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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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戻った平穏

 落ち着いてよくよく考えてみれば、柚那だけの写真が送られてきたにも関わらずいつまでたっても戻ってこないジェーンは怪しいといえば怪しかった。

 ちなみに都さんの話によれば二人が会っていたのはジェーンお気に入りの例のメイドリフレ店だったらしい。

 バラバラに寮を出発してリフレ店で合流。

 さらにはこまちちゃんと寿ちゃんもその店に匿われていたとか。

 そして都さんとジェーンの会談から一週間経った今、俺は問題のメイドリフレ店に来ている。


 いや、一週間前までメイドリフレ店だったところに勝手に入らせてもらっている。


 閉店したとは言っても、引き払ったばかりの店内は調度品もそのままで、やろうと思えば今日からまた営業できそうな状態だ。

 そんな店内の椅子に腰かけてくつろいでいると、下の階から段ボールを担いだジェーンが上がってきた。


「よう、ジェーン」

「あら、朱莉」


 ごく普通の、この間までと同じ、敵味方などないかのようなお互いの対応が少し可笑しい。



 都さんと会談を持ったジェーンからの要求は精華さんと寿ちゃん、それにこまちちゃんの即時解放。

 それにDのメンバーの日本国内への潜伏の許可。その対価として俺たちに提示されたのは、ジェーンたちが持っている敵性宇宙人の情報、それに正確な予報を出すのための手順だった。

 もちろん都さんは二つ返事でOKし、ジェーンと仲間たちはお咎めなしで、国内に滞在できるということになった。

 また、番組の都合もあるので精華さん達は今のままで続投。今回の事はかかわった人間の胸の内に秘めるということで話がまとまっり、問題の三人も日本の、戦技研のやり方に文句があったわけではないので、続投ということには特に異を唱えるようなことはなかった。


「あ、そうだ。コホン……お帰りなさいませご主人様。せっかくご帰宅いただいたのですが、当店はすでに閉店しております」

「妙な小芝居入れなくていいよ」


 テンプレから外れたからか、なんか日本語が変だし。


「あら、お嬢様だけじゃなく、メイド役もやってみたかったのに残念」


 お嬢様って、本当にご帰宅してたのかよと思ったが、Dの隠れ蓑として実際に営業していたらしいからちゃんとメイドリフレ店としてのサービスもやっていたんだろう。

 というか。


「お前今、思いっきりメイド服着てるじゃないか」

「雰囲気だけでも楽しもうかと思ってね。今なら朱莉だけのメイドよ特別なご奉仕もしてあ・げ・ちゃ・う」


 ジェーンはそう言って右手をマイクを握るような形にして小指を立てるとウインクしながら舌を出してチロリと動かした


「なんのご奉仕する気だよ。そういうのはそういう店でやれよ!」


 柚那が意外とノリノリでコスプレしてくれるので、いまさら別にほかの女の子にコスプレして奉仕してもらわなくてもいい。

 というか、そんなことが明るみに出れば俺の命が危ない。


「あらあら、浮気は男の甲斐性よ」

「する気はないけど、浮気なんてしたら柚那に何されるかわかったもんじゃねえよ」

「確かにね……で、今日は何の用?」

「ああ。今日こっちに戻ってきたジャンヌが憤慨しててな。お前、本物のジェーンに催眠をかけた後に入れ替わって刑務所を抜け出てきたんだろ?できれば暇を見つけてそれを治しにいってやってくれないか?」


 なんでも、自分はジェーンに化けた魔法少女狩りであるという発言ばかり繰り返すのを不審に思ったジャンヌ達が、監獄の中にいる本物のジェーンを検査をして発覚したらしい。

 ちなみに今も本物のジェーンは催眠による洗脳状態のままだとか。


 こっちのジェーンたちとの関係はアメリカ側には伝えていないので、ジャンヌの愚痴はただの八つ当たりだろうが、聞いてしまった以上はクラスメイトとしてはなんとかしてやりたいところだ。


