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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔白 4

 空中を走るバイクに乗った朝陽とあかりが追いつくと、真白は逃げるのをやめて振り返り、真白がまだまだスピードを上げて逃げ続けると思っていた朝陽は減速に翻弄されて、真白が止まった位置をかなり行き過ぎてから止まった。

「もう逃げないんですの?」

 朝陽の質問が聞こえていないかのように、真白は無言でセナ戦で使ったライフルのような武器を取り出して朝陽に向け、対する朝陽はあかりをバイクに乗せたままその前に立って迎撃の構えを取る。

「まったく、話相手くらいしてくれてもいいでしょうに」

 当然朝陽もその武器についてはビデオで威力もどういう魔法が出るかも見て知っている。

「その銃が侮れないことは知っていますから、今回はコインを飛ばすなんてまどろっこしいことはしませんわよ……和希!起きていますわね?」

「へーい」

 真白の小脇に抱えられてダランとしていた和希が顔をあげてやる気の感じられない返事を返すと、朝陽はニッコリと笑って口を開く。

「元気そうでよかったですわ。ちょっと全力だしますので隙を見て逃げなさい」

「ちょっ、そんな、朝陽ちゃんの本気に真白が耐えられるわけないっしょ!」

「さて、どうでしょうね」

 朝陽は小声でそうつぶやいてから真白に狙いを定め、対する真白も朝陽に狙いを定める。

 そして次の瞬間、空を切り裂くような轟音をたてて2つの魔法がぶつかり合う。

 魔法同士が衝突した余波は大きく、あやうくあかりはバイクから振り落とされそうになったが必死にしがみついてなんとか余波をやり過ごす。

なんとか余波をやり過ごし顔を上げたあかりが見たのは、涼しい顔をして立っている真白と苦々しく顔を歪めた朝陽だった。

「相打ち…というには分が悪いですわね」

 全力を出した朝陽に対して、ただ無表情で引き金を引いただけの真白。一回の衝突だけでは完全に決着がつくとはいえないが現状朝陽の分が悪いのは間違いない。

 全く無傷の真白に対して、魔法は直撃していないものの朝陽は衣装の一部が破けている。

(暴走しているだけあって、異常な強さですわね……)

「かずきをこうげきした ゆるさない」

 真白はそう言うと、銃を朝陽に向け、何度も引き金を引いて乱射するように魔法を放つ。狙いを定めていないせいでほとんどの魔法は明後日の方向へと飛んでいくが、まっすぐ飛んできた幾つかの魔法は朝陽とあかりの方へと飛んで来る。

「あかりちゃん!」

 朝陽は飛んできた魔法を受け流しながら顔だけあかりの方へ向けて口を開いた。

「は、はい!」

「その子にしっかり掴まっていてくださいましね」

 朝陽がそう言って指を鳴らすと、あかりの乗ったバイクはひとりでに動き出し、急降下を始める。

(ああ、そうか。私がいたら朝陽ちゃんが全力を出せないんだ…悔しいなあ…)

 あかりを無事に地表へと送り届けたバイクは再び空へと駆け上がり、朝陽は戻ってきたバイクに飛び乗ると、何度かアクセルを吹かしてから、魔力を纏って真白に向かって突進する。

 しかし当然真白もそれを黙って正面から受けるほどバカではない。

 朝陽の突進をひらりと躱して後ろから朝陽に魔法で攻撃を仕掛ける。しかし――

「ふふ、いつからアレが私だと錯覚していましたの?」

「な……」

 バイクに分身を乗せて突進させ、自分は大回りすることで、真白の死角をとった朝陽は、驚いている真白の手から和希を奪い取ると、全力で地上へと降りていく。

「なんで自分で逃げなかったんですの?」

「いや…今の真白ってすごい力が強くて、下手に逃げようとしたら俺か真白のどっちかが怪我すると思って。やっぱりけが人とか出すとまずいじゃん」

「はあ…けが人だったらもうすでに出ているでしょう。さっきあなた達に合流する前に真白ちゃんにやられたみつきちゃんを見つけましたわよ。それにここに居ないということは朱莉さんも怪我しているのでは?」

「……みつきの怪我は酷いのか?」

「それほどでもないので一応キャンディで回復して、落ち着いたら合流するそうですわ」

「でもまあ、朱莉先輩だけならまだしもみつきにも怪我させちゃったなら、少し本気で行かないと駄目か」

「そういうこと。油断していると全滅しますわよ」

 そんな話をしているうちに地上に降りた朝陽と和希は、振り向きざまに真白に向かって魔法を放つ。

 二人が放った魔法は一発勝負の威力重視の魔法ではなく、足止めに軸をおいた数重視の魔法ではあったが、それでも怪人クラスならそれなりのダメージを与える魔法だ。

 しかしそんな二人のそれなりに威力のある攻撃を真白は涼しい顔で受け流す。いや、真白がというよりは真白の腰から飛び出した、先ほど和希とあかりが短剣だと思っていた扇が魔法をことごとく受け流していったのだ。

