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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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201/809

魔白 2

想像以上に強力な魔法を持つ真白に、朱莉達は苦戦していた。

「何だよ、真白ちゃん超強えじゃん…」

 何度目かのダウンを喫した朱莉が空を見上げてそうつぶやいた。

「っていうか、もともと弱くないんすよ、真白は」

 隣で膝をついて荒い息をしながら和希が口を開く。

「あいつは変に自己完結して、色んな物を溜め込むから、あんまり本気で人と争わないんです。そのせいで弱く見えるし、たまに色んな物が鬱積して爆発しちゃうんですけどね」

「はは、さすが真白ちゃんの彼氏。よく分かってんな」

 朱莉はそう言って笑いながら跳ね起きて、和希の隣で再び真白に対して構えを取る。

「とても勢いで告白してそのまま付き合い始めただけの奴には見えないぞ」

「まあ、俺と真白は魔法少女になる前に会ってますし、あかりのことほどではないにしても、真白のことも知ってるんで」

「なんだそれ、初耳だぞ」

「家がゴタゴタしてる時に母方の実家に預けられてた時期があって…たしか小2くらいかな。そこで色々あったんですよ。真白は覚えてないっぽかったから言ってないですけど」

「おいおい、じゃあお前はあかりの元カレだってだけじゃなくて真白ちゃんの元カレでもあるってことか?」

「そういうんじゃないっすよ、っとぉっ!」

 朱莉の軽口に答えながら、和希は真白の攻撃を魔法で逸らしてから少し照れくさそうに笑った。

「あれは彼氏とかじゃなくて、完全に弟扱いでしたから。いや、子分かなぁ――」

 そう言いながら和希が一瞬目をそらした隙を突いて、真白が動いた。

「和希っ!」

 突然朱莉に押されて倒れこんだ和希が振り返ると、つい今まで朱莉が立っていた場所には真白が立っていた。

「真白!?……あ、朱莉先輩は!」

 突然消えた朱莉の姿を探そうと動かしかけた和希の首を真白がつかんで馬乗りになる。

「あんたはわたしのもの」

「ぐっ…」

「わたしのものなの」

 抑揚のない平坦なしゃべり方でそう言いながら真白は和希の首をギリギリと締める。

「なんでそばにいてくれないの」

「やめろ、真白…俺はお前を殴りたくない…」

「どうしてはなれていくの」

 そう言って、泣いているかのような表情を浮かべて真白は和希の首を締める力を強めていく。

「そりゃあ、そんな怖い顔しているからでしょ」

 どこからともなく聞こえた声に真白が和希の首を絞める手を緩めて顔を上げた瞬間、横から現れたみつきの膝蹴りが真白にヒットし、真白は和希の上から強制的にどかされ、その隙をついてあかりが和希を抱き起こして抱え、真白から距離を取るために走り出した。

「わたしの―」

「あんたのじゃないよ」

 追いすがろうと羽を広げた真白を回し蹴りで叩き落としたみつきはそう言って逃げる二人をかばうように真白と対峙する。

「別に今さら真白と和希を邪魔してやろうなんてつもりはないし、真白のことは結構好きだよ……ただね、和希の事であんたのことを殴ってやろうと思ったことがないかって言ったらそんなことはないんだよね」

「かずき…」

「今のあんたの相手は私だ!」

 さらに追いすがろうとする真白にラッシュを叩き込んでふっ飛ばしたみつきは近づき過ぎないように距離を取りながら真白が起き上がってくるのを待った。

(日没まであと2時間、チアキさん到着までだいたい10分…うーん…思ったより夏樹との試合が響いてるなぁ…)