「ああ、そういえばそんなことしたわね。すっかり忘れてた。まあ、後でタイミングを見て治しに行ってくるわ」

「そうしてくれ……えーっと……」


 そう言えば彼女の本当の名前を聞いていなかった。


「本物のジェーンはアメリカにいるんだよな。だったらお前の事は何て呼べばいいんだ?」

「ジェーンでいいわよ。ジェーン・ドゥ。ジェーン・F・ケネディに成りすましてたのはただの偶然で、仲間内ではもともとその名前で通してたのよ。」


 ドラマだったか映画だったかで見たが、確かジェーン・ドゥはアメリカで女性の行旅死亡人を示す符丁。日本で言えば名無しの権兵衛さんの女版といったところだ。


「組織のリーダーが、行旅死亡人なんて縁起悪い名前やめとけって。どうせ本名じゃないんだろ?いい機会だし改名しろ、改名」

「ん……まあ確かに縁起は悪いわね。でもどうしよう、名前なんかなんでもいいんだけど何か案はある?」

「本名は?」

「秘密」

「じゃあ何て呼ばれたい?好きな映画の登場人物とか、女優の名前とか」

「そうね……じゃあアーニャ・スミスなんてどう?」

「古典的だな」

「あら、ローマの休日は嫌い?」


 そう言ってジェーン改めアーニャはクスクスと笑う。


「嫌いじゃないよ。むしろ最近の映画より好きだな。話と設定はシンプルで分かりやすいし。むしろアーニャが見ていたことのほうが驚きだよ」

「失礼な。それを言うならむしろ朱莉が観たことあるっていうほうが驚きよ」


 それはまあ、よく言われるし、実際俺もそう思う。


「まあ、それはともかく何か用?ジェーンの事だったら別に電話でもよかったのに」

「ん?ああ、ジェーンの話もそうなんだけど、今日はこれを届けに来たんだ」

「何この封筒……カード?」


 俺が机の上に置いた封筒には寮への入場カードが10枚ほど入れてある。


「ああ、うちの寮の仮カードだ。これで今まで通り寮に出入りすることができるから。もし10枚で足りそうになければ数を申し出てくれって長官が言ってた」

「……休戦協定は結んでいるけど、別に私たちは日本の所有物になったわけじゃないわよ」


 そう言ってアーニャは少しだけ眉をしかめる。


「まあ、日本にいるメンバーに仕事の依頼をすることはあるだろうけど、別に所有物になれって言ってるわけじゃないよ。ただ、人数と居所把握しておきたいっていうだけだ。で、人数を申告してもらって居場所を知っておこうっていう以上は、こちらで宿や食事を提供しよう。と、そういう訳だ」

「つまり、朱莉たちの寮に住めってこと?」

「できれば。さっきも言ったようにアーニャたちを日本国の所有物とするつもりがない以上、人数と居所の把握をするっていう条件をのんでもらうためには対価を支払う必要があるだろ。その対価が衣食住だと思ってくれってさ」

「…………」

「関係者以外は、共用スペースより上には入れないから、下手なマンションに潜伏するよりはずっと安心なんだけどな」

「私たちがどこかの諜報部に見つかるとでも思ってるの?」

「いいや。ただ、心を休めるにはしっかりしたセキュリティが必要だろうって思っただけの話だ」


 精華さんに聞いた話と、都さんがアーニャと会談した時に聞いた話によれば、組織のメインメンバーは10名ほど。

 他に各地域に派遣されている駐留組がいるが、それを合わせても実際に戦っているのは20名ほどで、その20名が魔法少女を持たない国と契約して稼いだ金で養っているのがさらに20名。その20名はいずれも元いた国での扱いのせいでトラウマを抱えていて戦えない状態だという。


「至れり尽くせりね」

「所有物にできないまでもできるだけ囲い込んでおきたいんだとさ」


 ちなみにこれは都さんじゃなくて小金沢長官の弁だ。


「それを言っちゃ囲い込みに失敗しちゃうでしょうに」

「失敗してよしっていうのが主席長官の個人的な意見で、さっきのは下っ端長官の弁」

「ああ、なるほど……変わった人よね、彼女。なんだか勢いに飲まれていろんな条約結ばされちゃったし。でも不思議と嫌じゃないのよね」


 なぜか会談の時に進行役として同席させられて、一部始終を見ていた俺としてもそこは深くうなずきたいところだ。


「まあ、それも都さんの人徳ってやつじゃないか。で、どうする?別に拒否してもOKなんだけど」

「お言葉に甘えることにする。正直Dの台所事情はあんまりよくないから、家賃や食費なんかの経費が削れるならそれに越したことはないもの」


 世知辛い話だが、彼女たちは俺のように侵略がない時に寝てても衣食住と給与が保障されているというわけではない。だからこの話に乗ってくるだろうことは都さんも見越していたし、良くも悪くも予定調和ということだ。


