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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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やる気スイッチ

 これ以上負けるわけにはいかない。なにせここまで三敗、今日負けると四敗になってしまって、この大会全敗もありえる状況になってしまうのでここはなんとしても勝っておきたい。

 そう、たとえ今俺の前に立ちはだかっている相手が楓さんだったとしてもだ。

「悪いけど、今日は勝たせてもらいますよ」

 勝てると思っているのかと言われればノーだ。だが俺にだってリーダーの矜持がある。

「おもしれえ、やっと本気の朱莉と勝負できるってわけだ」

 正直、本気の俺なんて言ってもたいして面白いものではないのだけど。

 試合開始直後、まっすぐに突っ込んできた楓さんの打突を横に跳んでかわした俺はすぐに身体を反転させて楓さんの斜め後ろから殴りかかるが敵もさるもの。楓さんはすぐに体勢を整えて俺の攻撃に対処する。

 数度の攻防の後、俺と楓さんはお互い一歩ずつ後ろに跳んで距離を取る。

「こんなもんじゃないだろ?」

「いや、こんなもんですよ」

「おいおい、もっと楽しませてくれよ。こんなんじゃ和希より歯ごたえがないぞ」

「実際俺は和希に負けてるでしょうが。っていうか、そういうのはひなたさんとか狂華さんとやっててくださいよ。俺とか精華さんとかチアキさんみたいな素人にガチの近接戦闘を求められても困るんですよ」

「お前、今さっき今日は勝つとか言ってなかったか?これで本気ならあたしには勝てねえぞ」

「いや、近接戦闘だけが戦い方じゃないですからね」

 俺は更に後ろに跳んで距離を取ってから箒を構える。

「お、必殺技か。いいねえ…」

 楓さんはそう言って刀をクロスさせて笑う。

「さあ、お前の全力を見せてみろ!」

「いっくぞぉっ!」




「…いや、もういいですから。頑張ったっていうのは伝わりましたからもういいです。結果がわかっているのに聞くの、すごく辛いです」

「…なんかすまん」

 柚那に止められて、俺は楓さんとの勝負について語るのを辞めた。

 案の定というかなんというか、楓さんと当たった俺は精一杯頑張ったもののやっぱり負けてしまった

 まあパターン的に当たるような気がしていたし、試合前も必死で当たらない当たらない、絶対に当たらないぞとか考えてフラグを立ててしまっていたので、これは仕方ないといえば仕方ない。

 とは言え、負けたのはやっぱり悔しいし、みんなにも申し訳がないという気持ちはある。

 そう、たとえ俺が勝っていたとしても、チームの負けが揺るがなかったとしてもだ。


 楓チームVS朱莉チームの結果はまさかの5-0で完敗。俺は完全に楓さんにパワー負けしていたし、愛純は涼花ちゃんの出した柿崎くんに動揺して勝てずに敗北。朝陽は松葉に翻弄されて魔力切れ、深谷さんは引き分け覚悟でカウンターを狙っていたイズモちゃん相手に突っ込んでアイドルの方じゃないTKO。恋と柚那はうまく喜乃ちゃんをパックンしたものの、内部から花を切り裂かれて再び花を作り出す前に喜乃ちゃんと鈴奈ちゃんに力で押し切られた。

