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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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200/809

魔白 1

「なるほどね…」

 真白からここ二週間ほどの和希…というよりもJCチームで起こっていた出来事を聞いて、柚那が唸った。

「って、話しちゃいましたけど、実は私もよくわからないんですよね。なんか蚊帳の外で、最近皆よそよそしいっていうか。疎外感を感じるというか」

 真白はそう言ってため息をついてから、試合前朱莉から受け取ったドリンクを一口飲んだ。

「大体おかしくないですか?和希が修行して手一杯なら私が勉強教えればすむことだし、家事だって私がやればいいじゃないですか!なのに私と別れたからってわざわざあかりちゃんとかみつきちゃんに頼って、これみよがしに見せつけるようなことして!」

「う…うーん…まあ、そうだね。っていうか真白ちゃん」

「なんですか?」

「さっきから和希のことばっかりだけど、本気で好きになっちゃったんだね」

「っ………ど、どうやらそうみたいです……」

 この二週間、誰にも言えずに溜め込んでいたことをぶちまけてスッキリした真白は、柚那に指摘されて、和希のことばかり言っていることに気が付き、頬を赤く染めた。

 おそらく、2週間前の気持ちのまま今日という日を迎えていたら、こうして柚那と二人、待ち時間に話をして時間を潰すなんていうことはせずに、朱莉たちとは別に自分たちも勝負をつけようとしただろう。しかしこの二週間、一人で考える時間も多く、いろいろな事を考えてみたり、朱莉と夏樹に連れだされてみたりといつもと違う過ごし方をしたことで真白の中に『いつものJC』への憧憬のような感情が生まれていた。

 そしてその『いつものJC』への思いは真白の中にあった朱莉へのかすかな恋心など吹き飛ばしてしまうくらい強くなっていて、真白としては、もう柚那の策略も朱莉の無神経もくるみの謀略もどうでもいい。どうでもいいからJCのみんなと一緒にワイワイと馬鹿騒ぎをしながら学校生活が送りたい。そんな気持ちでいっぱいだった。

「だから余計にきついです」

「そっか…いろいろゴメンね」

 柚那はそう言って申し訳無さそうな笑顔を浮かべて頭を下げた。

「え?」

「いや、実は朱莉さんに怒られたんだよね…真白ちゃんと和希のことでくるみちゃんといろいろしたのがバレちゃって、子供相手に変なことするなって」

「……」

「惚気じゃないんだけど、俺の気持ちは俺が決めるし、柚那を裏切るようなことはしないって言ってくれて、それを聞いたらなんだかものすごく恥ずかしいことしちゃったなって思ってさ」

「惚気じゃないって言っていますけど、それって完全に惚気ですよ」

「だからそういうつもりじゃないんだってば」

「あーあ…でも、そんな惚気聞かされちゃったらもう完全に諦めるしか無いかなって思っちゃいますね…でも考えてみれば、そういう、変に嘘をつかない真っ直ぐな人だから私は朱莉さんのことを好きになったんでしょうけどね」

 真白のセリフを聞いて柚那は少しびっくりしたような表情を浮かべてから破顔した。

「あはは、まっすぐって…それは買いかぶりかもしれないよ」

「そうでしょうか。そういうこと面と向かって言うのって結構難しいと思いますよ。というか、そう言うところは和希ってちょっと朱莉さんに似てるんですよね。変に真面目でバカで不器用で。あ、もちろん和希を朱莉さんの代わりにって考えているとかじゃなくて、和希のそういうところ結構好きかなって…別れてから思ったんです」

 真白はすこし照れくさそうにうつむいて、持っていたペットボトルをゆらゆらと揺らす。

「まあ、その変な真面目さのおかげで何故かわざわざ別れる流れになったりとかしたんですけどね」

「ああ、わかるわかる!朱莉さんもそういうとこあるから。優しさの方向が間違ってるよね、必要な時に必要なことしてくれないっていうか、してほしいこととズレてるっていうか」

「そう!そうなんですよ!なんていうか、ダイエット中の人に『疲れただろ?甘いもの食べろよ』とか言ってくる感じなんです!」

「うわぁ、真白ちゃんの言ってることがすごくわかる気がする…」

 昨日の敵は今日の友ではないが、様々なしがらみのフィルターを取り払ってみれば、もしかしたら自分たちは似た者同士かもなのかもしれない。真白も柚那も、話をしながらそんなことを感じていた。

