JCチームのそれほどでもない日常 2
「ふぇ!?りゅ、龍くんと友達になりたい!?」
昨日の夜タマと話したことを実現するための第一歩として、朝一であかりの家に行き、家から出てきたあかりに高山にちゃんと紹介してほしいということを頼んだ。
するとあかりは思い切り挙動不審な感じで目をそらして顔にダラダラと汗をかきはじめた。
「つってももちろん普通の友達な。俺が高山をどうこうしてあかりと別れさせようとかそういうんじゃないから」
「いや、それはわかってるんだけど……なんでいきなり。今まで龍くんには全然興味ありませんって感じだったじゃん」
「友達がほしい…」
「は?何言ってんのいきなり。私ら友達だしみつきとかタマもいるでしょ」
「じゃなくて…」
「和ちゃんは同性の友達がほしいってことなんでしょ」
あかりと一緒に出てきていた千鶴がそう言って俺の言いたいことを代弁してくれた。
「いや、クラスにいるでしょ」
「和ちゃんかわいいから最初は普通に友達やってたのに突然好きだとか言われて、友情にヒビが入ったりしたんじゃないの?和ちゃんは男と男の友情だと思っていたのに、相手は男と女として見てたってことでしょ」
千鶴はそういった後で『どう?』という視線を向けてきた。
「まさに千鶴の言うとおりでさ。こう、俺の秘密を打ち明けて男として接してくれる友達がほしいんだよ」
「いいじゃん。別に彼氏をとられるわけじゃないんだし紹介してあげれば。それとも何か問題があるの?高山先輩が和ちゃんに惚れちゃいそうとか、そういう気がかりがあったりするの?」
「いや、それはないんだけど…ほら、龍くんはまだ秘密の共有者じゃないからさ」
「それについては、昨日の夜、都さんに話してもらえるようチアキさんに頼んだ」
「う……いや、でもほら。フォロワーになれるかどうかわからないじゃん。二年生にはもう高橋君がいるんだし」
「でもいざって時に備えてもう何人か置きたいって都さんが言ってたよ。生徒にするか教師にするか悩んでるって言っていたけど」
「言ってたよって…あんたいつ都さんと話したのよ」
「言ってなかったっけ?フォロワー研修って結構頻繁にやってるんだよ。非常時の誘導はどうすればいいかとか、異星人組の封印再ロックの方法だったりとか、あとはいざって時のために射撃訓練とかもしているし。それに都さん意外にも叔父さんだったり狂華さんだったりニアさんだったりとの面談も頻繁にやってるよ」
あの人、意外とそういうところしっかりしてるんだよなあ。
「いや、それヘタしたら私より上とのつながりが強いじゃん…」
「そうかもね」
「そうかもねって…あんた」
都さんって千鶴と気が合いそうだし、それもしょうがないのかもしれないけど。あかりがちょっと可愛そうだ。とはいえ――
「だったら問題ないんじゃないか。高山はあかりの彼氏なんだし、本人に問題がなければまず間違いなく試験にうかるだろ」
「問題って…そりゃ龍くんなら問題なく試験にうかると思うけど、でもそれとこれとは別じゃないかな。まだうかったわけじゃないし、うかってからのほうがいいんじゃないかな?」
「お姉、何か隠してない?」
「え?隠してないよ。何にも隠してない。全然隠してない」
そう言ってあかりは勘のいい千鶴でなくてもわかるくらい慌てた様子でバタバタと手と首をふる。
「ま、お姉のことだからどうせ彼氏に自分を美化しまくった話をしてて和ちゃんと合わせるとそれがバレるから嫌とかなんだろうけど……なんていうか、虚しくない?そういうの」
「してないよ!なんで決めつけんのよ!」
してないのか。あまりにそれっぽい話だから納得しかけてしまった。
「じゃあ何を隠してんだよ」
「だから隠してないってば」
「だったら高山に紹介してくれよ」
「……わかった。わかったけど二三日待って」
「は?別に今日紹介してくれればいいだろ」
「い、色々準備があるのよ」
「準備?」
「その……そう!学校で一位二位を争う美少女に紹介するんだから、ちゃんと心得というかそういうのを龍くんに教える必要があるでしょ!?」
あかりはそう言って『やり遂げた』『ごまかしきった』みたいな表情してるけど、すごく不審だ。
千鶴の方に目をやると、千鶴も俺と同じことを感じたらしく、苦笑いした後にため息を付いて肩をすくめてみせた。
「ま、そういうことにしておこっか」
そう言って千鶴は早歩きで俺の手を引いてあかりから距離を取ると、小さな声で話しかけてきた。