 で、全敗。

 今回ばかりは誰が誰を責めることもできない。完膚なきまでの負け。

 残り一戦を残して単独最下位。次に勝てば一応勝点は5になるため単独最下位はないが、逆に言えば敗北か引き分けなら単独もしくは同率最下位ということだ。

 そんな事情もあってみんなの表情は暗いし、控室の空気も重いが、正直に言ってしまえば、ちょっとだけ俺だけ責められる結果にならなくてよかったとおもっている自分がいる。

「負けてしまったものは仕方ないし、それぞれの反省点をあげて分析しましょうか」

 みんなが押し黙る中、そう提案したのは恋だった。

「そうですわね、次もありますし復習と分析は大事だと思いますわ」

 朝陽はそう言って立ち上がると、魔法でホワイトボードを呼び出す。

「まずそれぞれの結果についてですけど…それぞれ負けたのは何が原因だと思います?」

 恋の質問を受けてまず柚那が手を上げた。

「慢心かな…私と恋なら喜乃ちゃんと鈴奈ちゃんには絶対勝てるって思ってたし。そういう考えで挑まないで次の手を用意しておけば勝てたかもしれないなって思う。ね、恋」

「そうね。確かに私たちには慢心があったと思うわ」

 柚那と恋の発言を受けて朝陽はそれを要約してさらさらとホワイトボードに書き込んでいく。

「私の場合は相性が悪かったっていうのはあるかな。持ち味を活かそうとして綺麗にカウンターをもらっちゃったからね。カウンター狙いで返すとまでは言わないまでももう少し慎重に中距離で戦うようにしてたら勝てたかもしれない」

 深谷さんはそう言ってから「言い訳になっちゃうけどね」と付け加えたが、確かに深谷さんの場合は相性が悪かったというのはある。重そうな武器の見た目の割に手数で押し込むタイプの深谷さんは一撃一撃の隙は少なめではあるものの、攻撃自体は軽いし、いくら隙が少なくてもカウンターパンチャーに数を見せればそりゃあそのうちカウンターを食らうだろうという話だ。

「あ、じゃあ次は私が…はっきり言って集中しきれてなかったと思います。相手の魔法もわかってたし、アレが柿崎さんじゃないってことはわかってたんですけど…」

 そういえば柿崎君のところどうするんだろ。まさかモザイクかけるっていうわけにもいかないし、結果を変えないようにそれっぽいストーリーで撮影するのかな…

「太ってから柿崎さんと会ってなかったんで…なんというか…」

 ああ…

「なるほど、欲求不満か」

 あ、やべ。口が滑った…。

「朱莉さん…」

「朱莉…」

「朱莉ちゃん…」

 うっかり口にしてしまった俺のセリフはしっかり聞かれてしまったようで、柚那と恋。それに深谷さんに睨まれる。

「まあまあ、三人とも。愛純自身も言っていることですし、朱莉さんが口にだしたのはどうかと思いますけど、とりあえずは考察を続けましょう」

 おお、朝陽がまさかの助け舟を出してくれた。

「私の敗因は松葉さんと張り合いすぎたというところでしょうか。スピード勝負に乗ってしまい、その後ガス欠。我ながらもう少し頭をつかうべきだったと思いますわ。次回、誰と当たることになるかはわかりませんが相手のペースにならないよう気をつけたいと思います」

 松葉は走ったり飛び回ったりする割には燃費がかなりいい。まともに松葉の土俵で正面から同じことをしていたのでは誰が相手をしても、それこそひなたさんや狂華さんだって先にガス欠になるだろう。

 なので、朝陽の敗因は自分で言っているように馬鹿正直に正面から張り合いすぎたということだ。

「と、いうことで考察は終わりですわね。あとは…」

 そう言って朝陽はホワイトボードをくるりとひっくり返した。

「え?ちょっとまってくれ。俺はまだ考察してないぞ」

というか、なんでみんな黙ったままで今まで見たことないような冷たい目で俺を見てるんだ?

「なあ、だから俺の考察…」

「……はぁっ」

 俺が口を開きかけたところで、朝陽は大きなため息をついて俺の言葉を遮りホワイトボードに『邑田朱莉について』と書き込み、手のひらでバンっと叩いた。

「え?え?」

 何が行われるのかはなんとなくわかる。簡単にいえば吊し上げだろう。とはいえなぜ今なのかという気はするけど。

「私思うんですけどね。うちのチームリーダーって地味だと思うんですよ」

 愛純はそう言って立ち上がると、俺を一瞥してから再び口を開いた。

「狂華さんは総合力ナンバーワン。ひなたさんは戦略でナンバーワン。精華さんは魔法力ナンバーワン。チアキさんは包容力ナンバーワン。楓さんは近接戦闘ナンバーワン。それぞれチームを引っ張っていくカリスマなり人間性があると思うんですけど、でもうちのリーダーって別になにもないんですよね」

