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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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208/809

BL

※ボーイズラブではありません。

『勝者 多摩境珠子』

(バカバカしい…)

 私は自分の勝利を告げる放送を聞きながら、前回の試合の後、寿から聞かされた蒔菜とこまちの顛末を思い出して、この数日でもう何度目になるかわからないくらいついた大きなため息をつく。

 私の足元には寿の予想とは違い、ひなたさんではなく若松桃花が転がっている。

「はぁ……」

 大きなため息をついた後で、私は自分の足元で目を回している若松桃花を担いで歩き出す。

結局、みんなコミュニケーション不足なのだ。ちゃんと話しあえば、こまちと蒔菜にしろ、真白先輩と和希先輩にしろ変な誤解なく分かり合えるんだろうに。

 まあ、寿もこまちも蒔菜もJCチームの中でもっとも人とコミュニケーションを取らないって言われている私なんかに言われたくないだろうけど。

 三人の顛末はこうだ。

 もともと寿に好意を持っていた蒔菜は寿と仲良くしようと近づいたが、持ち前のドジが炸裂し、ジュースを寿にかけてしまったり、すべって転んで寿のお弁当をクラッシュしてしまっていたのをこまちが見ていじめと勘違い。

 当時こまちが五十鈴こまち…阿知羅彼方だと知らなかった寿は、まさかこまちが蒔菜を締めて追い落とすなんて思わなかったために対応が遅れ、哀れ蒔菜は下のクラスへ。

 蒔菜のことがあってから寿についてそれまで以上に目を光らせていたこまちはちょっとしたことでクラスメイト達を蹴落としていった。かくいう私も寿を無視したとかなんとかっていうとんでもない言いがかりで蹴落とされる寸前だったらしい。…まあ、正直蹴落としてくれても良かったのだけれど。

 結局、寿がこまちの所業に気がついた時には後の祭りで、私達三人しか残っていなかったらしい…らしいというか、そもそもなんで寿もそこまで気が付かないんだろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、大きな炸裂音の後、地面が大きく揺れた。

 すぐ近くで誰かが戦っているというわけではないので、離れていてこれだけの衝撃があるということは、おそらくこまちかひなたさんだろう。

「ん……うるさいなぁ…って、何事ッ!?」

 音のせいか揺れのせいか、肩に担いでいた桃花が目を覚ましてジタバタと暴れだす。

「あなたが私に負けて気絶したから、控室まで運ぶ途中です」

「あ、私負けたんだ…ああ…ひなたさんにまた嫌味言われるなあ」

「まあ、勝負は時の運だし、そのへんはひなたさんもわかっていると思うけど…歩けそうですか?」

「あ、うん。まだちょっとお腹いたいけど大丈夫」

 正直、あそこまでモロに入ると思わなかったから本気でやり過ぎてしまったというのがある。ちょっと反省。

「タマちゃんは強いねえ、まだ中学生なのに」

 私の肩から降りて首や肩を回してから桃花はそう言って歩き始めた。

「私程度でそんなこと言っていたらみつき先輩や和希先輩はどうなっちゃうんですか」

「もはや神だね…って、まあ神は流石に言い過ぎとしてもあと数年もしたらベスト5の布陣が入れ替わるんじゃないかな。一位みつきちゃん、二位和希君とかさ」

 良い読みしてるなあ、この人。

「あなたは東北のご当地なんですよね」

「あ、タマちゃんのほうが先輩だし敬語じゃなくて大丈夫だよ」

 そういって、桃花はニコニコと笑う……なるほど高橋はこういうのが好きなのか。

「…桃花は寿やこまちと一緒のチームなわけだけど、二人は最近どうなの?」

「いきなり呼び捨て!?別にいいけど…うーん…まあ、彩夏ちゃんも含めてみんなギクシャクして動けないでいるね。その中でセナちゃんだけが一生懸命バタバタ走り回っているっていう感じかな。タマちゃんは寿さんたちと同期だって聞いたけど、今の東北の状況は知っている?」

「むしろ、知らなきゃモグリ。なんだかんだでセナはこまちとのことを真白先輩に言っているし、こまちは楓さんと朱莉さんに言っている。彩夏も朱莉さんに相談したらしいし、それで知らないでいられるのはよっぽど自分たちのことで手一杯になっている人だと思う」

「なるほど。確かにね」

 思い当たる人物がいるのか、桃花はそう言ってクスクスと笑う。元男だって聞いていたけど、こういうところは楓さんや和希先輩、それに朱莉さんとは随分違う。

「…そう言えば、桃花は元アイドルなんだよね?」

「そうだね、柚那さんとか愛純さんの後輩だよ」

「蒔菜ってどんな人?」

「時計坂さんか……まあ、私がいたTKOの下部組織は地下アイドルとの対バンも結構あったから顔を合わせることも多かったんだけど、あの人はビジネスマン…女性だからウーマン?今はパーソンって言うんだっけ?まあ、そんな感じだと思うよ」

