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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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終いの形

「おう、おかえり」

「ただいま」

 俺が勝手に控室に入っていることには特に言及せずにタマがそう言って部屋の中に入ってくる。

「って、朱莉さん、勝手に入ったりすると寿さんとか精華さんに怒られるんじゃないですか」

 タマの対戦相手だったのだろう桃花ちゃんがそう言いながらタマの後ろから顔を出す。

「ああ、桃花ちゃん久しぶり。男子会の時以来かな?」

「う……」

「そう言えば約束果たしてもらってないんだけど?」

「うう…」

「今夜あたりどう?」

「嫌ですよ!本当は私だってあんなこと言いたくもしたくもなかったんですからね!離れて見てる分には別にいいけど朱莉さんとかひなたさんとか、あそこにいたのみんな中身完全に男じゃないですか!そういう人たちとなんかするのとか絶対嫌ですからね!」

 ま、本気じゃないから別にいいんだけど、ここまで拒否られるのはさすがにちょっとショックだなあ。

「私は相手にするならちゃんと中身も女の子のほうがいいんです!」

「はっはっは、女の子より男の子のほうが可愛かったりするんだぞー、若いなあ桃花ちゃんはー。よかったら男の子の良さを教えてあげようか?」

 そう言って俺が手をワキワキと動かすと桃花ちゃんは「ひいっ」と短い悲鳴を上げてタマの後ろに隠れた。って、女子中学生の後ろに隠れるなよ男の子。

「朱莉さん、冗談が過ぎる」

「すまんすまん」

 女子中学生に叱られるのもこれはこれでいいいものだな。

「で、どっちが勝ったの?」

「私」

「おお、すげえな。桃花ちゃんってご当地の中でも結構レベル高いのに。もしかしてタマも真白ちゃんとか和希みたいに実力を隠してたりする?」

「さあ」

 まあ、本人がなんと言おうと隠しているんだろうけどね。じゃなきゃ都さんが真白ちゃんより先にこの子をJCに配属するわけがない。

 異星人組の実力が想定外で怪我人が出たり死人もでかけたとは言っても、都さんは誰も死なない可能性が高いように人を配置していたはずで、その死なないという想定に入っている以上、彼女はご当地でもトップクラス…いや、おそらくはあの時点では彼女がトップだったんだろうと踏んでいる。

 多分今はパワーアップした真白ちゃんのほうが上だろうけど。

「なに?」

「いや、なんでもない」

ま、非常時でもなきゃタマも真白ちゃんも別に遊んでいてくれて良いんだけど。

「ちなみにタマと桃花ちゃん以外の組み合わせはどんな感じなのかな?」

「桃花の話と合わせると、ひなたさんとセナ、精華さんと里穂、寿と彩夏」

「残りがダブルスってわけか。こりゃ精華さんチームの勝ちだな」

「いやいやいや。待ってくださいよ。ひなたさんとセナちゃんならひなたさんが勝つじゃないですか。それにその他の組み合わせだって分からないじゃないですか」

「いや、セナ以外は精華さんチームが勝つと思うよ。まあ、セナがついてないのはもう様式美だから置いておくとして、里穂の使う魔法は精華さんと相性が悪すぎる。まあ、実戦だったらもちろんあの人と相性がいいなんていう魔法もないし魔法少女もいないんだけど、それにしても相性が悪い」

「え?」

「っていうか、あの人、普段はあんなんだけど、魔法対魔法のぶつかり合いだったら誰にでも、それこそ狂華さんにもひなたさんにも勝てるからね」

 体術がてんで駄目だからその後殴り合いになったら負けるけど。

「ああ、なるほど。人相手ならともかく、スレンダーマンとか里穂のドールは吸い込んじゃえば良いのか」

 決戦の時には出す間もなく俺が倒してしまったのだが、彼女は対三人娘戦で見せた空気中の水分を使っての防御の他に水分と魔力で半透明の人形を創りだして戦わせることができる。というかどちらかと言えばサポート向きの彼女は、こと戦闘時にはそれしかしない。