 流石に何もないってことない…と、思うんだけど…

「確かに。戦闘一つとっても狂華さんの狂ヒ華とか、ひなたさんのカードオブジョーカーとか、精華さんの唯我独走とか、チアキさんの円卓の銀食器とか、楓さんの風林火山・極みたいな必殺技もないですし」

「いや、ちょっと待ってくれ恋、俺にだって…」

「少し黙っててくれます?」

「はい」

 一応必殺技なら俺にもあるんだけどな。えっと…ほら、最近使ってなかったけど、なんだっけあれ…

「というか、そもそも戦わないですからね、朱莉は。戦闘中も敵とくっちゃべってることが多いですし」

 そこは平和的解決に向けた説得と言っていただきたい。いや、むしろ――

「むしろそれこそが俺の必殺技じゃん!説得して敵を仲間に引き入れる。それこそが俺の強み!」

 だからなんでそこでシーンとしてみんなで俺を冷たい目で見るのか。

「説得された人」

 深谷さんがそう尋ねると、俺に説得されて仲間入りしたはずの朝陽と愛純は手を挙げずに黙ってこっちを見ている。

「いやいやいや、朝陽と愛純はそうだろ」

「私はどちらかと言えば柚那さんに恐れをなしたというのがきっかけで、怖くて気が弱っていたところを朱莉さんに付け込まれた感じですし」

 言い方!言い方の問題だと思います!

「私がもともと七罪入りを決心したきっかけって、柚那さんに会えるっていうのが強かったんですよね。で、柚那さんとはお芝居でも敵対したくないなあって思ってて。あと、2月の件は柿崎さんとのことが大きいかな。あ、今はもちろん朝陽にも感謝してるよ。朱莉さんに感謝していないとは言わないですけど、別に朱莉さんがなにかしたからっていう感じではないかなと思います」

 ……まあ、確かにそう言えないこともない。

 確かに地味だし、口先だけだし、必殺技も自分自身ですらパッと出てこないくらいだけどさ。だからって朝陽も愛純もそんな柚那柚那言わなくてもいいじゃないか。

「柚那さんもそう思いません?」

「え?私?…まあ、その…確かに朱莉さんは地味だしちゃんと仕事してないなとは思うかな――」

 仕事してるじゃんよぉ。本部で超仕事してるじゃんよぉ。柚那も結構手伝ってくれているから知ってるはずなのに…

「――いろんな仕事を凄く手伝わされるし」

 逆効果だったかあああああっ!

「つまり、華がなくて必殺技がなくて口先だけで恋人に仕事を押し付けるリーダーっていうことなんですね」

 柚那が話し終わったところで恋が最後にそうまとめた。

 というか、そうまとめられちゃうとすごいクズだな。どこのどいつだそんな酷いリーダーは!ってまあ俺なんだけど。

「……オーケー認めよう。俺は確かに華もない、実力もない、仕事もしないクズかもしれないさ。他のチームのリーダーに比べるとダメな部分もあるかもしれないさ。でもな、俺だってお前らに言いたいことあるんだからな!」

「ええ…ここで言い返しちゃうの、朱莉ちゃん…」

「なんか自分関係ないみたいに思ってるみたいですけど、まず深谷さん!」

「ええつ!?私!?」

「他のチームとの比較で言うと深谷さんもかなり酷いですからね!実力的にはナンバー4。狂華さんチームで言えば九条ちゃんです。ひなたさんとこで言えば桃花ちゃん!楓さんチームなら鈴奈ちゃん!JCで言えば真白ちゃんです!さあ、誰かに勝てますか!?」

「ぐぬっ…」

 どうよこの見事な理論。

「というか、その勝てない夏樹をチームに引っ張ったのは朱莉でしょうが」

 しまった!そうだった!

