞いて思わずため息をついてしまった。

 昨日の試合の後、朱莉さんがあまりに不甲斐ないということでチームで揉め、それを挽回するための修行相手として俺に電話してきたらしが、正直言ってチームの揉め事も朱莉さんの挽回も俺には関係ない。

 というか、自分の周りのことで手一杯なので朱莉さんのおもりをしている場合じゃなかったりする。

「俺は嫌ですよ。そもそも、本調子じゃない時の先輩だから勝てたんであって、普通にやったって勝てるわけないじゃないですか。それだったら、それこそ俺なんかより師匠とかこまちさんとかのほうがよっぽどいい修行相手になると思いますよ。…ああ、あとはほら、今回の大会で負けた相手っていうんだったら、九条さんにお願いして魔法をかけてもらいながら修行したら良いんじゃないですか?確か重力かけて修行すると強くなれるんでしょ?」

『そりゃマンガの話だろ…っていうか俺、今初めて九条ちゃんの魔法知ったわ。そうか、重力操作なのか』

「一番得意なのはって言ってましたけどね。とにかく学生は忙しいんで、俺は無理です」

『あ、ちょっとまって和希』

「なんすか?」

『……あかりとかみつきちゃんとか真白ちゃんとか、まだ怒ってる?』

 この人のこういう変に気の小さいところが揉め事の元になったり、あかりからヘタレ呼ばわりされる原因だと思うんだけど本人は気づいていないんだよな。

「そもそも真白は最初から怒ってないです。で、真白が気にしてないんで俺も気にしてません。みつきとあかりも、もう怒ってないと思いますよ」

 怒ってないというか、多分二人ともここ数日朱莉先輩のことはすっかり忘れていたと思う。

『そっか…よかった…』

「ほんとに女子中学生好きですよね、朱莉先輩って」

『誤解を招く言い方しないでくれ。俺は特定の女子中学生に対して過保護なだけだ。誰かれ構わずってわけじゃない』

 いや、それでもそんな大威張りで言うことでもないだろうけど、確かに特定以外の女子中学生については思い当たるフシがないでもない。

「そういや前に来宮が苦手だって言ってましたもんね」

『そう、なんか苦手なんだよな、あの子』

「俺も色々絡まれたりしてたんで、気持ちはわかりますけどね。っと、じゃあ予定があるんでそろそろきりますね」

『なんだ?真白ちゃんとデートか?』

「違います。今日は男子会です」

『……今度は誰に何を押し付けるんだ?』

「そういうんじゃないっすよ。フォロワーの男子三人と俺とで親睦を深めようって会です」

『ああ、なるほど。そういや同性の友達がほしいって言ってたもんな。…よかったな、和希』

 なんでこの人はこういうことだけはちゃんと覚えてて、ちゃんとよかったなとか言うんだろうな。そういう事言われるとちょっと嬉しくなっちゃうじゃないか。

『どうした?』

「なんでもないっすよ。じゃあ、また」

『ああ。みんなが怒ってないなら近々おみやげ持って顔出すよ』

 朱莉先輩はそう言って電話を切った。

「待たせたな、高山」

 目の前で待たせていた高山にそう言いながら、俺は自分のスマートフォンをポケットにしまった。

「いえいえ。もういいいんですか?」

「ああ、もう大丈夫だ」

 最初は二人で遊びに行こうかという話だったのだけど『それだとまるっきりデートにしか見えない!』とあかりが真っ赤な顔とすごい剣幕で反対し、それを聞いた高山が顔を青くして『じゃあ、高橋と井上先輩も誘って四人でゲームでもしましょうか』と言い出した。

