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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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JCチームのそれほどでもない日常 2 1/2

※幕間の話で本筋には関係ありません

 大人っぽい。


 おねえちゃんぽい。


 周りの人間は口をそろえてそんなことを言うが、それが全くの嘘っぱちであることを誰より私自身が一番良く知っている。

 大人っぽく見えるのは私に子供らしい愛嬌がないだけの話だし、おねえちゃんぽいのはわたしがお姉ちゃんよりもお姉ちゃんであろうとしたせいだ。

 私がお姉ちゃんになろうとした原因。それはまだまだ幼かった私が初めて恋をして告白をしたあの人だ。

「和ちゃんちゅきぃ」

 私がそう言って後ろから抱きつくと姉の彼氏であったあの人は私を背中に乗せたままふらふらと二、三歩歩いてなんとか踏みとどまってゆっくりと私を地面に下ろした。

「ちぢゅとちゅきあってくだちゃい!」

「もうちょっとお姉ちゃんになったらな」

 そう言って優しく私の頭をなでた手と言葉を信じて私はお姉ちゃんになろうとした。

 今考えればそうじゃねえよ!と、突っ込みたくなるような話だが、その当時の私はそう考えてしまったのだ。



「君の大人っぽい所が好きです。付き合ってください」

 この人も分かってない。そう思った。

 あなたが好きになったところは私の思う長所ではないしコンプレックスの源だというのにまったく気づいてくれない。

「ごめんなさい。私、彼氏とかまだ作る気ないから」

 だから私はいつもの様にそう言って断った。すると彼は他のみんなと同じようなことを言い出した。

「じゃ、じゃあ君の軍団に入れてください」

「別に軍団なんて作ったつもりはないんだけど…勝手にすれば?」

 入学してから半年くらいの間になんだかすごい人数になってしまった取り巻きはこんなやり取りで増えていった。

 興味もないし勝手にすればと思っていたものの、最近は人数が増えすぎて和ちゃんにいわれるまでもなくちょっとした恐怖は感じている。


 昼休み。給食を食べ終わった私が、寄ってくる取り巻き達を散らせて、ベランダから見るとはなしに中庭を見ていると、和ちゃんと真白先輩がベンチに座って楽しそうに話しながら、手作りクッキーを広げて食べていた。