「正解。だからあの人に今回負けはない」

 まあ、だからこそ関西チームみたいな体力でゴリ押しみたいなところには弱い。前回は運良く相性の良い涼花ちゃんだったから勝てたけど。

「でも、寿さんと彩夏ちゃんはわからなく無いですか?」

「いや、寿ちゃんの勝ちだよ。彩夏ちゃんの魔法って弱点あるから」

「弱点?」

「あの子の魔法…まあ必殺技であるフルバーストだけ取ってみると、実は二回発砲する必要があるんだよね。一回目の発砲で銃の展開。二回目の発砲で、一斉に引き金を引く」

「まあ、確かにそのタイムラグは弱点といえば弱点ですけど、でも距離を取って全包囲されたら辛くないですか?」

「寿ちゃんってクラフト魔法得意なんだよね。即死の矢でなければ、撃った後ノータイムで矢筒に矢が現れるし」

「まさか矢を銃口に撃ちこむとかそういうバカバカしい机上の空論を振りかざすんじゃないでしょうね」

 おうふ。俺が一生懸命考えたかっこいい作戦を机上の空論とか言われてしまったでござる。まあ、寿ちゃんにも却下されたので別にもういいんだけど。

「まさか。彼女はそんなことしなくても」

 俺はそこで言葉を切って、話しながら手の内で作っていたものを桃花ちゃんの口に飛ばす。

「ふごっ!?」

 俺の魔法は不意打ちだったこともあって見事に桃花ちゃんに決まり、桃花ちゃんは大きなバツ印で口を塞がれてモゴモゴ言っている。

「そういう封印を彩夏ちゃんのステッキに貼り付けて暴発を誘うか、少なくとも引き金を引くのを躊躇させることくらいはできると思うよ」

 多分暴発すれば変身解除、そうでなくても前回の試合の時ならともかく、今日は寿ちゃんも彩夏ちゃんのフルバーストと同じことができるようになっているので、一瞬躊躇したら彩夏ちゃんの負けは確定する

「なんでそんなことがわかるんですか?」

 桃花ちゃんはそう言いながらようやく外したバツ印を床に投げ捨てる。

「最近和希に拒否られて、みつきちゃんに威嚇されていたせいでJC寮に泊まりに行く用事がなくなっちゃってさ。夜暇だったからここ一週間くらい寿ちゃんと一緒に修行していたんだよ。だから彼女が何をするつもりかも何ができるかもよく知っている」

 まあ、和希の他にも色々あって、というか、一連の真白ちゃんの件で和希やみつきちゃんどころではない剣幕のあかりに『しばらく顔見せんな!』と叱られたのでJC寮はおろか、俺は今、実家にも帰れなかったりする。

 そういえばあの時のあかりの怒った顔、姉貴にそっくりだったな。

「たしかに彩夏ちゃん以外は特訓に付き合ってたけど、そんな奥の手いつの間に…」

「まあ、東北は山の中に行けば結構修行できそうな場所はあるからさ」

 ちなみに修行場所へは寿ちゃんと箒の二人乗りで通っていたのだが、これがなかなか楽しい経験だった。

 一応柚那様にはセーフ判定を頂いているので後でどうこうなる話ではないが、俺の飛ぶスピードが怖いらしく、ギュッと俺にしがみついてきた時に背中に感じた彼女の感触はなかなかのものだった……うん、あれくらいもいいよね。何がとは言わないけど。

「まあ、寿ちゃんはそんな感じで勝てるだろうっていうのがある。あと、ダブルスは考えるまでもないんじゃないかな。時計坂さんってこまちちゃんとじゃ魔法使えないだろ」

「う……まあ、そんなこともなきにしもあらず?」

 時計坂さんがわざわざ大嫌いなこまちちゃんとおててつないでランデブーはしないだろうと思っていたが、どうやら俺と寿ちゃんの予想通りになったらしい。

 かと言って未だに『桜ちゃんともっとラブラブ大作戦』中のひなたさんがそれをするわけにもいかないし、彩夏ちゃんや桃花ちゃんでは出力不足。里穂のドールでは即効性がなさすぎる。というか、貪食コンビの前では『混じりっけのない軟水美味しいです』くらいで終わってしまう。

一人で二人に対して削り勝つという僅かな可能性を信じて、ひなたさんは消去法でこまちちゃんをダブルスにするだろうと予想していたのだが、どうやらその通りになったらしい。

「ということでダブルスも厳しいだろうからほぼ精華さんチームの勝ちでしょ」

「ですね…はぁ…スタートダッシュは良かったのになあ…」

 確かに桃花ちゃんのいう通り、ひなたさんチームは初戦勝利、勝ち星4で単独首位となりスタートダッシュを決めたが二回戦でうちに(こまちちゃんのところで八百長ありとは言っても)負け、三回戦で狂華さんのところに勝つという大金星を上げて首位に再浮上するも、今日精華三チームに負けて2勝2敗。今日はこの試合だけなので暫定二位にはなるが、狂華さんチームがチアキさんチームに負けるとは思えないのでおそらく三位以下に転落するだろう。