 俺としては高山だけでなくこれがきっかけで井上や高橋と仲良くできるのならそれはそれで願ったり叶ったりなので文句はない。

 …ほんと、筋肉とスイーツの話以外の共通の話題が見つかって仲良くできるといいんだけど。

「これから行く井上先輩の家って、確かケーキ屋さんですよね」

「ああ、だから持ってくのはポテチとかの方がいいと思う」

 井上の彼女である静佳によれば、『井上家はやたらと甘いものが出てくる。それはもう容赦なく』らしいので、甘いものは必要ないだろう。

「しょっぱいお菓子を持ってくから、甘いしょっぱいループでいっぱい食べれるし、今日はうっかりパンチラしないようにズボン履いてきたし思いきり楽しめそうだぜ」

「え!?あ、その格好ってそういうことだったんですか……」

「いや、それ以外ないだろ?」

ちょっと短いけどちゃんとズボンだし、短いズボンで悩殺しちゃわないように長めのニーソもはいている。

まあ、欠点を言うとすれば、上のシャツが夏物で袖がなく、ちょっと頼りない感じだということだけど完璧だと思う。

 完璧なボーイッシュスタイルだ。

 なにせ、わざわざボーイッシュな感じの服装と伝えて、店員さんに上から下まで揃えてもらったんだからこれ以上のボーイッシュはないだろう。

「う…うーん…ズボンでもあんまり油断しない方が良いですよ。僕らはともかく、街中とかでは」

「あはは、気にしすぎだって。大丈夫だよ、大丈夫」




「なんでアイツはあんな龍くんを悩殺する気満々な格好してるわけ?なに?死にたいの?っていうか私が殺してやろうか」

 確かに和希の格好はちょっと露出が高い。というか、露出している部分がわりとセクシーな部分なので、あかりの気持ちはわからなくもないのだけど、そこまで言うほどのことか?と思ってしまう。

「ま、まあまあ、落ち着きなよあかり。和希にそんなつもりがあるわけないじゃん」

 私はそう言って今にも飛び出していきそうな勢いのあかりの肩をつかまえてなだめようとしたが、あかりの勢いと鼻息はまったく収まらない。

「じゃあ、二人の合流を確認したところで先回りしようか。和幸達と合流して家に帰る前に和幸の隣の部屋に隠れなきゃいけないし」

「いやいや、それも大事だけど、その前に静佳もあかりおさえるの手伝ってよ」

 本日の男子観察隊最後のメンバーである静佳はすごくマイペースで、今日検査でどうしても来られなかった真白に『和希をよろしく』って言われてなきゃ帰りたいくらいだ。

 ちなみに、静佳が手を回してくれたおかげで私たちは井上くんの部屋の隣の部屋でケーキを食べながら和希達の様子を伺うことができるらしい。

「あ、そういえばタマは?」

「今日は里穂と一緒にクラスメイトと出掛けるっていってたよ…じゃなくて、手伝ってよ静佳!」

「そっか、いないのか。ちょっと寂しいな」

 精華のところで同じチームになってから仲よくしているタマがいないのが寂しいらしく、静佳はそう言って一つため息をつくと、歩き出した。…って、だから『歩き出した』じゃなくて手伝え!



「本当に嬉しいわぁ、こんなにかわいい女の子が沢山来てくれるなんてぇ。和幸って見た目がものすごくもっさいじゃない?だからこのまま死ぬまで母一人子一人で孫の顔や彼女の顔どころか、女友達の顔も見れないんじゃないかって思ってたんだけど。なのに、こんなにかわいい女の子が三人も我が家に!」

 井上くんのお母さんは私達がお店に入るなり奥の自宅兼作業場に通してお茶とたくさんのケーキ…というかショーケースから全種類のケーキを持ってきて出してくれた後、ほぼ一人でしゃべり続けていた。

 ちなみにナビゲーター的なポジションのはずの静佳はずっとケーキを食べている。

「静佳。できればその…」

「あ、ごめん。お義母さん。こっちがみつきでこっちがあかり」

 私が促すと静佳はそれだけ言ってまたケーキに戻った。

「お、お義母さん!?静佳ちゃんもう完全に井上くんの嫁じゃん…」

 あかりの言うように、実は私もちょっと驚いている。

 そんな私達の気持ちを知ってか知らずか、静佳はちょっと誇らしげだ。

「嫁だなんてそんな他人行儀な。静佳ちゃんはうちの娘よ」

「おかあふぁん…」

 いや、静佳が口の中いっぱいにケーキを頬ばっているせいで姑と嫁とか母と娘というよりは飼い主と飼猫って感じに見えるんだけど。

「二人も静佳ちゃんと和幸のクラスメイトならうちの娘も同然だから、ゆっくりしていってね!」

「ありがとうございます。それと、今日は無理なお願いをしてしまってすみません」

 紹介を受けてようやく口を開くきっかけを得たあかりが、さっきの怒りと鼻息はなんだったんだというくらいに穏やかな表情と口調でそう言って頭を下げた。

「いいのよぉ。私もね、学生時代は好きな男の子の事を知りたくて、彼の友達からいろいろ話を聞いたり、バレンタインのチョコをこっそり鞄の中にいれたりしたもの……自分の以外、下駄箱のも机のも捨てたけど」

 あれ?なんか最後にものすごく怖いことが聞こえたような…

「あ、わかります!そういうのって、やっぱり自分だけを見てほしいですもんね」

 あかりがそう言って「うんうん」と頷く。って、わかるのっ!?