「誰にどんな不満があるのか知らないけれどね。チームを作ったのは朱莉。全敗してるのも朱莉でしょう」

「ぐぬ…」

 さすが恋。見事な返しだ。

「はぁ…どうも朱莉は状況をまじめに捉える気がないみたいだからお開きにしましょう」

「もともとそういう約束でしたしね」

 恋の言葉に朝陽も頷く。

「チームは解散ということで」

「うん、棄権は残念だけど仕方ないね。続けてもどうせ最下位だろうし」

 ………え?

「ちょ、ちょっと待て。どういうことだよ。なんだよ解散とか棄権とかって」

「どういうもこういうも、そういうことですよ。朱莉さんの不真面目な態度が目に余るんで、前の試合の後、五人で話し合ってもうやめようかっていう話をしていたんですよ。でも、柚那さんが泣きの一回で今回様子見てどうするか考えてくれってことで今回様子をみたんですけどね。結果として朱莉さんは全然ダメだったってわけです。確かに今回の試合は全員に落ち度がありましたけど、朱莉さんだけですよ、反省してないの」

 確かに、愛純の言うとおりまじめに反省していたかというと、してないと思う。九条ちゃんの時は不意打ちだったからとか、ひなたさんの怒りを買ってたからとか、和希の時はパワーダウンしてたからとか言い訳ばかりしていたと思う。ましてや今日の楓さんに至っては、最初から勝てるわけがないと思っていた。

「去年セナにも言いましたけど、実戦なら死んでます。まじめにやらない人をリーダーにしてたら私達まで巻き込まれちゃいます。だから私たちはもうあなたの下にはいたくありません」

 何からなにまで愛純の言うとおりだった。

「私達の異動か、隊長を代えてもらうか。どっちになるかはわかりませんけど、私たちは再編について都さんに相談するつもりです」

 愛純はそう言って荷物をまとめ始め、朝陽もそれに倣ってホワイトボードを消して荷物の整理を始める。

「教導隊と一緒に本部にいると朱莉に会う可能性が高いから私は仕事だけ持って東北寮に帰ろうかしら」

「それもやむなしかな。恋にあんまり会えなくなるのは寂しいけどね」

「夏樹は言うほど会いに来てないでしょうが」

「あはは、確かにそうかも」

 恋と深谷さんもそんな話をしながら荷物をまとめはじめた。

 みんなバラバラになるのか。俺のせいで。

「朱莉さん…」

 そんな顔しないでくれ柚那。わかってる。わかってるから。

「……みんな!聞いてくれ!」

 少し声を張ってそう言うと、ありがたいことにみんなは手を止めてこっちを見てくれた。

「まだ放映してない試合の分もあるし、次の試合まで少し時間があるだろ。だからさ、だからもう一回だけ俺にチャンスをくれ!頼む!」

「チャンスは一度あったでしょう?だいたいもう一度チャンスをあげたら最後の試合まで終わってしまうじゃない」

「確かに恋の言うとおりだ。でも俺はそんなところで仲間をペテンにかけるつもりはない。その前に俺の誠意を見せる」

「さすがに今回ばかりは私とてチョコレートくらいでは懐柔されませんわよ」

「そういうんじゃない。次の試合までにちゃんと訓練をしなおして、これから先まじめに取り組むっていうのを見せる。だからそれを見て判断してくれ。それまでチームの解散はまってくれ。頼む…」

「その誠意ってどうやって見せてくれるんですか?私達全員と手合わせでもするんですか?」

「いや、楓さんに再戦を申し込む。五人にはその試合を見て判断してほしい。もちろんそれでチーム解散、棄権というのであれば、俺はもうこれ以上は悪あがきはしないし、一人で何処か外国の駐在員でもなんでもやってみんながどこかに異動しなきゃいけないようにはならないようにする。だから頼む!」