ちなみに狂華さんが勝ち、うちが楓さんチームに勝ったりすると、ひなたさんチームは4位転落、ファイナルステージ進出が怪しくなってくる。まあ…もしそうなると勝点2の楓さんチームの敗退がほぼ決まってしまうので、本気を出した楓さんチームに多分うちは負けるだろうけど。

というか、どうせ楓さんにボコボコにされるの、俺なんだろうなあ。

 ちなみに前回の試合、ノーゲームになるだろうと思われた真白ちゃん和希ペアとの試合は真白ちゃんの暴走前にしっかり俺が負けてしまっていたので2-2のイーブンになってしまった。

よって勝点は1しかもらえず、ウチのチームも余裕があるわけではなく、わりとピンチだったりする。うちが楓さんチームに負けて、万が一大番狂わせでチアキさんチームが狂華さんチームに勝ってしまったりした場合、4試合目終了時点の順位でうちが単独最下位なんてこともありえる。

 まあ、とは言っても微々たる差。そうなった場合5試合目の結果次第でどこが敗退してもファイナルステージにすすんでもおかしくないという非常に面白い状態にはなるのだけど。

 俺がそんなことを考えていると、ドアを蹴破らんばかりの勢いで、いや実際ドアを破らなかっただけで、寿ちゃんは足で蹴り開けて入ってきた。

「お、お帰り」

「お帰り寿」

「お帰りなさい寿さん」

「ただいま」

 彼女の腕には気絶した彩夏ちゃんが抱かれているので勝敗の確認はするまでもないだろう。

「どうしたの、そんな汗だくで必死な顔して」

「はぁっ、はぁっ…蒔菜が、帰ってくる前に、話をつけないといけないからね」

 どうやら寿ちゃんは彩夏ちゃんを抱えて走って帰ってきたらしい。

「彩夏ちゃんは一旦こっちであずかるよ。ソファに寝かせればいいかな?」

 俺は彩夏ちゃんの身体の下に手を入れて寿ちゃんから彩夏ちゃんの身体を受け取る。

「ごめん……ゴホッ…お願い」

「寿さん、お水です」

「ありがとう桃花」

 そうお礼を言って寿ちゃんは桃花ちゃんから水を受け取って息を整えながら水を飲み、タマはそんな寿ちゃんの汗をタオルで丁寧に拭っていった。

 そうしているうちに寿ちゃんの汗は引き、息も整ってきて、寿ちゃんは「よし」と一つ気合を入れて、彩夏ちゃんを起こしにかかる。

「彩夏」

「……」

「彩夏ってば」

「……」

「起きて、彩夏」

「……」

 ……彩夏ちゃんはもう起きてるな。顔が『スヤァ』のアスキーアートみたいになってるし。

「寿ちゃん、俺が彩夏ちゃんに目覚めのディープキスしようか?こう、舌をねっとり絡めてお互いの唾液を混ぜあわせて、その混ざった唾液が泡立つような濃厚な奴」

「なんであんたがするのよ。あんたがするくらいだったらだったら私がするわよ!っていうか描写が細かくて気持ち悪いんだけど、なんでそんな説明付け加えるの?」

 俺は彩夏ちゃんに対してカマかけのような感じで言ったのだが、思い切り俺に向かって言い返してくるあたり、寿ちゃんは彩夏ちゃんの狸寝入りに気づいていないっぽい。

「よし、次で起きなかったらキスしよう」

「はっ!ここは一体!?」

 彩夏ちゃんめ。一応とはいえ、毎週お芝居をしているというのになんて白々しい演技をするのだろうか。

「ああ、よかった彩夏」

「……何ですか寿さん」

 彩夏ちゃんはそう言って寿ちゃんをひと睨みした後で一度立ち上がり、寿ちゃんから距離を取って座り直す。

「話を聞いてほしいの」

「聞く話もする話も、こっちにはもうないですよ」

 見た感じだと彩夏ちゃんには取り付く島もなさそうだが、寿ちゃんは諦めずに立ち上がり、彩夏ちゃんに向かって深々と頭を下げた。

「ごめん。私がカッとなって姉妹関係解消なんてしたせいで彩夏を傷つけたと思う」

「そうですね、傷つきました」

「その上、色々嫌がらせもしてごめん」

「はっはっは、別に気にしてませんよ、廊下にみかん箱一つで放り出されたのも、まだまだ暑いし蚊もいっぱいいるのに外に閉めだされたことも全っ然っ、気にしてませんよ」

 めちゃめちゃ気にしてるじゃん!…って、まあそんなことされたら誰でも気にするっていうか怒るだろうけど。

「あと、彩夏とか馴れ馴れしく呼ばないでくださいよ。私はちゃんと寿さんって呼んでたのに、あなた私の事大引さんとか呼んでませんでしたっけ?」