「って、これをそんな簡単に受け流せるのかよ!」

 和希が律儀にそんなツッコミを入れている間に真白は和希の目の前に迫り、再び捕まえるために手を伸ばす。

「にげちゃだめよ」

 朝陽を突き飛ばして、和希の肩に手をおいた真白が笑うが、和希は真白の手を振りほどいて一歩後ろに下がる。

「…真白、もうやめよう、な?」

「いやよ」

「いや、無理やりにでもやめてもらう!」

 和希はそう言って魔力を強制的にゼロにする拘束魔法を真白に向かって発動させ、後ろに跳ぶ。

 だが、朱莉やみつきにも効果のあったこの魔法は真白が少し力を込めると、簡単に引き裂かれてしまった。

「おいおい、筋力までリミッター解除かよ…」

 通常の魔法少女であれば、魔力をゼロにされてしまえば魔力によってもたらされていた肉体強化も解除されるため、この魔法を打ち破ることは難しい。例外があるとすれば楓や関西チームのようないわゆる脳筋組で、魔法を受けても彼女らくらいの筋力があれば引きちぎるのも不可能ではない。

 つまり今の真白は、楓達とどっこいどっこいの身体能力を発揮していて、みつきより、ヘタをすれば朝陽よりも魔力があるということになる。

「俺と朝陽ちゃんじゃ勝てねえぞ、こんなの…」

「まあ、そうかもな」

 尻餅をついてへたり込んだ横を2つの影が駆け抜け、真白に攻撃をしかける。

「朱莉先輩!チアキさん!」

「ったく、都合の良い時だけ先輩って呼びやがって」

 真白を押し返した後でそう言って振り返った朱莉はニッと笑って白い歯を見せる。

「二人共、怪我はしてない?」

「はいっ!」

「大丈夫ですわ」

 チアキの問いかけに和希と朝陽が元気よく答え、

「私はまだちょっとしんどいなあ…」

 みつきがそう言いながら真白の後ろにある林から首を回しながら現れる。

 正面に朱莉とチアキ。背後にみつき。

 今の真白は正気ではないのだろうが、それでも彼我の戦力差はわかるらしく、朱莉達とみつきをせわしなく見比べている。

 みつきであれば突破することは可能だが、一瞬でも朱莉とチアキに背をさらすのは即負けを意味する。だが、流石に真白が朱莉とチアキを真正面から突破するというのは現実的ではない。

 そうして真白がどうしたらよいかと考えている間に朝陽が起き上がり、チアキも少しずつ移動して真白の四方を取り囲む位置に立つ。

「さて、真白。さっきはよくもやってくれたねえ」

「っ……」

 ポキポキと指をならして殺気を放つみつきのほうを真白が向いた瞬間、四人が一斉に真白に向かって飛びかかった。

「ふむ、まさに白の真祖。言うなれば魔なる真白。魔白といったところか」

「いや、全然うまくねえからな、それ」

 和希の横で真白達のほうを見ていたえりがドヤ顔をしながら真白について語るが、和希はため息混じりにツッコミを入れる。

「まあ、でもこれで流石に……」

 夏樹がそう言って勝利宣言をしようとした瞬間、叫び声のような大きな音がして真白を押さえこんでいた四人が突然ふっとばされた。

「なんだ?何が起こった!?」

 四人が飛ばされた後に来た突風を受けながら和希が叫ぶ。

「まずいな…」

顔をかばっている和希や、近くの木にしがみついている夏樹と対称的に、突風にも微動だにしないで立っていたえりが、眉をしかめてつぶやく。

「これは、本当に真白が死ぬぞ」

「は?そんなはず……」

 和希がそんなはずないと言おうとして真白のほうを見ると、彼女は竜巻の中にいた。

 倒れているのでおそらく真白に意識はない。通常であれば変身解除こそされないものの、真白が意識を失った時点で魔法は止まるはずだが、自動防御の魔法なのか彼女のステッキらしい2つの扇は真白の上をぐるぐる回って風を起こし続けている。