「どういう意味?」

「あの人の芸能活動はビジネス。私なんかは可愛い格好が好きだからっていう趣味。愛純さんもおんなじだね。柚那さんはちょっと違って生活のためっていう感じ」

「愛純さんはともかく、柚那さんのはビジネスではないの?」

「柚那さんのは生業。時計坂さんのはビジネス」

「違いがよくわからないんだけど」

「そうだなぁ…タマちゃんは萌えってわかる?」

「何となくは」

「BLは?」

「…それとなくは」

大好きだ!とは言わないが、悪い先輩たちのせいでそれとなくどころではなく理解していたりするのだけど、まあそれはここでわざわざ言う必要もないだろう。

「じゃあ好きなカプを想像してみて」

最近の私と真白先輩のイチオシである高橋山でいいのだろうか。

 ちなみに私たちの中ではは高橋無邪気攻めのみ認められていて、高山攻めのリバはない。

そんなもの邪道だ。あかり先輩は邪道だ。

「想像した?」

「した」

「どんなの?」

「ええと、大柄な方が小柄な方のシャツの襟を直している。みたいな」

「生々しすぎなくて良いね。じゃあ、タマちゃんはそのシーンの写真がもらえるとしたらほしい?」

「ほしい!」

「タマちゃん、目が血走ってるよ」

 おっと……興奮しすぎてしまった。

「まあ、そういうのを計算してばらまくのが私が言っているビジネス。こんなのヤラセだってわかっていても『お前らこういうのが欲しいんだろ?』ってやられたら欲しがっちゃうでしょ?」

 そりゃあ欲しがるだろう。私はまだしも真白先輩とかあかり先輩はチャンスがあれば札束で二人を殴ってでも撮りたいとか思っていそうだし。…というか、真白先輩はそういうのに頑なに和希先輩は入れないんだよなぁ。

おっと、話がそれた。

「まあ、確かにわかっていても一部の人は涙を流してブヒブヒ言いそうだよね。それで?」

「私たちは彼女とその時々の相手を指してビジネスレズって呼んでた。で、私が見たところ今のビジネスレズのパートナーが彩夏ちゃん」

結構酷い呼称だけどなんかしっくり来るなあ…というか

「じゃあ、彩夏は割りきって付き合ってると」

 だったら大丈夫か、と思いかけた私に桃花は黙って首を振る。

「あの人は大人同士でそういうのがわかっている人よりもそういうのがわかっていない人をパートナーに選びたがるんだよね。それで関係解消後に自殺未遂した人もいたし」

 全然大丈夫じゃなかった。

「なんで止めないの?同じチームでしょ」

「いや、私そこまで彩夏ちゃんと仲良くないんだよね。もちろん、時計坂さんとも。そんな私が何か言っても余計頑なになっちゃうっていうか…それでこまちさんに期待していたんだけど、なんていうか…あの人コミュ障なのかな?彩夏ちゃんにはあしらわれるし、時計坂さん相手なんて目も当てられないんだけど」

 たしかにこまちはその気があると思う。私に言われたくないだろうけど。

「まあ、セナちゃんとのこともあって、彩夏ちゃんに対して後ろめたい部分があるっていうのはあるのかもしれないけど、なんか腰が引けてるんだよね」

「というか、こまちは説得とか交渉とかそういう事は苦手だと思う」

「だからできれば寿さんに説得してもらいたかったんだけど、どうにもね」

 桃花はそう言って肩をすくめてみせた。

「寿もわりとコミュ障だからなあ…」

「むしろ今話してみて思ったんだけど、こまちさんや寿さんよりタマちゃんのほうがそういうの得意そうだよね」

「私は喋るのが億劫なのと、話し方が無礼なだけだから」

「あ、自覚はあるんだ…まあ、そういうわけだからできれば三人の同期であるタマちゃんに仲裁に入ってもらえると…いや、そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃない」

「そんなに嫌そうな顔してた?」

「してたよ!何なんでそんなに嫌なの?寿さんとこまちさんの事嫌いなの?」

「嫌いじゃないけど面倒臭い。彩夏さんに関しては顔を知っているっていうくらいで私は全く関係ないし」

「ドライだなあ、中学生」

「大人がベタベタし過ぎなだけだと思う」

「あはは、その感じでみんなを言いくるめちゃってよ」

「その必要はないと思う。寿が駄目でも、今日は朱莉さんが来るって言ってたから」

「そうなの?あの人こそタマちゃん以上に他所のことはどうでもいいって考えていそうな感じなのに」

「数百人規模程度の組織のどこかで揉め事があると、全体に波及しかねないからって。あの人は自分の周りを守るためならよく働く人だと思うよ」

 実際、私は今の体制のJCに配属になる前、あかり先輩のことやらみつき先輩のことやら和希先輩のことやら真白先輩のことでかなりたくさんの頼まれごとをしているし、そのたのまれごとを遂行するための報酬であるお菓子もかなりの量をもらっている。

「というか、朱莉さんと仲いいの?」

「仲は悪く無いと思うけどそこまで仲がいいわけでもないかな。ディープキスとかはしたことないし」

「……言っておくけど、あれは事故みたいなものだからね」

 桃花は口元を引きつらせながらそう言った。誰が何をしたなんて言っていないのにこの人はなにをそんなに動揺しているんだろう。

「マジで事故だから。あと、私は女装は好きでも男性は好きじゃないから、普通に女子が好きだから!」

 そんなこと私に主張されても困るのだけど。

「まあ私と朱莉さんの関係は……しいて言えばビジネス的な関係なんじゃないかな」

「え?ビジネスレズなの?」

「レズはいらない。というか、それを言うならひなたさんにそそのかされて美人局をした桃花のほうがビジネスレズでしょ」

「なんでそんなことまで知ってるの!?」

「私に知らないことはない」

 朱莉さんが愚痴っていただけなのだけど、それっぽく言っておいたほうが面白そうなので私はそう言って思わせぶりに笑って見せた。


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