「う……」

「呼んでませんでした?私の勘違いですか?」

「呼んでました…すみませんでした」

「じゃあ関係改善をしようと思うなら、段階を踏んで彩夏さんとかからじゃないですか?」

 そう言って調子に乗った彩夏ちゃんは寿ちゃんのおでこをペチペチと叩く。

「そ、そうですね。すみません彩夏さん」

 ちなみに寿ちゃんはおでこを出している割にはおでこが広いのを気にしている所があるので、妹の彩夏ちゃんといえど普段は絶対にできないだろう行為だ。

 というか、自殺行為だ。

「で?話ってなんですか?」

「あなたと蒔菜の事なんだけど」

「私と、お、ね、え、さ、ま がどうかしましたか?他人の寿さん」

「……」

 お、寿ちゃんついにキレるか?

「……そのことなんだけれどね」

 踏みとどまったー!彩夏ちゃんセーフ!彩夏ちゃんセーフです!

「これを聞いてほしいの」

 そう言って寿ちゃんが取り出したボイスレコーダーには俺が寿ちゃんに渡した、車に時計坂さんが乗って来た時の会話が録音されている。

 さらに寿ちゃんは時計坂さんがかつて地下アイドル界でどのように言われていたかも話した。

「と、いうことなのよ」

「………」

 最後のセリフを聞いて、流石にショックを受けた様子で彩夏ちゃんがうつむく。

「じゃあ、私は蒔菜さんにも必要とされていなかったっていうことですか。必要とされていたのはあなたにダメージを与えることができる『妹』だったっていうことですか」

「はっきり言ってしまえばそういうことね」

「そう、ですか…」

「ただね、一つだけ修正させてほしいことがあるの」

「…なんですか」

「蒔菜にも必要とされてなかったわけじゃないわ。蒔菜には必要とされていなかっただけ。最初にあなたと話をした時、私は間違いなくあなたを求めていた。そしてあなたはそれに応えてくれた。そして、いつの間にか応えてくれたあなたとの関係に、私のほうが甘えてしまっていたのね。その甘えで私はあなたを傷つけた。本当にごめんなさい」

「……」

 彩夏ちゃんは黙ったまま、頭を下げつづける寿ちゃんから目をそらした。

 顔を上げた寿ちゃんは彩夏ちゃんに目をそらされたことに若干のショックを受けた様子だったが、すぐに気を取り直したように首を振って彩夏ちゃんの手を取って口を開く。

「私にはあなたが、大引彩夏が必要なの。あなたが許してくれるなら私はもう一度最初からやり直したい」

「……どうせあなたも捨てるんでしょう?」

「彩夏…」

「どうせね、こんな制度だけの関係ずっと続くなんて思っていませんよ。でも、それでもできるだけ長く一緒に居てほしいって、捨てないで欲しいって、そう思うのは…そう思うのは…私のっ…私のわがままですか!?」

 そう言って唇を噛んだ彩夏ちゃんの目から涙が一筋溢れる。

「そんなこと無いわ。ちゃんとずっと一緒にいるから」

「嘘だ!私は知っているんですよ、あなたが何を考えているか」

 これは多分寿ちゃんが俺に相談してきた時に言っていた教導隊入りの話だろう。

たしかに寿ちゃんがやりたいことのためにリーダーの座をセナに譲って教導隊に入ると言い出すのは彩夏ちゃんを捨てないという言葉に反することになる。

これは俺自身も、寮に一緒に住んではいても狂華さんやチアキさんはチームメイトという感じではないと感じていたりするし、それは多分今寿ちゃんも俺と同じような感じを精華さんに対して感じているはずなのでわかると思う。

「ごめん。私はちょっと先走って独りよがりに物事を考えすぎていたと思う。あなたが少し離れても大丈夫と思えるようになるくらいまではちゃんと一緒にいるから。だから、もう一度私のところに戻ってきて」

 そう言って寿ちゃんが彩夏ちゃんの手を引くと、彩夏ちゃんの身体は吸い込まれるように引き寄せられて寿ちゃんの腕にしっかりと抱きとめられた。

「……その…ただいま…」

「おかえり!」

 そう言って、彩夏ちゃんは少し照れくさそうに、寿ちゃんは満面の笑顔で笑った。


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