「おーい、真白―」

 真白と柚那がお互いのパートナーの愚痴で盛り上がること10分。拘束魔法で太い枝にぐるぐる巻きにされた朱莉を担いだ和希が真白と柚那の前に現れた。

「あーあ、朱莉さんまた負けちゃった…でもこれでハッピーエンドになると思えば別にいいかな」

「……あれ?二人共なんでそんなに仲良さそうにしてんの?」

 二人の間に以前までのギスギスした雰囲気がないことに気がついた和希が、そう尋ねる。

「秘密」

「秘密よ」

 和希の問いかけに柚那と真白は顔を見合わせて「ねー」と言って笑った。

「さて、じゃあそろそろ他の試合も終わる頃だろうし……ね?ほらその…いい加減この魔法を解いていただけないでしょうか和希さん…」

「何言ってるんですか。それは写真を撮ってからですよ。楓さんと師匠にちゃんと報告しなきゃならないんですから」

「じゃあそれでいいから早く撮って開放してくれ。この拘束魔法で魔力をゼロにされてると、裸でいるみたいでなんか落ち着かん」

「部屋や寮どころか、試合中もしょっちゅう裸になってる人が何言ってるんですか」

「柚那はたまには俺のことフォローしてくれないかな!っていうか、なりたくてなってるわけじゃないし、しょっちゅうでもないし、最初の試合のあれは不可抗力だろ!…って、ああそうだ柚那、お前あれから変なことしてないよな?」

「あれからってどれからですか?」

「真白ちゃんと和希をくっつけようと来宮さんと二人で悪巧みしてから」

「あれは若い二人を応援しようとしただけじゃないですか」

「いやいや」

「完全に悪巧みだから」

「酷い!真白ちゃんはわかってくれるよね?」

 和希と朱莉が同時に首をふるのを見て、柚那は真白に同意を求めるが、真白も口元をひきつらせて首を振る。

「いや、今でこそ和希とのことは嫌じゃないですけど、流石にそういうポジティブな受け止め方はできないです」

「ちぇっ、じゃあ良いですよ悪巧みで。それ以降はしてませんし、今は特にする必要もないですから、とりあえず今後もそういうことをする予定もありませんよー」

 三人に否定されて柚那はすねたように口を尖らせてしぶしぶそう認めた。

「とりあえずかよ…でもだとしたら誰だったんだろ」

「何がですか?」

「和希が、俺と柚那が真白ちゃんのことをバカにしてるのを見たっていうんだよな。もちろん俺にはそんなことした記憶はないし、柚那もやってないっていうなら一体誰がやってたんだろう…最初はひなたさんあたりかなと思ったけど、そんなことしてもあの人にメリットがないんだよなあ」

「あの人は自分にメリットのないことはあまりしないですからね」

「メリットどころか、そんなことをしたのが都さんにバレたらデメリットしかないからなぁ」

「和希の狂言ってことはないわよね?」

「それこそ俺にメリットないだろ。嘘ついて真白と別れて俺に何のメリットがあるんだよ」

「そうだよなあ…まあ、今更犯人探しをしても始まらないし、そもそも誰がやったにしろ見つけるのは無理だろうしな…っと」

 朱莉が話をそう締めようとしたところでポケットの中でスマートフォンが震えた。

「柚那、電話取ってもらっていいか?」

「いいですけど、試合するのにポケットに入れっぱなしっていうのはどうなんですか」

「はっはっは、俺のはジャンヌからもらった米軍軍用規格の衝撃試験もクリアしている…」

「はいはい、そういうのよくわからないですからどうでもいいです…っていうか、そういう基準クリアしてても魔法が直撃したら普通に壊れると思いますよっと…はい、朱莉さんの電話です」