「わかった。じゃあ後でメンバーの顔写真と名前。それとナノマシンのサンプルを送ってくれ。それをつかってカードの本登録をするからさ」

「わかった……ところで朱莉」

「ん?」

「朱莉は私の正体に気づいてた?」

「いや全然。最後の最後、都さんがネタばらしするまで全然気が付かなかったよ」


 本当に我ながらびっくりするくらい鈍いやつだと思う。


「実際知ってみて、どう?」

「どうって?」

「私の事、嫌いになった?」


 アーニャはそう言って俺に体を寄せてくる。


「アーニャの取った手段はともかく、それで救われている子がいて、救われている国があるんだろ。だったら別に嫌いになる要素なんかないじゃないか」

「そう……」


 かなり痛めつけてくれたくせにまだ謝ってこない精華さんと寿ちゃんにはあとでそれ相応の仕返しをするつもりではあるが、別段アーニャに対しての恨みはない。

 ちなみに、唯一謝りに来てくれたこまちちゃんはなぜか部屋に入ってくるなり全裸になって土下座をし『お腹を刺したお詫びに私にひどいことしてください!エロ同人みたいに!』とか言ってきたので無罪放免とした。

 別に本当になにかしたときに後で柚那が怖いとか、『そんなことしなくてもいいんだよ』とか言って似非紳士ぶっていい人だと思われようとしたわけではなく、いつもおとなしい彼女の印象とはあまりにかけ離れた行動だったので、その時はマジで引いてしまっただけだ。今はもうちょっとなにかしておけばよかったなと後悔している…まあ、でもあれが俺にそう思わせて許さざるをえない状況を作るための戦略だったとしたら、こまちちゃんは相当腹黒いということになるが。

 

「でも、今回の事件でケガしちゃったでしょう?」


 そう言ってアーニャは、服の上から俺の脇腹をやさしく撫でさする。


「け、ケガはしたけどもう治ってるし、そもそもケガの原因は精華さんと寿ちゃんだしアーニャは悪くないだろ」


 アーニャに脇腹を触られたことでかなり動揺しているのが自分でもわかる。


「触るとまだ傷がわかるわね……ここ、すごく痛かったでしょう?」


 いつの間にかアーニャの手が俺のブラウスの中に入ってきて、傷口のあったところをそっと撫でた。


「ひゃん」


 脇腹、しかも傷痕という敏感なところを撫でられた俺の口から思わずそんな声が飛び出した。

 そしてアーニャの手は脇腹からへそのほうへ移動し、さらにその手は少しずつ上に侵攻する。


「ちょ……アーニャ!?」

「HAHAHA、朱莉はビンカンですネ。下のおクチがビショビショデース!」

「下のお口に触れてもないのにそういう無責任な事言うな!」


 ていうか、あれ?マジメモード終了?


「フフフ……良いではないか良いではナイカー!」


 そう言いながらアーニャは俺の身体にまたがって動きを封じ、俺の服を乱暴に破りはじめる。


「ちょ、お前!バカ!帰れなくなるだろ!」


 もちろん俺も抵抗を試みるが、いい感じに重心を抑えられてしまっていてまともに動くことができない。


「んふふ……心配しなくてもメイド服ならサイズもデザインもいっぱいアリマスよー。たくさん楽しみまショー」


 そんなことを言いながらアーニャは俺の服をさらにビリビリに破っていく。

 だがまだ焦る時間じゃない。さすがの俺だって一人でアーニャに会いくるなんて向こう見ずなことはしない。こんなこともあろうかと店のドアの外には柚那が待機しているのだ。さあ、いまだ柚那。俺を助けてくれ柚那。10分経って音沙汰がなかったら突入っていう打ち合わせ通りに今こそこの店に突入してくるんだ!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…………あれ?

 時計を見ながらカウントダウンを終えても柚那が登場する気配はない。むしろ普段の柚那ならカウントダウン前に俺のピンチを察知して飛び込んできてくれそうなものだというのに。

 まさか、アーニャは本当は俺達と協力するつもりなんかなくて柚那に刺客を送ったんじゃ……!

 不安になった俺はなんとか動く首を動かして入り口を見る。


「あ……」


 小さな声がした後、薄く開いていた玄関のドアがカチャっという小さな音を立てて閉まった。


「あ……!じゃねえよ!助けに来こいよ柚那あっ!」


 ドアの隙間からカメラで撮ってるんじゃねえよ!慌ててドア閉めたって見えてるんだよチクショウ!