 みつきが自分の残りの魔力で真白をどの程度足止めできるかを考えていると、土煙の中から真白が飛び出してきた。

「早っ……!?」

 全速力で突っ込んできた真白の肘が完全に油断していたみつきのみぞおちに決まり、みつきは激痛で呼吸困難に陥る。

「わたしもねみつきちゃん あなたのことをなぐってやろうとおもったことがないわけではないの」

「……まし…ろぉ…」

「じゃましないでね」

 真白はそう言いながら至近距離で魔法を使ってみつきを遠くへ吹き飛ばすと、翼を広げて和希とあかりが逃げた方向を見据えた。



 真白から十分距離をとったと見たあかりは、魔法を使って手近にあった大木の上に跳び、太い枝の上に和希を下ろした。

「すまん、助かった」

「ま、それはいいんだけどさ。今一状況が飲めてないんだけど今どういう状況なの?柚那さんからは真白ちゃんが暴走してるって話しか聞いてなくて。それで二人を見つけたと思ったらあんな感じで、みつきがとりあえず止めに入ろうって言い出したからあんな感じになっちゃったんだけど…痴話喧嘩じゃないよね?」

「痴話喧嘩じゃない。真白は朱莉先輩が渡したドリンクのせいで暴走してて…そうだ、朱莉先輩は?」

「私達の方に丁度飛んできたからキャッチして恋さんと柚那さんに任せてきた。今はえりと夏樹さんが三人の護衛について、移動しながら治療してる」

「怪我してるのか?」

「ん…まあ、ちょっとだけ。怪我って言っても大げさなものじゃないよ」

 あかりはそう言って和希の目をじっと見るが、和希はあかりがこうして目を見つめてくるときは嘘を付いている時だということを知っていた。

(絶対ウソじゃん…)

 国内の魔法少女の中でも特に回復魔法に長けた二人がついていて万が一のことがあるということはないだろうが、二人がかりでもすぐに朱莉が戦線復帰というのは難しいかもしれない。和希はそう思った。

「で、どうすればいいの?」

 そう言ってあかりは回復キャンディを和希に手渡し、受け取った和希は即座にそれを噛み砕いて使用した。

「真白の変身を強制解除さえすれば、暴走を抑える薬でなんとかなるみたいだけど」

「じゃあ、ステッキの破壊か…でもさっきの真白ちゃん、いつものステッキ持ってなかったよね?」

「ああ…」

 手持ちしていない時の真白のステッキは普段は籠手の形をして変身後は右腕に付いているのだが、さきほどの真白にはその籠手が見当たらなかった。その代わりにステッキになりそうなのは腰に帯びている二本の短剣だが、あれが確実にステッキだとは言える根拠はないし、みつきと和希とあかりの三人がかりだったとしても、今の真白から取り上げられるとも思えない。

「あれ?そういえば朝陽ちゃんは?」

「私があっさり負けて試合が早く終わっちゃったせいで、朝陽ちゃんは買い出しに行っちゃってて、戻ってくるのにあと10分くらいかかるって。体調不良でバスに残ってたチアキさんもおんなじ。ごめん、私がもう少し粘ってれば朝陽ちゃんが買い出しに行っちゃうこともなかったんだけど」