「ねえ、和ちゃん」
「ん?」
「お姉と彼氏、あわよくば別れさせてくれないかな」
「なるほど、妙に協力的だと思ったらそういうことね。ほんと過保護だよな、お前の家って」
「お姉ってチョロいからね。高山先輩に言いくるめられてなにかいかがわしいことをされるんじゃないかとパパとお爺ちゃんと叔父さんが心配しまくってんの」
「ま、あかりがチョロいかチョロくないかと言えばチョロいし心配なんだろうけど……正直な話、俺はチョロくなさそうなお前のほうが心配だぞ」
「え?私?なんで?」
「そりゃあ、あかりよりもしっかりしているとか、あかりに言わせりゃ男を手球に取る悪女だとかって言っても、俺としては3歳くらいのころのかわいい千鶴のイメージがあるからな。そんな妹みたいなイメージの子がゾロゾロと男引き連れて歩いてるのを見たら心配にもなるさ。ましてや千鶴は普通の女の子なんだから、あいつら全員が結託して変なこと考えたらなんて思うと、気が気じゃないぞ」
「心配してくれるんだ…」
「当たり前だ。取り巻き減らせとは言わないけど、あんまり調子に乗り過ぎないようにな。男ってバカで単純なだけに変な方向に行くと手がつけられないぞ」
「…わかった。気をつける」
怒られたと感じたのか、面白くないと感じたのかはわからないが、千鶴は小さな声でそう言って下を向いてしまった。
結局その日はあかりが高山をさっさと連れて帰ってしまい、次の日も次の日も接触できずに待つこと数日…というか、待っているうちに高山の試験が終わってフォロワーになってしまった翌日。
なんとあかりは高山を試合の会場に連れてきた。同伴出勤とか言うやつだ。
「いきなり押しかけるようなことしちゃってすみません…」
「いや、高山は悪く無いから気にすんな。悪いのは完全にあかりだ」
なんとも微妙な空気の俺と高山を残してあかりたち女性陣は隣の部屋で着替え中で、時折聞こえてくるあかりの『真白ちゃんがまた成長している!』とか『みつきのくせに生意気!』とかそんな声が生々しい。
まあ、それはさておき。
「でさ、あかりに聞いていると思うんだけど、俺と友達になってほしいって話なわけなんだけど…」
「あ、はい。大丈夫です。今日ここに来て同性の友達がほしいっていう平泉先輩の気持ちもちょっと分かりましたし」
そう言って高山は隣の部屋に続く扉をちらっと見た。
「分かってくれたか!それでさ、高山って、なんか趣味ある?」
「ありますけど…ええと…引きません?」
「いや、別に引いたりしないけど」
なにせ俺の周りには趣味が漫画を読む奴書く奴料理をする奴食べる奴エロゲーをやる奴作る…やつはいないか…更には超法規的機関なのをいいことにモデルガンじゃなくて本物の銃をコレクションしてる奴や刀をコレクションしている奴と多種多様居るのでいまさらちょっとやそっとのことじゃ引いたりしない。誰が誰とは言わないけれど。
「実は昔の武器とか好きなんです」
「へぇ、刀とか?」
俺もモデルガンが一番好きとは言っても、刀とか槍とかにロマンを感じないわけではないし、戦闘にも役に立ちそうだしで、なんだったら一緒に勉強しても良いと思えるジャンルだ。
「刀も好きなんですけど、一番はもっと地味な小物系なんですよね」
「小物?」
「あの、まきびしとかくないとか。どっちかって言うと忍者っぽい感じのもののほうが」
「忍者!?マジで!?」
おいおい、こいつはもしかしたら俺の運命の相手なんじゃないのか、もちろん友達としてだけど。
「あ、やっぱり子供っぽいですか」
「いやいやそんなことないぞ。ちょっと待ってな。良いもん見せてやるから」
こいつが忍者好きなら掴みはばっちりじゃないか。
師匠ありがとう、ありがとう師匠。
俺はそんなことを思いながら立ち上がって魔法少女に変身してみせる。
「どうよこの格好。放送がダイジェストだったらからわかりづらいんだけど、この間の試合から俺の衣装がちょっと変わったんだよ。俺達のチームってもともと全員お揃いでミニの浴衣みたいな衣装だったじゃん?そこにこうやって鎖帷子っぽいタイツを付け加えたりとか、あとこれネックウォーマーじゃないんだぜ、こうやって上に持ち上げるとマスクになるんだ。な?完全にくのいちだろ!?忍者感あるだろ!?」
俺は嬉しくなってリニューアルした衣装をいちいち説明していく。が――
「……あ、はい」
なんか目をそらされてドン引きされてるぅぅぅぅっ!