「どうしたのだ千鶴よ、ため息などついて。もしや生理か?」

 そう言ってニコニコ笑いながら私の顔を見ている深雪の顔には悪気はなさそうに見える。

「…あんたそれ叔父さんに吹きこまれたでしょ」

「ん?朱莉ではないぞ。ベスだ」

 その言葉を聞いて教室にいるベスの方を見ると、彼女は慌ててアビーの影に隠れた。

「悪い友達とつきあうのやめなさい。というか、成長不良で生理の来てないあんたにはわからないでしょうけど、その冗談笑えないから他の人に言っちゃダメよ」

 お姉は軽すぎていつ来てるのかもわからないというのに、私の方は死ぬほど重い。同じ血を分けた姉妹だというのに不公平な話だ。

「…すまぬ」

「そこまで深刻な顔しなくてもいいわよ、あんたに悪気がないのはわかってるし」

 というか、私のほうが八つ当たり混じりに酷いこと言ってるし。

「まあ、私のため息の原因はあれよ」

 私が指差した方向を見た深雪はこれまた微妙な表情で小さく唸った。

 聞いた話じゃ真白先輩は深雪にとってお姉ちゃんみたいなものだという話だったし、色いろあるんだろう。

「真白と和希か……なんじゃ、羨ましいのか?」

「羨ましいわ…あーあ、私も彼氏欲しい」

「作ればよいではないか。取り巻きもたくさんいるし、今だってちょくちょく告白をされているのだし」

「そういうんじゃないのよ。こう、なんかね初恋の時みたいな衝撃がない相手とは無理かなって思ってんの」

「千鶴の初恋!?ちょっと興味あるかも」

この子最近よく自分のキャラを忘れるけどいいのかな…

「三歳のころの話だしおままごとみたいなもんよ」

「早っ!さすが千鶴、早熟じゃな」

早熟って…まあ、いいけど。

「そう言うあんたはどうなのよ。恋とかしちゃってるわけ?」

 まあ、ベスとかアビーはともかくこの子とカチューシャはしてないだろうけど。

「いいや。まだまだ友達と遊んでいたいお年ごろじゃからな」

「ああそう…」

 この子に聞いた私がバカだったか。

「それにせっかく異文化交流ができるのだからベス達と遊んだほうがよかろう。恋愛なんてこの先いつでもできる」

「……あんたのほうがよっぽど色々考えているし、私なんかよりよっぽど大人よ」

 前言は撤回しよう。この子なりに意外と色々考えているみたいだ

 というか、目の前のことでいっぱいいっぱいになっている私と、目の前のことでいっぱいいっぱい色んなことをしようとしている深雪。比べるまでもなく彼女のほうがクリエイティブで社交的で大人だ。

「すごいねよ、あんた達。この年で世界守っちゃってるし、世界広げちゃってるし」

「何を言っている。千鶴のほうが色々できてすごいではないか、料理とか」

 そうだった。この子達は料理が壊滅的なのだった。

 というか、単純に下手な深雪はともかく、卵を握りつぶす女の子とか初めて見たし、混ぜている最中にボウルの中身が全部なくなっていたのも初めてだったし、簡単なクッキーを作っていたはずなのに放課後までかかった挙句、最終的になぜか甘いうどんを食べていたなんていうのも初めてだ

「…いや、やっぱりあんたたちのほうが色々すごいわ」

 確かに深雪の言うとおり、恋なんていつでもできるし、くよくよ悩んでも状況は変わらない。だったらこの面白い仲間たちと仲良くいろんなことに挑戦していろんなことを発見するほうが楽しいし自分も磨けるだろう。

「ねえ、あんたたち今日もマリカ先輩の家に行くの?」

「ん?多分行くと思うが」

「一緒に行っていい?って言っても私はあんた達の修行を見てるだけだと思うけど」

「もちろん!」

 満面の笑みで即答だった。

 いじめという程ではないが、同性からのやっかみ、ねたみみたいなものはやっぱりあって、『モテる千鶴は男子と遊べば?』と言われることは多いし、そうは言わないものの、声をかけるとぎこちない表情になる子も多い。

「…今更だけど、これからよろしくね」

「本当に今さらじゃな。だが、これからもよろしく頼むぞ千鶴」

 “も”ときたか。やっばいなあ…泣きそうだよ。

「どうした?」

「ん…なんでもない」

「おまっ…な…」

 おまな?

 深雪が言い出した意味の分からない言葉を聞いて”?”マークでいっぱいになっていた頭を深雪の骨ばった胸に抱きしめられた。

「何のことか分からないが、泣きたいならはやく言え馬鹿者」

「え?」

「お姉ちゃんっぽいからといって辛いことを溜め込むな。辛いことがあったらちゃんと言え。悩みがあったらちゃんと言え。千鶴には色々なことをフォローしてもらっているのだから逆に私達がフォローするのも当然だろう」

「うん…ごめん。ありがとう」

 

 私はその日、深雪達に手伝ってもらって、取り巻きの軍団を解散させた。

「『勝手にすれば』という言葉で変な気をもたせた千鶴が悪い」

 解散をどう伝えたら良いかを考えてくれたベスには、まず最初にそう指摘され

「日本人は曖昧にしすぎる。それが必ずしもいい結果を生むとは限らない」

 一緒に回ってくれたアビーにはそう釘を刺された。

 話を終えてそれでもついてこようとする男子に冷たい視線を送りつつスポーツバッグを振り回して追い払ってくれていたカチューシャだけは何も言ってこなかったけど、全部終わった後にハグされてポンポンと肩を軽く叩かれた時にはまた泣いた。