「あかりちゃんは年下の彼とつきあっているんだっけ?同じクラスじゃないと目が届かないから不安よねー」

「そうなんですよぉ。彼と同じクラスで見張っててくれるような後輩もいないし」

 怖い、井上くんのお母さんもあかりも、なんか凄く怖いよ。

「龍君モテるから、浮気しないか心配で」

 モテてないよ!高山くんはあかりが言うほどモテてないから大丈夫だよ!

「そうそう。男ってすぐに浮気するからね」

「そうなんですよ!みんなすぐ浮気するから」

 いや、あかりは言うほど周りに男の人いないし。

「だから、いっそ、早く…その、関係持っちゃおうかなとかって」

 あかりはそんなことをいうが、顔が真っ赤でとても本気でそんなことができるようには見えない。…まあ『自分は男をわかってます』みたいなことを言っちゃった勢いで思わず出ちゃっただけだろうけど。

「あかりちゃん、ダメよ」

 うんうん。勢いでもそういうことを言っちゃだめだよね。さすが井上くんのお母さん。

「それは、最後の切り札なんだからね。使うタイミングはしっかり見極めないと」

 って、止めないの!?

「そういえば、みつきちゃんは好きな子とかいないの?」

「ああ、そういや最近聞いてなかったなあ。どうなのみつき」

「え?あはは…まあ、とりあえず男子よりお父さん探しが優先かな」

「和希のことはもういいの?」

 う…嫌なところを突いてくるなあ、静佳は。

「全然気にならないって言ったら嘘だけど、あれだけ『真白好き好き』ってオーラ出されちゃ、もう諦めるしかないしね。男の子と知り合う機会もあんまりないし、だったらお父さん探して、今までの養育費ぶんどってやろうかなって」

 別にお金に困っているわけではないけど、ちょっとわがままを言って困らせてやりたいという気持ちはないでもない。

「ええと、みつきちゃんのお父さんはどういう…あ、もし話しにくいことならあれなんだけど」

「いえ、特に話しにくいっていうわけではないんですけど。私、三歳の頃にお母さんが亡くなっちゃって、それでその時お父さんは生きていたはずなんですけど、私を遠縁の親戚に養子に出して蒸発しちゃったらしいんです。だから見つけ出して一発殴ってやろうと思っていて」

「そうだったの…」

 井上くんのお母さんはそういって、すこし申し訳無さそうな顔をした。

「あ、私は別に気にしてないんで大丈夫です。寂しいとかじゃなくて、バカオヤジを殴りたいっていうだけですから。それより、静佳って普段家だと井上くんとどうなんですか?」

 同情されるのは慣れているけど、慣れているだけで好きじゃない。

 それと『お父さんに対してそんなこと言っちゃだめよ』とかそういうキレイ事も好きじゃないので、早く話題を変えたかったのだが、井上くんのお母さんは真剣な顔で口を開いた。

「みつきちゃん」

 ああ…お説教パターンか。井上くんのお母さんはちょっと都さんに雰囲気が似ていて嫌いじゃないから、そういうのをされて嫌いになりたくないんだけどなあ…。

「私も呼んでね」

「え?」

「だから、そのバカオヤジを殴る時よ。こんな可愛い子を放っておいて何やってるんだ!って私が一緒に怒ってあげるから」

 そう言って井上くんのお母さんは拳を突き上げる。

「こんな可愛い子の成長を見守らないなんて本当になにを考えているんだか」

「あは…あはははっ」

 思わず笑ってしまった。

 まさかそんなことを言い出す人がお兄ちゃんや紫さんの他にいるなんて思わなかったから。都さんですらそんなこと言わなかったというのに、なんて悪い大人なんだろう。

 でも、私はたったそれだけのことで佳恵さんのことが『嫌いじゃない』から『大好き』になってしまった。


と、いうことでちょっと珍しい 和希、みつき視点です。

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