「だ、ダメだったか?こういうの嫌いだったか?」
「いや、嫌いっていうか…その…目のやり場に困るというか。とりあえず足おろしてください……その…パンツ見えてるんで」
「あ…ごめん」
うわぁぁぁぁっ!やっちまったぁぁぁぁっ!見せたいものあるって言ってパンツ見せちまったぁぁぁっ!
こんなんじゃ朱莉さんの部屋で読んだ昔の漫画の主人公みたいじゃん!
俺は男だって言いながらおっぱい丸出しであっちこっちあるいて男キャラを誘惑して回ってる、水をかぶると女になっちゃうキャラみたいじゃん!
い、いや。俺はまだこいつにおっぱいは見せてない。まだ行ける、まだ取り返せる。
「で、でもこれ、ぱ、パンツじゃないから。これパンツじゃないから」
そうだ、パンツじゃないから恥ずかしくないし、高山だってパンツ見ちゃったとかって意識する場面じゃないんだ。
「え?あ、そうなんですか?」
「そ、そうそう。実はこれ浴衣っぽい衣装の下に水着みたいなものを着ててさ、変身するともともと着ていた服が変形して下着の上にこれが出てくるんだ、その証拠に俺、今日は黒のパンツじゃないもん。この衣装からはみ出ないようにほとんど紐みたいなパンツ穿いてるし!」
「あ…はい…そうなんですか…」
またやっちまったァァァ!
高山すっげえ気まずそうな顔してんじゃんかぁぁ!俺のバカぁぁ!
「い、衣装といえば、加須…じゃなかった佐須先生の衣装も結構すごいですよね」
ナイス高山!ナイスアシストだ高山。
「そ、そうなんだよ。俺達とおそろいの衣装だけじゃなくてあの人には特服バージョンがあるからな。あれが出ると実際に強いとか弱いとか関係なく迫力あって超怖いんだよ」
「確かに。迫力あって怖いですよね、あのマスクとかサラシとか木刀とか」
「そうそう、そうなんだよ」
よしよし、普通の友達の会話っぽくなってきたぞ。
「今日の対戦相手に霧香さんいるから当たったら嫌だなあって思ってたりする…まあ、あのチームは誰とあたってもかなりきついけど」
今日の試合の相手チームは狂華さんチーム。俺だけじゃなくチアキさんも諦め気味の相手だ。
とはいえファイナルステージに残ろうと思ったら勝たなきゃいけいない相手だし、よほど組み合わせが良かったり、このまま狂華さんチームがズルズルと負け続けでもしないかぎりは優勝するためには二度勝たなければいけない相手だ。
「今までの試合がガチなんだとしたら凄く強いですよねあのチーム」
「ああ。正直、ひなたさんのとこに一敗しているのが不思議なくらいだ」
もちろんひなたさんとこも相当強いんだけど。それでもあれは組み合わせの妙って奴だと思う。
「あ、でもうまく甲斐田先輩が当たれば佐須先生が霧になっても吹きとばせそうですよね」
「…それだ!」
俺と真白は変な気を使ったあかりのせいで今日もダブルスなので万が一霧香さんがダブルスに出てきても、真白に先制攻撃を仕掛けてもらえれば口や鼻から身体の中に入られるあの感触を味あわずに済みそうだ。
「先制攻撃って大事だよな」
「そうですよね…あ!先生を攻撃するだけに先生攻撃。なんちゃって」
日直の山田、高山の座布団全部持ってって。