「いや、朝陽ちゃん相手じゃさすがに相手が悪いって。なんだかんだ言ってもあの人、みつきよりも強いからな」

「和希よりもね」

「なんか棘があるな」

「そう?」

「いや悪い、そういうつもりじゃないなら―」

「もちろん、みつきより強い相手にJCで一番弱い私が勝てるわけ無いだろうっていう感じの発言に対してのあてつけだけどね」

「ああ、そうっすか…」

 キャンディのおかげである程度魔力の回復した和希はそう言って肩をすくめてみせる。

「とりあえず、私たちは短剣ってことでいい?」

 あかりは細かいところまで説明せずにそう和希に尋ね

「だな。もしハズレなら後は朝陽ちゃんとチアキさんに託そう」

 和希も細かいところを確認することなく返事をする。

「じゃあ行くよ」

「おう」

 頷きあった二人が木の枝から飛び降りて今さっき逃げてきた道を戻り始めると、すぐに真白の声が聞こえてくる。ただその声は―

「かぁずぅきぃ」

 やや…もとい、かなり狂気に満ちていた。

「愛されてるね」

「嫌な愛され方だな」

「もうなんか…和希を生け贄にしたら解決なんじゃないのこれ」

「俺は正気の真白が好きなの!つか、今の真白に捕まるとなんか食われそうで怖い!」

「えっと…おめでとうでいいの?」

 あかりは和希の言葉を聞いて、少し考えてからそう言った。

「そういう意味じゃなくてガチで食われそうって言ってんだよ、この耳年増」

「まあ冗談だけどね…ただ、真白ちゃんが追ってきてるってことは、多分みつきは負けたね」

「はぁ…二人で朱莉さんに大怪我させるくらい強い真白の相手ってのは、かなりきついよなぁぁぁぁっ!?」

 あかりの横を一陣の風が吹き抜けた後、和希の叫び声と真白の『みつけた』という囁きだけを残して和希が消えた。

「って…油断しすぎだバカぁ!」

 あかりはそう叫んで慌てて飛行魔法で追いかけるが、おそらく全力では無いだろう真白の速度に対してあかりは全速力で飛んでも追いつくどころかついていくことすらままならない。

(見失ったら駄目だ…本当に和希を生け贄にするみたいな形になっちゃう)

 あかりは必死で追いすがろうと全力で飛ぶが、真白との距離は徐々に広がってきている。

(くっそぉ…私はリーダーのはずなのに!みつきに怪我させて、真白ちゃんを助けられないで、そのうえ和希まで!)

 あかりは全力以上の魔法を使い真白に追いつこうと試みるが、突然あかりの身体が加速を失い、自由落下を始める。

(うそ…魔力切れ?)

 生身の身体の割合が多いあかりは、他の魔法少女に比べて魔力が切れても意識を失いづらい。

 普段それは利点であるが、今はそのことが逆にあかりに重くのしかかる。

(死ぬ…死ぬの?私こんなところで死ぬの?)

 チアキはまだ到着せず、朱莉は動けず。朱莉についているえりと夏樹、それに柚那と恋が偶然助けに来るなんていうことは期待できない。

(あーあ…こんなことならもっと龍君とイチャイチャしておけばよかったなあ…死にたく…ないなあ…もっと色んな所に行って、色んな物食べたかったなあ…)

 そんなことを考えている間にもぐんぐんと地面が近づいてくる。

「死にたく…ないな」

 そうつぶやいた次の瞬間、少しの衝撃の後あかりは再び前にむかって加速を始める。

「間一髪、でしたわね」

 うつ伏せの状態で抱きかかえられたあかりが顔をあげると、そこには朝陽の笑顔があった。

「あ、朝陽ちゃん!?」

「まったく。駄目ですわよ。あかりちゃんは魔力が少ないんですから、いざというときのためにちゃんと非常用のキャンディを持ち歩いていないと」

「ちゃんと持っていたんだけど、それは和希に使っちゃって…っていうか、どうして?」

「考えてみれば山道をクネクネ来るよりも飛んできたほうが早いなって途中で気がついたんですのよ。ふふ…我ながらクレバーですわ」

「あ、ありがとう」

 できるなら最初から飛んでこいよ。あかりは喉まで出かかった言葉を飲み込んでややぎこちない笑顔で礼を言う。

「それで、真白ちゃんが何かおかしいっていうことは、真白ちゃんを追えばいいんですのね?」

「でも、真白ちゃんが本気出したら音速を超えるって資料に…」

「だったら音速を超える前に止めるだけですわ」

 朝陽がそう言って笑った次の瞬間、朝陽の隣にバイクが現れ、朝陽はそのバイクにまたがると後ろにあかりを座らせた。

「しっかり掴まっていてね、あかりちゃん。…私の愛馬は凶暴ですわよ」


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