「結局ね、逃げなの。千鶴のは」

 放課後、マリカ先輩の家に向かう途中で私に文句を言い足りなかったらしいベスが口を開く。

「まあまあベス。千鶴もわかってるって」

「ダメよアビー。この子絶対にわかってない」

「流石にわかったって。今後は本当にいい加減な対応しないし、みんなにも迷惑かけないから」

 ベスが心配してくれているのはわかっているのでうんざりとは言わないが、それでも流石にそろそろ勘弁して欲しい。

「ああ、ダメじゃな。ベスの言うとおりわかっておらん」

「いや、わかったってば」

「カチューシャ。また泣かせてやれ」

「……」

「や、やめてカチューシャ」

 駄目だ。この子のハグ&肩叩きはなんか気持ちが楽になって自然に泣いてしまうのだ。

「行けカチューシャ!」

「嫌だってば」

 一応逃げてはみるものの、毎日訓練しているカチューシャと普通の女子中学生の私とでは体力に差がありすぎる。

 私はあっという間に捕まってカチューシャに抱きしめられた。

「ベスも私達も別に迷惑かけられたくないとかじゃない。千鶴が心配なだけ」

 やばい、泣きそう。

「あと、千鶴の好きな人っていうのを知りたい」

「……はい?」

「深雪が初恋の人を今でも好きに違いないって」

 当たってるけど何勝手なこといっているんだあいつ。

「深雪…」

「ち、違う。概ねあっているけどそうは言ってないし、聞き出せとかそういうことは一切言ってない」

「カチューシャ。ちょっと離して」

「ん」

「離すなカチューシャ」

「ん」

「離して」

「ん」

「離すな!」

「あんたたちうっさい。道端で何騒いで…ってあれ千鶴がつるんでんの珍しいじゃん」

 私達の後ろからやってきたマリカ先輩はそう言って少し驚いた表情を浮かべた。

「これからは練習の見学したいそうなのじゃ」

「ま、傍から見ててもらったほうが気づきもあるだろうしいいかもね」

「そういうことですね」

「なんでベスが考えましたみたいに胸はってんの…」

「余計なこと言わなくていいのよアビー」

「まあ、誰が考えたんでも良いんだけどさ。そう言えば千鶴、例の軍団解散させたらしいじゃん」

一体どこからその情報を仕入れてくるんだろう、この人。

「ええまあ」

「その話を聞いてたから、身辺整理して和希に本気で告白するのかと思ったらまさかカチューシャが相手とは…恐れいったなあ」

 ぎゃふん。なんでそんなことまで知ってるのこの人

「なんですかそれ。ちょっと詳しく」

 頼むから詳しく聞こうとしないでベス。

「いや、千鶴って子供の頃和希が好きだったらしくてさ、あかりが『あの子絶対まだ和希の事好きだよ』とか言ってたんだよ。でもあかりの勘なんてやっぱりあてにならないね」

「その子供の頃って何歳くらいの話です?」

「ええと…三歳じゃない?あかりが五歳の頃って言ってたから」

「ビンゴォ!」

「イエス!!」

「謎はすべてとけた!」

 糞姉ェェェェ!

 なんで変なところだけ勘が良いんだあいつは!

「……」

 うわああぁ!カチューシャに同情たっぷりの眼差しでポンポンされた!

「さてと…」

 なんだか悪い顔をした深雪がそう言ってベスを見ると、ベスも悪い顔で頷く

「じゃあ、千鶴をどうやって和希先輩の恋人枠にねじ込むかね」

「余計なことしなくていいから!あ、アビーとカチューシャは私の味方よね」

 アビーは生真面目だし、カチューシャはあんまりこういうことに興味なさそうだし。

「ごめん千鶴。私も女の子だから…」

「興味が無いわけではない」

 四面楚歌だった。

「ごめん千鶴。もしかして私、何か余計なこと言った?」

「むしろ余計なことしか言ってません!」

 

 とりあえず、その日私は泊まり込みで今の二人に挑むということがどれだけ無謀なことかということを4人+1人に説き、短絡的な動きを封じることに成功し、翌日深夜姉の顔に落書きをするという復讐を遂行した。


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