『あれ?ゆなっち?』

「ああ、翠ちゃん」

『あかりんは?』

「朱莉さんは和希に完敗してぐるぐる巻きにされて動けないでいるけど…急用?」

『うーん、まあ急用っちゃ急用』

「わかった。…朱莉さん、翠ちゃんが急用だそうです」

 そう言って柚那は朱莉の耳に電話機を押し当てた。

「どうした翠」

『あのね、この間預かって結城さんが調べたドリンクあるじゃない』

「真白ちゃんのやつ?」

『そう。あれね、ちょっと飲むくらいならまあ確かにパワーアップする効果もあるみたいなんだけど、過剰摂取するとちょっと面倒くさいことになりそうなんだよね』

「面倒くさいこと?」

『うん、あのドリンクの成分、真白ちゃんに合いすぎていて、最悪魔力が暴走する可能性がある』

「はあ?だって、この間毒性はないって言ってただろ?」

『結城さんをかばう気はないけどあれは、あくまで毒性のある成分が含まれてないってことを調べただけで、真白ちゃんと組み合わせた時にどうなるかっていうのは調べてなかったんよ。まあ、あれ以上飲まなきゃどうってこと無いから』

「だってお前……もうさっきの時点で…」

 朱莉がそう言って真白の方に視線を向けると、真白は丁度ドリンクを飲み干したところだった。

「飲み終わっちゃった…」

『え?』

 翠が聞き返すのと、真白がドリンクの瓶を取り落とすのが同時だった。

「和希!柚那!防壁!バリア早く!」

「え?」

「はい?」

 何を言い出すのかと二人が朱莉の方を見た次の瞬間、三人を強い衝撃が襲い、数十メートルほど吹き飛ばされ、その衝撃で朱莉あかりにかかっていた拘束魔法がとけた。

 と、同時に再び真白の手に魔力が集中していく。

「ドチクショー!」

 攻撃を察知した朱莉は全力でかけ出して二人と真白の間に立って魔法で障壁を張り、真白の攻撃を受け流す。

「和希!柚那!」

 朱莉が二人に呼びかけると、和希と柚那はふらふら起き上がる。

「いたた…何が起こったんですか?」

「正式にはまだ決着ついてないって言っても不意打ちは卑怯っすよ」

「いや、不意打ちしたのは俺じゃない」

 朱莉に促されて和希と柚那が真白のほうを見ると、いつもの衣装とは違うウエディングドレスを思わせる白いロングドレスをまとい、それとは対象的な漆黒の羽を生やした真白が立っていた。

「……」

「こりゃあ、どうみても正気じゃないな」

 朱莉は自分の頬を冷や汗が流れるのを感じながらも、そう言って自分を奮い立たせて無理やり笑う。

「どういうことっすかこれ」

「すまん、俺のミスだ」

「ミスだじゃないっすよ!だから!どういうことだって聞いてるんだよ!真白に何をした!」

 和希はそう言って朱莉に掴みかかる。

「すまん、さっき俺が真白ちゃんに渡したドリンクのせいなんだ」

「ふざけるな!あんたは…あんたは一体どんだけ真白を苦しめたら気が済むんだ!」

 そう叫びながら朱莉を殴りつけようとした和希の手を柚那が抑える。

「和希、ごめんね。もともとは私のせいだから、和希が許せないなら朱莉さんじゃなくて私を気が済むまで殴ってくれていい。でも今は真白ちゃんをなんとかしないと」

「……わかった。どうしたらいいんですか」

『あくまで魔力の暴走だから、変身の強制解除で大丈夫だよー』

 足元に転がっていた朱莉のスマートフォンから、翠ののんきそうな声が聞こえてくる。

『メカニズムはわかっているから変身解除してくれれば、ドリンクの効果を抑える薬を作ってなんとかしてあげるー』

「簡単に言ってくれるけど、どう考えても今の真白ちゃんは俺や和希より強いぞ」

「そうっすね…」

 和希もそう感じたのだろう、朱莉の隣で真剣な顔で真白を警戒している。

「柚那、チアキさんに連絡して状況説明を頼む。ついでにうちのメンバーとJCを全員招集してくれ。多分全員であたらないと無理だ。正気を失ってリミッターがない分、俺とチアキさんと和希だけで相手をするのはきついと思う。深谷さんとかみつきちゃんがいないと無理だ」

「わかりました」

「和希は俺と二人で時間稼ぎ」

「はい!」

「翠は解毒剤を頼む」

『解毒剤とはちょっと違うけどりょうかーい』

「よし、じゃあ作戦開始だ」


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