 俺は床に額を付けて土下座をしながらそう言った。

「……いいよ、見てあげる。だから顔上げて」

 すこしして、深谷さんがそう言いながら俺の横にしゃがみこんで、俺の身体を起こしてくれた。

「夏樹は甘すぎます!」

「同期が近いところに居てくれるっていうのは心強いしね。だから別に朱莉ちゃんだけのためじゃないよ。というか、どっちかといえば私自身のためかな」

「夏樹ちゃん…」

「柚那ちゃんもそういう湿っぽい顔やめてってば。で、恋としてはどう?」

「……まあ、一月くらいなら待ってもいいけど」

「朝陽ちゃんと愛純ちゃんは?」

「関東を離れると柿崎さんと離れちゃうんで、ダメでも朱莉さんがどっか行くっていうなら別に構わないです。というか、変な人が来て上司になられても面倒なんで、朱莉さんがまともになってくれるならそのほうがいいです」

「私としてはプラスでこちらの指定したお店のチョコレートを頂きたいですわね。…そのかわり修行には付き合いますから」

「愛純、朝陽……」

「役に立てるかどうかわかりませんけど、私も手伝いますから」

「柚那……!すまないみんな。俺頑張るから……頑張るから!もう言い訳しないから!」




 その日の夜、早速ジョギングから始めるという朱莉さんを送り出した後、私の部屋に恋と夏樹ちゃん。それに愛純と朝陽がやってきた。

「意外とちょろかったですね」

 あえて何が。とは言わないが、私たちは恋の言葉に頷いた。

「まあ、思ったよりうまくいったけど、あれは恋の迫力があったからだと思うよ」

 夏樹ちゃんはそう言いながらプルタブを起こした缶ビールを少し掲げるようにして「作戦成功に乾杯」と言って口をつけた。

「まあ、これで少しまじめになってくださると良いのですけど」

 朝陽は朝陽で帰りのコンビニで朱莉さんに集ったチョコを片っ端から開けていく。

「一時的にかもしれないけど少しは真面目になるんじゃない?最後のほうちょっと泣いてたし。はい、柚那さん」

 愛純はそう言って私の分のハイボールを作って渡してくれた。

「ありがとう」

 話の流れからわかるように、私たちは今日チームを解散するつもりなんて毛頭なかった。一応前回の試合の後そういう話はでたのだけど、恋の『朱莉のために自分の評価下げるのはバカバカしい』という発言の後、じゃあ朱莉さんを焦らせて本気を出させようということに落ち着いてその焦らせるための作戦というのを今日実行した。

 実は朱莉さんと楓さんの対戦は裏で愛純が手を回して仕組んでいたものだったし、楓さんと当たった朱莉さんは適当なところで適当なことして負けるだろうというのも読めていた。

 一つ計算外だったのは私達が全員負けてしまったというところだろうか。

一応3勝2敗、悪くても2勝2敗一分けくらいで済ませて朱莉さんを責める流れにするつもりだったのだけどそれぞれ振り返りで上げたような事情で負けてしまった。

 とはいえ、そのおかげで自然に『最下位=もうやめようか』という話の流れができてもおかしくない状況になって朱莉さんもうまく騙せたのだと思うので結果オーライではあるのだけど。

「さて、じゃあみんなどっちに賭ける?」

 恋はそう言ってポーチから小さなノートとボールペンを取り出してみんなの顔を見回した。

「んー…楓さんに一口」

「あ、じゃあ私も楓さんに一口でお願いしますわ」

「朝陽ひどいなあ。朱莉さんの応援をしてあげなよ。あ、私も楓さんに一口で」

「賭けにならないじゃない」

 ということは恋も楓さんか。

「朱莉さんに四口」

 私がそう言うと、四人は一瞬驚いた顔をした後、ニヤニヤと笑い出した。

「愛ですね~」

「愛ですわね」

「愛だねえ…でも柚那ちゃん本当にいいの?」

「もちろん」

「まあ、柚那がそれでいいなら、こっちは賭けが成立するからいいのだけど」

 恋はそう言って私の名前の横に『朱莉四口』と書き込むとノートをポーチにしまい、その後は夜遅くまで朱莉さん抜きのガス抜き女子会が開催された。




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