「……酷い目にあった」


 車を停めた地下駐車場に降りるエレベーターの中でメイド服に身を包んだ俺は大きなため息をついた。


「まあまあ。お昼おごりますから元気出してくださいよ」

「どの口でそう言うことを言ってるんだお前は」


 先ほどのアーニャのご乱心は実は柚那からの依頼で『私も朱莉さんのエロ写真欲しいんでいい感じに脱がせてください』と言ったとかなんとか。ちなみに俺のスマホの柚那フォルダにはせいぜいコスプレとか水着写真くらいまでしかない。

 対して俺がさっき撮影されたのは事後のようなボロボロの服から、ところどころ下着が見えている半べその写真。

 しかもそこに至る過程の動画付きだ。はっきり言って不公平なので柚那の同じような動画と写真の撮影を求めたが柚那とアーニャから白い目で見られてしまった。


「だって、朱莉さんはコスプレとかしてもちゃんと表情作ってくれないじゃないですか。わざと変な顔するし。あんなの実用に耐えません!」


 何の実用性の話をしてるんだよ恐ろしい。


「というか、ナルシストでもない三十過ぎのおっさんが嬉々としてコスプレして、いい感じの表情をしていたら気持ち悪いだろうが」

「酷い!全国の中高年女装レイヤーさんに謝ってください!」


 アーニャとか桜ちゃんのおかげで、この二週間で柚那もすっかりこっちの人になってしまったなあ。


「はあ……じゃあ、俺の写真なんか撮らないでそういう人たちの写真を撮って来いよ」

「いや、別にそういうの興味ないんで。はっきり言っちゃえば、かわいい女の子ならともかく、おっさんなんて撮っても面白くないです」

「俺よりお前のほうが言ってること酷いだろ!おっさんだって傷ついたら泣くんだぞ!」

「ああ……アイドルやってた頃に何度か見ましたけど、おっさんの涙ってあんまり綺麗なものじゃないですよね」

「真顔でそう言うこと言うなよ!本当に最近言う事に容赦がないな、お前」


 そんな益体もない話をしながらエレベーターを降りるとエレベーターホールではあかりとみつきちゃんが待っていた。

 今日は試験休みだというので、この間の埋め合わせをするために来てもらっていたのだ。


「二人ともお待たせ」

「待ってたよお兄ちゃ……」

「えーっと……」


 俺の姿を見た二人の動きが止まった。気持ちも言いたいこともわかるけど挨拶くらい返してくれよ。

 ていうか、なんかあかりの目が怖い。


「お兄ちゃん、何その恰好」

「え?まあ色々あってさ」

「正直普段の格好よりは数倍マシだけど、その恰好で遊びに行く気?どこに行く気?」

「え、俺の私服って街中でメイド服着ているより変だったの?」

「確かにいつもよりマシだけど、あかりの言う通り遊びに行ける場所が限られちゃうよね」


 みつきちゃんにもそう思われていたとは、お兄ちゃんかなりショックだよ。


「あ、だったら朱莉さんの私服を三人で選ぶのはどう?」

「それいいかも!三人で選べば色々なコーディネートができるしお兄ちゃんもどれかしら気に入ると思う」

「なんかお金使ってばっかりだけど、昔からなんとかしないとなとは思ってたから仕方ないよね」


 柚那の提案にみつきちゃんがのっかり、あかりも賛成する。

 ていうか、俺のファッションは昔からあかりに何とかしないとと思われてたのか。

 あかりのセリフに俺が軽くショックを受けているうちに、女子三人はああでもないこうでもないと議論し、俺が我に返った時にはもう行先は決まった後だった。


「南青山にわたしの行きつけの店があるのでそこに行きます!」


 柚那がそう宣言をし、あかりとみつきちゃんもワーッと沸く


「そこでの買い物は全部朱莉さんもちです!」

「まあ、俺の服だしな」

「あ、約束通りランチ代とカフェは私が出しますから安心してくださいね。もちろん全員分です!」


 そう言って柚那が程よく豊かな胸をドンと叩いた。





 結局、その日はランチ代は4人で1万円弱。

 洋服代が4人で20万円弱ほどかかった。

 

 みんなに選んでもらった私服はひなたさんを始め、みんなに好評だったし、買い物も楽しかった。

 だが買い物を終えて4人分の紙袋を持たされて車に向かう道中、俺は何か釈然としないものを感じずにはいられなかった。

 


 

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