 つまり、おそらくこの魔法は彼女の魔力を使いきり、彼女の生命力を削り切るまで止まらない。和希はえりの言いたいことはそういうことだと理解した。

「えり!封印を完全に解除するから真白ちゃんを助けて!」

 柚那と恋と共に現れたあかりがそう言って封印を解こうとするが、えりは黙って首を振った。

「無理だ。なまじあの魔法が強いだけに全力の我がアレを止めようとすれば、真白を巻き込む。そうなればその時点で真白が死ぬ」

「じゃ、じゃあ、あのステッキだけ朝陽ちゃんに狙撃してもらえば!」

「無理ですわ。やってますけど風で弾かれますもの」

 和希の提案に朝陽が首を振る。

「だったらこんなのはどうだ?俺とチアキさんと深谷さんとみつきちゃんであの風の流れを変えて穴を作る。そこから朝陽とえりが狙撃をする」

「それでも気絶して全く魔力をまとっていない真白を巻き込む可能性があるな」

「だったら俺が真白を引っ張りだす。引っ張りだしたあと二人で狙撃してくれ。それならどうだ?」

「それならいけるかもしれん…が、下手をすれば和希が死ぬぞ」

「死なねえよ。朱莉先輩たちがしっかり穴を開けてくれれば絶対に失敗しない」

「そうか……どう思う?」

 和希の提案を受けて作戦がほぼ決まったところで朱莉は同行してきた恵に意見を求めた。

「それしかないだろうな。本来であれば私の持つ『魔法を無効にする魔法』で止めることもできるが、来る途中で話したとおり、この身体はナノマシンを使ってつくった分身でね。それもかなわん」

「役に立たねえな」

「ははは、返す言葉も無いよ。まあ、穴を開ける時に君らの背中を支えるくらいはさせてもらうさ」

「よし、じゃあ俺とチアキさんと深谷さん、みつきちゃん、それに恵さんで風をせき止め、和希が真白ちゃんを救出。その後朝陽とえりがステッキを狙撃。恋と柚那は和希が助けだした真白ちゃんをすぐに治療開始するってことで――」

「わ、私もお兄ちゃんたちを手伝う!」

 あかりがそう言いながら朱莉に詰め寄るが、朱莉は首を横に振った。

「駄目だ。真白ちゃんを助けてお前が死んだら意味が無い」

「だって、私だって……」

「駄目だ。柚那、恋」

 朱莉が柚那と恋に視線を送ると二人は黙ってうなずき、あかりの両手を掴んだ。

「ごめんね、あかりちゃん」

「……」

「作戦開始」

 あかりがおとなしくなったのを確認してから朱莉が号令をかけ、五人は魔力を全開にして突っ込み、朝陽とえりは狙撃のために地に伏す。

「早くしろ和希っ!長くはもたん!」

「おうっ!」

 風の流れをせき止め、小さな穴を開けることに成功した朱莉が和希の名を呼ぶと、和希はその穴から果敢に突入して気絶している真白を抱きかかえる。

 だが和希が真白を抱き上げると同時に、風の勢いが増し、朱莉たちが弾き飛ばされ、和希の入ってきた穴が塞がってしまった。

「くっそォォォッ!」

 和希は叫びながら竜巻を突破しようと試みるが、風の壁にぶつかった瞬間、内側に弾かれてしまい、外に出ることができない。

(なんとかしなきゃ…)

 そう考えたあかりが周りを見渡すと、一番最初に風に弾かれた朱莉とチアキはどこかに飛ばされたらしく見当たらず。二列目で朱莉とチアキを支えていたみつきと夏樹は少し離れたところですでに変身が解除された状態で倒れていた。

(私と柚那さんと恋さんじゃ無理だ。えりの封印解除だと強力すぎて無理。朝陽ちゃんも突破できない。それこそ誰かが体を張って一瞬でも穴を開けないと、助けだすことも狙撃することもできない……かと言って私じゃ……そうか!)

 真白と和希を助ける算段をつけたあかりは恋と柚那に考えを耳打ちして手を離してもらい、走りだす。

「無茶するなあかり!」

「あかりちゃん!」

「あかり!?」

 和希の叫び声に朝陽とえりが振り返るが、あかりは「二人は狙ってて」と言って二人の上を飛び越え走る。

「なんだ!?」

 気絶もしておらず、かと言って自分でなにをするでもなく座っている恵の元へ。

「協力してください!」

「おっ!?おっ!?」

 恵の襟首を掴んだあかりは彼女の身体に干渉しながら彼女の身体を竜巻に叩きつけ、叩きつけられた彼女の身体は人一人が通れるくらいのドアフレームに形を変え、和希と真白が飛び出すのに十分なスペースを確保する。

「でかしたあかり!」

 和希はそう言って真白を抱えて飛び出しつつ、竜巻の直ぐ側にいたあかりの身体も抱えて横に跳ぶ。

「これなら!」

「狙える!」

 あかりが竜巻に穴を穿ったのは時間にして5秒にも満たない短い時間ではあった。しかし、あらかじめ脱出のタイミングを狙っていた和希と、狙撃のタイミングを測っていた朝陽とえりにとってはそれで十分だった。

 和希と真白、それにあかりは狙撃の影響のないところまで逃げることができたし、二人も狙いを外すことはなかった。


 かくして、あかり達は魔力が尽きる前に真白を助け出すことに成功した。


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